桐生組の行方については皆さんがあれこれ考察してくれるのをとても興味深く見させて頂いてます
返信の時に何度か言ってますが、桐生ちゃんらしさは大事にしていくつもりです。
2005年。12月6日。
東京の郊外にある巨大な屋敷の前に、俺は立っていた。
黒いスーツ姿の弔問客が大勢出入りをする屋敷の前には「故 東城会三代目 世良勝 儀 告別式」と書かれた巨大な看板が立てかけられている。
(いつ見ても迫力がある場所だな、ここは)
ここは東城会本部。
関東最大の極道組織である"東城会"の本丸だ。
極道者が死んだ時の葬儀は、どこの組織も本部で行われる事が多い。東城会の三代目ともなれば尚更だ。
(一輝の見繕ってくれたスーツもキマって、変装も完璧だ。とりあえずはバレねぇだろう)
昨日、一輝が俺に用意してくれたスーツは生地がパリッとした良い仕上がりのものだった。採寸後、ホスト御用達の専門業者から新品同然のものを急ピッチで送って貰えたらしい。俺は服役してた頃に稼いだ刑務作業報酬(大した額ではないが)から代金を支払おうとしたが、ユウヤが迷惑をかけたお詫びという事で気前よくプレゼントしてくれた。
また、変装として服役前と同様にロン毛だった俺の髪を整髪料でオールバックに纏めあげる事で雰囲気を変え、目には厚めのサングラスをかけた。周囲の人間からの視線もそこまでは感じない。どうやら上手く溶け込めたようだ。
―――良いですか、兄貴。これが東城会本部の見取り図です。この本部施設の中に風間の親っさんがいます。建物の裏口は比較的手薄ですが、下手に塀を越えたりすればかえって怪しまれます。弔問客に紛れて正面から行きましょう。正門から入ったら突き当たりまで真っ直ぐ。そこを右に曲がった先が裏口です。俺はそこで兄貴を待ちます。
俺は昨日に新藤から言われた事を思い出す。
変装で周囲に溶け込めたとは言え、油断はできない。
服役前の俺は、方々に顔を売ってシノギを回していた。
故にこの弔問客の中で、俺の顔を知っている人間は何人もいるのだ。
(のし上がる為にやってた事が、今になって首を絞めるとはな……)
あまりにも皮肉な話にため息を吐くが、ゆっくりはしていられない。
俺は巡回する葬儀関係者の目に入らぬよう、慎重に会場へと足を踏み入れた。
そして、何とか怪しまれずに受付会場までたどり着く。
「本日はお忙しい中、お越し頂きありがとうございます。こちらにお名前をご記入下さい」
「あぁ……」
俺は受付に言われるがまま受付票に名前を書いた。
当然偽名だ。本名を書こうものなら俺は立ちどころに囲まれて殺されてしまうだろう。
「春日さん、ですね。ありがとうございます。すいませんが、どちらの組の方でしょうか?」
「昔、堂島組にいたんです」
受付の質問に淡々と答える。
決して嘘は言っていない。
「そうですか……堂島の組長も10年前に錦山ってチンピラに殺されてしまいましたからね……」
受付のその言葉を聞いて俺は安堵した。
その言葉は、目の前の男がその錦山だと気付いていない証拠だからだ。
「その上今度は世良会長まで殺されてしまうなんて……私は、誰かが裏で糸を引いてるんじゃないかと思うんですがねぇ」
「は、はぁ……」
「おっとすいません、貴方にこんな事を言っても仕方ないですよね。間も無く葬儀が始まりますので、会場内でお待ち下さい。」
受付を通された俺はこれでもう立派な弔問客の一人だ。依然として油断は出来ないが、少しは楽な状況に持ち込めたと言っていい。
俺は新藤に言われた通り突き当たりを右に曲がって、裏口へと向かう。新藤からの情報のとおりに人通りは少なく、正体がバレる可能性はかなり減った。
しかし、ここで新たな問題が発生する。
「ちょっとアンタ、ここから先は喪章が無ければ立ち入り禁止だ」
「はい?」
喪章を付けた黒服の男に呼び止められた。
どうやら葬儀関係者だけが裏口に入れる仕様らしい。
考えてみれば当たり前の事だ。素性の分からない一般の弔問客がもしも敵組織の間者だった場合、どんな事になるか分かったものでは無い。
(この先が新藤との待ち合わせ場所なんだがな……どうする?)
