さて、『修復』vs『固定』の戦い、勝利の女神はどちらの味方に…
では、ご覧あれ…
百鬼夜行の主、鬼の百鬼。
『黒金狐』、妖狐の黒鉄鈴八。
僕と彼の闘いは時間が経つほど激しさを増し、周囲に妖力の残滓を撒き散らしていた。
「『くあははははははははは!!!』」
「…っ!…!」
片や、『固定』。片や、『修復』。
固定された拳に拳を打ちつける僕の拳は砕かれるも、『修復』の能力で瞬時に回復。妖力の増加によって威力が増した僕の拳は、段々と僕自身の妖力に耐えられなくなってきていた。
原因は妖力で拳を完全に纏わせていないからだ。少しでも妖力の操作が遅れたり、早かったりすると妖力の纏は綻びを広げて意味を無くしてしまう。ならばどうすれば良いか、妖力と拳のタイミングを全く同時にすれば良い。
だけど、それは技術的に至難の技だ。それも戦闘中に、殴り合いの最中で行わなければいけない。だけどやるしか無い。壁の中には僕の友達がいて、その友達が今も頑張っているからだ。
綿密な操作。針の穴に糸を二本同時に入れるような難易度だが、今の状態だと何故か出来そうな予感がする。今も、拳の方が早かったけど、さっきよりも拳と妖力の間が縮まっている。
力と力のぶつかり合いの中で成長する僕の技術は、段々と相手の力を上回ってきていた。
「『力が強くなってんな鈴八ァ!楽しいなァ!』」
「…(まだ…まだ高められる)」
百鬼は単純に、妖力を拳に固定して殴っているから僕の妖力の壁を無視して攻撃できる。だから僕は同じように妖力で拳を覆って百鬼の拳と相殺させているけど、このままじゃジリ貧になる。
妖力を、覆うじゃなくて、ぶつける。拳と同時に相手にぶつけて、相手の妖力の壁を突破する。以前の僕なら出来なかったけど、今はできる気がする。
………今!
___バチィンッ!!!
「『うお!?』」
「っ!」
成功した。妖力と同時にぶつけた僕の拳は黒い衝撃波を出して百鬼の拳を弾き飛ばした。
腕を突き出したまま僕は、今の感覚を忘れないうちにもう一度拳を放った。
「『ぐっ!こいつっ、“直接体内に攻撃”っ?!』」
どうやら僕の拳による打撃は百鬼の『固定』をすり抜け、直接体内を傷つけているようだ。それもそうだ、妖力で満たす為に『固定』はあくまで“体外”しか固定できない。もしも拳の中まで固定してしまったら、到底妖力は操れないだろう。
だから、百鬼は“体内を固定できない”。体内に直接痛みを与える攻撃を、防ぐことができない。
「『くっ、ははは!かふっがはっ!』」
「流す、流す…!」
僕の体内への攻撃の要は、妖力によるもの。だから、僕のこの攻撃は妖力を“流す”ことが重要になる。拳を妖力と同時に叩きつけ、妖力を流し、相手の中に勢いよく妖力を叩きつける。この間の精密な操作による工程が重要になる。
流石にこの損害を無視するわけにはいかなかったのか、百鬼は初めて僕から距離を取って、肩から息をして息を整えていた。無論僕も息が上がっており、構えてはいるが、かなり消耗が激しい。
「『はぁ…はぁ…く…くくっ、お前はやっぱり最高だ!もう一度問う!俺の仲間にならないか!』」
「こと…わる………ッッ!!」
「『やっぱりか!本当ならこんな卑怯な手は使いたくなかったが…』」
そういうと百鬼は頭上の遥か高いところまで、妖力の塊を打ち出し、爆破させた。どういう意図だろうか。
…いや、待って。百鬼は百鬼夜行という妖怪の群れの主。つまり、百鬼のいるところには沢山の妖怪がいるわけで…ッッ!!
じゃあ、今その妖怪の群れはどこに!?
「『たった今、俺を除いた百鬼夜行は人間の集落に向けて進行を開始した。数刻もしないうちに、到着するだろうな。勿論、それには俺も参加したい。だから…さっさと、この闘いに終わりを訪れさせようぜ!鈴八ァ!』」
