錦が如く   作:1UEさん

35 / 102
ヒーッヒッヒッヒ!!

待たせたのぅお前ら!
ついにこの真島吾朗が、本編初登場や!!

いやぁ、ワシの登場を待ち焦がれる感想欄を見てニヤニヤが止まらんかったでぇ?流石、人気投票第一位は伊達やないなぁ!

ほな、早速本編開始や!
行くでぇ!!




第七章 鯉と狂犬
嶋野の狂犬


2005年。12月7日。

西公園前の公衆便所から外へと出た俺は、遥を救う為に吉田バッティングセンターへ向かう事になった。

 

「伊達さん。アンタはセレナで待っててくれ」

「だが、それじゃ……」

 

伊達さんは俺の提案に渋い顔をした。

確かにこのまま行けば俺は一人で敵を相手取ることになるだろう。

 

「相手はあの真島組だ。その身体じゃ、ハッキリ言って足でまといになる」

 

真島組は数ある東城会の組の中でも、特に好戦的な組織として名高い組だ。

そんなヤバい組織と敵対してしまった以上、俺としてはセレナにいる麗奈の方が心配だった。

 

「それよりも伊達さんには、セレナで麗奈と一緒にいて欲しいんだ。一人にさせるのは危険すぎる」

「…………分かった、気を付けろよ」

 

伊達さんはそう言うと、近場のタクシーに乗り込んでセレナへと向かっていった。

西公園からセレナのある天下一通りまではかなりの距離がある。

あの怪我でその道のりを歩いていくのは流石に骨が折れるのだろう。

 

(それにしても、真島か……)

 

その名前を聞き、俺の脳裏には17年前の記憶が蘇る。

"カラの一坪事件"の時の記憶だ。

当時の神室町は莫大な利権を生み出す"カラの一坪"を巡って群雄割拠の只中にあった。

そんな中で俺は堂島組からマトにかけられる桐生を救うため組に逆らう事を決意し、桐生の味方になる事を決めたのだ。

だがそんな矢先、俺は桐生の事を嗅ぎ回るある一人の男と出くわす事になる。

その男こそが、後に"嶋野の狂犬"と呼ばれる若き日の真島吾朗だった。

 

(俺はその時に一度だけ、真島と拳を交えた……でも…………)

 

結果は惨敗。

ハッキリ言って全く歯が立たなかったのを今でも覚えている。

その後聞いた話では、俺と闘う前に柏木さんともやり合って叩きのめしたらしい。

柏木さんはかつて"鬼柏"なんて呼ばれていた程の武闘派だ。俺も桐生もあの人には頭が上がらない。

そんな人を下すような男を相手に、俺はこれからたった一人で立ち向かわなければならないのだ。

 

(勝てるのか……?あの真島吾朗に…………)

 

あの名高い"堂島の龍"と並び称される、もう一つの伝説。かつてはどうあっても勝つ事が出来なかった"嶋野の狂犬"を相手に、俺はこれから挑もうとしている。

はっきり言って、勝てるイメージが全く湧かない。

浮かび上がるのは、手も足も出ずに敗北を喫した17年前の記憶。

 

(いいや……!!)

 

そこで俺は、弱気になる己を奮い立たせた。

迷っている場合じゃない。

こうしている今も、遥は怖い思いをしているに違いないのだ。

そして何より、俺の目指すモノはそれよりももっと先にある。

 

(俺は桐生に追い付いて、アイツを超える男になるんだ!こんな所で立ち止まってなんか居られねぇんだよ……!!)

 

俺の目標とする男は、たとえ相手が100人居ようが関係無しに立ち向かう。どんな困難や現実からも目を背けず、最後まで決して諦めようとはしない筈だ。

だったら俺も諦めない。相手が何であろうと喰らって飲み込んで糧にしてやる。

それぐらいの気概が無ければ、龍のいる場所に手など届かないのだから。

 

(待ってろよ、遥……!)

