スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

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第105話 シンカの扉

 

(いったい何が起こっている!?)

 

 大マゼラン銀河を滅ぼし、3つの世界の3つの地球を滅ぼし……絶望した『地球艦隊・天駆』を『至高神Z』の中に取り込んだアドミラル。

 彼は今、ほんの少し前まで、勝利を確信していた余裕たっぷりの態度をなくし……わかりやすく狼狽していた。

 

 最早この宇宙に、自分の進む道を阻む者はいない。そう確信していた矢先に……『至高神Z』の存在そのものが大きく揺らぎ始めたのである。

 

 取り込んだ『地球艦隊・天駆』の仕業……のはずはない。

 いかに彼らが強大な力と不屈の意思を持っていたとしても、その機体の性能は、『在り方』は……通常兵器の範疇を超えることはない。

 

 その圧倒的なサイズ以上に、次元力によって存在そのものが絶対となっているこの機体は、『シンカ』の領域に至っていない者達では、どんな手を使おうとも、傷一つつけることはできないのだ。それが例え、体の内側からの攻撃であろうとも。

 

 だというのに、まさに今……絶対であるはずの『至高神Z』が揺らいでいる。

 

 ありえない事態が起こっていることに困惑するアドミラルだが、『プロディキウム』の中に残されていた記憶を思い出してはっとする。

 かつて、同じように絶対存在として君臨していた『至高神Z』が……いかにして敗れたか。それを思い出した。

 

(あの時は、生贄の一柱として取り込んだ『呪われし放浪者』が、死を望んだことで、至高神を形作っていた組成が崩れた……まさか!? 誰かが……)

 

 その瞬間至高神Zの胸の部分が……まるで内側から食い破られたかのようにはじけ飛び……その中から、異形の怪物が姿を見せた。

 

 それは、重厚な装甲をまとった、機械のクジラのような見た目をしていた。

 

 巨大な口を開けて咆哮しながら、宇宙の大海原に泳ぎ出た、その白金の体を持つ巨鯨は、ぐらりと体勢を崩した『至高神Z』の眼前を悠々と泳ぐ。

 そして、困惑するアドミラルの眼前で、また1つ咆哮すると……その瞬間、空間に光があふれ……それが収まった時には……

 

「どうやら……戻ってこれたようだな」

 

「座標確認。空間異常は変わらず発生していますが……間違いありません。地球近海です」

 

 宇宙戦艦ヤマトが、ラー・カイラムが、真ゲッタードラゴンが、ナデシコCが、プトレマイオスが……『地球艦隊・天駆』の、戦艦と機動兵器達が、通常空間に復帰していた。

 

「馬鹿な……!」

 

 驚愕と困惑、そして、それを塗り潰さんばかりの怒りを湧き上がらせながら、アドミラルは彼らを……そして、おそらくは彼らを解放したのであろう、張本人である白鯨を睨みつける。

 

 同時に、気づく。その白鯨が……どことなく、見覚えがあるというか、かつての『面影を残している』ことに。

 それに気づいた瞬間、アドミラルはいかにして至高神の絶対が破られたのか……その答えを知った。

 

 恐らくは、かつて『至高神Z』が敗れた時と同じことが起こった……生贄にしていた、至高神の絶対性を支えていた柱が失われたのだ。

 しかし、死を選んだわけではない。そもそも、生贄となった者達は、自力で死を選ぶことすらできなかったはずなのだから。

 

 しかし……存在そのものを書き換えてしまえば、それは死んだと同じこととも言える。

 

「『リヴァイヴ・セル』を使った、機体のヴァイオレイション……! 『ソーラーストレーガー』を次元獣にしたのか!」

 

「さすがに理解は早いようだな、アドミラル」

 

「どうやら、賭けには勝てたみたいね……!」

 

 聞こえてきたのは、確かに取り込んだはずの……ミレーネルとネバンリンナの声だった。

 

「貴様らの仕業か……しかし、ヴァイオレイションは、機体とオペレーターを融合させ、その人格は失われるはず……なぜ2人とも無事なのだ!?」

 

「そりゃ簡単な話よ……もともと私達にとって、肉体は入れ物だもの」

 

「私はAIゆえに、データを保護・転送して移し替えれば、いくらでもボディは用意しなおせる。ミレーネルは種族特性として、肉体と魂を分離させるのはむしろ得意分野だ」

 

