「往生際の悪い奴め……!」
「それを言うのは今更ってもんだろ……っ!」
自爆のためのエネルギーをため込み続けるアドミラルと『至高神Z』。
それを阻止せんがために、次元牢を介して力を抑え込むミツルと『次元将ソル』。
2つの力は拮抗するがゆえに、一進一退の攻防となっているが、繊細な次元力操作を要求されているミツルに対し、半ば力押しで暴走させればいいという状況であるがためか、徐々にアドミラルが押している。
そのことを2人もまた悟っているようで、アドミラルは妨害に苛立ちつつも勝利を確信した笑みを浮かべている一方で、ミツルの表情には余裕がない。
「このレベルまで高まった次元力を抑え込むのは貴様にはもう不可能だ! それこそ、私自身でも止めることなどできん……無駄な抵抗は恐怖を長引かせるだけだぞ? 先ほどから何やら企んでいるようだが……小細工で止められるような規模ではないということもわからんのか?」
「そんなもん、やってみなけりゃわかんないだろ……!」
「声に力がなくなってきたな。そろそろ限界か? それとも、やはり不安はぬぐえんか? 無理もない……至高神であるお前は、いわば誰よりも次元力に造詣がある1人。もはや滅びの運命を避けえぬことを、本能ではきちんと理解して…………む?」
「……っ!」
言い終わる前に、何かに気づいたらしいアドミラルが言葉を切る。
それと同時に、ミツルも何かに気づいて視線を横に向けた。
両者が見る先にあったのは……『地球艦隊・天駆』の旗艦である、宇宙戦艦ヤマト。
それが、その艦首をぴたりと『至高神Z』……の、入っている次元牢に向けている光景だった。
その瞬間、ミツルはアドミラルを抑えていた次元牢を解除し、その場から離れてヤマトの前を開ける。
アドミラルは、彼らが何をしようとしているのか悟って、笑みを浮かべる。
「なるほどな……そうか、『波動砲』か。確かに、『真化融合』状態で放つ波動砲であれば、通常時よりもはるかに大きな力を発揮するだろう……それをもって私を、暴発する前にエネルギーごと消し飛ばそうと考えたか……浅はかだな、地球人共」
しかし、その笑みは賞賛や関心ではなく……嘲りの笑みだった。
状況を正しく理解できていない地球人達をあざ笑い、憐れみすら覚えながらアドミラルは残酷な事実を言葉にして突きつける。
「いいだろう、撃ってくるがいい。私は逃げも隠れもしない。よく狙え、外すなよ。貴様らが希望を託したその最後の一撃、この『至高神Z』に見事撃ち込んでみせろ」
(そして……何もかも無駄だということを知り、絶望の中で死んでいくがいい!)
いかに『真化融合』の力を加えた『波動砲』であろうとも、今まさに暴走しようとしている次元力を打ち消すことはできない。
むしろ、その衝撃が引き金になってエネルギーが解放され暴走、そのまま銀河の終焉につながるような大爆発が引き起こされることだろう。『波動砲』の発射、それはすなわち、地球人がその手で宇宙消滅の引き金を引くことに他ならない。
それを理解できていないのだと、地球人の無知を嘲るアドミラルは、わざわざ狙いやすいようにエネルギーの奔流を一時的に抑え込み、歓迎するように『至高神Z』の両手を大きく広げて『撃ってこい』とアピールまでしてみせた。
より一層勝利を確信し、終焉の時を今か今かと待ち構えるアドミラル。
その彼の知らぬところで……
『用意はいいか、沖田艦長……それに、ルリ艦長』
「もちろんだ、ネバンリンナ」
「ここまで来たら泣き言なんて言ってられません。いつでもどうぞ」
『よし。それでは……ミッション・スタート!』
アドミラルのあずかり知らぬところで、彼らの本当の作戦がとうとう動き始めていた。
その数秒後、ヤマトの艦首に設置されている砲口を隠す最終セーフティが解除。その内部に続く口が開かれ……『砲』としての役割を果たす準備が整う。
そして、そこに収束していく波動エネルギーの光。
それを見てアドミラルはやはり笑いをこらえられない。
ああ、とうとう彼らはすべてを終わらせてしまう。希望を託した最後の一撃で、絶望する暇もなく訪れる終焉を呼び込んでしまう。
生身の人間なら直視するのもつらいであろう輝きを放つヤマトの砲口。
今か今かと、アドミラルは最後の瞬間を……自らの死と、そして決定的な勝利が同時に訪れる瞬間を待ちわびる。
―――そして、
「波動砲……発射!」
「波動砲……てぇ!!」
号令と同時に放たれた極大のエネルギー砲。
射線上にある全てを粉砕しながら、一直線に『至高神Z』めがけてやってくる。
視界を埋め作る光に、機械であるがゆえに眩しさに目がくらむことのないアドミラルは、その最後の瞬間を見逃すまいとばかりに目を見開いて……
(さらばだ、『地球艦隊・天駆』……さらばだ『次元将ソル』! この戦い、私の勝ちだ!)
