錦が如く   作:1UEさん

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最新話です。

この章もいよいよこのお話で最後です。
是非ご覧下さい!


波乱の予兆

2005年12月7日。時刻は午後23時頃。

地下闘技場での死闘を終えた俺は、元の服装に着替えて花屋の屋敷に戻って来ていた。

巨大な水槽に囲まれた花屋のオフィスにて、俺は再び花屋と顔を合わせる。

 

「さて、東城会の100億と"由美"と"美月"って女の情報だったな」

 

スターダストで稼いだ200万円と、無敗の王者のゲイリーを倒したファイトマネー。

それらを合わせて何とか目当ての情報分をかき集めた俺は、いよいよ花屋から情報を買うことに成功する。

花屋はまず、100億についての情報を語ってくれた。

 

「東城会三代目は金が盗まれた事を隠していた」

 

つい先日、何者かに暗殺されてしまった東城会の三代目会長。世良勝。

十年前の堂島組長殺害の時に風間の親っさんの嘆願で俺を破門に押し止めておきながら、俺を殺す為に刑務所に刺客を放つという矛盾した行為については俺の中で未だに疑問が尽きないが、重要なのはそこじゃない。

 

「2万5000人のトップを束ねる者として、自分達の金が奪われたなどと言う不祥事を知られる訳にはいかなかったんだろう。組織の沽券に関わる事だからな」

 

もしも自分たちが危ない橋を渡って懸命にかき集めた金が何者かにあっさりと奪われてしまったなんて事が知れれば、跳ねっ返りの多い極道達は黙っていないだろう。

追求どころの話ではない、下手をすれば組織の内部崩壊にすら直結しかねない事態だ。

 

「だが、そいつを堂島って直系組長が緊急幹部会で暴露したんだ」

「堂島って……まさか……?」

 

花屋は頷き、淡々と答える。

 

「あぁ。その組長の名前は"堂島大吾"。十年前、お前が殺した堂島宗兵の一人息子だ」

 

堂島大吾。

俺に恨みを持った連中を中心に構成された任侠堂島一家を率いる若き組長だ。

世良会長の葬儀会場でも、応接室に写真が飾られているのを見た事がある。

 

「まさか、若が……」

「三代目を殺した犯人は未だ分かっちゃいねぇ……だが、三代目殺ったのはこの堂島大吾なんじゃねぇかと俺は踏んでいる」

「どうしてだ?」

 

突如として投げかけられた疑問にも、花屋は直ぐに答えた。

 

「今から17年前、神室町でとある空き地を巡った抗争があった……この話、分かるよな?」

「あぁ……"カラの一坪"の一件だろ?」

 

花屋の口から出たその騒動は、今でも鮮明に思い出せる。

俺も少なからず関わっていたからだ。

 

「そうだ。当時の堂島組若頭補佐の三人が、服役中の風間の隙を狙って次期若頭の座を争いあったあのお家騒動だ。結果、若頭補佐の一人が死亡しもう二人は逮捕された事により組織は弱体化。ここまでは知っているな?」

「あぁ」

「よし、本題はここからだ。実はこの話には裏があってよ。この事件当時、後の三代目となる世良は堂島組長の"ある弱み"を握ったらしい」

「ある弱み?」

 

花屋は肯定しながら、新しい葉巻に火を付けてゆったりと紫煙を燻らす。

 

「流石に情報が古すぎてその弱みが何なのかまでは洗えなかったが、世良が本家若頭に就任してからの堂島組長の落ちぶれっぷりはそりゃ酷いもんだった。相当ヤバい弱みを握られていたのは間違いねぇだろう」

 

今、花屋から語られたのは俺の知らない情報だ。

堂島組長が落ちぶれる原因を作ったのは、当時風間派に所属していた世良会長だったのだ。

と、そこで俺の脳裏に一つの仮説が過ぎった。

 

「じゃあ花屋。アンタが若……いや、大吾が犯人であると踏んでいるのは、大吾が世良会長に復讐したかもしれないからって事か?」

「そう言う事になるな。」

 

花屋の言葉を聞き、俺は納得する。

今聞いた事が確かなら、大吾にとって世良会長は俺に次ぐ"親の仇"と言っても差し支えないだろう。何故17年経った今なのかという疑問こそあるが、犯行そのものの動機としては十分だ。

それに、世良に恨みがあるのは任侠堂島一家の人間達も同じだ。

あの連中からして見れば、世良は自分達の尊敬する親父を追い落としてトップの椅子に座っているわけだ。面白くないに決まっている。

 

