人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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終ワリノ音ーMovement-1

「香織、雫、南雲ハジメのもとから離れてこちらに戻ってくるんだ。そこは君達のいるべき場所じゃない」

 

 オルクス大迷宮の入り口の前で光輝は香織と雫に向かって手を差し伸べていた。そうすることで、二人が戻って来る事に対して疑いなど無いかのように。いや、実際無いのだろう。光輝にとって、南雲ハジメは人殺しであるだけでなく、香織に殺人を教唆した人物でもある。そんな危険人物と一緒にいていいわけが無い。寧ろ、彼女等は解放されたがっているはずだと何の疑いもなく思っていた。

 

「……無理よ、光輝。私が逃げ出した理由をもう忘れたのかしら。私はもう、貴方の側にいる事に耐えられないの」

 

 しかし、まず雫がそれを否定する。思い出されるのは、「私は卑怯者でいい!」という絶叫。雫は光輝の正義に耐えられなかった。

 

「貴方の側にいる限り、無謀な明日が無限に続く。私はそれに耐えられない。貴方はどんな時でも自分が正しくいる事を優先するもの」

「そんなの当然じゃないか。人は正しく生きるべきなんだ。やるべき事をやり、為すべき事を為す。それが人として生きる事なんだ」

 

 その言葉を聞いて、雫は再度首を横に振った。どこまでも〝正しさ〟を妄信する元幼馴染は、雫のことなどひとかけらも理解していない。何処までも、その正義を振りかざす。

 

「そう。なら、別の例を出してみましょうか。覚えているかしら? 小さい頃、私がイジメを受けていて、光輝に助けを求めた時の事」

 

 雫の脳裏に小学生時代の苦い記憶が蘇る。その頃は稽古の為に髪は短く切り揃えられ、服装も地味なものが多く、可愛いというより美人系の顔立ちだったこともあり確かに女の子らしさというものとは縁遠かった。

 

 そんな雫が、小学生の頃から人気のあった光輝と一緒にいれば女子達が黙っているわけもなく、子供故の加減や容赦というものがないやっかみを受けていた。そんな中で、今でも忘れられない言葉が「あんた、女だったの?」だった。外見や剣術のことはともかく、中身は女の子そのものだった雫にとっては、何より辛くショックの大きな言葉だった。

 

「忘れるはずが無いよ。後にも先にも、雫が助けを求めた唯一の事件だったからね。俺はしっかりと〝和解〟させたじゃないか」

 

 雫は俯き、歯を食い縛った。もはや何も伝わらないのかもしれない。それでも、これだけは言っておかなければ気が済まなかった。

 

「そんなこと、私は頼んでなかったわ」

「え?」

「だから、そんなこと、私は、頼んでなかった! 私はあいつらのイジメを何とかしてほしかっただけで、仲を取り持って欲しいだなんて思ってなかったわ!」

 

 上記の通り、光輝に助けを求めたこともある。だが、そんな時、光輝が言うセリフは決まっていた。すなわち、「きっと悪気はなかった」「みんな、いい子達だよ?」「話せばわかる」などだ。その言葉通り、雫に対する言動について光輝が女の子達に話し合いにいってしまい、風当たりが強くなったのは言うまでもない。それも光輝にばれないよう巧妙さを増して。

 

 光輝に相談しても、返ってくるのは困ったような笑みばかりで、いつしか雫は光輝に頼ることをしなくなった。

 

 そんな生活が小学生時代ずっと続いた。もし、入学してから出会った香織が傍に居てくれなければ、心を折られて何もかも投げ出していたかもしれない。

 

 当時は子供っぽいと思っていた香織。しかし、今にして思えば、香織はどこか遠くを見つめているかのような素振りを見せる事もあった。まるで、見えない何かを見ようとしているような―――

 

 閑話休題

 

 その言葉と独白を聞いて、光輝は狼狽した。

 

「意味が分からない! 雫はイジメを止めて欲しかった。だから俺は彼女達と和解させたんだ! それが間違っていたとでもいうのか!?」

「この上なく正しいでしょうね。そして、正しさの結果として私は更にイジメられるようになった。それでもなお、貴方は正しさを疑う事をしなかった」

「正しさを疑う!? 正気か!?」

 

