PM002
「はい。という訳で俺はこのアイドル部の顧問である石見知哉だ。よろしく頼む。」
最後の俺が自己紹介をしたことで一通りの自己紹介は終わった。
麗花さんのデマ情報であった三角関係疑惑はフリーズから復活した茜の弁明により事なきをえている。とはいえ心に余裕が出てきた茜が今になって「でもでも急に魅力的とか言われちゃったケド…、もしかして先生は茜ちゃんに魅了されていたり?」とか言ってくる。ウザカワイイね!でも話がややこしくなるから今はお口にチャックな。ほら、何となく話を察せる志保は気遣いの目で見てくれるが素直すぎる静香の視線は厳しさを増している。
「とまあ、しばしの活動に関してはこの五人で行っていく事になると思う。」
「最初の活動はどうしますか?」
「宣伝は基本だからな。宣材写真に結成報告と自己紹介動画をサイトに乗せようと思っている。」
「なるほど!ついに茜ちゃんの可愛さが世に広まっちゃうんだね!」
「世に広めない事にはファンも付かないからな。頼んだぞ。」
五人を見ると皆に頷きを返してもらった。約一名「はーい!」と元気よく手を挙げているが、やる気がある事は良い事なので良しとしておこう。
「それと最初の目標も決めておこう。」
「目標ですか?」
「そうだ、志保。もちろん最大の目標はスクールアイドル界のトップであるラブライブ優勝である事は間違いない。ただ短期的な目標も決めておきたいと思う。それを達成できれば着実に前に進んでいるという実感が持てるだろう?」
「確かにそうかもしれませんね。」
脇でじゃあ最初は日本のトップの富士山を達成しましょう!と言っている麗花さんの頭をムギュっと抑えつける。相も変わらず登山が好きな事は微笑ましいがようやく踏み出したスクールアイドルの一歩目で富士山に登るのは違うと思うのだ。時間があったら今度付き合ってやる。だから落ち着いてくれ。ほら、これやるから。
「あ、これは茜ちゃんプリンですね。わーい!」
「ちょ、ニャアアアア!それ茜ちゃんのプリン!」
騒がしさは増したような気がするが、一番の要注意人物が甘いものに夢中でおとなしくなったので計画通りと言えよう。
そんな中、「そうですね…」と考え込む静香と志保をおずおずと見ながら星梨花が手を挙げた。
「星梨花、何か案があるのか?」
「その、せっかくアイドル部を作ったのですからライブをやってみたいです。」
「なるほど。最初の目標はライブの開催か。」
「良い案じゃない星梨花!私も最初の目標はライブの開催で良いと思うわ。」
志保も頷いている。
しかし麗花さんを追って肩で息をしていた茜が難しそうな表情をしながら席に戻ってきた。結局プリンは食べつくされたらしい。
「でも歌う歌が無いよ?いくら茜ちゃんとはいえそっちではあんまりお力になれないけど。」
「それは…、ピアノであれば私が…。」
「私も音楽であればお力になれると思います!」
「おおう。多才な娘たちだね。茜ちゃんビックリだよ。」
驚く茜の頭をポンポンと撫でる。
その辺りは心配しなくて良い。確かに微調整は静香と志保に頼む事があるかもしれないが楽曲に関しては何とかなるのだ。主に前世のストックが俺にはいっぱいある。
「楽曲に関しては心配しなくても良い。」
「およよ?もしかして先生も歌に関して一家言ある感じ?」
「まあな。前職(前世の職業)でそれなりに関わっていたから音楽を弄るのは得意分野なんだ。」
とはいえ最初から曲を作り出したことは無いのだけれども。
しかし既知の曲のメロディーを組み立てて伴奏を彩る事くらいおちゃのこさいさいだ。完全なる新曲を作る事になったら静香に任せようそうしよう。
俺の胸の内を知らない茜と星梨花が素直に称賛してくれているが、なんだか素直に喜べない。他人の手柄を横取りしているようなものだものね。その思いは一先ず脇に置いて他の問題を取り上げる。
「それとダンスの方も気にしなくていい。俺の方で何とかできる。ただな…。」
「ただ?」
四人が一斉に首をかしげる。
麗花さんは何が嬉しいのかニコニコしていた。大丈夫?話聞いている?