「それに、今の奴の動きは四代目の椅子を狙っている可能性が高い。おそらく、死んだ親父が果たせなかった東城会のトップになるって悲願を目指してるのかもな」

「若……」

 

俺はやるせなさを感じていた。

元は堂島組長の起こした事が発端とはいえ、あの事件が結果的に若を修羅に変えてしまったのだ。

 

「今の東城会は群雄割拠だ。3代目は死に、跡目もまだ決まってねぇ。となりゃ、100億を取り戻した奴が次の跡目だろう。堂島大吾のたった一言を引き金に、共喰いの泥沼だ。任侠が聞いて呆れるぜ」

「あぁ……古巣の事ながら、情けない限りだよ」

 

跡目を狙って動き出しているのはおそらく若だけじゃない。

特に嶋野あたりはこの千載一遇のチャンスを絶対にモノにしようとするはずだ。

みんながみんな、消えた100億を巡って血眼になっている。今回の一件、今まで以上に腹を括って望んだ方が良さそうだ。

 

「100億を奪ったのは由美って女だ。コイツは匿名のタレコミがあったらしい」

 

そして花屋の情報は100億から由美へと繋がっていく。

伊達さんが言っていた通り、今回の事件は裏で密接に繋がっていたのだ。

 

「東城会で裏を取っている内に、妹の美月が数日前からアレスを閉めて行方をくらましているのが分かった。いよいよ本ボシって訳だが、二人とも見つかりゃしねぇ。それで……」

「美月の娘、遥……」

「なんだって?」

 

その情報を聞き、俺の中で引っかかっていた部分が解け始める。

昨日、アレスで俺は遥を狙う近江連合の連中とやり合った。特にリーダー格の林という男はかなりの手練で、俺は相当の苦戦を強いられた程だ。

あれほどの実力となると、近江連合の中でも相当上の位置にいる男の筈。

そんな男がわざわざ大阪から神室町に飛んで来て、女の子一人を拉致しようとするようなチンケな真似をしようとしたのか。

 

(遥の母親である美月は、100億事件に明確に関わっている。100億を狙う連中はその娘である遥を利用し、行方をくらました美月を誘い出そうって胆なんだ……!)

 

おそらく近江連合の林は自分より更に上の大幹部からの命令で遥を攫いに来たのだろう。では、その"大幹部"が何故外様の組織である東城会の100億が消えた事を知っているのか。

 

(東城会内部に、関西と繋がっている裏切り者が居るって事か……!)

 

事件発覚から昨日までのわずかな間に林が東京を訪れている所を鑑みると、近江連合が消えた100億の存在を知ったのはかなり早い時期だ。

近江よりも早く消えた100億の存在を認知出来るのは金を盗まれた側の東城会。その次に事件を捜査した警察だ。

当然の話だが、法の番人たる警察側が東城、近江共に反社会的勢力に有利になる情報を与えるはずは無い。

そして、いくら凄腕と言えど外様組織である近江連合の極道が東城会の膝元である神室町にそう易々と潜入など出来はしないだろう。

となれば、東城会内部に潜むその裏切り者が100億の情報を近江連合にリークし、その裏切り者が林達を神室町の中に手引きしたと見ておそらく間違いない。

そしてその"裏切り者"の目的は近江連合を利用して遥を捕らえて美月を誘い出し、100億を手に入れること。

後に協力してもらった近江連合には、手に入れた100億の何割かを報酬として支払うと言った所だろうか。

つまり、本当に遥を狙っているのは近江連合ではなく東城会の誰かという事になる。

 

「……東城会は今、美月の娘の遥を探している。遥は今、俺と一緒に居るんだ」

「遥……そうだったのか……」

 

花屋はそれを聞き少しだけ驚いた顔を見せた後、何かを考えるような素振りを見せた。

何か思い当たる節があるのだろうか。

 

「一昨日、顔を隠した妙な女が来てな。その女が探してくれと言っていた子の名前が確か遥だった」

 

その新たな情報に俺は目を見開いた。

このタイミングで遥を探す女性となれば、自ずと候補は二つに絞られる。

 

「その女が由美か美月って可能性は無いか?」

「さぁな……どういう訳かその女は執拗に顔を見せたがらなくってな。俺も顔は見れず仕舞いだ。オマケに自分の名前も素性も明かせねぇなんて言いやがるからよ。丁重にお帰り頂いたぜ」

 

そう言って花屋は鼻を鳴らした。

自らの情報を一切明かさず、必要な物だけを手に入れようとするそのスタンスは俺が聞いても非常に怪しい。

フェアである事を重視する花屋は、その女の要求を突っぱねたのだろう。

 

「そうか……だが、順当に考えればその女が由美か美月である可能性は高いな」

「あぁ、それに関しちゃ俺もそう思うぜ」

 

自分たちが東城会から狙われる事を知り、事件関係者の子供である遥が狙われる事を危惧した"その女"は伝説の情報屋である花屋を頼って遥の居場所を特定し、いち早く合流する必要があった。

そう考えれば辻褄が合う。

 

(いい情報が聞けたぜ……これで一歩前進だ!)