そう、勝利宣言をしながら、破壊の光に飲み込まれ―――
―――なかった。
「…………ん?」
機械の体が砕け、溶け、蒸発していく感触がいつまでたっても来ないことをいぶかしむアドミラル。
波動砲の光は最早目前に迫ってきているにもかかわらず、最後の瞬間が一向に来ない。
もしや、機械だというのに走馬灯でも見ているのか、それで時間が引き伸ばされてゆっくりに感じているのか……などと一瞬考えたアドミラルだったが……即座に違うと悟る。
同時に、自分が予想もしていなかった異変が起こっていることに気づく。
確かに放たれた波動砲。
それは、直撃すれば間違いなく『至高神Z』を粉砕し……しかし同時に、ため込まれたエネルギーを暴走させ、全てを終わらせるはずだった。
しかし、それが起こるまで、あと0.5秒もないであろうはずが、なんと……
「……何だ、これは? 時間が……止まっている!? しかも、何だこの……尋常ではないボース粒子反応は? 過去や未来へのゲートをつなぐ時と比べてすら……!? 地球人共、一体何をした!?」
『気づくのが遅いのよ、バーカ』
答えの代わりに突き付けられたのは、ネバンリンナ(やさぐれver)の、遠慮のない罵倒だった。
☆☆☆
時は、ほんの少し遡り……波動砲、発射直後。
『まだだ、まだ……まだ……今!』
「ルリ艦長!」
「はい。ジャンプ」
波動砲の着弾直前、ナデシコCのボソンジャンプ機構がルリ艦長によって作動させられる。
しかし、ナデシコC自身が跳ぶわけではない。ボース粒子の奔流と共に時空を超えたのは……ネバンリンナの戦闘用ボディである『アーケイディア』だった。
それが、迫る波動砲と、その目標である『至高神Z』……その両者の中間に、挟まれるようにして出現。
そのままでは0.5秒後には、波動砲の直撃に飲み込まれて消滅してしまうだろうが、それよりも早く『アーケイディア』……ネバンリンナは、己の演算能力をフル稼働させて、時空転移の能力を起動させる。
少し前に完成させたばかりの、過去と現在をつなぐワープゲートを作り、3000年前のガーディム第8艦隊を呼び寄せた超技術……それに、さらに次元将ソルの次元力を足した強化版。
しかし、今回の目的は、過去につながるゲートを作ることではなく……その空間そのものを過去と『つなげ続ける』ことだった。
混沌極まる宇宙『カオス・コスモス』だからこそ可能な荒業。
空間そのものを、ボース粒子によって時間を超えさせ過去と結びつけ、次元力を補助に使ってそれを持続させることにより……未来に進ませない。
すなわち、疑似的にその周囲の空間の時間を止める。
今、『アーケイディア』を中心とした周囲の空間は、あらゆる事象が発生に至らない、起こるはずの結果に行きつくことができない状態になっていた。
波動砲はいつまでも『アーケイディア』や『至高神Z』に当たらない。
『至高神Z』はいつまでもエネルギーを解放できず、自爆できない。
いかなる終わりも、いつまで待っても訪れない。
また違う言い方をすれば、今のこの状況は……『終わりがないのが終わり』。
多元世界になぞらえて言うなら、それはある種の……『時の牢獄』とも言えた。
「小癪な真似を! 無駄だネバンリンナ、意表を突かれたのは認めるが、これも含めて所詮は時間稼ぎにしかならん! いかに時空間を捻じ曲げるようと、『至高神Z』が臨界に至れば、そのエネルギーは銀河をも消滅させる規模のそれだ! それに太刀打ちできるはずもない、体感時間にして、ほんの数分程度、寿命が延びただけだ!」
『そんなこと言われなくてもわかってるわ。こっちは……その数分が欲しかったのよ』
「何……どういう意味だ!?」
『説明するより、あんたがその目で見なさい!』
言い放つネバンリンナの周囲で、ボース粒子の満ちた空間はすでに、『至高神Z』のみならず、周囲の宙域をも巻き込んだ範囲の疑似的に時間停止させる結界を作り出すに至っていた。
そして、その領域の外側……宇宙戦艦ヤマトの甲板の上。
というより、波動砲の発射口である、艦首の上に……それは立っていた。
(『次元将ソル』!? 何をするつもりだ……? それに、あ奴が手に持っているのは……馬鹿な、なぜあんなものを……)
「『コスモリバース』だと……?」
「認めるよ、アドミラル。まだ未熟な僕じゃあ、いくら『至高神』としての力を持っていても、お前の自爆を止めることはもうできない。そのエネルギーが、宇宙の全てを破壊していくのを止めることも、できない。けど……できないなら、それはそれでいいんだ。だって―――
―――破壊された後に、速攻直せばいいんだから」
「何……!?」
言うと同時に、次元将ソルが手に持ったコスモリバースのカプセルが光を放ち始め……その力が周囲一帯の宙域に広がっていく。
本来ならそれは、3つの地球を元に戻すために力を発揮するはずだった希望の装置。
しかし、地球そのものが融合し滅んでしまった今となっては、その力によって3つの地球を救う機会は永遠に訪れない……はずだった。
