スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

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第110話 戦いの終わり

 

 

 ネバンリンナと次元将ソルが作り上げた、疑似的な『時の牢獄』。

 その外部とは時間の流れに差があったために、内部で行われたやり取りや出来事は、外側からすれば一瞬のうちに終わってしまったことだった。

 

 ゆえに、ミツルとネバンリンナ、そしてアドミラルとの間にどのようなやり取りがあったのかまでは、『地球艦隊・天駆』の面々は知ることはなく……

 

 ……平たく言えば、『波動砲を撃ったと思ったら全てが終わっていた』状態である。

 

 しかしそれでも、眼下に広がる光景が……3つの姿それぞれを取り戻した地球が、自分達の試みが成功したことを物語っていた。

 

「やった、のか……?」

 

「ああ、きっとそうだ……見ろよ。地球が、3つともきちんとある!」

 

 ヤマトの艦橋で、茫然として呟くように言った古代。その隣で肩をたたきながら、歓喜に打ち震える島。

 するとその直後には、観測役を担っていた新見から、さらに1つの報告がもたらされる。

 

「お、沖田艦長……!」

 

「どうした、新見情報長?」

 

「ち、地球より……通信です。発信元が……このコードは、土方宙将かと」

 

「……! そうか……奴からの通信ということは、地球連邦軍の通信設備が復活しているということだな。つまり……」

 

「はい。『新西暦世界』の地球は……元の姿を取り戻しています!」

 

 普段の冷静な表情を珍しく崩し、そう宣言する新見。

 ヤマトの艦橋にいた他の面々が喜びに沸く。そして、同時に通信越しに、

 

「『新西暦世界』だけではないようです。先ほど、こちらの……『宇宙世紀世界』の地球連邦軍とも通信が回復しました」

 

「ネオ・ジオンの方からも同様です。フル・フロンタル首相から、祝いと感謝のメッセージが早くも送られてきましたよ……何が起こったのか、奴は早くも察しているようだ」

 

 ブライト艦長とオットー艦長から。さらに、ルリ艦長も、

 

「『西暦世界』のミスマル中将とアカツキ会長からもメッセージが届きました。特に問題ない状態にまできちんと世界は回復しているようです」

 

「というか、1回世界が滅んだことにも気づいていないか、覚えてない人がほとんどみたいです。ミツル君、皆の記憶まで修復しちゃったのかな?」

 

「……おい、そういえば、そのミツルはどこいった?」

 

「え、あれ? ホントだ……いない」

 

 と、ヒルダがふと気づいて言い、それにはっとしたように、アンジュをはじめとした他の面々も、周囲を見回して……しかし、あの目立つはずの『次元将ソル』の姿がなく、またレーダーにもその反応がなくなっていることに気付く。

 

 どこを探しても見つからず、通信もつながらないことに、ココやミランダが青ざめる。

 

「ね、ねえ、なんでミツルさんいないの!?」

 

「まさか、1人だけ……あの爆発に巻き込まれて、そのまま……」

 

「そうじゃないから安心していいわよ、2人とも。あ、皆か」

 

 と、そこに割り込んでくる形で言ったのは、ミレーネルだった。

 こちらは2人とは真逆で、特に切羽詰まったような声音でもなければ、緊張したような雰囲気でもない。今のこの状況が、心配するようなことではないと、きちんと確信しているように見える。

 

「どういうことミレーネル? ミツルがどこに行ったか知ってるの?」

 

「ええ。まあ、私も気づけたのは偶然だったんだけどね……『姉さま』が教えてくれたから」

 

「! 姉さま、って……それ……」

 

 その呼び方に、森が何かに気づいたようにつぶやくが、ミレーネルはかまわず、皆が知りたがっているであろう疑問の方に先に答えた。

 

「すぐ戻ってくるから、心配しないで待ってていいわ。ミツルは、ただ単に―――

 

 

 

 ―――とどめを刺しに行っただけだから」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 そこは、通常の宇宙空間でもなければ、『カオス・コスモス』でもない……そもそも『この世』と呼べる空間ですらない場所。

 

 そこに今、彼は……アドミラルと、『至高神Z』はいた。

 

「おのれ……!」

 

 最後の最後、全てを巻き込んで自爆することで強引に相討ちに持ち込み、その後復活することで結果的に勝利に持ち込もうとしたアドミラル。

 