 

ここに来て俺はかなりの手応えを感じていた。

花屋から得たこの情報を伊達さんに伝えれば、少なくとも三代目殺しの疑いの目は桐生に向けられなくなる筈だ。

それに、この調子で情報を集めていけば真相までたどり着けるかもしれない。

 

「ん?ちょっと待て」

 

と、そこへ花屋のデスクの電話がコール音を発し始めた。花屋は葉巻の火を消すと受話器を取る。

 

「なんだ………………そうか、分かった」

 

二言ほどの返事の後に受話器を置いた花屋は、俺に向き直ってこんなことを言ってきた。

 

「お前に客だ」

「客?」

「見に行くぞ。足元注意しろ」

「は?」

 

言っている意味が分からずにそんな声を上げた直後。

大きな音を立てて俺の立っている床が沈んだ。

 

「なっ!?」

 

思わず声を上げる間にも、俺と花屋を中心に直系約5メートル程の床が機械音を立てて沈んでいく。

突然の事で理解が追い付かない俺だったが、この後更に驚愕の光景を目の当たりにする事になる。

 

「こ……こいつは……!?」

 

数秒後、俺の周囲を取り囲む光景は完全に変わっていた。

薄暗いのは変わらないが、周囲には巨大なコンピュータらしき機械に囲まれ、正面を無数のモニターが埋めつくしていた。

花屋の部下達が忙しなくキーボードを叩き、これらの機械を運用しているのが見える。

 

「驚いていいぜ。これが"賽の河原"の本当の姿だ。」

 

モニターに写っているのは、慣れ親しんだ神室町の風景とそこで生きる人達の姿だ。

画面の右下には今日の日付が表示されている。

 

「5年前、警視庁は50台のカメラを設置した。テロ防止なんかが目的だが所詮対して役には立ってねぇ。だがよ、俺は実際にこの目で見てるんだ。1万台のカメラを設置してな」

 

圧倒されるのと同時に納得する。

いや、納得せざるを得なかった。

何故花屋が"伝説の情報屋"と謳われているのか。

どうして彼の情報が高いのか。

その答えが今、目の前に広がっているのだから。

 

「おい、客の様子を見せろ」

「はい」

 

花屋に命じられた部下がキーボードを操作し、一番大きなモニターにある映像が映し出される。

 

「伊達さん!」

 

それは俺がここに来る前にホームレスに襲われた公衆トイレの映像だった。

そこに肩を押さえた伊達さんが入り込んでいるのが映っている。その肩は赤く滲んでいて、表情も辛そうに歪んでいた。

 

「あの肩……血か?一体何があったんだ?」

「分からねぇな……おい、奴が映っている他の映像を出してみろ」

 

その指示に従った部下が再びキーボードを操作し始めると映像がどんどん巻き戻されていき、伊達の行動が明らかになっていく。

 

「伊達か……なんとも落ちぶれちまったもんだ」

「花屋、伊達さんの事知ってんのか?」

「ボス、10分前の映像です」

 

花屋が俺の質問に答えるよりも早く、画面上に映像が出た。そこに映っていたのは道を歩いている伊達さんと遥。

そこへ一台のバンが猛スピードで二人の横を走り抜けて進路を塞ぐように停車すると、中からガラの悪い連中が現れて遥を誘拐したのだ。

抵抗する伊達さんだったが、犯人が拳銃を発砲し肩を撃たれてしまう。

身動きの取れない伊達さんを放置し、犯人達は遥をバンに押し込むとそのままどこかへと走り去ってしまった。

 

「クソッ!!」

「ボス、トラブルです!」

「どうした?」

「ライブ映像に回します」

 

部下に言葉と同時に映像が切り替わり、現在の伊達の様子を映し出す。

そこには、肩からだけでなく頭からも血を流す伊達さんの姿があった。そしてその周りを木刀を持ったホームレス達が取り囲んでいる。

伊達さんは今、賽の河原のホームレスから襲撃を受けていたのだ。

 

「錦山、伊達がヤバいぞ!」

「こうしちゃ居られねぇ!花屋!ここからどうやって出れる!?」

「そこの非常口からさっきの場所に行ける。急げ!」

「あぁ!」

 

俺はすぐにモニター室から出た。非常口のドアを開けて目の前の非常階段を駆け上がる。

 

(伊達さん、無事でいろよ……!!)