「衣装の伝手が無い。」
志保と静香は苦虫を噛んだかのような表情となり、茜も難しそうな表情をしていた。
「茜さんは…、その、出来ないでしょうか?」
「静香ちゃん、いくら茜ちゃんと言えどもちょっと難し過ぎるよ!編みぐるみとか簡単なお裁縫は出来るけど、流石に人用の衣装は作った事ないかなー。セーターとかは編めるけどアイドルの衣装は出来ないって。」
「そ、そうですよね。」
そんな重苦しい雰囲気になりそうな中、今度は星梨花が元気よく挙手をした。
「大丈夫です。衣装は私に任せてください!」
「えっと、星梨花。大丈夫なの?」
「大丈夫です。パパに言えばイッパツです。」
「それは大丈夫なのか?」
「大丈夫です!」
大丈夫らしい。
静香は静香で「まったく星梨花は頑固なんだから」といいつつ顔をニヤけさせている。茜は茜で「お!星梨花ちゃんのお父さんは服飾関係の人だったか~」と誤解している。恐らく服飾関係も傘下にある、が正解だと思われる。
とはいえこれにて目下の問題は解決したと言って良いだろう。
完璧では無いのだから後々になって問題が浮かび上がってくることは間違いない。しかし、彼女たちとならばきっとそれらも乗り越えていける事であろう。
「よし。じゃあ最後に、ユニット名を決めよう。」
「はいはい!茜ちゃんとしては…。」
「却下。一つ良い案があるんだ。」
「せめて茜ちゃんの案を聞いて…」との声が聞こえるが俺は涙を呑みつつ笑顔でスルーする。
「クレシェンドブルーなんてどうだろうか?」
*****
さて、昨日は喫緊の課題と共にユニット名も決まった。
そんなクレシェンドブルーのメンバーの本日の活動。それは部室の清掃である。
今現在のアイドル部の部室はどちらかと言えば空き教室の様相を呈している。
机が隅に追いやられ、椅子も散乱。埃が積もっているとまではいかないけれど、ある程度は放置されていたと思われるほどには埃っぽくもある。
そんなこの部室を居心地よくする作業が本日の目標だ。
「ねえ先生。掃除機は無いの?」
「贅沢だな志保。そんな高価な設備が空き教室にあったと思うか?」
「普通なせんせ!この机は何処に移動しますか?」
「一気に机六つは無理…、じゃないのか。凄いな。部室の隣が空いているらしいかそっちに移してしまおう。」
「あの、先生。お掃除が大変ならお掃除ロボットを持ってきましょうか?」
「いいや星梨花。ここは教育機関だからな。お掃除もまた教育の一環だから持ってこなくて良いぞ。」
「ほーら先生!ちょっと汚い箒しか余ってないからってお掃除サボっちゃ駄目だぞ!」
「あのな、茜。そんな理由で掃除をサボるのは小学生まで。俺は必要な備品目録を作っているだけだ。サボっている訳ではない。」
わちゃわちゃと各々が各々の持ち場へと散っていく。
麗花さんは備品の移動、茜は床掃除、星梨花と志保は窓掃除。残る静香は教室前方の戸棚掃除だったのだが、その静香は俺の方へと歩みを進めた。
そして俺だけに聞こえるように小さな声でポショリと呟く。
「ユニット名はやはりクレシェンドブルーでしたか。」
「むしろそれ以外考えられるか?」
「いいえ。プロデューサーが提案しなかったら私が提案していました。」
その言葉に自然と笑みがこぼれる。当然だ。
この五人の絆が未だに解けていないと知れたのに嬉しくならない訳がない。
「それでプロデューサー?最初の曲は何にするつもりですか?」
「当然ShootingStarsだ。初お披露目がライブ形式だったらWelcome!!にしただろうけどな。」
「サイトにアップとなるとインパクトが重要ですからね。」
アイドル好きにアイドルが歌うカッコイ曲が嫌いな人などいない。カッコイイ曲でたくさんの人の目を引き付けその後にThankYou!をアップロードをして幅の広さを見せつける。そしてその後にFloodingで引き締める。
このコンボで話題にならない訳ない。
さらに初ライブが決まったらセットリストはWelcome!!を初お披露目してShootingStarsからのFlooding。最後にThankYou!来るか?と思わせてからのGlowMapの初お披露目。そしてアンコールでThankYou!よしこれだ、これで完璧だ。
とはいえ記憶があるのは静香に志保の二人だけ。他の三人にはレッスンを行わなければならないし、アイドル活動を行う上で必要になる事は数多くある。思い浮かべた計画が泡沫の夢で終わるなど物寂し過ぎる。いつか必ず実行に移さなければならない。その為にもまずは足元である部室から。
