PM001
「反省しておりますか?」
「まこと申し訳ない。」
「次やったらビンタしますから。」
「あの、すでに頬が痛いのですが。グーを食らっているのですが。」
「いきなり生徒にセクハラをした代償としては穏便だと思いますが。」
「まこと申し訳ない。」
頭を深々と下げる。
本当に深々と下げる。
昨今の教師のセクハラに対する世間の目は厳しいのだ。男の教師はなるべく女子生徒とは授業以外では話さないようにしているし、多少のコミュニケーションはしても接触はなるべくどころか完全に避けている程なのである。
しかし今回俺は感極まって静香にハグをしてしまった。
まずいね。朝のトップニュースで全国デビューをしてしまうかもしれない案件だ。懲戒免職という四文字が重くのしかかる。あの、土下座をしたほうがよいでしょうか?
そんな事を考えていると静香から「ところで」と声が掛かった。
「どうした?」
「プロデューサーはその、”記憶”があると考えて良いのでしょうか?」
「ん?まあな。覚えている。」
「そう、でしたか。良かった…。」
ふにゃりとほほ笑む静香。
そういえば生徒の方から莉緒へと嘆願があったのだから、静香から莉緒に創部の嘆願をしたという事のはず。つまりは記憶のない莉緒は静香を一生徒として扱ったという事だろう。もしかすると静香はショックを受けたかもしれない。
考えがそこに至り、俺は「あー」と言いながら頭を掻いた。
「そうだよな。莉緒に会ったという事は莉緒が記憶持ちじゃないって知ってんだよな…。ショックだったよな。」
「いえ、別に。案の定だったのでショックとかは受けてません。」
「え。そうなの?」
「はい。星梨花も未来も前の記憶持っていませんでしたし。」
「ふーん…、ん?待て、星梨花と未来?いるのか!?」
衝撃の事実が静香からもたらされた。
いるの?本当に?
「はい。えっと、星梨花はこの学園の生徒で、しかも私の同級生なんですよ。びっくりですよね。未来の方は…、同い年ではあるのですが…。」
「星梨花もこの学園にいるのか!んで未来の方は…、どうした?」
「その、初等部の時に学園を一緒に受験したのですが、未来は落ちてしまいまして…。」
「未来…。」
「去年は高等部受験もしたそうなのですが…。その…。」
「うん、まあ。そうだったのか。」
この学園はかなり偏差値高いしな。
未来にはちょっと厳しかったか…。
懐かしい顔に会うことが出来ないというのは少々寂しい。しかし静香と未来は学校が別であっても今尚連絡を取り合っている程に仲が良いと聞けて嬉しくもあった。
「それで静香は星梨花と二人で部活の立ち上げを申請したという事でいいのか?」
「はい。ですが、実はもう一人勧誘しようとしている人がいます。」
「ふーん。友達?」
「その、友達というか…。前の時の仲間みたいなものですよ。」
前の時?まさか…。
首を傾げた後に静香の言っている意味が繋がって思わず息が漏れた。
「志保を見たんですよ。外部生として入学してきていました。クラスが別なので話したことはないですけど。」
マジか。
というか俺が受け持っているクラスが中等部の二年のせいで高等部の事情がさっぱり分からない。あと待って、静香が高等部一年生で星梨花が同級生ということは…。星梨花、高校生なの!?
とりあえず志保の勧誘は決定事項として、星梨花と一緒に創部という事なので静香に星梨花もこれから部室に来るのかと聞く。しかし静香は首を振った。
「星梨花はジュニオールの狂犬病の注射があるようなので先に帰りました。」
「まあ、春だもんな。そんな時期か。しかし高校生星梨花か。想像つかないな。」
「あの頃よりは成長してますよ。だけどまだ私の方が背は高いですけど。」
「おー。ん?背は?」
「………。」
無言になった静香の首の少し下を見た。
ふむ。背は少し伸びたようだが変わらない場所もあるようだ。さては追い抜かれたな。
ちなみに視線に気付いた静香に逆の頬を打ち叩かれた。
グーで右頬を、パーで左頬だから次はチョキで両目かな?はは、怖い怖い。
*****
部員の静香と顔を合わせた翌日。
俺は昼休みに高等部の教室棟に足を運んでいた。
目的地は一年生の教室。
目的は静香との合流。そしてそのまま志保との接触、および勧誘である。
さて、皆様お気づきだろうか。
俺は新米ティーチャー。無駄に広い学園の細部など把握していない。しかも自分に関わりのない高等部など把握しているあろうはずがない。俺は中等部を受け持っているのだ!