 

俺は早速公園前通りをホテル街方面に駆け出した。

西公園から吉田バッティングセンターへ向かうには、公園前通りを通るのが一番早いからだ。

 

「……!」

 

しかしそこへ、複数の男達が俺の道を塞ぐように立っていた。

そいつらはどう見てもカタギには見えない格好をしていて、全員が俺へと視線を向けている。

 

「誰だテメェら……?」

 

俺は目の前の男達に問いかけた。

今の俺には狙われる理由に心当たりが多く、コイツらがどこの組織の手先なのか分からないのが正直な所だ。

 

「元堂島組の錦山やな?」

「だったら何だ」

「お前にはここで死んでもらうで」

 

先頭の男が発したその言葉を合図に、俺の背後にも別の男達が現れる。

前後を挟まれ、俺は完全に逃げ場を失った。

その数、前と後ろを合わせて十人。

 

「穏やかじゃねぇな。どこの組のモンだ?」

「決まっとるやろ……嶋野組や」

 

直後。男達が懐からそれぞれの得物を取り出して臨戦態勢を取った。

どうやらやるしかないみたいだ。

 

「そうか……道理でな。俺を狙うのも納得だ」

「なに余裕こいてんねん。まさかこの人数相手に勝てるやなんて思ってへんやろな?」

 

先頭の男が殺気立つ。

この状況になっても変わる事の無い俺の態度が気に入らないのだろう。

確かに普通なら勝ち目がある状況じゃない。

多勢に無勢、オマケに相手は得物持ちだ。

 

「そっちこそ、その程度の人数で俺を止められると思ってんなら大間違いだ」

 

俺は静かに腰を落として、ゆっくりと呼吸を整えた。

かつて柏木さんに教え込まれ、先の闘技場でゲイリー相手に咄嗟に使ったあの構えを取る。

 

「フゥー……ッ」

 

研ぎ澄まされていく精神と、脱力していく筋肉。

それと比例するように、段々と自分の中で"闘気"とでも呼ぶべきものが練り上げられていくのが分かる。

 

「ナメおって……死ねやボケがッ!」

 

怒号と共に先頭の男が得物であるドスを抜いて襲いかかる。それに続くように背後の男たちや、俺の後ろの連中も動き出した。

このままでは俺は数秒後に瞬く間にリンチされる事になるだろう。

だが、そんな事には決してならない。

 

「フンッッ!!」

 

裂帛の気合と共に地面を強く踏み締める。

そのまま地面を蹴って距離を詰め、一気に間合いへと押し入った。

そして。

 

「セェエエッッ!!!」

 

渾身の正拳突きを相手の腹へと叩き込んだ。

 

「ぐほぉぉっ!?」

 

文字通り殴り飛ばされた先頭のヤクザは、背後にいた男達をも巻き込んで後方へと吹き飛ばされる。

 

「な、なんやコイツ……!」

「ば、バケモンや……!」

 

戦々恐々とする男達。

いかに嶋野組と言えど、このような実力差を見せ付けられれば戦意を失うというものだ。

 

「お前らのトコの"狂犬"に伝えろ…………錦山が、昔の借りを返しに行くってなァ!!」

「ひ、ひィィ!!?」

 

男たちは、蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げながら逃げていった。

それを見て、俺はひとまず安堵する。

何せこれからやり合う相手はあの真島吾朗だ。こんな所で余計な消耗はしていられない。

 

「よし……行くぜ……!!」

 

気を取り直し、俺は再び公園前通りを駆け出した。

その先に待つ"狂犬"と、17年越しの決着を付けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京、神室町。

ありとあらゆる遊びが集うこの街はその業態における競争が非常に激しい事でも有名だ。

あらゆる業態の様々なテナントが出ては潰れを繰り返す為、十年も経てばほとんど別の街へと様変わりしてしまう。

しかしそんな神室町において、30年以上の歴史を誇るバッティングセンターが存在する。

それが、ホテル街近辺に存在する"吉田バッティングセンター"であった。

 

「ここだな……!」

 

そんなバッティングセンターの前に、錦山彰はたどり着いた。

店の前には白いバンが停まっている。

彼が賽の河原で見た誘拐の瞬間を捉えた映像に映っていたモノと同じものだった。

 

「今行くぜ、遥……!」

 

意を決し、錦山はバッティングセンターの中へと踏み込んだ。

 

(……誰も、いねぇのか?)

 

中には誰もおらず、人がいる気配が無い。

ただ、無機質なピッチングマシンの機械音が静かに聞こえるだけという異様な空間。

 

「遥!どこだ!?」

 

錦山は遥の名前を呼びながらバッティングセンター内をくまなく探す。

しかし、どこを探しても遥の姿は無かった。

 

(くそっ、何処にいるんだ……?)

 

やがて錦はケージの中へと足を踏み入れる。

料金を支払っていないにも関わらず、ピッチングマシンからは延々と白球が吐き出されていた。

明らかに人為的な細工である。

 

(絶対誰かいるはずだ…………ん?)