モタモタしている時間は無い。
一刻も早く裏口に入る必要がある俺は、葬儀関係者の男に掛け合う事にした。
「すみません、喪章を何処かで無くしてしまったみたいで……新藤って方に繋いで貰えませんか?」
「なに?新藤の兄貴にだと……?アンタ、あの人の何なんだ?」
「昔、あの人に世話になってたんです。それで今回の葬儀にも声を掛けてもらって……」
俺の言葉を聞いた途端、葬儀関係者の男が怪訝な顔をする。
「今回の葬儀の仕切りは風間組と任侠堂島一家のみで受け持っている。葬儀屋以外は現役構成員のみって条件でだ。だから、葬儀屋以外に外部の人間を呼び付けるのは禁止されているはずなんだが……」
「そうなんですか?自分は新藤さんに言われて来ただけなのですが……」
「いや、少なくとも俺はそんな話は聞いてねぇ。素性がハッキリしない以上、通す訳には行かねぇな」
(ちっ、やっぱり口八丁じゃ限界があるか……!)
これ以上の会話に限界を感じた俺はここで会話を切り上げる事に決めた。やはり喪章を何処かで調達してくるのが先だ。
「……いえ、元はと言えば自分が喪章を無くしたのが悪いんです。ご迷惑をお掛けしました。直ぐに見つけてきます。」
「おい、ちょっと待ちな」
踵を返した俺を葬儀関係者が呼び止める。
「アンタ、怪しいな?ちょっとサングラスを取ってみろ」
(クソっ、マズイ事になったな……)
髪型を変えているとは言え、サングラスを取ったら流石にバレてしまう。
かと言って人目があるここでは一撃で仕留めたとしても直ぐに人が集まってくる。強硬手段はもってのほかだ。
(変に掛け合うべきじゃなかったか……!)
「おい、何とか言ったらどうなんだ?」
万事休す。
何とか周囲の目を掻い潜ってコイツを黙らせる方向で俺が考え始めた。
その時だった。
「なぁアンタ」
「はい?」
横合いから声をかけてきた男が一人。黒いスーツ姿のその男に、俺は見覚えがあった。
十年も経っているので顔立ちは少し変わっているが、その坊主頭は間違えようがない。
(コイツ……シンジか!)
田中シンジ。
桐生の舎弟で、堂島組の若衆の一人だった男。
十年前のあの日、由美が攫われたという連絡を俺に寄こしたのもコイツだった。
「これ、アンタのだろう?さっき落としてたぜ」
シンジはそう言って俺に喪章を差し出してきた。
「これは……!?」
ふと目が合い、シンジが軽くウインクする。
その様子からして、俺の正体や素性は分かっている様子だった。その上でサポートをしてくれるらしい。
「ありがとうございます!」
「田中の兄貴!コイツは、一体……?」
「その人は立派な葬儀関係者だ。手出しするんじゃねえ」
「しかしコイツ、挙動が怪しくて……」
「おい、俺に二度同じ事を言わせる気か……?」
シンジが葬儀関係者の男に凄む。
若い頃から桐生の下に居ただけあって、その迫力は中々だ。
「す、すんません!」
「なぁ、アンタ春日さんだろう?話は聞いてる。俺に付いて来てくれ」
「っ、はい、分かりました」
俺が受付票に書いた偽名も把握している事に若干驚く。
どうやら会場入りした時から、俺はシンジに見張られていたらしい。
俺とシンジは葬儀関係者の脇を抜け、裏口へと向かう。
そして葬儀関係者から距離が十分に離れたタイミングで、シンジが俺に軽く頭を下げた。
「錦山の叔父貴、お久しぶりです。まずはお勤めご苦労様でした」
「おう、さっきは助かったぜシンジ。礼を言わせてくれ」
俺はシンジに素直に感謝を述べる。
もしもシンジが間に合わなかったら、俺はあそこで叩き出されていたかもしれない。
「いえ、気にしないでください。俺は風間の親っさんに言われて叔父貴を見張ってただけですから」
「親っさんに?」
「えぇ。新藤から叔父貴が葬儀会場まで会いに来ると聞かされた親っさんは、万が一の事が無いようにと俺をサポートに回したんです。喪章に関しても最初から叔父貴の分を用意していました。後は何処で叔父貴に渡すかだけだったのですが……結果的にはベストなタイミングでしたね」
親っさんの気遣いに俺は感心すると同時に申し訳なく思う。結局俺は、親っさんに心配を掛けっぱなしだ。