 通じない。当時もそうだった。けれど、その時はまだ雫の光輝への疑惑は“自分は幼馴染として大切に思われて無いのでは”と言う程度で、その気持ちにも「悪気は無かったから」「彼の性格の問題だから」と目を逸らした。

 

 しかし、この世界に転移してから決定的な出来事が起こる。オルクス大迷宮で起きた事件。怪物となって奈落へと消え、生存が絶望的となった香織、自分の様なイジメなんかとは訳が違う。これ以上のきっかけは無いと言えるぐらいだ。

 

「流石にここまでの事態となれば、正しいか正しくないかなんて関係なく、檜山に殴りかかるかもしれない。怒鳴り散らすだけでも良かった。そう僅かにでも期待したのよ。それでも、貴方は清く正しい優等生のままだったわね」

「そんなの当たり前じゃないか。香織は生きていると信じていたし、香織を怪物に変えたのは南雲だ。檜山には何の落ち度もない。まさか、恵里達が捏造した証拠をまだ信じているのか? それはいけない。雫も動揺していたのは分かるけど、いつまでも仲間を疑っていては何もできないぞ」

「それについても色々言いたいけれど、私が言いたいのはそこじゃないわ。火球の件を抜きにしても、檜山にはベヒモスの部屋に通じるトラップを作動させたという罪があるじゃない」

「え……」

 

 本当に気づいていなかったのかと、雫が溜息を吐く。

 

「あの出来事が無ければ、南雲君は奈落に落ちなかったし、香織も怪物になってまで追いかける事は無かった。違う? あの状況を招いたのは南雲君じゃなくて檜山よ」

「でも、その件に関しては既に謝罪してるじゃないか! いつまでも恨みを持つのは健全とは言えないぞ。それに、香織は南雲に洗脳された結果として怪物になったんじゃないか! それなら君が恨むべきはやはり南雲なんじゃないのか!?」

「あははは」

 

 雫は笑い出した。もう耐えられなかった。

 

「貴方にとって香織を奈落の底に向かわせたあの出来事は〝謝れば済む〟ことなのね。この十年間、何だったのかしら……」

「だから、香織を怪物に変えたのは南雲で……」

「あは、あははは、十年。十年無駄にしちゃった。あはは。私達って、光輝の正義の捨て駒だったのね。ふふふ。おかしいわよね。笑えるわよね」

「雫ちゃん!」

 

 香織が雫に駆け寄る。そして、顔を覆って笑う雫を支えると、雫はたっぷり十分は笑った後、光輝の顔を見た。

 

 光輝はいまだに呆然としている。幼馴染が壊れてしまった事を、いや、自分が壊してしまった事を受け入れられないのか、そもそも気付いてもいないのか。光輝の視点では雫がいきなり奇行をしだしたようにしか見えず、彼の優れた頭脳は原因を探し始める。

 

「大丈夫だ。雫。俺は君を捨て駒だなんて思っていないし、いつだってみんなの事を考えて行動していた。雫や香織、龍太郎はその中でも特別大切な存在だ。南雲から離れれば、きっとそれが分かるはずだ。間違った行動をする集団から離れれば、正しさが何か分かるはずなんだ」

 

 その言葉を遮るように、雫は背を向けた。実を言えば、前半部分だけ切り取れば光輝の言う事は間違ってはいない。雫や香織を捨て駒だと思った事なんて一度も無いし、二人を大切に思っているのも事実。

 

「言ったはずよ」

 

 しかし、人から嫌われる方法は正論を吐き続ける事でもある。光輝は嘘をついていない。それでも悲しいかな、出力される行動は相手にとって欺瞞でしかないのならそれは欺瞞であり、相手に苦痛を与えているのであれば、それは武器に他ならない。

 

「貴方は一度もそれを実感させてくれなかったわ」

 

 光輝は確かに正しかった、正しくあり続けた。けれどその末、正しさの果てでは、

 

「私は、貴方の世界では、心の底から笑えなかった」

 