 しかしその策は、自爆そのものを『時空振動』に見立て、それを修復する『時空修復』をノータイムで行う、というカウンターによって、無意味どころか状況を好転させてしまった。

 

 自らの存在と『至高神Z』の命が潰える瞬間、感じ取れてしまった。

 ミツル達が行った『時空修復』は見事に成功し、自分が『破界』したはずの世界は……全て完全に『再世』された。

 

 それも、自爆の影響をなかったことにされただけでなく……それ以前に行った、大マゼラン銀河の破壊や、3つの地球の『時空融合』までキャンセルされてしまい……おおよそ、『地球艦隊・天駆』にとって最善と呼べる形で、世界は、宇宙は救われてしまった。

 滅びて失われたはずの全てが戻ってきて、さらに仇敵である自分は滅びて、皆が万々歳。考え得る限り最高最善の結果と言えた。

 

 ……アドミラルからすれば、言うまでもなく、最低最悪の結果だが。

 

「……ふん、忌々しい……だがまあ、よかろう。今はいい気になっていればいい……今は、な」

 

 だが、アドミラルはまだあきらめてはいなかった。

 

 確かに、今回のことは自分の、そして『至高神Z』の大敗と言わざるを得ない。

 しかし、『至高神Z』は不滅の存在。時間はかかるだろうが、いずれ復活することはできる。

 

 その時には改めて、身の程知らずな地球人達に、至高神の力というものを思い知らせてやり……そして今度こそ、全宇宙を自らの管理下に置くべく動き始めればいい。

 

(今回の敗因は、地球人共の力を見誤ったことも確かにあるが……やはり『至高神Z』の力が完全ではなかったことも大きいだろう。ならば次……復活後は、それなりに時間をかけて、力の全てを覚醒させてから動き出すべきだな。何、問題ない……至高神Zと同化した私もまた、死を超越した不滅の存在。時間はいくらでもある。たかだか数年か数十年程度、この先、幾万幾億の時を君臨し続けていくがための、試練の時だと思えばいい)

 

 そう自分を納得させたアドミラルだったが……次の瞬間、

 

「いいざまだな、ガラクタ野郎。大言壮語をほざいておいて、結局は俺達と同じ末路とは」

 

 唐突にそんな声が聞こえ、その直後に『至高神Z』に衝撃が走った。

 まるで、何かから攻撃を受けたかのような感覚に、アドミラルはあわてて周囲を見渡す。

 

(馬鹿な……誰だ!? この空間は、いわば死者の領域……いったいここで誰が私に攻撃を……)

 

 その視線の先にあったのは……大きさ10mにも満たない、小型の機動兵器だった。

 鋭角なフォルムに黒と灰色の機体が特徴的なそれは、手に持った弓矢のような武器をこちらに向けている。その姿を見て、アドミラルは驚愕に目を見開いた。

 

「ベリアル……レナード・テスタロッサか!? 馬鹿な、貴様がなぜここに……何をしている!?」

 

「俺だって死んだんだ。ここに……死者の領域にいたって、何もおかしいことなんかないだろう? 恐らくだが……死んだ後もこうして意識を保っていられたのは……あんたが『至高神Z』の生贄として強引に俺を一度呼び戻したことや、『因子』とやらを植え付けていた影響だろうがね」

 

 言いながら、レナードは弓矢型の武器……『アイザイアン・ボーン・ボウ』を構え、放つ。

 ラムダ・ドライバによって形成された不可視の矢が、射出即着弾という反則級の速さで次々と『至高神Z』に打ち込まれる。

 

 しかし、その攻撃力は『至高神Z』を揺るがすことができるものでは到底なく、最初は動揺していたものの、アドミラルはすぐに冷静さを取り戻した。

 ……もっとも、その思考の大部分はいら立ちに支配されていたため、きちんと『冷静』なのかと聞かれると微妙なところではありそうだが。

 

 苛立ちながらも、その手をベリアルに向け……次元力の雷を放つ。

 

 ベリアルがいくら世界最強クラスのASであり、レナードの技量と相まって驚異的な戦闘能力を発揮すると言えど、もともと力に差がありすぎる2機。

 そのたった一撃で、ラムダ・ドライバで防いでもベリアルは半壊状態にまで追い込まれ、弓も粉々に砕けてしまった。

 