「錦山の叔父貴、親っさんはこの先です。」
俺とシンジは裏口の門の前へと辿り着く。
この先に新藤が待っているはずだ。
「俺は周囲の警戒にあたりますので、ここで失礼します」
「なぁ、シンジ。一つ、気になる事があるんだが……」
「? どうかしましたか?」
踵を返そうとするシンジを呼び止め、俺は一つの疑問をぶつけた。
「お前……今チャカ持ってるだろ?」
「!?」
シンジと合流した先程から、俺はシンジのスーツが左側に傾いているのが気になっていた。
拳銃は基本的に全ての部品が鉄で出来た、言わば鉄の塊なのだ。当然その本体重量は相当なものになる。
そんな重いものをスーツの懐に隠し持っていれば、スーツの生地は拳銃の重さで引っ張られて下へと下がってしまうのだ。
無論、ヤクザ側も拳銃の所持がバレる訳には行かないので、スーツの反対側に重しを付けたり肩幅を広げたりと工夫はするのだが、かつてはカラの一坪の一件でチャカを懐に忍ばせていた事があった俺はその微妙な差異に気付いたのだ。
「親殺しの俺を本部内に入れようとするんだ。警戒するのは分かるが……流石にやり過ぎじゃねぇか?そんな物騒なモン持ってる事がバレたら、色々面倒な事になりかねねぇぞ?」
「……流石は錦山の叔父貴。中々の観察眼ですね」
そう言うとシンジはスーツの懐を軽く捲って見せた。
一丁の黒光りするリボルバーが、そこにはピッタリと収まっている。
「叔父貴の仰る通り、俺はチャカを携帯しています。ですがこれは、叔父貴を迎え入れる為じゃないんです」
「どういうこった?」
「世良会長が死んで、東城会は今跡目を狙った内部抗争寸前の状態にあるんです。何がキッカケで事が起こるか分からない……だから俺達も厳戒態勢を敷く必要があるんです」
「そういう事か……」
それにはおそらく、新藤が言っていた百億の件も関わってるのだろう。失われた組の金を取り戻した奴が次の跡目……なんて流れにでもなったら、東城会の内部抗争は避けられない。
「叔父貴……親っさんから直接話があると思いますが、今の東城会は危険な状態です。俺も警戒を強めますが、叔父貴もどうか気を付けて」
「……分かった。」
シンジは俺に一礼すると、踵を返して会場前へ戻ろうとする。
しかしシンジは途中で立ち止まると、振り返る事無く俺に言った。
「……桐生の兄貴の事、聞かないんですね」
「……」
シンジは長年桐生の舎弟だった男だ。
昨日新藤の言っていた事が真実なら、桐生が独立させた組織に居ても何ら不思議な事じゃない。もしかしたら、俺が知りたい事も知っているかもしれない。
だが、俺はシンジから根掘り葉掘り聞くつもりは無かった。そのへんも含めて親っさんはきっと俺に語ってくれるだろう。この十年で変わってしまった、数々の出来事を。
「……シンジよ。俺はまだ、その一件を信じちゃいねぇんだ。あの桐生が東城会を裏切るなんて、俺からすりゃ絶対に有り得ねぇ」
「…………」
「だから俺は、親っさんにそれを確かめる為にここに来たんだ。コイツは、お前から聞くべき事じゃねぇよ」
「……そうですか。分かりました」
シンジはそう言って、今度こそ会場前へと戻っていく。その声音は何か重たいものを抱えているような、とても辛そうなものだった。
「……行くか」
決意を新たに、俺は裏口の門を開ける。
風間の親っさんは、もうすぐそこだ。
「兄貴、お待ちしてました」
錦山が裏口の門を抜けた先に居たのは、喪服姿の新藤だった。予定通りこの場所で合流できた錦山は、先程あった事を新藤に話す。
「新藤……ここに来る前、シンジの奴に会ったよ」
「え?田中の兄貴にですか……?」
「あぁ。この喪章もシンジが俺にくれたものだ。……風間の親っさんに言われたと聞いたが、そういう手筈になってたんじゃないのか?」
「いえ、自分にはそんな事は一言も……」
怪訝な顔をする新藤。錦山はこの事実にどこか"引っかかり"を感じていた。
(シンジが報連相を怠ったのか?いや、風間の親っさんが敢えて新藤に伝えていない……だとすれば何故?)