「なあ静香。」
「なんですか?」
「絶対にまたトップアイドルになろうな。」
連続ドラマの天国の鳥で大成功をおさめ、D/Zealの公演でホールを赤く染めた静香にこの現状は少々物足りないかも知れない。だけど絶対にまたあの景色を見させてやりたいと、そう思った。
「楽しみにしておりますよ。プロデューサー。」
「今は先生だ。だから可愛い生徒をトップアイドルに導いてやるよ。」
しかし必要な備品が多いな。
以前の劇場の事務所を目安にして備品をリストアップしていたのだが、一介の部活動には真似事であっても財政の問題で難しいようだ。というか部費はどれほど出るのだろうか?立ち上げたばかりの部活動にはそれほど出資してもらえないような気もするけれども。
また一つカタログに付箋を貼ってからカタログを閉じた。ふぅと息を吐いて閉じたカタログを見る。
少しは俺も出資する事になるかもしれないな。…少しでは足りないような気もするが。
その休み明けの月曜日。
俺が部室に赴くと前世の事務所のように魔改造された部室だったものにお出迎えされた。
「んあ?」
「ねえ先生。いくら何でもやり過ぎだと茜ちゃんは思うんだけど。」
これ絶対部費だけじゃ足りてないよねと言う茜。
まあそうだろうなと思う俺。とはいえ一銭も出していないどころか関わってすらいない俺としては事実など何も知らない。
静香と志保からも疑いの眼差しが飛んでくる。
俺じゃないと首を振る、が疑いは消えないようだ。
そこで疑問が湧いた。先程より星梨花と全く視線が合わない事に。
当初は星梨花的に初めて会ったばかりだから未だ緊張が抜けていないのかな?と思っていた。だが事ここに至ってこの事件の真犯人は一人しかいない。財力的な意味で!
「星梨花。」
「はひゅー、はひゅー。」
「星梨花こっちを見なさい。」
「私はゼンゼン知りません。」
あからさますぎる。
隠し事が出来ないようだ。
こんなにも解りやすければ誰もが真犯人に視線をむけるのは当然だ。
「あのな、星梨花。」
「嫌です。知りません。全部妖精さんがやった事です。」
「なにそれ可愛い。じゃあないや聞きなさい。」
「むう…。」
あ、そういえば『なにそれ可愛いのところ』で静香が首を大きく縦に振っていたね。本当に星梨花に甘いな君は。志保に呆れた視線を向けられていたぞ。
むくれる星梨花に視線を合わせるようにかがむ。
「むしろ感謝しているんだ。こんなにも綺麗にしてもらって。だけど誰がやったか隠されちゃ感謝の言葉一つも言えなくて俺たちは困ったことになる。」
「むぅ…。そうなのですか、静香さん?」
「…そうね。ありがとうが言えないのは寂しいわね。」
「そう、でしたか。」
一瞬だけ口角を上げて喜色をにじませる星梨花。
俺を含めた四人の前に背けていた顔をようやく向けた。
「その、部室の件は私がパパに頼んでやってもらいました。何も言わずに勝手に動いてしまって申し訳ありません。」
「まずはありがとう。だけどそうだな。一人で勝手に動いてしまうのは反省点だったな。」
「うう…、ごめんなさい。」
「いいのよ星梨花。でも、一緒にどんな色が良いかとか一緒に選べたらきっともっと楽しかったと思うわ。だから今度は相談してちょうだいね。」
「はい!」
うむ。これにて反省はおしまいでいいだろう。
次いでは実務的な話になる。
「それで星梨花。流石に生徒一人に費用を負担してもらうのはいただけない。いくらかかった?俺が出すよ。」
「そんな、大丈夫ですよ。私の貯めてきたお年玉で足りましたし。」
「ならなおさらだろ。今後買いたいものが出てきた時に不便だろう?」
重ねて「いくらかかった?」と聞く。
困ったように顎に右手の指さきを触れた星梨花うーんと悩みつつ口を開けた。
「二百万、くらいでしょうか?」
「にひゃ…。ま、マジか。」
まあ、一室丸々リフォームしたんだもんな。
そのくらい掛かるか。これだけの品物を入れたんだ。物の値段だけじゃなくて人工代もかかるだろうし。いやでもな、俺は新米ティーチャーなのだ。今世では未だ社会人二年目。そんなに貯金は多くない。
「あの、星梨花。分割でもいいか?」
俺はそれしか言えなかった。
002終
アイドル達の誕生日はそのままです。
なお学年は
高等部一年 静香・志保・星梨花
高等部二年 麗花・茜
こんな感じです。