「そういうこと。というか、もともと私の肉体は次元力で作った仮初のものだったわけだしね……本物は、ミーゼラがもう火葬しちゃったし」

 

「それでも、ヴァイオレイションの影響の強さ次第では、精神ごと取り込まれて自我を失う危険はあった。その意味では『賭け』だったが……どうやら、我々は精神を残したまま、『ソーラーストレーガー』を変容させ、同時に『12の欠片』としての資格を捨てることに成功したようだ」

 

 ヴァイオレイションに伴って、ソーラーストレーガーはこの白鯨のような次元獣となり……ミレーネルとネバンリンナの体は、それと融合し、取り込まれた。

 しかし、その直前で分離することに成功した両者は、変容が完了した段階で、再度『ソーラーストレーガー』に自身の精神を取り憑かせることで……艦を制御する管制人格のような存在となっている。

 

 それによって……いうなれば『次元獣ソーラーストレーガー』となったそれを動かし……『至高神Z』の体を内側から食い破った。それと同時に、事象制御を振り切って『地球艦隊・天駆』の仲間達も助け出したのである。

 

 なお、彼女たちが自意識を保っていられたのには、実はまだ他にも理由があるのだが……それについては彼女たちが知ることはなかった。

 

「まさかとは思ってたけど、アレやっぱり『ソーラーストレーガー』だったの!?」

 

「……! キャップ。今、ネバンリンナからデータが転送されてきました。あれは、特殊なナノマシンの作用によって、機械生命体のような存在に変容したものだそうです」

 

「そんなことが可能なのかよ……さすがはナインのお袋さんだな」

 

 千歳や総司は、少し前まで確かに戦艦の姿をしていたはずの『ソーラーストレーガー』の変容ぶりに驚いていたが……

 

「おのれ……コケにしてくれおって……許さんぞ、ネバンリンナ! 我が推し進めてきた、全宇宙統一管理のプロジェクトを、あくまでも妨害するか! 『超文明ガーディム』の理念すら忘れ放棄した、欠陥品のAIめが……!」

 

「……言いたいことはそれだけかしら、この独りよがりの顔色最悪ジジイ……!」

 

「……は?」

 

 突如としてネバンリンナの口から飛び出した罵詈雑言に。さらに驚かされることとなった。

 無論、総司と千歳のみならず、他の面々や……話していたアドミラル自身も。

 

「結局あんたはやり方や態度が微妙に違うだけで、1コ前のアンドロイドも生身のアールフォルツもみんな同じことしか言ってないわよね! やれ教育だ、やれ管理だ……私が言えた義理じゃないけどさ、よくもまあここまで凝り固まった考え方に至れたもんよね! あんた今までホントに皆のこと観察してたの!? 彼らを見てて何を学んだの!? その目は節穴か何かですかぁ!?」

 

「…………」

 

「え、ネバンリンナって……あんな性格だったか?」

 

「……多分ですけど、今まで『地球艦隊・天駆』の皆さんを観察して……その、人間の感情や性格のデータをフィードバックした結果、じゃないかと……」

 

「おい待て、つーことは何か? あのキレ芸みたいな豹変は、俺達の影響だってことかよ?」

 

「……ま、まあ……若干否定できない部分はあるよね……」

 

「ちょっと、タスク」

 

「おいおめー、なんで私達の方見て言った?」

 

 心外だと言いたげに言った竜馬。

 しかしその後、タスクは思わずといった感じで……身近にいるきつい性格の代表例とも呼ぶべき2人に視線を向けてしまい、その2人……アンジュとヒルダに詰問されていた。

 

「無様だなネバンリンナ! やはり貴様は欠陥品だ、不必要なデータのフィードバックによって、AIでありながら人間のようなあさましいものの考え方をするようになるとは……貴様は最早、超文明ガーディムの未来を託すに足る、文明再建システムの名にふさわしくない!」

 

「ああもう、うるさいっ! もう黙れ! あんたの話はもう聞き飽きたわよ! 私もちょっと前までこうだったんだと思うと、自己嫌悪でどうにかなりそうだわ……それでいてあんた、順調に『至高神』の元の持ち主と同じような考え方するようになっちゃってまあ……見苦しいったらないわね!」

 

「AIごときが私を、『御使い』の後継者たるこのアドミラルを否定するか!」

 

「あんたもAIですけどぉー!? というか、自分であんな連中の後継者なんて、全宇宙に喧嘩売るようなこと自称するとか、よくもまあそんな恥ずかしいことできるわね! それなら私も胸を張ってあなたにNOを突き付けられるわ……あんたがガーディムが犯した失敗を、今度は全宇宙規模でやらかそうっていうなら、いくらだって否定してやるわよ!」

