PM004
助っ人を確保したその日の放課後。
俺はこのみさんと莉緒を引き連れながら部室へと赴いていた。
助っ人はこのみさんだけじゃないのかって?ああ、それは…。
『なになに?このみ姉さんお手伝いするの?なら私もお手伝いしちゃおうかしら!』
と言ってノリと勢いで参加申請をしてくれたのだ。
まあ、切っ掛けがノリと勢いであろうとも猫の手ですら欲しくなりそうな反響だった事は間違いない。ありがたく参加申請を受諾し、今まさに二人を引き連れているのだ。
ようやく部室に到着。扉へ手をかけガラリと扉を開ける。
「お疲れー…、って志保しかいないのか?」
「お疲れ様です。私では不満ですか?」
戸を開けた先にはソファーに座る志保しかいなかった。
「あら~、志保ちゃん。お・つ・か・れ!」
「押しかけてきちゃってごめんなさいね、志保ちゃん。」
「別に平気です。それで先生。莉緒先生にこのみ先生がどうしてここに?」
首をかしげながら問いかけてくる志保の問いに答えようとする。
しかし、莉緒の方が一足早かった。
「今日から私もお世話されちゃうことになったの。よろしくね。」
「それは…、莉緒さんもスクールアイドルにという事ですか?」
「アッハハハハ!も~、そんな訳ないじゃない。私は生徒じゃなくて先生よ?顧問としてよ。」
「先生?もしかして顧問降りるんですか?」
ひえ…。急に冷たいオーラが志保から吹き出てきた。
「違うわ志保ちゃん。私と莉緒ちゃんは石見先生のお手伝いとしてきたのよ。」
「そういう事ですか。ですがどうしてそんな事に?」
「もしかして志保ちゃん、自分たちがどれほど注目されているのか解っていないの?」
再度首をかしげる志保。
それに対してこのみさんが俺に厳しい視線を向けてきた。
「石見先生?ちゃんと生徒に活動の報告をするべきじゃないかしら?」
「アップロードが金曜日、土曜日と日曜日でああなって今日の月曜日に至るのですが。」
「…そういう事だったの。」
非難に対してきっぱりと返答する。
前世ならばいざ知らず。しかし今はビジネスパートナーではなく教師と生徒の関係だ。個人の連絡先など知らないのであれほどの反響があったなど伝える事が叶わなかったのである。
俺の的確な説明に納得の表情をするこのみさん。されどすぐに難しそうな表情となってこめかみを押さえた。
「だけど大丈夫かしら。」
「何がです、このみさん?」
「多分ほかの娘たちがまだ来ていないのって…。」
そこまで言ったところで勢いよく扉が開いた。
「先生!いったい何をしでかしたんですか!?」
開口一番随分な言いぐさじゃないか静香。
*****
「と、いう訳であなたたちの動画は大変な話題になっているの。」
クレシェンドブルーのメンバーが全員集まったところでこのみさんに手短に説明してもらう。もちろん部室に到着したメンバーにはその都度新しい顧問が二人加わったことを伝えているので、二人が部室にいる事に疑問を抱く人はいない。
「だから今日学校に来たら皆さん私たちの事を見ていたのですね。」
「今日はやけに私と星梨花に視線が集まっていたので少し警戒してしまいました。」
「多分だがまだ正体を明かしていないからな。“たぶんそう、だけど確証が無い”という段階だったんだろう。だから直接話しかけてくる人がいなかったんじゃないか?」
それに静香たちは高等部一年に進級したばかりでクラスメイトとも関りがまだまだ浅い春だからな。志保に至っては外部生だから知り合いもそんなに多くはないだろうしな。
俺の説明に頷きつつ納得の表情を浮かべる星梨花。
「そうだったんですか。あ、でもクラスメイトにあの動画は私たちが出ていると言ってしまいました!」
しかしハッとしながらそう言う。
それに「問題ない」と言いつつこのみさんに目配せをした。すると「わかったわ」と言いながら持ってきてあった紙袋から少し大きめのケースを取り出す。