「……兄貴、とにかく今は親っさんの所へ急ぎましょう」
「あ、あぁ……」
新藤に言われ、錦山は思考を中断した。
いずれにせよ今は風間に会う事が先決だからだ。
新藤が扉を開けて本部施設へ足を踏み入れ、それに続く形で錦山もまた本部内へ進入した。
「葬式って言っても、みんな腹の中じゃ何考えてるか……何せ東城会の三代目が死んだんです。跡目が誰になるのかだの、殺したのは誰かだの……何奴も此奴も腹の探り合いですよ」
「あぁ、シンジの奴も今の東城会は危険だと言っていた」
通路を歩きながらそう言う新藤に、錦山は先程出会った田中シンジを思い出しながらそう答える。
何せ懐に拳銃を忍ばせて武装しているくらいなのだ。
今この瞬間に、何が起きてもおかしくない。
「それに、世良会長は若くして三代目を継いだので妬まれる事も多かったみたいです」
世良勝が三代目を襲名したのは一九九三年。"カラの一坪"の一件で本家若頭に指名されてから五年後の事だ。
基本的に長い年月をかけてのし上がる事が多い極道としては異例のスピード出世と言っても良い。
「参列者の中には、清々した顔のヤツもいますよ」
「なるほどな……だが、そいつらの気持ちも分からんでもねぇな」
見苦しい嫉妬心だと吐き捨てるように言う新藤だが、錦山はその連中を否定しなかった。
「兄貴……?」
「自分が長年苦労してるのをよそに、当たり前のように他の奴にトップに立たれちゃいい気はしねぇだろうさ。でも、ただの嫉妬じゃ意味がねぇ。清々するだけで終っちまうか、これを機に精進しようとするかが、そいつらの分かれ目って所じゃねぇか?」
その嫉妬心はかつて自分が桐生に抱いていたものであり、裏を返せばのし上がろうとする向上心に他ならないからだ。
跳ねっ返りの多い極道だからこそ、その向上心と嫉妬は強く作用すると、錦山は考えた。
「……兄貴、なんだか変わりましたね」
「あ?なんだよ急に」
「気分を害したらすみませんが……昔の兄貴は自分の事で焦っていたような、生き急いでいたような気がしたもんですから。そういった意見が出るのが意外だったんです」
「……そうかもな」
そう言われた錦山は十年前を思い出す。
あの頃の彼は、桐生への対抗心や妹の優子への心配でいっぱいいっぱいになっていた。
不安や悩みは尽きず、それらに潰れてしまいそうになる自分を誤魔化すために、錦山は数々のシノギを掛け持ちすることでずっと忙しくしていた。余計な事を考えられなくなるくらいに。当時はそういった冷静な意見が出る状況では無かったと、錦山は結論付けた。
「まぁ俺も、色々あったって事だ……これ以上はシラフじゃ喋らねぇぞ?」
「フッ、そうですか……失礼しました兄貴。お詫びに、このゴタゴタが片付いたら一杯奢らせて下さい」
「おう、続きはそん時にでも話してやるよ」
「えぇ、お願いします」
軽口を叩きながら進んでいく二人。
裏手の階段を登り切ると、新藤はある部屋の前で立ち止まった。
「兄貴はここで待っていてください。今、風間の親っさんを呼んできます」
「あぁ、頼んだ」
錦山は言われた通り、その一室の扉を開ける。
部屋の中にはいくつかの調度品や歴代組長の写真、木製のテーブルとソファがある。
来客用の応接室といった所だろう。
(さて、親っさんが来るまでどうするか……ん?)
ふと、歴代の直系組長の写真が錦山の目に止まった。
皆が皆、東城会を支えた大きな柱達なのだろう。
(待ってる間、見てみるのもアリかもな)
そう考えた錦山は並べられるように飾られた写真へと近づくと、サングラスを外して写真達に目を通す。
流石に十年も経っているせいか知らない人間も何人かいたが、そのほとんどは錦山もよく知っている人物達だった。
(まずはコイツか。1985年/東城会直系堂島組 初代 堂島宗兵…………コイツが由美を攫ったのが全ての始まりだったんだ……!)