「お…前ぇぇぇッッ!!」
「『奥義…『三歩必殺』!』」
「『一歩ォ!』」
百鬼の一歩目の踏み込みは地を割り、
「『二歩ォ!』」
二歩目の踏み込みで妖力がばら撒かれ、僕はバランスを崩し、
「『三歩…必殺!』」
三歩目の踏み込みで…僕の顔面に拳が叩きつけられた。
百鬼の拳の中に込められた妖力の密度。それは今までよりも強大で、何より強かった。でも…
___ガッ…!
「『なん…!?』」
「負け…ない!」
僕は足を下げて踏ん張り、百鬼の拳を押し返した。
「『く、あははははは!最高ォ!』」
それからは、今ままで以上の強烈な殴り合いになった。
百鬼の拳を妖力と同時に叩きつける事で相殺。
相殺。相殺。短い間での高速な殴り合いは周囲に衝撃波を齎し、近くに生えている草木は吹っ飛び、地面は段々と抉れだす。
百鬼の邪悪な形相は見る影もなく、ボロボロで、普段は隠してあったであろう二本目の角が出ている。かく言う僕も気付けば二本目の尻尾が出ており、その分の妖力がまた上昇した。
だが、それでも百鬼と互角。尻尾が一本でも互角だったはずなのに、二本目でも互角…と言うことは、百鬼もまた、僕と同じように闘いの中で成長しているのだと思う。
その二本目の角も、この戦いで生えたのだろう。だったら、僕はまたその上を行くだけ…!
「はあああああああああッッ!!」
「『うらあああああああああああッッッッ!!!!』」
気合を入れて放った拳は、百鬼の拳と同じく弾かれて僕たちはバランスを崩した。だけど、問題ない。僕は尻尾で地面と背中を支え、“頭に妖力を集中”させながら勢いよく起き上がって、
「「『ふんっっ!!!』」」
向こうも同じ事を、頭突きを繰り出した。
だけど、頭突きでの勝負は僕に軍牌が上がり、百鬼は後ろによろめいた。
「『なんっ…硬っ』」
最後の一撃として、僕は拳にありったけの妖力を込めて___
「くたばれ…!『鬼殺し』ッッ!!」
「『がっ___ッッッッ!!!!』」
百鬼の顔に、その勢いのまま百鬼を地面に叩きつけた。
地面はさらに陥没し、大きなクレーターを作り出して…この戦いは、ようやく終わった。
「はっ…はっ…!」
「『………くくっ』」
「ッッ!!」
まだ意識があったなんて…!
僕はまた構えて、百鬼を見据える。百鬼は立ち上がろうと地面に手をつき始めたが、やがて手から力が抜けるように、また倒れ伏した。
「『あ“ーっ、もう無理だ。立てねえ!お前の勝ち!終わりっ!』」
「…はぁ〜…!」
その言葉を聞いた瞬間僕はへたり込んで、地面に背中から倒れた。ゴツゴツして背中が痛いけど、身体の痛みに比べたら問題ない。
「『初めて負けたぜ…くくっ、丸々百年はもう戦わなくても退屈しなさそうだ!つーかお前頭硬すぎんだろ!まだ痛えよ!』」
「知らないよ…」
「『にしても…くくっ、『鬼殺し』か。その名に相応しい良い拳だったぜ!』」
「…それは、良かったよ」
すると百鬼は徐に、天に向かって手のひらを向けて、先ほどと同じように妖力を空に二回打ち出した。
「『壱は進軍、弐は帰還。今、百鬼夜行は進軍をやめて、妖怪の山に帰りつつある。…お前の勝ちだ、お前が百鬼夜行を退けたんだ、黒鉄鈴八』」
「…あぁ」
「『…なぁ、鈴八』」
「…百鬼夜行には入らないよ」
「『違えよ。なぁ、俺と友達になろうぜ?これだけ拳で語り合ったんだ、もう友達通り越して親友だろ』」
「…じゃあ、百鬼は第二の友達ね」
「『あん?一番目がいんのか』」
「うん、人間の…永琳。壁の中にいる人間の友達」
「『っかー!だったら俺を止めるわけだ!すまねえな!』」
「…大丈夫」
それにしても、疲れた。妖力はもうすっからかんだし、拳ももう満足に力を込めて握れない。立とうとしても足が面白いくらいに震えてしまう。
「…立てない」
「『くく…ふぅ…どっこいしょ!』」
「…!」
「『ほら、手ェ取れ』」
「…ありがとう」
僕は百鬼の手を取ると、百鬼は僕を引き上げて、肩を貸して立たせてくれた。クレーターの中から百鬼と共に出ると、周囲は酷い有様だった。
「『あーあー、やっちまってんなぁ俺ら。くく、まぁ大体俺の所為か』」
「…死骸もいっぱい…じゅる」
「『あん?お前あれ食うのか…』」
百鬼がドン引きしてこっちも見るが、僕はもう狐火の準備ができている。今日は一日中何も食べてないし、いい加減お腹が___、
「…!」
「『はっ!?おい、俺は確かに___百鬼夜行の進行は止めたはずだぞ!?』」
突然の爆発音に振り向いた僕の視界に映ったのは…もくもくと、黒い煙を上げる都市の壁だった。
『三歩必殺』の原点、『鬼殺し』の原点が、今誕生。
では、また次回…