「いったい何のつもりだ、レナード・テスタロッサ……? 貴様がここに存在していることはまあいいとしても……何を思って私にこんな、無意味な攻撃を仕掛けてくる?」

 

「無意味な攻撃、か」

 

「貴様も馬鹿ではあるまいし、理解しているだろう。ここは死者の領域……誰が誰を攻撃して殺したところで、死んだ者が二度死ぬことはない。ありえんことだが、仮に貴様が私と『至高神Z』をここで破壊したとしても、意味などないのだ。それをわかっていて、何故私と戦う?」

 

「そうだな……俺も、少しだけ馬鹿になってみることにした、ってところか」

 

「何……?」

 

「見習ってやることにしたのさ。馬鹿で、愚かで、非効率的で考え足らずで……けどそれでも、俺に打ち勝って、大切なものを守り通して見せたあいつをな……こんな時でもこんな冷めた考え方の俺に、あいつほどのガッツがあるとは思えないが、それでも……」

 

 言っている最中に、ベリアルの機体が修復される。

 次元力を使った修復のように見えたが、そうではない。

 

 そもそもここは。通常の空間とは違う領域。アドミラルもレナードも、ここでは精神や認識によって存在しているだけ。

 ゆえに、その気になれば破壊された後で復活することもできる。死も破壊もそもそも意味がない世界なのだ。

 

「意味がないかどうかはすぐにわかるさ。……少なくとも俺は、せっかく日の当たる人生を歩もうとしている妹達に、あとから手を出す気満々な奴を、黙って好きなようにさせるつもりはない」

 

「っ……テレサ・テスタロッサのことか!? 呆れた男だな、今更兄貴面とは……ぬおっ!?」

 

 反撃しようとしたアドミラルだが、そこに反対側から巨大な衝撃が襲い掛かる。

 振り向くとそこには……手に持った大剣と、爪が伸びて形成された鞭を、それぞれ降りぬいた姿勢の、暗黒大将軍と機械獣あしゅら男爵がいた。

 

「このままいかせはせんぞ、張りぼての偽神めが!」

 

「我らが主……闇の帝王様を利用した罪、その身をもって償うがいい!」

 

 その忠義ゆえに、瞳の奥に怒りの炎を燃やす2人。

 体格差をものともせず、猛然ととびかかる。

 

 さらにそれを支援する形で、レナードの乗るベリアルも、飛び回りながら弓を射る。

 

 だが、いくら彼らの士気が高くとも、力が違いすぎるがために、『至高神Z』相手にはまるで痛打になっていない。

 

「っ……すでに命無き、蘇ることすらかなわぬ、死人共が、そろいもそろって私に楯突くか! 無駄だと知りながら、なぜ……」

 

「それを無駄だと断じて切り捨てることしかできない。それこそが、貴様や……私の敗因なのだろう」

 

 さらに割り込んできた声に、アドミラルが視線を向けると……そこに広がっていたのは、少し前までは影も形もなかったはずの、何十隻もの艦隊。

 そしてその中でもひときわ目立つ、銀色の巨大な戦艦と、藍色の戦艦……ドメラーズ3世と、デウスーラ2世。

 

「ガミラス……だと!? 貴様らまでもが、なぜ……」

 

「『カオス・コスモス』だったかな? あの不可思議な宇宙が、時空を超えて超広範囲に展開された影響だろうね……亜空間で死んだはずの私や、七色星団で散ったはずのエルクが、こうしてここに呼び寄せられ……再会することができた。もっとも、すぐにまた別れることになりそうだが」

 

「然り。ですが、すでに死人の身でありながら、ガミラスの民たちのこれからを守る戦いに身を投じることができるというのであれば……軍人として本望です、総統」

 

「もう私は『総統』ではないよ。それどころか、ガミラスの多くの民から背を向けられたはぐれ者だ……そんな私と、まだともに戦ってくれるのかい、エルク?」

 

「はて、私は不器用な軍人ですゆえ……難しいことはわかりませんな。それを言うなら私こそ、妻を思いやることもできずに傷つけてしまった考え足らずですとも。……その妻のためにも……」

 

「そして、ガミラスの民達のためにも……君をこのままにしておくわけにはいかないのだよ」

 