 思い出した。雫が雨が好きだったのは、涙をその中に隠せるから。笑っていたその奥で、心をバラバラにされて泣いていた彼女は、香織以外には気付かれもせず、雨に打たれてうずくまっていた。或いは、嵐によって船を難破させられ、海中に沈んだ船員のように、彼女の心は死んでいた。

 

「何故だ……何故……俺は正しいことをしてきたのに、どうして離れていくんだ」

「ねえ、天之河君。君と議論するのは無駄だって分かってるけど、一つだけ指摘させてもらうね」

 

 雫を支えながら、香織は光輝に話しかける。

 

「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気なのか? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだよ、香織」

「私は、洗脳されたわけでも改造されたわけでもない。私はこの世界に来る前からコンダクターと、ハジメ君と付き合っていたし、機械になったのは半ば自分の意志だね」

「そんなはずはないだろう! この世界に来る前は、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性の無い変人である南雲を香織が好きになるわけが無いとずっと思っていたんだ。学校外で不良行為をする南雲に付き合う香織がずっと心配でならなかった。いい加減、彼の呪縛から解かれるべきだと俺は思うぞ」

「……随分とハッキリと言うんだね」

 

 その言葉を聞き、香織の声が少し低くなる。そして香織は彼を睨む様な視線を向けた。それは幼馴染として共に過ごしてからの間、一度も見たこと無いような彼女の表情。と、光輝が思っているだけで実は何度かしている表情だった。

 

「絵を描いて売ることの、どこが不良行為なのかな? 立派な社会人やってるだけの話だと思うけれど?」

「が、学業を疎かにしていたじゃないか! 学生の本分は勉強だろう!?」

「彼が平均点を下回った事は無いけれど。それに、数学に関しては天之河君よりも点は上だったよね。と、事実を述べただけで他意は無いから、突っかからないでね?」

 

 香織はやや性格の悪い笑みを浮かべながら、光輝の矛盾を突きつける。実を言うと、清水や恵里とハジメが殺し合っていた事実があるので、不良行為自体はしているのだが。なお、それは香織も知っている。しかし、両者の事情を知っている香織としてはそれを不良行為とは呼びたくなかったし、仮にハジメに黒い部分があるとしても香織の愛は変わらなかった。何より、その部分を光輝は知らない。

 

 それよりも、光輝は香織がそのような性格の悪い顔をしている事に驚いていた。香織は掛け値なしの善人で、いつも笑顔が標準装備の純朴な少女のはずなのに、と。

 

「残念だね。とても悲しいよ。君にとっては愛も献身も、全てが洗脳の結果なんだね」

「そんなことは言っていない。ただ、南雲みたいな人間を香織が好きになるはずは無いと……」

 

 そう言って、光輝は視線をハジメ達の方に向ける。ハジメは、何かあればすぐに割って入れるようにこちらを静観していた。

 

「私が誰を好きになろうと、私の自由だと思うのだけれど。誰とコンチェルトグロッソを奏でようと、誰と手をとって踊ろうと、それは私の自由だよね?」

「ぐっ……だけど……」

 

 尚も言い募ろうとする光輝に、雫は刀を突きつけた。

 

「それ以上喋らないでくれるかしら」

 

 否、彼女は雫ではなく第二人格の紅だった。

 

「怒りの抑えが効かなくなるわ」

 

 彼女が現れるな否や、光輝は憤怒の表情で詰め寄る。

 

「またお前か! 雫の姿で、雫の声で喋るな! 雫に身体を返すんだ!」

「明け渡したのは雫よ。それに、貴方は雫を受け入れないわ」

「どういうこと―――」

 

 紅はそう言うと、自分に掛かっている偽装を解除した。現れるのは、機械の四肢や、赤く染まった左眼。

 

「……そんな、雫まで化け物に……南雲! お前は香織だけに飽き足らず、雫まで化け物に改造したのか!」

「改造されたわけじゃないわ。バイクで移動していたら、機械になったのよ。これに関しては感染症だもの。貴方のせいでも何でもないわよ。良かったわね」

「そんなはずはない! 南雲は香織を……まさか、他の女の子たちも機械……なのか?」

 