「さて…、迷った。」
俺は腕を組んで立ち尽くしていた。
近くの教室のプレートを見る。二年三組とある。
おかしいな。俺は一年生の教室に向かっていたはずなのだが。
まあでも迷ったのなら致し方ない。恥を忍んで近くの生徒に場所を聞こう。迷ったままで合流できなかったら静香に何を言われるか分かったものではないからな。
そう思ったちょうどその時、後ろから肩をトントンと叩かれた。
誰だ?
振り返ると頬に人差し指がぷすりと刺さった。なんとまあ古典的なイタズラ。
「通路のど真ん中にいるお邪魔な先生。略してお邪魔ティーチャーですね!」
「ちょちょちょ麗花ちゃん!?いきなり失礼だって!ほら、謝ろう?」
麗花さんがいた。その後ろには茜も見える。
え?ええ?マジで?驚き固まってしまった。
二人は授業に使うらしき割と大きめのボードを持っていたらしい。今は廊下に置いて茜が支えているようだが。
感動の再会と行きたいところ。しかしこの様子だと残念ながら記憶は無いようである。無念。とはいえこのまま二人をスルーする事などあり得ない。二人を勧誘すると決意を新たに…、ってお?
「うーん、だけどこのままだとお邪魔ティーチャーさんのせいでこのボード運べませんよ?」
「いやだから言い方をね、こう丁寧に『ちょっと通りたいので脇に寄ってもらえますか?』とかね?」
「なるほど!お邪魔ティーチャーさんは桂馬の動きをしそうですね!だから、こうでこう!」
あれよあれよという間におれは麗花さんに二度持ち上げられて廊下の脇に立たされた。いやいやいや。ナチュラルに両手でひょいと持ち上げられたけどいやいやいや。俺は一応成人男性なんだけど。それと何がなるほどなのか一切わかんなかったんだけど。
でもまあそういうこともあるのか?麗花さんだしな。
しかし戦慄いている茜ちゃんを見る限りそういうことがままあるわけではなさそうだ。
「よーし!茜ちゃん、張り切ってボードを運んじゃおー!」
麗花さんのあのパワーを見るにあのボードは一人で運べそうな気がするが…、と思ったら麗花さんは茜を置いて一人でボードを持って教室内に吸い込まれていった。二年三組の隣だから二組の方かな?
そして置いて行かれた茜は青い顔をしながら俺に近づいて頭を下げた。
「あの…、その。本当に申し訳ありません…。ちょっと麗花ちゃんは自由奔放というか…。」
「あー、うん。気にしてない気にしてない。知っているから。」
「ニャハハ…。麗花ちゃんは先生の間でも有名なんだね。」
「有名というかなんというか…。」
正直なところ麗花さんの存在を今の今まで知らなかった為に俺としては有名とまではいってはいないと思う。とはいえそれとは別に個人的にはよく知ってはいる。
しかし見たところ茜と麗花さんが同級生とは…。感慨深いものがある。
それはそれとして本題に入ろう。
「まあそれはいいや。茜、アイドルは興味ないか?」
「んん?突然どうしたんです、先生?」
「いやな。実は俺、アイドル部の顧問なんだよ。そして今ここで『かわいくて魅力的で、誰もが心を奪われる!そんなスーパーアイドルの卵』を見つけてしまったから声をかけたわけなんだが。」
「おおっと~、茜ちゃんの魅力は先生すらも陥落しちゃったのかな?茜ちゃんってば罪な女!」
「いやあ罪深い罪深い。だから今部員が一年生しかいないから面倒を見てあげてくれ。」
「んんん?今別の目的を明かさなかった?ホントに魅力的って思ってる?」
ズイと詰め寄ろうとする茜を華麗に躱して俺は右手を上げて「そいじゃ!」と言った。
「あ!」と声を上げて追われそうになるもののクラスメイトらしき女子の「茜ちゃん、麗花ちゃんにプリン食べられているよ…」という声で事なきを得た。ナイスだ麗花さん。
というか未だに麗花さんにプリンを食われているのか。可愛そうに。
それと当然茜の魅力は知っているとも。じゃなきゃ前世でプロデュースなどしていない。そして叶うなれば今世でも皆をプロデュースしたいものだ。
俺は茜と麗花さんに出会えた喜びを噛みしめながら職員室へと歩みを進める。
なお、静香と合流をしようとしていた事は昼休み終了のチャイムと同時に思い出した。
「やっべ…。」
これ絶対怒られるやつだよね。
特に関係ないけど莉緒のせいに出来ないだろうか?