 

ようやく良い情報が手に入ったのだ。

兄弟の疑いを晴らす前に、あの人に死んでもらう訳にはいかない。

俺は脇目も振らず一目散に伊達さんの居る公衆トイレ付近を目指した。

ホームレスに襲われている伊達さんを救い出す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁっ!?」

 

何度目かも分からない硬い衝撃が伊達の頭部を襲った。

その度重なる痛みからついに地面に倒れ伏してしまう。

 

「おい、何寝てんだ!」

「俺たちの恨みはこんなもんじゃねぇ!」

「ぐ、くそ……」

 

木刀を持ったホームレス達が、殺気立ちながら伊達を取り囲んでいる。

その数、合計七人。

現役警官である伊達どころか、神室町で喧嘩慣れした人間であったとしても不利な状況である。

 

「おい!!」

 

そこへ、一人の男がホームレス達を怒鳴りつけた。

全員の注意がその男へ向いた隙に、男は倒れ伏す伊達へと駆け寄ってしゃがみ込んだ。

 

「伊達さん、大丈夫か!?」

「に、錦山……」

 

錦山と呼ばれたその男は、伊達にまだ意識があることを確認し安堵する。今の錦山にとって、伊達という男は死んでもらうわけには行かないのだ。

 

「すまねぇ……遥が……」

「分かってる!」

「おい、コイツ刑事だぞ!」

「間違いねぇ!俺はな、昔コイツにパクられたんだ!」

 

そう叫んだホームレスの一人が弱りきった伊達に木刀を振りかざす。

錦山はその刀身を素手で掴み、伊達への追撃を食い止めた。

 

「テメェ、もう充分だろうが!」

「まだだ!100回殺しても足りねぇ!」

 

その言葉に同調し、周囲のホームレスもまた次々と声を上げ始める。

 

「部外者は引っ込んでろ!」

「一発殴んねぇと気が済まねぇ!」

「バラしちまえ!」

「そうだ。バ、バラしちまった方がいい」

 

頭に血が上ってホームレス達は聞く耳を持たない。

これが"賽の河原"が一度入ったら出てこれないと言われていた所以の一つであった。

 

「……何を言っても無駄か?」

「あぁ無駄だ!アンタの話聞く義理はねぇ!」

「……そうかよ」

 

錦山はゆっくりと立ち上がると、動けない伊達を庇うようにしてホームレス達に向かい合った。

 

「な、なんだよ!どうする気だ!?」

「よせ、錦山……!」

 

慄くホームレス達と錦山を止めようとする伊達。

だが、既にスイッチの入った錦山を止める事は誰にも出来ない。

 

「今この人を殺させる訳にはいかねぇんだ。そんなにこの人を殺りてぇなら……俺を倒してからにしやがれ」

 

言うが早いか。

錦山は正面のホームレスの手首を掴み、鼻柱に裏拳をぶち込んだ。

 

「ぶげっ!?」

「ドラァ!」

 

怯んだホームレスの手から木刀を奪い、脳天に唐竹割りの一撃を振り下ろしてとどめを刺す。

 

「て、テメェ!」

「さぁ……チャンバラごっこの時間だオラァ!!」

 

木刀を下段に構え、錦山がホームレス達に突撃する。

迎え撃った二人目の一振りを難なく躱し、太腿に一太刀浴びせた。

 

「ぎゃぁっ!?」

「はァっ!!」

 

激痛のあまり足を押えるホームレスの側頭部を、すかさず木刀で狙い打つ。

痛みと衝撃で戦闘不能に陥る二人目を横目に、三人目へと向き直る。

 

「せいっ!」

「ぐほっ!?」

 

錦山は三人目の鳩尾に木刀の切っ先を突き入れた。

そして、蹲って呼吸困難に陥るホームレスの頭部に勢いよく木刀を振り下ろす。

 

「ちっ……!」

 

直後、硬い音を立てて木刀が根元からへし折れた。

いかな錦山の腕力で振るわれたと言えど、普通の木刀はこんなにも簡単にはへし折れない。

経年劣化に加え、先の伊達に対する暴行によって耐久度が減っていたのだろう。

 

