第四話です。
それでは、ご覧あれ…
風の梵も無い、静かな森の中。
葉っぱが擦れる音もしない、土を踏みしめる音も聞こえない、自分の呼吸の音も聞こえない。謂わば、超集中。僕の集中力は、強化された五感で持ってしても周囲の音が聞き取れないほどに昇華している。
脱力、集中。身体全体の力を拳に行き渡らせるように、足首の捻れから加速して、股関節、腰、肩、肘、手首、そして拳に力を受け渡し、
「___ふっ…!」
ばこんッッ!!という音が、僕の目の前の木から鳴り響く。
すると目の前の木は大きなクレーターを僕の拳を中心にして作り出し、後ろに倒れる。
………よし!30年掛けてようやく一本破壊した!遅っ!
いやいや、五年であそこまで行ったのに、どうして?二十五年の間で何があったの僕の身体。反抗期?僕の身体が僕に反抗してるの?
いやまあ、最初の頃と比べたら…まぁ強くなったでしょ。あの頃は傷ひとつつけられなかったし、そう考えたら成長したもんだね。三十年も掛かったけど。
力の受け渡し方も、上手くなったものだよ。足首から手首まで、関節全部を使うのに何年かかったことか。三十年だけど。
あー、人が恋しい。いくら人見知りな僕でも、ここまで孤独となったら寂しいものだよ。知ってる?うさぎって寂しいと死ぬんだよ、狐だけど。なんなら
でも、これで当初の目的である森からの脱出が望めるわけだ。まさか三十年も掛かるとは思わなかったけど、これで飲み食いができる。空気を吸うだけの生活とはおさらばさ。
それにしても僕の身体って本当に成長しないよね。身長も変わってないし、三十年鍛錬して筋肉の一つや二つつくものだと思ったけど、全然つかない。まだぷにぷに。このまま鍛錬続けて現状維持だとしたら、やめたらどうなるんだろう。太るのかな?いや、そもそも食事っていう栄養補給をしてないんだから太る要素がないわけで…あれ、じゃあ栄養を消耗しまくってる僕の生活から考えると僕がガリガリに?あれ?
…ま、妖怪だから問題ないでしょ。便利だね妖怪って言葉。
あ、そうそう。妖怪で思い出した、僕妖力が使えるようになったんだった。
こう、強くなっていく度に大きくなり続けてくる身体の中にある力が、臨界点に達した時に僕の身体から爆発するように放出して…こう、ぼしゅっと。その後はもう自分で操作できるようになって、今は前世の漫画の技術にあった纏ってる状態で留めてる。
ゆくゆくは自由に操作できるようになりたいけど、満足に留められない今の状態でやったら、万が一暴走した時に目も当てられない状態になりそう。妖力の修行は後回しにして、今は森から出ることに専念しなくちゃ。
「…___シッッ!!」
また一本、また一本と僕は木を折って、進んでいく。その進み具合は当然ながら歩くより遅いけど、数十年単位で一本の木を相手にしてた僕ならこの進み具合は相当速いと思える。
一本一本全力を注いで殴って、時々蹴りでへし折って、時々折った木で木をへし折って、時々休憩して、時々遊びながら進んでいくと、ついに…
「…出れた」
久しぶりに口から声を出した気がする。でも、それくらい嬉しかった。
三十年という時間、あのお花畑に閉じ込められ、自主的にではあるけど休みの無い修行の日々。時々自暴自棄になって死んでしまおうかと思ったけど、それじゃ僕と交わって転生したあの狐に申し訳ないと思って、死ぬに死ねなかった。
でも、その報いが今ここに。森からの脱出という形で報われた。
いつのまにか、僕は拳を天に振り上げていて、喜びの姿勢を保っていて、
「…やった………!」
心の底から、喜びの言葉を吐き出したのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現在、ただいまお花畑に帰還しております。勿論、森の外に生えてたきのみや、襲いかかってきた猛獣の死体を持ち帰って。
本当は牢獄みたいなここに帰ってくる必要はなかったんだけど、やっぱり長く住んでいたこともあって、ここが住処って思うようになって…住めば都ってこういうことを言うのかもしれないね。地獄も住処って良く言ったものだよ。
それはそうと、この食料達…を見ると、口の端から涎が垂れてくる。当然だ、三十年と近い年月の間、食料どころか水も飲まず食わずだったんだから。そんな僕が食料を前にして、唾液腺を制御するなんて、無理に等しい。
たとえこのきのみが毒々しい見た目であったとしても、この猛獣が明らかに毒を持っていそうな色味だとしても、僕はこれを食べたい。今だったら大嫌いな虫でも食べられそう。やっぱり無理。
さて、実食。…と行きたいところだけど、これって火を通さずに食べられるのかな。明らかに毒を持ってそうだし、加熱処理をしないと死ぬんじゃないかな?
でも、火種なんて持ってないし…どうしよう。僕は狐の妖怪だし…狐火?あ、出た。
へぇ、狐火って黒いんだね。人魂と同じって聞いたから、青い炎を連想してたんだけど…まぁいいや、じゃあこの狐火に肉を放り込んで…と。
………まだかな。
……………まだかな。
………良い匂いがしてきた。………まだだね。……肉汁が落ちてきた、今だ!
タイミングを見極めた僕は、すぐさま肉を取り出して、齧り付いた。すると、僕の口内に刺激が走る。
___美味しい!
口の中でじゅわっと滲み出る肉汁、外はパリッと、中はホルモンのように柔らかで、噛めば噛むほど旨味が出てくる。
美味しい。この言葉以外の言葉が見つからずに、僕は何も考えずに肉を貪った。骨まで食べた。
「はぐっ…はぐっ…」
いやでも、本当に美味しい。良く誰かが言ってた無限に食べれるって言葉をバカにしてたけど、今じゃその言葉を土下座して撤回できる。すいませんでした。
視界の端っこで、残る肉が後少しだということに少し残念味を感じるけど、久々、超久々のご飯でもう僕は満足している。
骨も残さずに完食した僕はその場に寝転んで、手の甲で口についた食べカスを拭う。あら、結構付いてた。
「…けふっ」
思わずゲップが出ちゃった。でもお腹に溜まる空気って思わぬ嘔吐の原因って聞くし、人前じゃなかったら積極的に出したほうがいいと思う。人前でゲップするより、吐いちゃう方が嫌でしょ。オロロって。
さて…お腹も満たしたことだし、これからどうしよう。人里を見つけるとか、このお花畑を後にして旅に出るっていうのも良いけど…あ、そうだ。
転生初日から聞こえる、“あっち”のうるさい方に行ってみよう。多分人里か何かだろうし、行ってみる価値はあるよね。
僕は立ち上がって、うるさい方の木を破壊していく。やっぱり硬いけど、お腹いっぱいになって元気一杯になった僕なら、この程度の木なんて割り箸に等しい。
やがて、やたらと外までの距離が長かった森を折り抜けることに成功した僕は、驚きの光景を見ることになった。
そう、この“金属”で構成された、天まで届くようなこの壁を。
さて、古代スタートならではの化学都市の一部。
鈴八くんはこれからどうするのでしょうか。
それでは、また次回…