 

そして、錦山がケージに入ったのを見計らったかのように数名の男達が姿を表す。

そのいずれもがガラの悪い格好に身を包み、手には金属バット等の凶器を握り締めている。

錦山は彼らが遥誘拐の実行犯であるとアタリをつけた。

確実に荒事になると踏んだ錦山は僅かに身構えるが、錦山の姿を認識した男たちが妙な反応を見せ始める。

 

「あれ……?違うぞ……?」

「え、コイツが親父の探してる奴じゃ無いのか?」

「おかしいな……ガキを拉致った事を知らせれば必ず来るって話だったが…………」

 

それは困惑だった。

今、彼らの中で想定外の事が起きているのだろう。

大方、"誰かしら来るとは思っていたが、思っていた人物ではなかった"と言った所だろうか。

 

「あ……?」

 

錦山もまたその反応を見て怪訝な顔をする。

彼らが遥攫ったのには100億の為、もしくは錦山をおびきだす為の二通りの動機が考えられるが、彼らの反応はその思惑がどちらでも無い事を如実に表していたからだ。

そして。

 

「なんや。やけに早いと思ったら……錦山やないか」

 

その男は、実に退屈そうな声を上げながら現れた。

刺青が見える素肌に金色のジャケットを身にまとい、テクノカットの髪型と黒い眼帯をした一人の男。

一度見たら忘れられないその外観は、時が経った今でも錦山の中で強烈に印象付いている。

 

「真島……!」

 

東城会直系嶋野組若頭兼真島組組長。真島吾朗。

"嶋野の狂犬"の異名で知られる超武闘派で、錦山の兄弟分である桐生一馬の異名である"堂島の龍"と並び称された東城会の生ける伝説である。

そんな真島は錦山の姿を認めた途端、露骨にテンションを下げた。

 

「ワシはお前みたいな雑魚に用はあらへん。怪我せんうちにさっさと消えた方がええで」

「そうはいかねぇ。俺が面倒見てる子を返してもらうぜ」

「あ?なんやて?」

 

とぼけた声を上げる真島に対し、錦山は声を荒らげて吠え立てた。

 

「遥だよ、遥!お前が嶋野あたりの命令で拉致した女の子だ!とっくにネタは上がってんだよ!」

「はぁ……そういう事かいな」

 

錦山の発言に対し、真島は納得が言ったのと同時に更なる落胆と退屈に見舞われた。

これ以上相手にするのも煩わしいのか、真島は部下達に命令を下した。

 

「おうお前ら、このドアホ適当に掃除せぇ。こんな雑魚、ワシが手ぇ出すまでもあらへんわ」

「「「「「へい!!」」」」」

 

気の抜けた声で下した命令だったが、部下達が即座に反応する。彼らはそれそれが得物を持って素早く臨戦態勢を整えた。

いかに普段から構成員が躾られて居るかがよく分かる光景だ。

それに対し錦山は、自分の事を雑魚呼ばわりした真島に対して怒りを露わにした。

 

「面白ぇじゃねぇか……掃除出来るもんならやってみやがれ!!」

 

激しい怒号をゴングに、真島組構成員との闘いの幕が上がる。

 

「死ねやぁ!」

 

錦山は先頭の一人目が突いてきたドスの一刺しをいなし、顔面に掌打を叩き込んだ。

 

「フッ!!」

「ぶげっ!?」

 

その勢いのまま頭を押さえつけながら腕を押し込み、コンクリートの地面に頭部を叩き付ける。

泡を吹いて動かなくなる一人目を尻目に、錦山は近場にいた二人目との距離をすぐさま詰めた。

 

「はァッ!!」

 

右の張り手で二人目の顎をカチ上げ、その後は左の張り手を一発、二発と叩き込む。

 

「ぐはぁっ!?」

 

トドメの張り手を叩き込んで二人目を仕留める。

すると三人目が正面から鉄パイプを振り抜いて来た。

 

「セイッ!!」

 

俺はその鉄パイプを紙一重で躱すと、即座に返しの一撃を叩き込んだ。

 

「ぐほぉっ!?」 

 

鳩尾にねじ込まれる正拳突き。

急所を突かれた三人目は為す術なく崩れ落ちた。

 

「くたばれ!」

 

四人目の得物は警棒だった。

リーチの短い警棒を振りかざして襲いかかる。

 