 言うと同時に合図が出され……ガミラスの艦隊の集中砲火が『至高神Z』に降り注ぐ。

 

「っ……この……ガーディムの不在の間にのさばった、下等な青虫風情が……!」

 

 苛立ちそのままに力を振るうアドミラル。放たれる雷に、200mや300mを超えるサイズの戦艦からなる艦隊が次々に炎を噴出して爆散していく中、指揮官2人の乗る2隻は猛然と突撃していく。

 

 デウスーラの盾になるように、ドメラーズが前に立ちはだかり弾幕を張り、時にはその身を挺して敵の攻撃を受け止めていく。

 

「ドメラーズに後退はない! 我らが母星を、いや全ての宇宙の未来を脅かす侵略者を、今ここで止める! すでに失った命でそれがなせるのならば、これ以上の誉れがあろうか……各員、最後の力を振り絞れ!」

 

「「「ガーレ・ドメル!!」」」

 

 口々にドメル上級大将を讃え、ともに戦う覚悟を口にしながら『ドメル軍団』は突き進む。

 

 その光景を、デウスーラの艦橋から見て、感心しつつも呆れている者がいた。

 

「総統の御前で『ガーレ・ドメル』ですか……不敬をいささか注意したいところですが」

 

「かまわないさ。それだけ彼が慕われているということだ……そしてその彼と並び立って最後の戦いに臨めるというのは、私にとっても誉れだよ。……君こそよかったのかい、セレステラ?」

 

 そう言ってデスラーは、隣に立つ人物……自らの腹心である、ミーゼラ・セレステラを見る。

 

 彼女は元々、大ガミラス帝星に残っていたはずの身。一度は『至高神Z』によって銀河ごと消滅させられたものの、『時空修復』によって復活した……はずだった。

 しかし、彼女は今、ここに……『死者の領域』で、自分の隣にいる。

 

「ガミラスの星にいれば、そのまま復活できたはずだ。だが、このままここにいれば、君は……」

 

「何をおっしゃいます。迷いなどありません、総統。あなたの隣こそが、私のいるべき場所です。お邪魔でなければ、どうか……このままお供を」

 

 一度、銀河ごと消滅を迎えたことで『死』に至ったセレステラは、『カオス・コスモス』の性質を逆手にとって、その精神体……いわば『魂』だけの状態で時空を超え、デスラーの元にはせ参じていた。

 『時空修復』による復活の機会すら振り切ってふいにし、あくまでこの死者の領域で、彼の隣にいるためだけに、その命も、肉体も……全てを捨てて。

 

「……私は果報者だな」

 

 ぽつりとつぶやくと、デスラーは薄く浮かべていた笑みを消した。

 そして、艦橋から素早く艦隊各艦に指示を出す。

 

 それに従って動く艦隊。時に剣となり、盾となってデウスーラの行く道を切り開く。

 

「総統……後を頼みます!」

 

 そして、その眼前で、ドメラーズがついに限界を迎えて炎の中に消え……それを突っ切ってデウスーラは正面から『至高神Z』を奇襲。

 なんと、最大船速のまま体当たりしていった。

 

 質量ゆえの巨大な衝撃が『至高神Z』を襲うが、それでも傷一つ負うことはない。

 

 無駄なことを、と嘲笑うアドミラルだったが……その眼前で、デウスーラの艦首にある砲口が展開し……見覚えのある光が収束していく。

 

「まさか、貴様……!?」

 

「もはや私にそんな資格もないことくらいわかっている。だが、それでも……ガミラスの、そして……スターシャ、君の未来を思う1人の男として、最後の最後に矜持を通させてもらう……!」

 

 その直後、ゼロ距離で放たれた『デスラー砲』が炸裂し……周囲一帯に破壊のエネルギーが吹き荒れる。これにはさすがに『至高神Z』も体勢を崩した。

 

 しかし、それでも健在。内部にいるアドミラルにも何らダメージらしいダメージはない。

 

 それに対して、波動砲をゼロ距離で使うなどという、自爆以外の何者でもない戦術をやってのけたデウスーラ2世は、その反動と攻撃の余波で、大破同然の状態となっていた。

 

 もっとも、ここは破壊も死も意味をなさない世界。彼らもじきに復活するだろう。

 

