読み方は”へんげ“です。
妖怪としての狐にありがちな能力を付け足していこうかと思っています。
では、ご覧あれ…
さて、僕が永琳と出会って早5年。時間が過ぎるのが早いね。
僕と永琳は名前で呼び合う仲になり、付き合いはしてないけど、たまに僕の所に永琳が泊まりに来たりする。
その時、最初の頃は永琳が布団や屋根代わりの布を持って来てくれたりもしたけど、今となっては自分ですぐに作れるから要らなくなった。
というのも、僕はまた新しい能力に目覚めたからだ。名前は『変化』、物の見た目や重さを、妖力の許容範囲内で変化させることができて、任意で解除できる優れものの能力さ。また狐らしい能力を自覚できた。
でも、僕は最初からこの能力に目覚めてたらしい。何故そう思うかと言うと、今僕のこの身体も、また変化で変化させたものだからだ。
本当の身体は狐の身体で、毛並みは黒く、足首や首元に金色の模様がある。永琳からはこの状態の事を『
それはそうと、もう一つ。実は妖力がすごく減っちゃったんだよね。理由は分かってるけど。
今は変化で隠してるけど、僕にはもう一つ狐の尻尾が増えた。殆どの妖力はその尻尾の中にあって、その尻尾の変化を解除すると妖力は元に戻るって仕組みってわけ。
今まで少しだけ妖力に頼った生活を送ってきたけど、今となってはその妖力もロクに使えないから、これは良い修行になると思う。鍛錬の時も無意識のうちに妖力を使ってたみたいで、今全力で森の木を殴っても、半分凹ませることしか出来なくなっていた。
これからは本当に、素の身体能力でこの木を折らないといけないと思うと、また長い修行が続くのかと思うと、正直ちょっと楽しみになる。いつのまに戦闘民族みたいな性格になったんだろうと思ったけど、思い出せない。でも別に不便は感じてないから、この性格を直す気はない。
さて、そうと決まったらまた鍛錬だ。永琳もさっき帰ったし、今からは思う存分鍛錬が出来るぞ!
森の木の前にたった僕は、意気揚々と拳を構えて、いつも通り、拳を放った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼と出会ったのは、今から五年前。
薬の材料となる原料を採取するために壁の外に出て、霊力切れで雑魚妖怪から逃げていたあの日の事。
当時の私はまだ未熟な薬剤師で、知名度もあまり無かった。構えていた診療所も都市の端っこで、滅多に客が来ることはなかったけれど、私と仲良くしてくれる人達は怪我や病気に掛かると真っ先に来てくれる。
治安の良い都市だから、平和に診療所を営んでいたわ。でも、ある日のこと。
『永琳さんッッ!!私の、私の娘がっ!』
『かひゅっ…ひゅーっ…ひゅーっ』
『ッッ!?今すぐ診察室へっ!』
常連の、いつも薬草の採取などを壁の外に行って来てくれる狩り人の男性が、重症の娘を連れて私のところに来た。
どうやら、昨日の薬草採取から帰った時、娘と一緒に寝たらこうなってしまったとか。そんな状況で罹る病気は一つしかない。
『…穢れによる過敏反応…あなた、都市から帰った時に“消毒”をしていないわね?』
『うっ、ま、まさかそれが原因で!?』
『当たり前よ!穢れに免疫が出来ているあなたは問題ないけど、穢れに免疫を持っていない者に穢れで汚染されたあなたが近づいたり触れたりすればこうなるのは当然だわ!』
『あ、あぁ俺はっ、なんて事をっ!』
普通、彼のような狩り人が外から帰ってくる際、身体についた穢れを除去するために“消毒”をしなければいけない。基本マニュアルにもそう書いてあるはずだし、そうしなかった場合のこともちゃんと記載されてあったはず。
『参ったわね、今ここに症状を治す材料がない…仕方ないわ、私が出向くしかないようね』
『お、俺が取ってきます!俺の責任だ、俺が行かないとっ!』
『ダメよ。この子の症状を治す薬は妖怪の溜まり場にあるの。霊力の少ないあなたじゃ、囲まれて終わり。私が出向くわ』
『でもっ…ッッ!!、わかりました…お願いします…!』
『えぇ、必ずあなたの娘は助けるわ』
『ありがとうございます…っ!』
彼の娘が罹っている症状は、妖力を寄せ付けない特殊な花粉を持つ花を採取しなければいけない。だけど、その花には、近くに妖怪を寄せ付ける匂いを発する特性がある。だから採取する際はかなり命懸けなのだけど、私は採取に赴いた。一般人より霊力が多いっていう慢心があったのもあるけど、何より、人が苦しんでいる姿を見て、大人しくするわけにはいかなかった。
妖怪は、一匹だけでは問題ないけれど、群れとなったら厄介なことこの上ない。連携も何もない、攻撃は仲間も巻き込むために対処がし辛い。それに妖怪には基本体力切れというものがなく、攻撃の手は一向に休まらない。