 ハジメの周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目が次第に吊り上がり始めた。あの中に、自分の香織や雫が入ると思うと、今まで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきたのだ。そして、衝動のままに、ご都合解釈もフル稼働する。

 

「香織、雫。行ってはダメだ。これは、二人のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして機械に改造して、あんな小さな子まで……そちらの女性(ラングランス)も、きっと何か弱みを握られて従わされているんだ」

 

 優花や清水はいいのか? とか聞いてはいけない。小さな子とはミュウのことであろうが、どちらかと言えば彼女が懐いているのはラングランスの方である。オマケに、ラングランスはハジメと同格の代行者、それもどちらかと言えば上司のような存在である。なお、シアやラングランスは偽装用アーティファクトによって人間に見えるようになっている。

 

「南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、雫、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君達のために俺は君達を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

 ヒートアップしている光輝はもう止まらない。説得のために向けられていた香織と雫への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達やラングランスに転じられる。

 

「君達もだ! これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 共に、人々を救うんだ!」

 

人が何人もの女性を侍らせている事を指摘しておきながら、次の瞬間には彼女達を全員自分の傍に侍らすような物言いに、その場にいた誰もが唖然とする。そして当の勧誘をうけたユエ達はと言うと、

 

「なに……アレ……」

「そりゃ、ハジメさんも人格者とは言えませんが……あの人からは別の、何かヤバいものを感じますう」

「疑問:マスターからあの人物に乗り換える事への利益。他多数。マスター、言語システムに異常が生じているかもしれません。あの者が言っていることの論理的整合性が取れません」

「大丈夫よ、ミュオソティス。残念ながら、システムは至って正常だから」

 

 順に、ユエ、シア、ミュオソティス、優花のセリフである。機械であるが故に鳥肌は立たないが、温度感知センサーに生じない何かしらの寒気を感じたようで、そそくさと離れた。その光景に光輝が顔を引きつらせていると、ラングランスが一歩前に踏み出た。

 

「認めていただけるのは有難いですが、私は南雲ハジメを多くの重要な任務にアサインする立場ですの。貴方は、南雲ハジメほどに利用価値を感じませんわね。それに、貴方方のコミュニティは居心地が悪そうですもの。申し訳ありませんが、お断りさせていただきますわ。ごめんあそばせ」

 

 そして、更に一歩前に踏み出ると、光輝に耳打ちする。

 

「私の名前はラングランス。聞き覚え程度はあるでしょう? 人間族の敵ですわね。いずれ対峙するのが楽しみですわ。勇者様?」

 

 その言葉を聞いて、光輝の顔色が変わった。教会から教わったその名前は、人間族を虐殺した深人族の長の名前。光輝が敵意を漲らせるのは自明であった。

 

 しかし、ここでこの女の名前がラングランスであると叫んだところで、姿が偽装されている以上、周りは信じないだろう。良くて同名の別人と思われるのが落ちである。ラングランスの容姿までは詳細に伝わっていないし、深人族の長がこんなところにいるはずが無いという先入観が働く。

 

 光輝からすれば、何故ラングランスがハジメと一緒にいるのかは分からないが、敵である事は間違いが無い。しかし、今ここで斬りかかるわけにはいかない。それに、近寄ってみれば分かる。光輝では彼女に勝てない。何故だか、近づくだけで冷や汗が止まらないのだ。

 

 そのまま、黒い口紅をした女は光輝に囁く。

 

「それに、先程から黙って聞いていれば、貴方は彼女達の意志を蔑ろにし過ぎですわ。深海魚が浅瀬に上がると衰弱するように、彼女達には彼女達の生きる道がある。貴方くらいの年齢であれば、聞き分けるのが筋というものです」

 

 ラングランス個人としても、光輝の言い分は気にくわなかった。香織や雫のためと言いながら、光輝は彼女達の事を一切見ていない。自身が妄信する正しさを、二人に押し付けているだけだ。挙句の果てに、ハジメのことを何も知らずに洗脳だの改造だの好き勝手な言い分を連ねるのは聞いていて気分の良いものではない。

 

 しかし、そんなラングランスの言葉も光輝にとっては馬の耳に念仏である。

 