俺は責任を逃れる方法を考え、特に何も浮かばずに帰りのホームルームを行うために担当の教室へと向かった。
*****
「先生!どうしてそんなに顔が青いんですか?」
「それはね、青い炎がよく燃えているからだよ。」
クラスの生徒に聞かれてそう答えたのはつい十数分前。
そして今現在、青い炎を立ち上らせる静香と対面していた。
床に正座して。
「静香さん、先生も謝っていることですし許してあげましょう。」
「ほら、静香。星梨花もそう言っていることだし怒りを鎮めよう。」
「プr…、先生がそう言うのは違うのではないでしょうか?」
「うん。そうだね。」
うむ。わはは。全くその通り。
そして高校生星梨花と初対面も果たした。お嬢様感が天元突破で破壊力がツァーリボンバ。
髪型もツーサイドアップになって可愛さの暴力。もともとのツインテールも似合っていたけど高校生になって大人っぽくアレンジしたようだ。
「そうだ、後ろにいるのが志保か?」
「そうです。先生が約束をすっぽかしたので星梨花と二人で会いに行きました。」
そう言った静香の視線はこころなしか冷たく感じる。
けれども俺が部室に足を踏み入れた瞬間から静香の視線は冷たかったから変わらないともいう。まあ、全部俺の責任なんだけどね。言い逃れる余地もない。
そんなプンプン静香から視線を外して部屋の奥に居る志保を見る。
腕を組み、面白そうに笑顔を浮かべながら椅子に座っている。
その志保が前世の記憶のままのよく澄んだ声でこう言った。
「初めまして、かしら?ごしゅPさま。」
「なあ!?」
「え、おぼ…、志保!?」
「ごしゅぴーさま?」
三者三様声が上がる。
と言うか志保が記憶持ちって静香も知らなかったのか。
そんな中にまたややこしい面々が追加された。
扉が開いて長い髪をたなびかせながらよく通る声が室内に響く。
「わ~い!どっかーん!初めましてのシャボン玉。そーれ、ふー。」
「ちょっと、麗花ちゃん、速…、やっと追いついた。って室内でシャボン玉吹いちゃダメでしょ!?」
志保の言葉に驚かされた俺と静香。
しかし新たな登場人物に志保と静香も目を丸くした。つか静香だけは全部に驚いている。星梨花だけは部員がいっぱいになることを素直に喜んでいる。かわいい。
だが混乱したままではどうにもならない。
正座させられていたが俺はひとまず立ち上がって手を叩いた。
「とりあえず自己紹介でもするか。」
そう言って全員の顔を見回す。
反論は無いようだ。だがとびきりの問題児がフライングした。
「じゃあ私からですね。二年一組の北上麗花、年はもうすぐ17歳。そこのフツメン先生と茜ちゃんで三角関係をやってます!」
「よーし、麗花黙ろう。あと茜、部室に入って扉閉めてくれ。」
「プロデューサー…。」
「静香、俺は先生だ。あと誤解だ。志保も睨むな。」
先が思いやられすぎて涙も出ない。
001終
しずしほは天寿全うしていないです。とはいえ事故で亡くなったわけでもないです。気付いたら赤ん坊になっていた的な感じです。
どこまで記憶あるか。
静香 → D/Zeal主演の天国の鳥の成功後まで
志保 → EScape主演のMelty Fantasiaの成功後、映画化決定まで(撮影までは行っていない)
こんな感じですかね。よって初期静香や初期志保ではないので親愛度割と高めです。