『グァウラァッッ!!』
『くっ……!』
不味い!と思った時にはもう遅くて、私の霊力は底をついて、脚に一撃を貰ってしまった。走る分には問題ないけれど、痛みが尋常じゃなかったのは覚えている。
それでも足を動かしたのは、苦しむあの子の、助けてくれと懇願する患者の辛い顔を思い出したから。助けなきゃという使命感、あの子の笑顔が見たいという私の思いから。
薬草は懐に、あとは都市に帰るだけの私は妖怪から逃げて、かなりの距離を走ったと思う。当然、かなりの距離を歩いてきたからだけども。
走っていくうちに都市の壁が見えて、あと少しだと足に力を入れて加速した。妖怪も逃げられると思ったのか私と同じように加速していた。
あと少し…あと少し…!というところで、私の前に一匹の妖怪が立っていた。
『っ!また妖怪…!』
思わず悪態をついてしまったけれど、その時の心情からすると仕方ないと思う。でも、その妖怪は私の予想を大きく裏切った。その妖怪も私に襲いかかると思ったが…唐突に姿を消して、どこに行ったかと思えば、私も後ろで私を追いかけていた妖怪と相対していたのだ。
腰を深く落としていて、片腕を弓のように後ろに引き絞って、狙いを済ましている。追いかけてきていた妖怪はその妖怪に大きな爪を振り下ろして…花火のように、全部を爆発させて消し飛んだ。
彼がやったことは至極単純で、ただただ殴っただけ。ただその速度が尋常ではなく、私の目を持ってしても“起こり”すら見えないほどの速さで、振り抜いた後の姿しか目視できなかった。
後ろ姿は、踵まである黒い長髪に、狐…だろうか、耳と尻尾が生えていて、身に付けているのは金色の刺繍が所々にある黒い和服。じっと見ていた私に、彼は振り向いた。
ハッと息を呑むほどの美貌。区域一の美人と呼ばれていた私でも言葉を失うような美しさがそこにはあった。
細い柳眉に、こちらを見据える夜空のような瞳。流れるような鼻梁と小ぶりな唇は完璧な位置に配置されていて、天は彼に二物を与えすぎじゃないかと疑うほど。
『大丈夫?』
そこから、何を話したかは覚えていない。急いで帰らないといけなかったし、穢れの消毒のために急いで処置をしなければいけなかったから。
その日はあの妖怪が気になって一睡もできなくて、お礼に何をしたら良いだろう…と悩んで、一つ思いついた。あの近くには動物もきのみもないし、料理を作ったら良いのではないか。
どう思った私は、思い立ったが吉日と言わんばかりに急いで料理を作って、彼の下に赴いた。場所は『迷いの森』。都市の近くにある、未確認、未探索の謎に包まれた森で、どんな重機を持ってしても伐採できなかった区域の一つ。なんだけど…森の外から一直線、彼の下にたどり着くまでの森の木は、一本残らず拳の跡を残して倒壊していた。
まさか拳一つでこの森の木を殴り倒すとは思わなかったけど、昨日のあの惨状を見れば納得がいく。そう思いながら森を進むと…彼の住処である花畑で、彼と目が合った。
『あ…』
相変わらず、綺麗だと思う。未だに着物についた血が残っているということは、水浴びすらしていないことになる。どうすればそんなに綺麗になるのかしら…。
『えっと…鈴八、だったわね。昨日はありがとう。お礼と言ってはなんだけど…』
彼に料理の入った籠を差し出して、彼はそれを受け取った。
『ここら辺って妖怪しかいないから、食べる獲物が少ないでしょ?だからご飯をと思って…って凄く涎が出てるじゃない?!』
物凄い量のよだれだった。
早く、早く食べても良いかと、待てをされた子犬のような視線で訴えかけてくる彼の眼差しに私は思わずこくりと頷いた。
彼は美味しそうに食べてくれていた。まさか涙を流す上に崇拝しようとしてきたのは驚いたけど…あ、あともう一つ収穫で、この花畑の花を持っていっても良いという許可を得られた。
私の能力、『あらゆる薬を作る程度の能力』の応用で、私の目には薬の材料となる植物などが見えるの。この花畑にも材料があると思って能力を使ったんだけど…
まさかこの花畑の全てが薬の材料になるなんて思いもしなかったわ。それも、どれも伝説と大差ないほどの効力。これならあの薬も作ることも夢じゃなくなってきそうね…
『…送っていく?』
私が帰る頃に、彼はそう私に提案してきた。でも私は大丈夫だと言った。あの時妖怪から逃げていたのは霊力が底をついていただけであって、今は大丈夫だと。試しに自信満々でそこら辺の木に霊力の矢を撃ったのだけど…
___パチュンッ
気の抜けるような音を立てて、霧散した私の矢。その時は、顔から火が出るかと思ったわ…。
永琳の回想シーンです。
次回からは人妖大戦の前兆が、そして妖怪達の首魁がつまみ食いをしようと…
では、また次回…