東方黒狐録   作:よるくろ

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※ 迷走中

 それでは、どうぞ


【の】 一手のみの手合い・神奈子

 

 

 

 小さな女の子にトンチキな事を吹き込んだバカ二人に対して、鬼にも通用する頭突きをお見舞いした。

 

 少し加減を間違えちゃったのか少し地面が陥没してしまったけど、そこはすぐに修復したから問題はない。二人は治してないけど。

 

「いってー…あ、待って瘤のせいで帽子がちゃんと被れないんだけど」

 

「カッタいデコが…おー、脳が揺れるー…」

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

「翡翠、その二人は置いといて、こっちで縁と話そう?」

 

「は、はい…!」

 

 

 諏訪子と神奈子との再会、縁との戦い、洩矢の新しき風の翡翠との出会い。長く感じた濃い一日は、諏訪子の「そろそろ日が落ちてきたし、夕餉にしない?」という言葉で締め括られようとしていた。

 

 昔より格段に上達した縁の作ったご飯は、今まで立ち寄ったどの村や町で食べたご飯よりも美味しく、思わず腹八分目*1くらいまで食べてしまった。

 

 短い間にどんどん積み重なる皿を見て諏訪子と神奈子はドン引きしていたが、それとは裏腹に縁はなんと霊力を行使しながら調理の手を加速させ、翡翠は僕の隣でほぇーと声を零しながら僕が積み重ねる皿の山を眺めていた。

 

「鈴八の食いっぷり見てたらさ、国の食糧難とかなんとかなると思わない?」

 

「あー、こっちまで腹が満たされるってことかい?まず鈴八のせいで国が食糧難になるだろ」

 

「確かに」

 

「「お前が肯定しちゃダメだろ」」

 

「ほぇー」

 

「洒落になりませんので冗談でもそういう事を言わないでいただけますか?*2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝になり、眠りから醒めた僕は寝ている諏訪子の枕元にある馴染みの深い帽子の中に、神社の庭で冬眠していたカエルをしこたま詰め込んで、そのまま神奈子の元へ向かった。

 

 どうやら昨日から寝ずに鍛錬をしているようで、神奈子の神力が神社の裏手にあるらしい武道場から感じる。

 

 昨日聞いた諏訪子の道案内を元に歩けば、扉が開いたままの武道場があった。

 

 中へ入れば、そこには旅立つ前に色々と置いてきた元僕の武具の数々が壁に掛けられてあり、中で鍛錬をしている神奈子はそのうちの一つである槍を手にしていた。

 

 いつもの服装とは違って、色合いは普段通りの動きやすそうな服装で汗を流している。一度(ひとたび)槍を振るえば、流れる汗が綺麗な放射を描いて飛び散る。

 

「…や、神奈子」

 

「ん?お、鈴八。おはようさん」

 

 隙を見て挨拶をすると、槍を構えていた神奈子は石突きを床に付いて構えを解く。

 

 汗を拭う神奈子に、僕は一つ助言した。

 

「夜の時と違って、最後の踏み込みがちょっと甘かったよ。寝ずにするのは効率が悪いと思う」

 

「…あ?まさかずっと見てたのかい?」

 

「んーん、寝ながらでも聞こえてたから」

 

「こっから客間までどんだけ離れてると思ってんだい」

 

 少なくとも普通の人間だったら耳をよく澄ませても自分の鼓動しか聞けない距離だね。

 

 様々な感情が混じった呆れを見せる神奈子。するとふと何かを思いついたような顔をした神奈子は、ニヤリと顔を歪ませて、僕に向かって槍を構えた。

 

「そーいやぁ鈴八お前、諏訪子と初めて会った時一手やり合ったんだって?諏訪子だけズルいぞ、私ともやれ」

 

「えぇ…まぁ、いいけど。槍でいいの?」

 

「得意なのでいいよ、私は大抵の武器ならなんでも使い熟せるからね」

 

「…ふーん、じゃあ僕も槍」

 

 

 そう言って僕は懐から葉っぱ一枚を取り出して、変化を解いた。

 

 変化が解かれる時に出てくる金色が混じった黒い炎が晴れると、僕の手には石突きは赤く、持ち手は黒く、刃が紅黒と同じく赤と黒の階調が美しい槍があった。

 

 名を貫刺(かんざし)。本来は投擲用の鋒が鋭いだけの槍だけど、別に打ち合うだけなら問題はない。

 

 久しぶりに触るので振ったり回したりして、槍を片手で持って先端を神奈子へ向ける。

 

「諏訪子と同じく、一手だけね。そっちからだけ」

 

「…しょーがないねぇ、じゃあ大人しく胸を借りると___するよッッ!!!」

 

 刹那の間に、先程から全身に回していたらしい神力を身体能力の向上に全て消費すると、武道場の床どころかその下の地面を踏み込みの余波だけで砕いて僕に向かって超接近する。

 

 距離にして約三尺。槍を突き出しながら向かってくる神奈子を冷静に見届けた僕は、

 

 ゆったりと、

 

 悠長に、

 

 僕の槍の間合いの中に入ってきた瞬間に、

 

 僕は持っていた槍を動かした。

 

 

 

 ___チンッ。

 

 

 

 その音が意味するのは、

 

 僕の槍の先端が、神奈子の放った一撃を受け止める事実だった。

 

「っ!(分かっていたけど、ここまで…いや、どこまで離れているのかすらわからないなんてね…!)」

 

 神奈子は理解したんだろう。

 

 全身で突っ込んで、全霊で槍を突き出して、全力で放った一撃が、

 

 さして大きくない音に収められる程に威力を吸収される技術の前に完全に敗北したことに。

 

 文字通り全力だったのに、全力の手加減をされた。

 

 どこまで力の差が離れているのかを知りたかったのに、力を引き出すどころか圧倒的な技術の前では“差”すら理解できなかった。

 

「…ふぅ、流石だ。千年を生きる妖怪だけあって、全然敵う気がしない。敵じゃなくて良かったよ、マジで

 

「まぁ、千年の差をたかが数百年に越えられるわけにはいかないからね。…あと生きた年数で言ったら千年じゃすまないし、年上が年下に負けるってのも…

 

「え?」

 

「いや、なんでも」

 

「いや、今ちょっと聞こえ……まぁいいか」

 

 呟いたつもりなのに、聞こえちゃったらしい。

 

 まぁ、大した情報でもなし。気にしなくていいか。

 

 

*1
キロ数にして60kg

*2
既に二回旅の途中で立ち寄った村の食糧の八割を食い切った事がある






 まるで初期のゾ○ロvsミホ○ークのような戦い…

 Q.ぶ、武道場ーッ!
 A.後でスタッフ(鈴八くん)修復(直し)ました。
 
 Q.鈴八くんと本気で殴り合えるヤツはいるのか?
 A.少なくとも鈴八くんの中国武術の歴史を軽く越える程の技量の持ち主じゃないと力の押し合いに持っていけない(ジャオー!)
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