今なんか筆が乗ってるので、この勢いが続く限り……さあ果たしてこのまま最後まで行けるかどうか。
というわけで、どうぞ。
「ここは……どこだ?」
「現在地は……ダメです、全ての計測機器が作動していません。未知の空間としか……」
「ここに来るまでに通ってきた、亜空間みたいなものか……」
今現在、『地球艦隊・天駆』の面々は……各々の乗機や戦艦ごと、どこなのかもわからない謎の空間に飛ばされていた。
見たところは、明らかに通常の宇宙空間でもないようだが、『大マゼラン銀河』からワープゲートをくぐって通った『亜空間』でもないようだった。
同じように、エンブリヲに招き入れられた『時の狭間』とも違う。かつて行った次元の狭間とも違う……全くの未知の空間だった。
『至高神Z』が手のひらをこちらに向けてきた直後、光に包まれたと思えば……ここに転移させられてきていたのだ。
計器の異常ではなく、状況そのものが異常なのだということを、モニターをのぞき込んで確かめた真田副長は、
「我々は、どこか別な空間に飛ばされてしまった……ということか?」
「……少し違う。正確には、おそらく……『閉じ込められた』」
しかし、その斜め後ろで……森船務長に支えられながら立ち上がった、ユリーシャがそれを否定した。
姉であるスターシャが『至高神』の生贄にされ、生まれ故郷である大マゼラン銀河が消滅したショックからは、まだ抜け切れていないようだが……
「閉じ込められた……とは、どういうことだ?」
「この空間には……お姉さま達の気配を感じる。ここはきっと……『至高神Z』の体内とも呼ぶべき空間なのだと思う」
「体内!? ってことは、俺達は……アレに食われたってことかよ!?」
通信の向こうから、総司の驚いた声が響いた。
「……わからないわ。単に閉じ込めただけかもしれないし……あるいは、自発的な協力が得られないと見限って、お姉さまたちのように『吸収』しようとしているのかもしれない……」
「あのデカブツの体内か……それにしても広すぎねえか? 計器による計測ができねえとは言え……どこまで見渡しても壁一つねえぞ」
「体内と言っても便宜的なものなんだろう……まともな空間じゃないんだろうさ」
竜馬と隼人が、周囲の空間を観察しながら……竜馬は若干いら立ち混じりにつぶやいた。
「何にしても、この空間から通常空間に干渉するのは不可能なようだ……ならば、一刻も早く脱出する方法を探さないとな」
「……でも、脱出しても……もう、地球は……」
そう、沈んだ声でつぶやいてしまったシンジ。
それを聞いて、皆、否が応でも現実を直視させられた。
既に『時空融合』は完成し……地球は1つに重なってしまった。その際に発生した次元乱流によって、地上の生命はすべて死に絶え、あらゆる構造物は破壊され……地球は正真正銘、滅びた星になってしまっただろう。
もう、地球に戻っても、助けたかった、守りたかったものは……人も、町も、もう何一つ残っていない。
往復33万6千光年の旅は無駄になり、地球を救うことはできなかった。
今となっては、ナデシコに移して積み込んできた、『コスモリバース』の存在も……むなしいものとなってしまった。結局、役目を果たすことはできなかったのだから。
(……すまない、古代……俺達は……お前に託された地球を、守ることができなかった……お前にもう1度、青い地球を見せてやりたかった……)
真田副長は、ナデシコCの方を眺めながら……声に出すことなく、かつての親友……『古代守』に謝罪した。
コスモリバースシステム……その核ともいえる、起動パルスの部分。
そこに宿っているのが、『古代守』の魂であることに、真田は気づいていた。
それゆえに、魂だけでも地球に連れ帰り……もしかしたら、彼に地球をもう一度見せてやれるかもしれないと思っていたのだ。
……しかし結局、彼はその役目を果たすことすらできないままに……あと一歩のところで、地球は終わりを迎えてしまった。そのことが、真田には悔しくてならなかった。
しかし……その直後、
「……もしかしたら……まだ、間に合うかもしれない」
ユリーシャが放ったその言葉に、それが聞こえた全員がはっとした。
「……ユリーシャ、それはどういう意味? まだ間に合う、って……」
「また、地球を救うことが……ううん、それだけじゃない。大マゼラン銀河も……元に戻して、皆を救うことができるかもしれないわ」
「何……それは本当か!?」
森雪の問いかけへのユリーシャの答えを聞いて、古代進は驚きながらも食いついた。
いや、彼だけではない。今の会話が聞こえていた者達は皆、一様に大きく反応した。