「それなあに、先生?」
「これは化粧道具一式だ。」
化粧道具?と首をかしげる茜。
星梨花と麗花さんも首をかしげている。静香と志保は何か察したのか軽く頷いた。
「何故正体を明かしていなかったか。それは単純に宣材写真が撮れていなかったからだ。と、いうわけで本日は写真を撮ろうと思う。あとは一言意気込みの短い動画もな。」
本当はそのまま写真を撮ったり動画を撮ったりしようとしたのだが、このみさんと莉緒はメイク関係が出来るらしい。そういう訳でお手伝いを申し入れてくれた際に真っ先にお願いしたのだ。
クレシェンドブルーの五人はそのままでも十分に可愛いが、やはりそれでも化粧で映えさせられるならばそれに越したことは無い。素のままの美しさは男性受けがいいが、スクールアイドルのメインターゲットは同学年の少女たちなのだ。ならば化粧で飾り付けられた姿も見せた方が良いだろう。その方がより多くの人の目に触れる。
「じゃあこのみさん、莉緒先輩。よろしくお願いいたします。」
「まっかせてちょうだい!」
この場は二人に任せて俺は部室の片隅に簡易的な撮影セットを用意する事にする。
被服室から借り受けた白い布を広げる。一応背景用の布はもう何色か用意はしてある。更にスタンドを二つ組み立て、撮影用の三脚も組み立てておく。スタンドの一つはストロボ用。もう一つは反射板用だ。ストロボをスタンドに固定してそこにソフトボックスを被せる。あとは反射板を固定。
と、その作業を終えた時には全員分のメイクは終わっていた。
ってん?
衣装が変わっている。というか俺が室内にいるのに君たちは何処で着替えたんだ?
「先生どうですか?新しい衣装を持ってきたんです!」
「うん。まあ似合っているがいつどこで着替えた?」
「さっきです。皆さんと一緒にここで着替えました。」
「そうか。いやでも男がいるのにそんな簡単に服を脱いだりするなよ…?」
「でも先生少しもこっちを見ませんでしたよ?」
「見たら困るだろ…。」
頭痛がしてくる。ラッキースケベなど男性教師にとって存在しないのだ。懲戒処分がチラつくラッキースケベなどアンラッキーでしかない。いやでも星梨花ほどの可愛い子であればその覚悟も…、いや星梨花パパに海の底に沈められる覚悟までは流石に持てないな。何事も生きてこそだ。
一先ず星梨花には注意を行ってメイクを行ってくれた二人に感謝の言葉を述べる。もちろんありがとうの後には文句も言う。
「男がいるんだから着替えは止めてくれよ…。」
「さすがに莉緒ちゃんとそこの緑の布を広げて隠したわよ。」
「いやでもこのみさんの身長じゃ…。」
「なんか言った?」
「いえ、なにも…。」
頬を引き攣らせたこのみさんから目を背ける。
ほら、静香もなにか言いたげな顔をしているじゃないか。本当に隠せていたんだろうな?いやまて、あれはまさか俺に向けているんじゃなかろうか。
「本当に見ていませんよね、先生…。」
あ、やっぱ俺だった。
頬を染めながら体を抱いている。可愛い。でも今はまず秒で否定しておく。莉緒とこのみさんの援護もあってなんとか納得してもらう。
ようやく一息。
しかしまだ休めはしない。
伸ばしだ延長コードでストロボと電源をつないで電球の確認。光の拡散の確認。もろもろの確認作業を終えてようやく写真撮影の準備が出来上がった。
そういうわけでようやく撮影開始。
「はい。じゃあ志保からいくぞー。」
「解りました。静香もそれくらいにしときなさい。」
「うぐ…。」
言葉に詰まる静香。
そこに莉緒がひょこっと顔を出した。
「もう静香ちゃんったら。静香ちゃんは綺麗な体をしているんだからもっとアピールしていかないと!見られて恥ずかしい体なんてしていなかったわよ。だからほら、もっと肌を出して…。」