「てぇいやァ!」

 

錦山は警棒を持つ四人目の手首を掴み、もう片手で顔面に肘打ちを叩き込んだ。

 

「ぐぶっ!?」

 

鼻が折れる音と共に戦意を失う四人目。錦山はその身体を持ち上げ、崩れ落ちた三人目の上に全力で叩きつけた。

 

「ぐぎゃっ」

「うごぉっ」

「クソ野郎がァ!!」

 

仲間をやられ激した最後の五人目が、怒号と共に拳を振り抜いた。

その一撃は錦山の頬を打ち、確かに鈍い音を立てた。

錦山はすかさず五人目の両腕を掴む。

 

「フゥー……ァアッ!!」

 

短めに息を吐いて脱力した後、一気に両腕を引き下ろした。

 

「うぎゃぁっ!?」

 

ごきりと嫌な音を立てて、五人目の両肩が完全に脱臼する。錦山はすかさず張り手で後ろを振り向かせると、そのまま相手を持ち上げて投げ飛ばした。

 

「ぐげぇっ!?」

 

両肩を外され受身の取れない五人目は無惨にも顔面から地面に落下し、そのまま動かなくなってしまった。

 

「はっ、こんなもんかよ?真島組ってのは大したことねぇな」

「ほーう?案外やるやないか」

 

一部始終を眺めていた真島が、錦山に対して少しだけ関心を向けた。狂犬の隻眼が、品定めするように錦山を見つめている。

そんな真島に対し、錦山はこう問いかけた。

 

「真島。アンタ程の男が、なんで遥を誘拐するような真似をしたんだ?」

 

彼は今回の真島の行動に、僅かばかりの疑念を抱いていたからだ。

今でこそ狂気的な立ち居振る舞いと凶暴性から畏怖の念を向けられる事が多い真島だが、錦山がかつて拳を交えた頃の真島はとても冷静沈着で頭のキレる冷血で硬派な男だった。

とても今回のような、現役警官を襲って少女を拉致するような危険な行動を何の意味もなくするような人間ではない。

 

「まさか、アンタも100億を……?」

「アホか。俺がそんな下らんモンに興味あるハズ無いやろが」

 

真島はその問いに対して即座に返答した。

今、東城会中の極道達が皆注目するはずの100億を下らないモノであると断言したのだ。

 

「まぁ、嶋野組傘下組織全員にあの子を攫ってこいって命令が出とるのは事実やけどな」

 

その情報に錦山は納得した。

いくら真島本人が100億を下らないモノであるとしたとしても、親である嶋野にとってはそうでは無い。

嶋野はその失われた100億を取り戻すという実績を持って、東城会の跡目になろうとしているのだ。

そしてそんな嶋野が命令を下す以上、子分である真島も動かざるを得なかったのだろう。

若頭である真島が行動を起こさなければ、下の者に示しが付かないからだ。

 

「そうか……ならアンタは遥を、嶋野の所に連れて行こうってんだな?」

「いいや、ワシはあの子を親父に渡す気は無いで」

「なに……!?」

 

真島の返答に、錦山は度肝を抜かれた。

彼は親が絶対であるはずの極道社会に生きる者でありながら、その指示に従わないというのだ。

しかも、相手はあの嶋野である。逆らえば命が無くなってもなんら不思議では無い。

 

「どういうこった……?」

「あの子には、別の役目を果たして貰わなアカンからなぁ」

「別の役目?一体なんの事だ?」

 

そして、錦山のその問いに対して真島は先程の様子が嘘のようにハッキリと答えた。

 

「決まっとるやろ?桐生ちゃんや!!」

「桐生……?」

 

首を傾げる錦山とは対象的に、真島は今まで輝いていなかったその隻眼を光らせ実に愉快そうに語り始めた。

 

「せや!お前がムショに行っとる間、俺は事ある毎に桐生ちゃんに付き纏って喧嘩しとったんや!どれもこれも、手に汗握るごっつ熱い殴り合いやったで…………!!」

 

真島は目を瞑って思いを馳せる。きっと彼の目には、今まで桐生と過ごして来た血と汗と拳の記憶が鮮明に浮かんでいるのだろう。

 

(桐生の奴……前々からコイツに気に入られてるとは思っちゃいたが、組を割るまでずっと付き纏われていたってのか?アイツもなんて気の毒な…………)

 