「で、でも……もう地球は滅んでしまったのに……大マゼラン銀河だって、あの映像が本当なら、跡形もなく消滅してしまったんですよ!? それなのに……それが、蘇るっていうんですか!?」
「……もしかしたらだけど……そう」
「……詳しく聞かせていただきたい」
南部の疑うような問いかけにも、はっきりと答えたユリーシャ。
真田は、なおも何か言いたそうな南部を制しつつ、その続きを促した。
「……おそらくだけどこのあたりは今、普通の空間じゃないの」
「ああ……『至高神Z』とかいう奴の体内で、亜空間みたいになってるんですよね?」
「いいえ、ここじゃなくて……この外側の……さっきまでいた、通常の宇宙空間のこと。あの空間も……おそらくは、『至高神Z』の降臨によって、特殊な空間に書き換えられて変容していた」
「特殊な空間……?」
「……私も、お姉さまから聞いたことがあるだけだから、詳しくは知らないけれど……『カオス・コスモス』というもの。原因と結果が混濁した、認識が強い力を持ち、存在を定義する宇宙のこと。……かつての時代には、『天の獄』とも呼ばれていたそう」
「『カオス・コスモス』……宇宙がそうなっていると、具体的にはどう違うのですか?」
「『カオス・コスモス』では、通常の物理法則を超越したことが起こると言われている。この世界の在り方に適した形で力を使えば、それは通常の力をはるかに上回る力となり……逆に、そういった存在に対しては、通常の力では太刀打ちできなくなる」
「あのデカブツにまったく攻撃が通じなかったのは、そのせいか……!」
要するに『至高神Z』は……出現と同時にこの宇宙そのものを、自分という存在に適した形に書き換え……それに基づいて力を使っていた。それにより、理そのものを味方につけて、強大極まりない力をふるっていたのだろう。
そして逆に、その世界に適応していない……あくまで、通常の世界の領域を出ない形で力をふるっていた自分達『地球艦隊・天駆』は、理を味方につけた『至高神Z』に手も足も出なかった。
それこそ、『波動砲』ですら通じなかったほどなのだ……彼らが考えている以上に、その差は絶大……いや、『絶対』のものだったのだろう。
アドミラルが言っていた『次元が違いすぎて攻撃として成立しない』という言葉の意味も、今になって総司たちは理解した。
「けど、逆にこの宇宙に適した形で力を使えれば……この宇宙の特殊性は……そのまま武器になる。おそらく、通常の物理法則では絶対にありえない『不可逆性』すらも、遡及して改変、あるいは回復することが可能になるはず」
「それって……地球を元通りにすることができるってこと!?」
「マジかよ!? もう完全に滅んでても復活させられんのか!?」
「復活……そういえば、ココや年少部の子供達も、死んでいたはずなのに復活したし……もしかしたら……」
アンジュ、ヒルダ、サリアがつぶやいた内容は、『地球艦隊・天駆』の面々の頭の中にしみわたっていき……ユリーシャが語る内容が、夢物語ではないのかもしれない、と認識させていく。
「カギになるのは……おそらく、『次元力』。それを介して、『カオス・コスモス』の法則に干渉することができれば……理を味方につけたり、事象制御による現実の改変も行えると思う」
ユリーシャはそう言うが、それを聞いて、アキトと宗介は気づく。
「次元力……だが、それを扱える機体は、もう……」
「『ヘリオース』と『ソーラーストレーガー』は、どちらも吸収されてしまっている。『ラピュセル』と『アントワネット』は無事だが……あの2機はパイロット認証が施されていて、それぞれミランダとココにしか動かせないはずだな……」
『付け加えるなら軍曹、単に『次元力』を使えるだけではだめでしょう。今回重要になるのはおそらく『事象制御』ですから、最低でもヘリオースかソーラーストレーガーのどちらか、可能ならその両方の力が必要です』
「なんだよ!? じゃあ結局ダメなのか!?」
「諦めちゃだめだ! 何か……何か必ず突破口があるはずだ!」
「舞人さん……」
苛立ちを隠せない勝平に続けて、自らを鼓舞する意味も込めてか、強い口調で言い切る舞人。
その舞人を心配し、祈るようなしぐさを見せるサリーを見て……浜田少年がひらめいた。
「そうだ……サリーちゃんの『イノセントウェーブ』なら!」
「えっ、どういうこと、浜田君?」
「『イノセントウェーブ』には、外部から次元力に干渉して……その方向性をコントロールしたり、相手の力を弱めたりできる力があるんです! ミツルさんは、それが常人の100倍以上あるサリーちゃんは、すごく『次元力』の制御に向いた才能を持ってるのかも、って言ってました!」
「そうか! なら……例の『増幅装置』でその力を強化して、『イノセントウェーブ』でその『カオス・コスモス』とやらに干渉すれば、道が開けるかもしれねえな! なんなら、あの『至高神Z』の無敵っぷりを引っぺがすことも……」