「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

 そして、ラングランスと相対した恐怖でパニック状態となった光輝は突然、聖剣を突き立てて、ハジメに宣言した。聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのは、きっと剣を抜いた後で、同じようにハジメが武器を使ったら敵わないと考え直したから。そして、剣を使って闘い、仮にハジメを殺してしまったら、自分も悪の仲間入りをする事になる。それを避けるための素手での勝負。

 

 しかし、光輝は完全に自分の正義を信じ込んでおり、ハジメやラングランスに不幸にされている女の子達や幼馴染を救ってみせると息巻き、周囲の空気に気がついていない。元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに初めて感じた〝嫉妬〟が合わさり、完全に暴走しているようだ。

 

 ハジメの返事も聞かず、猛然と駆け出す光輝。

 

 ハジメは溜息を吐きながら、『まあ、一発くらいは殴られておきましょうか』という気持ちで待っていると、驚くべきことが起きた。

 

「!? 香織!?」

 

 香織がハジメと光輝の間に割って入り、光輝を細剣で突いたのだ。手加減されているのか、光輝に外傷はないが、それなりの威力だったのか光輝が後方に吹っ飛ぶ。その光景には、ハジメも無言で驚いていた。

 

「さっき、たとえ恨まれてもって言ったよね」

 

 香織は悠々と歩いて、光輝のもとに近づいていく。

 

「こうして剣を突きつけられているわけだけど、さっきの言葉は本物かな?」

 

 意味が分からないという光輝の表情に、香織は無表情で語りかける。

 

「私ね。〝たとえ恨まれても〟っていう言葉、嫌いなんだ」

「……は?」

「戯曲が好きなのに意外かな? でも、嫌いなの。だって、それを言うってことは、私は容易く恨まれてもいい程度の相手って事だもんね」

「ち、ちが……」

「それとも、口ではそう言っといて、本当は恨まれないと思ってた?」

 

 恨みというのは強大な感情だ。その感情は、嵐で船を転覆させることも、相手の娘の舌と手を切り落とすこともできる。プロスペローはアントーニオへの怨みで嵐を起こし、ゴートの女王タモーラはタイタス・アンドロニカスの娘、ラヴィニアの舌と手を切り落とした。

 

「そんなに思いが強いなら、この程度の試練、受けて立つよね? ほら、私を倒して正しさを証明してみれば? 洗脳を解くんでしょう? 魔王に囚われた姫を助けるのでしょう? そんなに手軽に手に入れた宝物ならば、きっと手軽にあしらわれるよ?」

 

 香織は怒っていたのだ。雫をあそこまで苦しめておきながら、全くそれに気付こうともしない光輝。自分の愛に、洗脳だの改造だのと言う言いがかりをつける光輝。果てには、自分を景品扱いした上に野盗まがいの脅迫をハジメに突きつける光輝。

 

 流石に我慢の限界だった。

 

 香織の中で、一つの音が終わりを迎えた。光輝への、幼馴染への情という音が。それはとうの昔に掠れていたのかもしれないが、窮地に陥っているならば助けてもいいという程度の情はあったのだ。しかし、光輝の数々の言動が、それを破壊した。

 

 今あるのは、光輝への憎悪。幼馴染という関係に終止符を打つための演奏をするため、香織は剣を取ったのだ。

 




 あんまり文学は刺し込めませんでしたね。この世界の光輝の言動はこんな感じになりました。正しさへの妄信と幼馴染への執着とハジメへの嫉妬、しかも、ハジメへの嫉妬や負の感情は地球にいた頃からと考えると、それを混ぜ合わせるのが大変で大変で……この辺は他の方の二次等も参考にしています。流石に自分一人で彼を解釈するのは無理です。

 そして、最後は香織が光輝との決闘を受けてしまいました。ここに関しては前から決めていたというか、光輝を精神面で追い詰めるとするならば香織と雫の幼馴染ペアだろうなとは思っていました。そして、ハジメや雫との因縁は香織の方が強いので、香織が決闘する事に。おかげでハジメがほぼ空気でしたね。最近出てきたラングランスよりも空気になるという……

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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