一方の錦山はその時の桐生に対して同情を禁じ得なかった。嫌そうな顔をしながらも最終的には喧嘩に応じてしまう桐生の姿がありありと錦山の脳裏を過ぎる。

 

「せやけど桐生ちゃんが東城会を抜けてからというもの、それも出来んようになってしもた。俺だけの都合で今の桐生ちゃんに喧嘩を売ってもうたら、すぐに組織間の抗争に発展してまう」

 

強い男との喧嘩をこよなく愛する真島だが、それが原因で戦争を引き起こす訳にはいかない。殺られたら殺り返すがモットーの極道と言えど、限度というものはあると真島は語る。

事ある毎に戦争をしていれば夥しい数の犠牲者が出る事になり、それはやがて昨今の暴対法の強化にも繋がっていくだろう。そうなれば真島だけの問題では無い。ゆくゆくは極道者の未来そのものを閉ざす事になりかねないのだ。

 

「桐生ちゃんの組と戦争すんのもオモロそうやけど、下手に手ぇ出す訳には行かへん。せやけど俺は桐生ちゃんともう一度、命張った本物の喧嘩がしたいんや」

「アンタが桐生と喧嘩したがってんのは分かった。だが、それが遥とどう繋がるってんだ?」

 

錦山の疑問に対し、真島はあっけらかんと答えた。

 

「そんなん決まっとるやろ。あの子が桐生ちゃんにとって大事な存在やからや」

「なに……!?」

 

錦山にとって新たな事実が明かされた瞬間であった。

それと同時に、錦山の中にあった一つの予感が確信へと変わり始める。

 

(遥が桐生にとって大事な存在?って事は、五年前を最後に来なくなった遥の父親ってのは……!!)

 

そして、そう仮定すれば今回の真島の行動も説明が付く。

"嶋野の狂犬"真島吾朗が、渡世の親である嶋野に逆らってまで遥を手元に置いておきたい理由。

それはつまり。

 

「桐生を誘き出すために、遥を……!!」

「ヒヒッ、正解や。」

 

桐生一馬という男は不器用で義理堅く、義理人情に厚い人物だ。己にとって大切な存在が人質にされている事が分かれば、桐生は必ず駆け付けるだろう。

その結果として東城会との関係性が悪化することになったとしても、彼は絶対に止まらない。

彼の大事な人間に危害を加えるという行為はすなわち、龍の逆鱗に触れる事に他ならないのだから。

 

「しっかし、まさか桐生ちゃんや無くてお前が来る事になるとはのぅ。まぁ、桐生チャンに電話したのがついさっきやから早すぎるなぁとは思っとったがな?」

「…………」

「これで分かったやろ?錦山。ワシは桐生ちゃんと勝負出来ればそれでええんじゃ。子供ならそこのドア入った所におる。ワシと桐生ちゃんの喧嘩が始まったら連れてくなりなんなり好きにせぇ」

 

その言葉に嘘偽りはない。

真島は決して遥に危害を加えることも、嶋野に明け渡すこともしないだろう。

彼はただ、本気の桐生一馬と本気の喧嘩がしたいだけなのだ。

しかし、それを聞いた錦山は思わず嘆息した。

 

「……はっ、これがあの"嶋野の狂犬"か。ガッカリしたぜ。まぁ伝説だ何だと言われても、所詮ヤクザなんてそんなもんか」

「あ……?」

 

落胆の様子を見せる錦山に、今度は真島が怪訝な表情を浮かべる。

 

「つまりアンタは"桐生と喧嘩したい"って理由のためだけに年端もいかない女の子を巻き込んだって事か。ヤクザ者の勝手な都合で、なんの罪も無いカタギを良いように利用したってワケだ」

「……何が言いたいんや?言いたいことあんのやったらハッキリ言えや」

 

真島は錦山の回りくどい言い回しに苛つきを覚える。

錦山はそんな事お構い無しに一つ問いかけた。

 

「なぁ真島さんよ。ここまで言われて何か思い出さねぇか?」

「あぁ?何の話や?ええからさっさとハッキリ言わんかい!」

 

勿体ぶった言い方をする錦山に怒りを露わにする真島。

それに対して再び嘆息しつつ、錦山は答えを口にした。

 

「……マキムラマコト」

「!!」

 

直後、真島の態度が一変した。

トレードマークの隻眼は大きく見開かれ、開いた口は塞がらない。完全に虚をつかれた様子の真島などお構い無しに、錦山は続ける。

 