「……いや、難しいじゃろう」
しかし、ウリバタケも一緒になって提唱したそのアイデアを……苦々し気な顔をしながら、ウォルフガングは否定した。
「方向性は悪くはない……だが、圧倒的に力が足りん。宇宙の法則そのものを書き換えてしまうほどの力を相手に、増幅装置を使った程度の力では、いかに『イノセントウェーブ』でも……」
「足りないんですか?」
「ダイターンの『対次元干渉波動光』を使っても、かい? ウォルフガング」
「……バケツ一杯の水では、ボヤ騒ぎは消せても、山火事を消すことはできん。いや、相手が力を及ぼしているのがこの宇宙全体であるなら……多分、規模の差はそれどころではないな」
「そんな……」
ショックを受けるサリー。
そこに追い打ちをかけるような形になることに罪悪感を感じつつも、今度は千鳥かなめが、
「それ以前に……まずはこの空間から脱出しなきゃ、戦うにも法則に干渉するにも、何もできないよ。それには結局……私たちを閉じ込めている『至高神Z』の力をどうにかして破らなきゃ……」
「宇宙全ての法則を書き換えるほどの力を持つ存在を……か」
「そんなの、結局無理に決まって……」
『いや……手は、ある』
その時聞こえてきた声に……聴いていた者達は驚きを隠せなかった。
それは、突然会話に割り込んできたことい所に……その声の主が、『地球艦隊・天駆』の誰でもなかったからだ。
しかし、声自体は知っている相手の声だった。それは……
「ネバンリンナ……あなたなのですか?」
ナインの問いかけにこたえる形で、彼女……システム・ネバンリンナは、肯定の返事をした。
『そうだ……まだ私は、完全に『至高神Z』に吸収されていないがために、意識の一部を切り離してこちらに向け……こうして声だけを届けることができている。言ってみれば今の私は、魂だけの状態、といったところだ』
「魂、ね……機械のあんたからそんな言葉を聞くとはな、ナインのお袋さんよ」
『……陳腐な物言いは自覚しているが……その言い方が一番適切だろうと思えてな。何せ私自身、ここに来れたのは……彼女に案内されてのことだったから』
「彼女……?」
『……皆、ごめんなさい。勝手なことをして……でも……』
「っ!? その声……ソフィア!?」
かなめが驚いたように言いながら……ソフィアが封印されている端末を取り出す。
そこには、画面の向こうで申し訳なさそうにしている表情のソフィアが映っていた。
『吸収されそうになって苦しんでいるあの人……人じゃないけど……その声が聞こえたの。それでとっさに、こっちだよ、って思念を送ってしまったの……』
『それに従って意識を飛ばし、今少しだけ私は、自意識を保つ猶予を手に入れた、ということだ……だが、あまり時間はない。やるならば、すぐに取り掛からねばならん』
「その言い方だと……君が我々に力を貸してくれるのか、ネバンリンナ?」
『……信じろと言っても無理な話だろうがな……だが、それでも構わん。私は私の目的のために……奴を、そして至高神Zを否定するだけだ……』
「どうやって、この空間の封印を解くの?」
真田副長やユリーシャから立て続けにぶつけられる質問に、ネバンリンナは1つ1つ答えていく。
『この空間を強固に封印しているのは、『至高神Z』の絶対的な力によるものだ。ならば、『至高神Z』自体の力の絶対性を奪うことさえできれば、空間の封印も緩むだろう』
「いや、だからそれが無理だって今言って……何か方法があるのか?」
『あの場の状況とアドミラルの言葉から察するに……『至高神Z』は、あの場に揃えられた『材料』を使って作り出されたと考えられる。星川ミツル達12人や、ヘリオースやプロディキウムといった特殊な機体……それら全てがそろっていたからこそ完成したのだろう。ならば……その材料を今から突き崩して奪ってしまえばいい』
「奪う、とは……どうやって? 今述べた者達は、既に吸収されてしまっているのに……」
『完全に吸収されたわけではない。もっとも、意識はもうすでにないゆえ……呼び覚ます必要があるがな。だが、うまくすれば『至高神Z』の絶対性を切り崩せるだろう』
そこでネバンリンナは、『だが……』といったん区切って続ける。
『文字通り命がけになるがな……私にとっても、彼女にとっても。失敗すればもちろん死ぬし……成功しても、我らが我らのままでいられる保証はない……』
「彼女、って……?」
『カギとなるものは4つ。私と、同じく生贄にされたミレーネル・リンケ。万能戦艦ソーラーストレーガー。……そして、その艦内に搭載されているはずの―――
―――『リヴァイヴ・セル』……だ」