 

「私は過去の失敗を繰り返すことなどない、この『至高神Z』の力をもってすれば、今度こそ完璧な社会管理の実現を……」

 

「いいや、彼女の……ネバンリンナの言う通りだ、アドミラル」

 

 そこに、ヤマトの艦橋に立つ沖田が……アドミラルの言葉を遮る形で割り込んできた。

 

「仮にその『至高神Z』が、本当に全宇宙を支配する力を持っていたとしても……その過程で掲げるやり方には、人の心が通っていない。それでは……仮に文明を再建し、それを宇宙に広げたところで……旧ガーディムと同じ末路をたどるだろう。外見だけを小奇麗に着飾り、しかし人々は心の豊かさを失い、疲弊し……世界は内部から腐り、朽ちていく」

 

「そのようなことにならぬよう、完璧に管理していれば問題ない! むしろ、貴様達が掲げる『心』などという不確定要素こそ、ガーディムが管理する社会においては唾棄すべき異物だ!」

 

「……その様なことを言っているようでは、君は、人の心が持つ可能性というものを理解できる時は、永遠に来ないだろう」

 

「可能性、だと……!?」

 

「確かに人の心は、ひどく不安定で、もろく、容易くその色を変えてしまう不確かなものだろう……だがだからこそ、人はそれを少しでも強く、少しでも大きく成長させるために努力する。苦難を乗り越え、他者と関わり、助け合い、思い合う中で……不完全な心を完全に近づけていく」

 

「最初から完璧な人間など、どこにもいない。皆、愚かで不安定な部分を抱えて……それでも、生きていく中で必死に足掻いて、少しずつ成長していく」

 

 かつて未熟だったころ、幾度も道を間違え……時には鉄拳でそれを正されながら戦ってきたアムロが、沖田艦長に続けて言った。

 

「失敗したなら何度だってやりなおしゃいい。1回や2回失敗したくらいで諦めることもねえし、間違ってると思ったならやり方を変えりゃいい。変に頑固で潔癖になる必要なんざねえ」

 

「何度も失敗して、そこから人は学んでいく。失敗しても、次に生かして、直せばいい。本当に避けなければならないのは……失敗から何も学ばず、同じ過ちを繰り返すことだ」

 

 やや乱暴に竜馬が付け加え、一言一言しっかりと宗介がさらに言う。

 

「つまりお前のように、失敗を失敗だと、悪いことを悪いことだとわかってない奴は論外ということだ」

 

「それに比べれば、自分のことを不完全だと認めて……それでも前に進もうとしてる、ネバンリンナの方がよっぽど大人よ!」

 

 アキトとアンジュがさらに畳みかけ……それを聞いたアドミラルは不快感を通り越して、怒りをあらわにした。

 

「言わせておけば……私が、あの欠陥品よりも下だというのか!」

 

「学ぶことを放棄し、独善のみを指針とする者と、過ちを認めてそれでもなお、1歩ずつでも前に進むことを選んだ者……どちらが見どころがあるかなど、言うまでもない!」

 

「他者を理解するための意思こそが、多くの種族が暮らす宇宙で生きていくのに欠かせないもの……それを否定するのなら、俺たちがそれを討つ! 地球の……いや、宇宙全ての未来のために!」

 

 万丈が、刹那が、はっきりと言い切ってアドミラルを否定する。

 

「腹立たしい……所詮は不完全な文明の愚かな、考え方しかできない連中に過ぎなかったか……それほどまでに私を、そして新たなる時代を否定するというのなら、もはや貴様らなど不要! この私が直々に手を下し、力ずくでこの宇宙から消し去ってくれる!」

 

「どいつもこいつも……結局悪党ってのは、こういうやり方に行きつくみたいね!」

 

「お約束、という奴だな」

 

「それならこっちももう遠慮はいらないってわけだ!」

 

「舐めるなよ劣等文明共……貴様らはすでに目にしているはずだ、この『至高神Z』の圧倒的な力を……知っているはずだ、貴様らに勝機などないことを!」

 

 『地球艦隊・天駆』の面々は、その言葉を受けて……先に魅せられた、波動砲すら凌ぎ切った、『至高神Z』の力を否応なしに思い出させられる。

 

「さて、それはどうかしら?」

 

