来ました、八意永琳さん。
最初のキャラクターである彼女は、鈴八にどんな影響を与えてくれるのでしょうか。
では、ご覧あれ…
なんと、ここは未来の世界だったのか。だったらあの森の仕様にも説明がつく。きっと近未来的な技術で、外に出ようとするとワープ的な仕組みでお花畑に戻されるのだろう。きっとそうに違いない。
この高い壁は、きっと僕以外の妖怪が入らないようにするため。いや、多分だけど、空を飛ぶ妖怪とかもいるからこんなに高くしてるのかな。見たことないから分かんないけど。
ただ、この壁は“侵入を拒むために作られた”っぽいね。叩いても響かないのは外からの攻撃に備えるため。壁が金属で、それに出っ張りも何もないのはよじ登りを防いで、そして直接誰かが外を見張ることがないようにするため。
でも、これだけじゃこんな高い壁を作る原因と労働力が釣り合わない気がする。直接誰かが見張ることがないように…逆を言えば、直接見張ることができない原因が外にあるってことだよね。
なんだろう…もしかして花粉症とか、ウィルス対策。でもこの壁を作るだけの技術があるのなら、外に出ても問題ないよね。対策が出来なくて、壁の中の人達が対応できない、謂わば未知。それか知覚は出来ているけど、どうしようもないもの。
“妖力”?それだったら説明が付く。妖力が壁の中の人達に害を与えるものだとしたら、それを持っている妖怪をこの壁で遮断するのは当たり前のことで、当然遮断しているんだったら妖怪の研究も満足に出来ないわけで、当然妖怪の研究も満足に出来ないんだったら妖力への対策が出来ないわけだ。
と、僕が勝手な推測にうんうんと頷いていると、横から気配がした。
「…(これは…妖怪と、あと人間?)」
方向的に僕の方に向かってきているようだ。流石に妖怪と共闘して僕を倒しにきたわけじゃないだろうし、多分妖怪から逃げてるのかな。
でも感じる妖怪の妖力的に、強くはなさそうだけど…
と、見えて来た。茂みの向こうに、弓だけを背負った銀髪の女性…結構格好が奇抜だけど、美人さんだね。
「っ!また妖怪…!」
向こうが僕を発見したようだ。でもこっちを見て絶望してる。…あ、僕も妖怪だからか。後ろの妖怪と同類と思われてるなんて…ちょっと心外だなぁ。
でも、流石に見殺しには出来ないし、ここは助けるとしよう。
「…しッ!」
僕が最大限加速できる速度で、女性を通り過ぎ、女性を追いかけていた妖怪の前に躍り出る。結構大きい。鱗もある。殴ったら拳が砕けそうだけど…あの木より硬いものはないと信じたい!
脚が地面に着した瞬間、足首から手首に向かって力を受け渡し___
衝撃。
手のひらで水を叩いたような衝撃が拳に伝わって、その数瞬後に拳を中心に妖怪は爆散した。血はまばらに散って、僕にも後ろの美人さんにも降りかかった。すいません。
頰に付いた血を拭って、美人さんに身体を向ける。こうして近くで見てみると、やっぱり美人さんだね。僕を恐れているのか、向いた途端びくりと身体を震わせるところも可愛いらしい。
でも服装は奇抜。赤と青の配色で、上は右側が赤で、左側が青色。スカートは上の服と逆の配置をしていて、全体的に中華的な装いをしてる。所々に星座の模様があるけど、なんの星座かは分からないなぁ。
っと、まじまじと見てたら失礼だね。まずは大丈夫か声を掛けないと。
「…大丈夫?」
「!、え、えぇ、大丈夫よ。ありがとう…ところで、貴女って妖怪よね?どうして人間の私を助けて…」
「…気まぐれ…かな」
「そ、それでもありがとう。感謝するわ。…じゃあ、私は行くわ。あんまり遅いと心配されるから。私は八意**…いえ、八意永琳よ。貴女は?」
「…黒金…黒金鈴八。あっちにある、硬い木の森に住んでる」
「それって___!いえ、もう行かないと、とにかくありがとう、鈴八!」
「…」
そう言って美人さん…八意永琳さんは、門があるであろう方向に、壁に沿って走っていった。足取りが少し違和感があるけど、走る分には問題なさそうだ。
取り残された僕は、浴びた妖怪の血を落とそうと、近場にある水場を探そうと、周辺を探索した。でも川があった形跡は見つかっても、肝心の水がなかったので、今日のところはこのまま森に帰ることにした。
今となっては、拳じゃなくて貫手でも行けたんじゃないかと思う。思い出してみれば、あの妖怪も結構美味しそうだったし…あぁ、勿体無いことをした。それにまたお腹も空いて来ちゃったし…ひもじい…。
翌朝になって、僕は日課の鍛錬をしていた。