「死ねぇ!」

 

チャンスと言わんばかりに四人目が木刀を振り上げて猛然と襲いかかる。

錦山はその一撃を回り込むように回避すると、振り返りざまに折れた木刀の断面を叩きつけた。

 

「ぎゃあああっ!?」

 

折れた木刀の鋭利な断面が四人目の背中に喰い込み、錦山の握った柄に赤い液体が付着する。

 

「このぉ!」

「くたばれぇ!」

 

それを見た五人目と六人目が錦山に同時に襲いかかる。

錦山は崩れ落ちる四人目から木刀を奪い取ると、勢いよく真横に薙ぎ払った。

 

「がっ!?」

「こっ!?」

 

振り抜かれた一閃は水平な軌道でホームレス達の顎を打ち抜き、意識を失った五人目と六人目が地面に崩れ落ちる。

直後。

 

「でいやぁ!」

 

最後の七人目の叫びと共に猛烈な痛みと衝撃が錦山の後頭部を襲った。

 

「ぐぁっ!?」

 

手に持った木刀を取り落とし、頭を抑えて蹲る錦山。

それを好機と捉えた七人目がすかさず追撃を仕掛ける。

 

「喰らえ!」

「っ!!」

 

錦山は壮絶な痛むに耐えながらも耳朶を打つ七人目の声を頼りに、どうにかその追撃を躱した。

そして、再び振り下ろされる前に木刀を持つ手首を掴んで止める。

 

「ひっ!?」

「お仕置きだ」

 

錦山が宣告した直後、彼の右拳が七人目の鳩尾に吸い込まれた。

 

「おごっ!?」

「まだ終わらねぇぞコラァ!!」

 

蹲る七人目の髪を両手で掴み、右の膝蹴りを連続で叩き込む。

頬が腫れ、鼻が折れ、目元が潰れても膝蹴りの連打は決して止まない。

 

「ぐぼっ……」

「でぇやァ!」

 

そして七人目の顔面が原型も分からぬ程変形した時、錦山はトドメの左ハイキックを側頭部に直撃させる。

七人目の体は頭から地面に叩き付けられ、ピクリとも動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ、ったく下らねぇトコで体力使わせやがって……」

 

悪態をつきながら息を切らす錦山。

彼はこの直前、地下闘技場でチャンピオンとの死闘を繰り広げたばかりなのだ。

そのダメージは未だ癒えていない。

 

「伊達さん、大丈夫か?」

「あぁ……助かったぜ錦山。恩に着る」

「おう、一つ貸しとくぜ」

「へっ、そうかい……」

 

二人が軽口を叩きあっているところに、賽の河原のボスである花屋が姿を現す。

 

「呆れた強さだな」

「っ!お、お前は……!?」

 

花屋の顔を見るなり、伊達は目を見開いた。

その反応を予想していたのか花屋は最低限の挨拶だけをし、錦山に顔を向ける。

 

「久しぶりですね、伊達さん。錦山。例の子攫った車はバッティングセンターの前に止まった。安心しろ、この情報はツケにしといてやる」

「おう、ありがとよ」

 

それだけを告げると、花屋は踵を返してその場を後にした。その背中を見届けながら、伊達が目を見開いた理由を話し出す。

 

「奴は、元警官だ」

「なに?」

「警察の情報を横流ししていたのを俺が告発したんだ。しかしまさか、こんな所で出会うなんてな……」

「そうだったのか……」

 

花屋の意外な正体に錦山もまた驚くが、それよりも大事な問題が今はあった。

 

「それより伊達さん。遥を攫った連中に心当たりは無いか?」

「…………最悪の相手だ」

「なに?」

 

怪訝な顔をする錦山。

しかし、直後に苦い顔をした伊達の口から零れた名前は彼を納得させるのに十分過ぎた。

 

「遥を攫ったのは、真島組の連中だ」

「真島組だと!?」

 

その名前は、錦山にとっても因縁深い名前だった。

"嶋野の狂犬"と恐れられ、自分の兄弟分である桐生一馬と並び称された"伝説の極道"。

 

「真島、吾朗……よりによってアイツかよ……!!」

 

時刻は23時30分。

錦山と、東城会が誇る超武闘派極道との対立が確定した瞬間であった。

 




如何でしたか?
色々な事が分かってきて、次回はいよいよ真島の兄さん!

……と言いたい所ですが、次回は断章です。
組を立ち上げた桐生ちゃんの奮闘を、どうか見守ってあげてください。

次回もお楽しみに
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