東城会の二代目を支えた大幹部。そして、錦山にとって渡世の親父分にあたる人間だった男だ。最盛期には東城会ごと下に治めてしまいかねない程の一大勢力を築いていたが"カラの一坪"の事件以降その権威は失墜し、いつしか酒と女に溺れて昔の自慢とメンツの話ばかりを垂れ流すお飾り組長に成り果てていた。
この男が錦山や桐生の馴染みだった由美を拉致して強姦しようとしたのを止めようとした末に死亡してしまい、錦山は親殺しの罪を背負ったのだ。そしてその十字架は、今なお消えることはない。
(1987年/東城会直系嶋野組初代 嶋野太…………相変わらずおっかねぇ面してやがる。今こいつに見つかるのはヤバそうだな)
東城会きっての武闘派として有名な嶋野組。
その長である嶋野太というこの人物は、かつては風間と共に堂島組の二大巨頭として名を馳せた男でもある。
無茶なやり方を力で押し通すそのやり口は、まさに極道らしいと言う他ない。昔から風間をライバル視しており、堂島組が直系に昇格してからわずか二年後に組を直系に上げて独立させている所からもその折り合いの悪さが見て取れる。
(1996年/東城会直系風間組初代 風間新太郎…………親っさんか、1996年に風間組を襲名って事は俺が刑務所に入ってからすぐって事か)
錦山の育ての親であり、彼を桐生と共にこの世界へと導いた張本人。もしも錦山が刑務所に入らなかったら、彼もまた風間組で生きていた事になる。
義理と人情に厚い穏健派で知られる風間は、かつては"東城会イチの殺し屋"とまで言われた伝説のヒットマンであったとされる人物でもあり、先述の嶋野と共に堂島組を支えた二大巨頭の一柱だ。そして今、錦山が最も会いたい人物でもある。
(1993年/東城会三代目会長 世良勝…………10年前、殺し屋を俺に送ってきたのは本当にこの人だったのか?)
錦山からすれば、この人物に対しては不可解な点が多い。
親殺しの十字架を背負った錦山の為に、育ての親である風間は指を犠牲にして破門に押し止めたはずだった。
しかし、実際には自分を殺す為に刺客を放っている。明らかに矛盾したその行為だったが、それを確かめる術はもうこの世には無い。
(ん?こいつって…………!?)
その中で俺は、意外な写真を見つける事になった。
直系団体の中では一番若く、新しい組織のようだ。
(2003年/東城会直系任侠堂島一家 初代 堂島大吾…………この写真、若なのか!?新藤のいる組織のトップは若だったのか!)
元堂島組の中でも堂島組長を慕っていた人間を中心に組織された任侠堂島一家。そのトップを務めるのは錦山もかつて堂島組時代に交流があった"若"……つまり組長の実子である堂島大吾だった。しかし、それは当然の帰結と言える。
堂島大吾にとって錦山は実の父親を殺した仇なのだ。
そこに錦山に恨みを持った連中が集って祭り上げたのだとしたら、決して小さくない組織が出来上がる事は想像出来る。
(やっぱり"若"は、俺を恨んでいるのか…………にしても…………)
ここまで歴代組長の写真を見てきた錦山だったが、気がかりな事があった。
(桐生の写真が、どこにも無ぇ……!)
"堂島の龍"桐生一馬。
錦山の兄弟分であり、親友でもあるその男。
彼が逮捕されて以降、東城会で組を立ち上げた筈のその男の写真が何処にも存在しないのだ。
(まさか、桐生は本当に……?)
新藤から聞いた話では、風間組を内部から割って東城会と風間組から組織を独立させたらしい。もしその話が本当であるなら、ここに桐生の写真が無いのも辻褄が合う。東城会を裏切った男の写真など飾るわけが無いのだから。
(いや、まだそうと決まった訳じゃねぇ……俺は信じねぇぞ……!)
段々と現実味を帯び始めるその予感を振り払い、錦山は頑なにそれを否定した。
間も無く錦山の待ち人がここを訪れる。そうすればすぐに分かる事だ。
そして、その時は訪れた。
「彰……!」
「っ、親っさん……!」
東城会直系風間組組長 風間新太郎。
錦山はついに、育ての親と十年ぶりの再会を果たしたのだった。
次回はいよいよドンパチ騒ぎです。
お楽しみに
年内までに嶋野戦行けるかなぁ