昨日気付いたことなんだけど、僕は拳を突き出す時に、狙ってるところよりちょっと下に行ってしまう癖があるみたい。他にもさっき試したけど、蹴りも少し下がる癖も。
気づいたのは偶然だけど、見つかってよかった。狙い通りの所に拳を入れないと、その後も失敗が続くからね。あと硬いものを殴るときに、手首を骨折しちゃう危険性もあるし。
蹴りだって、狙ったところをちゃんと狙わないと、バランスを崩してしまうこともある。それを未然の防ぐために、僕はこうやってこれから、鍛錬を始める。
とりあえず今日は…少な目に3000回やろっかな、昼時には終わるでしょ。
時間が経って、昼時になった。
3000回もやれば癖も直ってきて、今じゃ狙った所に意識して拳を出せるようになってきた。蹴りも癖が治った上に威力が上がって、蹴りでも木を蹴り倒せるようになった。
でも相変わらず筋肉は付かない。体質なのかな…それとも筋肉を作るためのタンパク質が足りないとか、食事の問題かもしれない。
そうと決まれば、ちょっと森の外に出て一狩り行ってこようかな。
「…あ」
あれ、八意永琳さんだ。昨日と変わらない格好でこの森に来てる彼女は、手に大きな籠を持って来てた。なんだろう、ピクニックしに来たのかな。
「えっと…鈴八、だったわね。昨日はありがとう。お礼と言ってはなんだけど…」
すっと籠を僕に突き出して、渡してくる。
僕は素直に受け取って、籠を覆う布を取り除く。
すると中には、色とりどりの食材が、ぎっしりと詰め込まれていた。
「ここら辺妖怪しかいないから、食べる獲物が少ないでしょ?だからご飯をと思って…って凄く涎が出てるじゃない?!」
八意永琳さんの言う通り、僕は目の前にあるご馳走から目を離せず、涎が止まらなかった。昨日から食べ物を前にすると涎を出してばっかりな気がする、なんだろう、狐の本能かな。
何はともあれ、早く食べたい。食べてもいいかと八意永琳さんに目で訴えると、彼女は微笑ましげな表情で頷いた。
「…はぐっ」
美味…!物凄く美味しい…!久しぶりの、三十年ぶりのまともなご飯だ!
「ふふ、ほら、そんなに慌てて食べなくてもご飯は逃げないわ?それはそうと箸の使い方上手ね貴女」
「はぐっ…はぐっ……うぅ…」
「泣くほど!?」
不味い。いや料理がまずいんじゃなくて、ヤバい。美味しさのあまり目から汗が出て来てる。やっぱり三十年間まともな食べ物を食べてこなかったせいか、簡単な料理でさえ感動するようになって来てる。
美味い美味い、食べれば食べるほど涙が出て来て、それを見かねた八意永琳さんが布で拭ってくる。視界の端で同情するような目で見てくる彼女が目に入ったけど、今は目の前の料理に気を取られててあまり意識を向けられない。
やがて、籠にぎっしりと詰め込まれてた料理を全て平らげた僕は、箸を丁寧に籠の中に置いて、彼女に深々と頭を下げた。正座したままなので、土下座という形になったけど。
「良いわよ、お礼は。昨日助けてもらったお礼だし、なんなら明日も作って来てあげるわよ?」
「…(ぶわっ)」
「ちょ、だからなんで泣くの!?どこか痛い!?食中毒!?」
僕は彼女が女神様に見えて来た。いや、女神様なのだろう。
これからは八意大明神として毎日崇め奉って、彼女を信仰しよう。それだけ、一飯の恩は僕にとって大きいのだ。
「いや、やめてちょうだいね?私はただの薬剤師だし…あっ、そう!ここにある花を幾つか摘んで行ってもいいかしら!貴重な薬の材料になるの!」
え?それなら幾らでも摘んでいって良いけど、遠慮しないで。元々こっちは気まぐれで助けただけだし、僕への恩は別にいらなかったんだよね。でも一飯の恩があるし、なんなら安全に帰れるようにあの壁のところまで護衛しようか?
そう問いかけ、提案したが、彼女は首を振って背中に掛けている弓を取り出す。
「昨日は霊力が足りなくて逃げてたけど、霊力が回復した今なら私はそこら辺の妖怪より強いわ。ほら、こんなふうに」
そういうと彼女は弓を引く動作をする。すると、件の霊力とやらで作られた矢が光りながら現出した。そして彼女が指を離すと、その光る矢は真っ直ぐと、目にも止まらない速さで空を駆け抜けた。…この森の木に向かって。
___パチュンッ
なんとも気の抜けるような音を立てながら、木に当たった光る矢は霧散した。当然、木には傷一つつけられていなく、彼女は自信満々に矢を放ったためか、少し顔を赤らめていた。
…護衛、しようか?
「お…お願いします……!!」
銃弾やミサイルでも傷一つつけられない『迷いの森』の木を破壊する鈴八君の拳って一体…。
次回は、月移住計画に写ろうと思います。
それでは、また次回…