だがミツルとネバンリンナ、それに彼女が声をかけた、『地球艦隊・天駆』の面々の手によって改修されたコスモリバースは、それとは別な形で地球を、いや宇宙を救うべく力を発揮し始める。
『お前が知っているかどうかは知らんが、『コスモリバース』は、星のエレメントの力を媒介にし、時空を超えた波動を解き放つことでその星の環境を回復させるというものだ。ならばそれを応用すれば……星ではなく宇宙のエレメントを使い、破壊された宇宙そのものを回復させることも可能だと思わないか?』
「なんだと……馬鹿な、そんなことは不可能だ! イスカンダルの言う『エレメント』という物質は、生命が存在する星にのみ発生する物質のはずだ! そうでない星や、ましてや宇宙空間そのものに存在するはずもないし……仮にそれがあったとしても、それを『コスモリバース』に加工するのには、イスカンダルの技術と環境が不可欠のはず! その場で宇宙を回復させることなどできるはずがない! そもそもそれは、地球専用に調整された『コスモリバース』だろうが!」
『そうだな、本来ならお前の言う通りだ……だが、コスモリバースと、もう1つ……元々我らが行おうとしていた『時空修復』の理論を組み合わせれば、それも可能となる』
「時空修復……『御使い』の時代を終わらせ、至高神Zを因果地平の彼方へ追放した、忌まわしき次元の奇跡か!」
簡単に説明すれば、『時空修復』とは、『時空振動』によってねじ曲がり、あるいは破壊されておかしくなった世界を、あるべき姿、元の状態に回復させるための手段である。
かつて『御使い』が君臨していた『多元宇宙』という時代ないし状況もまた、『超時空振動』という超弩級の時空振動によって、多数の次元世界が融合した末に引き起こされていたもの。それを当時の地球の戦士達が『超時空修復』によって正常な状態に戻した。
同じことを、『コスモリバース』も組み合わせて行うというのが、ネバンリンナの計画だった。
『貴様の『至高神Z』による銀河の破壊は、単にそれだけの破壊力をぶつけて引き起こすわけではなく、ある種の権能のようなもの……そしてそれは、エネルギーを暴走させているとはいえ、今回の『自爆』も原理的には同じだ。細部は違うとはいえそれは、『時空振動』によって、次元境界線が崩れ、世界そのものが存在できなくなって『破界』される、という意味ではな。ならば……』
「お前が『破界』した端から、『時空修復』で宇宙そのものを『再世』していけばプラマイゼロってわけだ! エネルギーの総量ならこの『次元将ソル』だってお前には負けてないし、『コスモリバース』を媒介として使える分何なら余裕がある。『コスモリバース』の力を羅針盤代わりにして指向性を持たせて発動させてやれば、相乗効果で回復の機能は破壊されるそれを上回る……ってネバンリンナが言ってました」
『言いました。自爆でも何でも好きにするがいい。破壊した端から私達が直してみせる。……それこそ、完全以上に完全な状態にまで、な』
「馬鹿な……そんなことが、できるはずが……!」
「だからそれは」
『今から見せてやる……っつってんでしょうが!』
そして、話している間に準備が完了したらしい。
コスモリバースの光が宇宙全体を照らすように広がっていき……それと同時に、閉じ込めていた『時獄』が解除され、ネバンリンナが停止させていた時間が動き始める。
このままではまずい、と動こうとしたアドミラルだったが……時すでに遅し。
動き始めた時間……当然、目前に迫っていた波動砲は直撃(ネバンリンナは退避済み)。
臨界一歩手前にまで来てしまっている『至高神Z』は、ヤマトの『波動砲』の巨大なエネルギーの直撃が最後の一押しとなって……全てのエネルギーを開放してしまう。
そして、宇宙の、次元の全てを崩壊させる力が地球圏を一瞬で飲み込む……が、それとほぼ同時に、コスモリバースと『時空修復』の力が合わさった光もまた広がっていく。
宇宙が『至高神Z』によって『破界』される。地球も、星々も、何もかも無に帰していく。
そしてそれらは、青い光によって塗り潰され、刹那よりも短い間にそれらは元に戻る。
『破界』される前……いや、それよりもさらに前の、人々が望む最善の状態に『再世』されていく。
2つの波動は、太陽系を飲み込み、天の川銀河を飲み込み、そして隣り合う銀河やその先の銀河までことごとくを飲み込み……
そして……
「…………馬鹿……な……!?」
一瞬か、あるいは長い時間が経った後なのか、
いまひとつ曖昧な時間間隔の後……気づけば、2つの波動はすでに収まっていて、
宇宙は未だ、宝石のように幻想的な輝きを放っていて、
そして、眼下には……赤と青、そして赤茶色の……3つの地球がその姿を取り戻していた。
波動砲:本命に気付かせないための囮、兼、一応ホントにトドメの一撃(これ以上の悪あがき防止)
本命 :時空修復(共演、コスモリバース)
案の定こちらを見下して本命に気付けなかったどころか、わざわざ待ってくれたアドミラルさん。
しめやかに爆散。