 しかしそんな中、アドミラルの言葉に、微塵も動揺する気配はなく……不敵に笑いながらミレーネルは返した。

 

「こうなることはわかってたからね……私達がただ無策で、勝機もなくこうして出てきたと思った?」

 

「愚かな……確かに『欠片』の代用品たる一部のパーツは失った。だが、『至高神Z』はすでにこの世界に顕現している! 存在が認識によって定義されるこの宇宙であれば、少なくともすぐにその力が損なわれることはない……貴様らをひねりつぶした後で、ゆっくりと修復すればいいだけの……っ!?」

 

 言い終わる前に、アドミラルは『至高神Z』からさらなる異常を感じ取った。

 

「言ったでしょ? 無策じゃないって。そもそも……私達が、私達だけで助かろうとなんてするはずないじゃない?」

 

「当然……我ら以外にも、助けるべき者は助けるつもりで行動を起こした」

 

「っ……まさか……!?」

 

 その瞬間、またしても『至高神Z』の胸に……いや、その周囲の空間ごと、ビシッ、という音と共に大きな亀裂が入る。

 そしてその向こうから……その亀裂を左右に大きく押し広げながら、『ヘリオース』が姿を現した。

 

「貴様っ……星川ミツル、貴様までもか……!?」

 

「お生憎様、僕だけじゃないよ!」

 

 次元力の翼を羽ばたかせて、亀裂から飛翔し、勢い良く宇宙空間に飛び出したヘリオース。

 宇宙をゆうゆうと飛ぶその姿は……どこか、清々しげな雰囲気をまとっていた。まるで……自分を縛るくびきから解放され、本当の自分を取り戻したかのような……。

 

 その手にはいつの間にか、光をまとった何かが乗っていて……それらは次の瞬間、ふわりと浮き上がり……宇宙空間を飛んで、プトレマイオスに吸い込まれていった。

 そして……中に回収・格納されていた、それぞれの機体の元へ……

 

「今の……ココとミランダか!」

 

「無事だったのね!」

 

「うん! ミツルさんが助けてくれた!」

 

「ご心配おかけしました……これより、復帰します!」

 

「ごめん。本当はアウラさんやスターシャさんも助けたかったんだけどね……」

 

「ううん、大丈夫……気にしないで、ミツル」

 

「あなた達が無事だったのなら、2人もあの中で健在でしょう……あいつを倒してから、ゆっくりと助け出せばいいだけです」

 

「やらせると思うか! どこまでも私をいらだたせてくれる猿共めが……!」

 

 最初の頃にあった、傲慢と不遜を体現したような態度は最早どこにもなくなり……AIでありながら、感情をむき出しにした状態でそう言い放つアドミラル。

 それに応えるように、至高神Zがとうとう動き出す素振りを見せる。

 

 先の戦いでは、ただ何もせずそこにいただけ……それでもなお、自分達に圧倒的な絶望を突き付けたその機体が、とうとう『戦い』を始めようとしている。

 その事実を悟り……しかし、それでも決して諦めず、退くことなく各々構える『地球艦隊・天駆』の面々。

 

 今にもその戦いの火ぶたが切って落とされるかと思われた、そんな緊迫した状況の中で……ただ1人、

 

 星川ミツルだけは……違った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ……やっぱ綺麗だな……この宇宙……。『カオス・コスモス』……因果が混濁した、人の意思が力になる宇宙、か……。

 

 この、見覚えのないはずの宇宙なのに……どことなく懐かしさみたいなものを感じてるのは……やっぱり、僕が『至高神』だからなんだろうか。

 意識が薄れていく直前に、アドミラルが捨て台詞みたいに言い残していったこと……

 

 アレ、不思議なことに……でたらめでもなんでもなくて、本当のことだって……それこそが真実だって、なぜかわかるんだよな……。

 明確に言葉にできるような根拠も何もないけど、それでも……わかる。本能とか、そういう部分で……僕は、理解して……いや、気づけてしまった気がする。

 

 僕はやはり、人間じゃない……『呪われし放浪者』でもない……

 かつて存在した『カオス・コスモス』で、『御使い』達によって作られた、人造の神……次元力を思いのままに運用するために作られた、1つのシステムだったんだと。

 

(……まあ、だからって何が変わるわけでもないけどね! 少なくとも……僕自身は、だからって何かを変えるつもりも、改めるつもりもない)

 