「この名前、まさか忘れちゃ居ねぇよな?アンタが命懸けで守ろうとした、目の見えない女の子だよ」

 

錦山の言うマキムラマコトという名前は、今から17年前に起きた"カラの一坪事件"の中心にいた一人の女性の名前である。

盲目というハンディキャップを背負いながらも懸命に生きていた彼女はある日、とある理由から東西のヤクザにその身を狙われる立場になってしまう。

偶然その場に居合わせた当時の真島は成り行きから彼女を助けることになってしまい、やがて彼女の事情を知った真島は彼女を裏社会の闇から救い出す為に奔走する事になったのだ。

 

「確か初めて俺とやりあった時も、そのマキムラマコトを護るためだったよな?」

 

そして、そのマキムラマコトを保護する立場に当時の錦山と桐生は立っていたのだ。

そしてお互いにそれぞれの立場に倣って彼女を守ろうとした結果、入れ違いから錦山と真島は拳を交える事になるのだが、今錦山が言いたいのはそこでは無い。

 

「当時のヤクザたちは"カラの一坪"って戯言のために、皆してたった一人の女の子を血眼になって狙った。莫大な利権を手に入れたいっていう、ヤクザの身勝手な都合でな。全くバカげてるよ」

 

その結果としてマコトは、自分を大切にしてくれていた恩人を殺され、何度も命を狙われる危機に晒された。

文字通りの真っ暗な闇の中で、力なき彼女はただただ涙を流した。

あまりにも理不尽で身勝手なヤクザ達の行動が、当時の彼女を不幸のどん底に叩き落としていたのだ。

 

「そんな中で、アンタは彼女を必死になって守ろうとし、見事に救って見せた。実際アンタが居なかったら彼女は間違いなく死んでいただろうしな」

 

全ての事件にカタが付いた後、真島は名乗る事もせずに彼女の前から消えた。

ヤクザ者である自分と関わるべきではないと考えたからだ。

 

「俺はよ真島さん……そんなマキムラマコトが哀れでならねぇんだ」

 

そしてここまで語った錦山はついに、狂犬の尻尾を踏み付ける。

 

「"名乗りもせず自分を助けてくれた恩人が、かつての自分を虐げた外道と何も変わらなかった"。これを彼女が知ったら、なんて思うんだろうな」

「……………………」

 

ヤクザの都合でカタギを利用し、己の目的を達成する。錦山の言う通り、そういう意味で言えば今の真島は当時のヤクザ達と本質は同じと言えた。

 

「なぁ、そうじゃねぇか?"嶋野の狂犬"……真島吾朗さんよ」

「…………桐生ちゃんの後ろに引っ付くしか能のない金魚の糞風情が。随分とおしゃべりやないか」

 

沈黙を保っていた真島が口を開く。

しかし、その声音には先程のような退屈さも愉快さもない。そこにあるのは、ただ静かな怒りと明確な殺意だけだった。

 

「ええやろ……そないに死にたいんやったらワシが今すぐここで殺ったろやないか」

 

愛用のドスを取り出し、黒塗りの鞘から鈍色の刃を引き抜いた。

その全身からは激しく鋭利な殺気が溢れ出ている。

 

「ハッ、なんだ?図星を突かれてキレてんのか?桐生からは読めねぇ男だって聞いてたが……俺から言わせりゃ随分と分かりやすい男だよアンタは」

「最期の言葉はそれでええんか?遺言ぐらいもうちょっとマトモな事言うたらどないや」

「遺言?冗談じゃねぇ、俺の死に場所はここじゃねぇんだよ……!」

 

錦山は静かにファイティングポーズを取る。

全神経を集中し、真島の最初の一手を見極める。

 

「覚悟はええな……?」

「いつでもいいぜ……来やがれ、真島ぁぁ!!」

 

東城会直系嶋野組若頭兼真島組組長。真島吾朗。

今、東城会が誇るもう一つの伝説との闘いが幕を開けた。

 

 

 





と、まぁこんな所やな。


しっかし錦山のドアホ、ワシに喧嘩売るとはホンマにえぇ度胸しとるわ。
しゃーない。ちーっとばっかりムショで鍛えよったくらいで調子に乗っとる錦山みたいな青二才は、ワシが徹底的に分からせた後にキッチリ仕留めたろうやないか

てな訳で次回は、ワシが錦山を徹底的にぶちのめす殺戮ショーやで!
次回も楽しみにしとってや!
ほな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。