「莉緒さん!そういうことは、あの、ちょっと。あ!先生、聞かないでください!」
面倒くさそうなことになる前にとんずらするか。
志保に視線を向けると頷かれた。同じ気持ちのようだな。あ、眉間を押してため息を吐いた。
「行きましょう。」
「……おう。」
さてと。
宣材写真を撮りますか。
レンズを志保に向ける。
しっかし顔がいいとどの角度から撮っても様になるな。もはや今までの準備の意味があったのかわからないほどだ。とはいえ、やはり光によって表現できる幅は広がるしメイクによってさらにそれが引き出されている。
だがなぁ…。
「どうしたんですか?」
「んん?ああいや、なんかどれも良すぎて選ぶの大変そうだなと。」
「そうですか。撮影が順調ならそれでいいのですが。」
順調ではあるな。
順調ではあるんだが…。
「こうも可愛すぎると問題だな。」
「なんですか?教師が生徒を口説いているのですか?」
「違う違う。」
「違うんですか?」
「なんで怒ってんだよ。」
「一応アイドルですから。魅力がないと言われているような気がしまして。」
なるほど。そういうことか。
だがそれは見当違いだな。魅力がなかったら前世も含めてプロデュースなんてしていなかった。
「ほら、そんな杞憂は置いといて再開すんぞ。ちょっと表情に影つけてみるか。」
「ちょっとプロデューサー。」
「先生だ。ストロボこっちに持ってくるぞ。反射板はこっち。手伝ってくれ。」
「……わかりました。」
この調子で他の三人の写真撮影を無事に終えて写真の選択に入る。
撮った写真のデータをパソコンで眺めつつ、莉緒にこのみさんを交えつつあーだこーだと論評をしながら好き勝手言い合う。それもまた楽しいのだ。
『それよりもこっちの方がいいんじゃない?』
『いいや。星梨花のイメージ的にはこちらの方がいいですよ。』
『わかってないわね、石見先生。星梨花ちゃんだってこれからどんどん大人になっていくのよ。今のイメージではなくて将来のイメージも含めて考えなさい。』
『いーや駄目だ。星梨花は今までもこれからもずっと天使なんだからそんな事考慮にいれなくれも問題ない。』
『そうね。先生の言うとおりだわ。星梨花はずっと可愛いままよ。』
『そうだよな静香。星梨花はずっと幼い純真な少女のままだ。ソースは成長していないこのみさん。』
『ちょっと!?今は私関係ないでしょ!?』
『アッハハハハ!それは説得力ありすぎよ、こーはい君!』
『あの、私。大人には早くなりたいです…。』
時には意見のぶつかり合いもあるがそれもまた一興。
一部クール系美少女が頭を抑えたり、天真爛漫な不思議系女子が茜ちゃんを肩車し始めたり、お茶目な元気系美少女が肩車されて悲鳴を上げたり。
いろいろな事が起きたけれども、それでもサイトにアップする自己紹介の短編動画と写真の選定は終わった。
「よし。じゃあデータを更新するぞ。これでお前たちは間違いなく有名人だ。」
「そうね。あれだけの反響があったんだもの。」
「ちゃんと対策はしておきなさいよ。」
女性教師二人の言もあって五人はしっかりと頷いた。
まあ、静香と志保は前の記憶があるし他三人のサポートを上手にやってくれるだろうから心配はいらないな。
問題はどちらかというと…。
ポーンという電子音と共に校内放送が部室内にも響いた。
『お呼び出しのご連絡を行います。石見知哉先生、至急職員室までお戻りください。繰り返します - 。」
学外対応をどうするか。これに尽きるだろうな。
そっちの方が今のところ大問題だ。
苦笑いを浮かべる女性教師二人にスクールアイドル四人。麗花さんは笑顔でいってらっしゃーいと送り出してくれた。
「行ってくるよ…。」
問題は山積みだな。
しかしそれも一つづつ、だな。
004終
次回、九人の女神たち。