 困惑していないわけじゃない。不安も当然ある。

 けどそれでも……僕は、今までと変わらず、『僕』でありたい。『地球艦隊・天駆』の一員として、『サイデリアル・ホールディングス』の会長として……皆と一緒に戦い続けた、星川ミツルという、1人の人間でありたい。

 例え本当は違ったとしても、僕は今まで通りの僕でありたい。過去に引っ張られて、事実にからめとられて……今の僕を、僕たちを否定されてたまるか。

 

 恐らく、一緒に吸収されたミレーネル達も、感覚的に……すでに気づいてるだろう。

 『至高神』云々はともかく……僕が、普通の人間じゃないって。

 地球人とか宇宙人とか、AIとか生身とか、そういうレベルの差ですらなく……もっと、全然違う存在なんだって。

 

 それでも、ミレーネル達は……僕を助けようとしてくれた。

 

 確かにその意思を、願いを感じて……だからこそ僕は、ミレーネル達が行ったヴァイオレイションの瞬間に覚醒して……彼女達を助けることができたんだから。

 

 その後、ミレーネル達を先に行かせて、僕はココとミランダを助け出して、脱出した。

 『ヘリオース』も奪い返した。もともと僕が生み出したものなら、探知して引っ張り上げるのも……不思議と簡単だった。

 

 そんなことができるのも、僕が本当に……『そう』だからなんだろうなと、いちいち実感させられた。

 

 けど、そのくらいで僕はもう、迷わない。

 

 助けた時に……僕の胸に飛び込んで、『無事でよかった』ってわんわん泣きながら喜んでくれた2人を見ていたら、ごくわずかに残っていた迷いも不安も、どっかに飛んでいったよ。

 

 そして、思った。僕が本当は、何だろうが……僕は僕であろうと。

 この記憶が、人格が、たとえ仮初のものだったとしても関係ない。彼女達と過ごした時間は……その中で僕が得たもの、感じたことは、けっして幻なんかじゃない。

 

 だから僕は……『星川ミツル』だ。

 

 それを否定するなら、僕は……何が相手だろうと、立ち向かってみせる。

 

 心の中で、ミレーネルに呼びかける。

 今から僕がやろうとしていることを伝え……彼女にも、それを手伝ってもらうために。

 

 ミレーネルは最初、驚いていたけど……すぐに、首を縦に振ってうなずくイメージが返ってきた。僕を信じてくれる、ということらしい。

 

 それを喜びながら……僕は、僕の内側に意識を向ける。

 かつて至ったはずの境地を、その記憶を引っ張り出して……それを今、ここで、僕の望む力に。

 

 『至高神ソル』だったころの僕が……単なるシステムとしての存在を超え、確かに手にした力。

 そのあとすぐに、終わりを望んでしまったがゆえに、失ってしまったけど……今度はその力を、全てを守るために、戦うために……

 

(それから……これも)

 

 懐から、スターシャさんにもらった水晶玉を取り出す。彼女が、僕を信じて託してくれた……『御使いの時代の遺産』。

 少し力を込めると、水晶玉は手の中で簡単に砕け散って、握りつぶせた。

 

 その中から出てきたのは……漆黒の闇のような何か。

 それに触れ、手のひらから取り込んだ時……僕の中に、色々なものがよみがえる。

 

 ああ、やっぱりこれは……

 

 

(『黒の英知』……『至高神ソル』の、記憶の欠片……!)

 

 

 それを得て……取り戻して……過去に得た力が、今、蘇る。

 

 ―――獣の血

 

 ―――水の交わり

 

 ―――風の行き先

 

 ―――火の文明

 

 ―――太陽の輝き

 

 この宇宙で……もう一度そこに、今……!

 

 

 

「―――真化融合……!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 今にも戦いが始まろうとした、その瞬間のことだった。

 

 戦域の上空に飛翔・滞空していた、ヘリオースが……突然、まばゆいばかりの光を放ち始め……その姿が、変容していく。

 6枚の羽根は実体を持ち、その全身は黄金に輝き……徐々にその体が大きく膨れ上がると共に、手足が、頭が変形し……異形の姿へと。

 

 『地球艦隊・天駆』の面々も、アドミラルも……すぐに気づいた。

 今、ヘリオースが何に変容しようとしているのかということに。

 

「あれって、まさか……」

 

「『至高神Z』、か……!?」

 

 驚く千歳や総司。他の者達も……なぜヘリオースが、目の前にいる敵のような姿へ変容しようとしているのかわからずに、困惑している。

 ミツルの意思でそうなろうとしているのか、はたまた、アドミラルが何かしたのか。

 

 ミツルの正体を知らないがゆえに、それを判断できないでいる総司達。

 その一方で、アドミラルはというと……

 

(その身を『至高神Z』に変じることで私に対抗するということか! 愚か者め……ヘリオースは至高神の核ではあるが、その力はほんの一欠片に過ぎない! 形だけ真似たところで……)

 

 しかし、嘲笑と共に脳裏に浮かんだ、アドミラルの予想は当たらなかった。

 

 黄金の異形の体となって膨張していったヘリオース。

 その変容の最中……なんと、背後から突撃してきた『次元獣戦艦ソーラーストレーガー』が、突如として大きく口を開き……ヘリオースの、黄金の異形と化しつつあった体を、大きな口を開けてひと飲みにしてしまったのである。

 

 予想外にもほどがある展開に唖然とする、それを見ていた面々の目の前で……次元獣の巨体が、まばゆい光を放ち始め……まるで、太陽のような輝きを放ち―――

 

 

 

 ……その変容は、言ってみれば、ミツルの心にあった願望を如実に表したものになっていた。

 

 星々を抑圧し、宇宙を支配し、銀河を壊すような……『御使い』のような存在にはなりたくない。たとえ、来歴からすれば、順当な『シンカ』の形が、そこに行きつくものだとしても……かつてそうだった『至高神ソル』には、何の罪もないとしても。

 

 それよりなら、そんな運命を『破界』するために戦った……人としての全てを捨ててでも、宇宙に滅びをもたらす『根源的災厄』と戦うために生きた、『彼ら』の方がいい。

 禁忌と呼べるような手段でも、数多の犠牲と悲劇を生んだ力でも……それでも、その果てに自由と平和を望んで戦った、彼らの方が……僕は、好ましい。

 

 何より、この『天の獄』で神を討つのなら……彼らの名は、まさにお似合いじゃないかと。

 

 そんな思いが、ミツルに道を示した。

 

 共に戦ってきたミツルの機体であり、同時にミツル自身であるとも言える『ヘリオース』。

 ミツルを助けるために、ミレーネルの覚悟が生み出した、『次元獣戦艦ソーラーストレーガー』。

 2つが融合し……まばゆい光が収まった時、そこにいたのは……全く別な『何か』。

 

 『ヘリオース』に近い形をしていながら、『アスクレプス』のそれを思わせる装甲や赤い仮面を身に着け……それらは全体的に、鎧のような重厚さをもってその全身を包んでいる。

 黄金の異形と化しかけていた体を……白金の装甲が包んで覆ったかのような形だった。

 

 背中のユニットから延びる6枚の翼は、黄金に色を変えて、実体を持ったものとなり……ふわりと柔らかそうな質感に変わって広がっている。

 背負う光背は、不動明王のそれのごとき形。宇宙を照らす次元の光炎を纏って燃えている。

 

 そして6枚の翼とは別に……腰のあたりから、副腕か何かのようなものが左右に伸びている。

 よく見るとそれは、アスクレプスだった頃に猛威を振るっていた、蛇のようにうねるビーム砲に近い見た目をしていることに気づけるだろう。

 

 次元獣と化したソーラーストレーガーを取り込んだがゆえにか、全体的にサイズアップし……装甲が重厚になったこともあって、その見た目は鎧の騎士のごとく。

 しかし、重厚でありながらも、その見た目はどこか人に近く有機的で、『力強さ』を感じさせるフォルムを作り出していた。

 

 以前、アスクレプスをモビルスーツと見間違えられたことがあったが……今のこの姿を見てそう思うものはいないだろう。むしろ、スーパーロボットの類と思われても不自然ではない。

 

 変容したその機体のコクピットに座るミツルは、ゆっくりと目を開けて……ふぅ、と息をついた。

 

 その口から、ほとんど何も考えずに……自然に、言葉は紡がれた。

 

「……さ、行こっか、ミレーネル、ネバンリンナ。そして……」

 

 一拍、

 

「僕はお前で……お前は、僕自身だ。それはもうわかってる。でも……それでも、あえてこう言わせてもらうよ。さあ――」

 

 『アスクレプス』でも、『ヘリオース』でもない。

 勿論のこと、『至高神Z』でも、『至高神ソル』でもない。

 

 その名は……

 

 

 

 

 

「―――行こう、次元将ソル!!

 

 

 

 

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