 だが、だからこそ、彼らの行動が理解できずにアドミラルは苛立つばかりである。

 

「なぜだ……なぜこんな無駄なことを続ける!? 勝ち目もなく、いや勝ったとしても意味がない、こんな戦いをなぜ続ける!? 貴様らは一体何がしたいのだ!?」

 

「意味がない……か、さて、それはどうだろうね?」

 

 その背後に立ち、弓を構えるベリアル。

 それに乗るレナードを、アドミラルは『またか』とでも言いたげな目で見据える。痛打足りえないことはわかっていても、鬱陶しさと苛立ちは募る。

 

「何か意味があるとでもいうのか? くだらん……いずれは『至高神Z』の力で復活する私と、今はよくてもいずれ精神が擦り切れて存在を保てず消滅していくしかない貴様らとでは、全てが違うのだよ。ここで今、何をやって遊んだところで、未来に何ら影響など……」

 

「そうかな? これだけ暴れて力を振るえば……ほうら、見つかったみたいだ」

 

「見つかっただと? いったい何に……」

 

 

 

「 見 つ け た 」

 

 

 

 その瞬間、苛立ちつつも自らの優位性を疑わず、それゆえにこそその余裕を崩さなかったアドミラルは……一気に背筋が凍るような感覚を覚えた。

 声が、聞こえた。絶対にここで、聞こえてはいけない声が。

 

 気のせいだ、きっとそうだ……そんな風に、アンドロイドらしからぬ思考を巡らせて逃避しようとするも……現実はそれを許してはくれない。

 

 彼の脳内の困惑を形にしたかのように硬直する『至高神Z』。

 その頭上に現れたのは……白金の体に6つの翼を広げた……『次元将ソル』。

 

 そしてそのコクピットから……星川ミツルが、アドミラルを見下ろしていた。

 

「馬鹿な……馬鹿な!? なぜ貴様がここにいる!? 貴様も……貴様も死んだのか!?」

 

「いいや、ちゃんと生きてるよ。ただちょっと、一時的にこっちの領域に入ってきただけだ……理由は、言うまでもないよね?」

 

「……っ……!?」

 

「ああ、その前に……セレステラさん、案内ありがとう」

 

「礼には及ばないわ。私は……これが最善だと思ったからこそ、そうしただけ……ミレーネルも、それを察して、あちらの世界で私にこたえてくれたから……」

 

 遡ること数分前。

 

 セレステラは、この世界にやってきてデスラーの隣にたどり着くと同時に……精神干渉の応用で、時空を超えてミレーネルに思念を飛ばしていた。

 自分達では、この存在……アドミラルと『至高神Z』をどうにかすることはできない。だから……どうにかできる力を持つものを呼び寄せるために。

 

 それを察知したミレーネルが、セレステラとの間にリンクをつないだ。

 そして、それを目印に、辿っていく感覚で……次元の壁を突破してミツルと『次元将ソル』がここに来ることができた。

 

 すでに死んでいる、ゆえに殺せない、という状態のアドミラルと『至高神Z』を、唯一、完全に消滅させることが可能な存在を、呼び寄せることができたのだ。

 先程までの戦いも、膨大なエネルギーの反応をのろし代わりにして、自分達の……ひいてはアドミラル達の居場所を、ミツルに教えるためのものだった。

 

 ……そして、今。

 

「さて……向こうの世界でさんざん色々言い合ったんだ。今更お前とかわす言葉もない」

 

「やめろ……待て、やめろ!」

 

「しいて言うなら……覚悟はいいな、アドミラル? 答えは聞いてない」

 

 様々な戦いの裏に潜んでいたこの男によって、自分も仲間達もさんざんに振り回され、

 そのせいで多くの人が命を、希望を、未来を、平和な生活を失い、

 人々の思いや、明日を望む意志の尊さを無駄だの非効率的だのと一蹴し、

 挙句の果てに、3つの世界の地球を滅ぼしてまで自分達のエゴを通さんとした。

 

 アドミラルの数々の所業を改めて思い返し、それによって、これまで積み重なって溜まりに溜まったミツルの感情……その勢いそのままに、『次元将ソル』の力が解放される。

 

 『死者の領域』であるがゆえに、ここで死ぬという概念がそもそもないはずのそこにあってなお、対峙した者に絶対的な死を、終焉を予感させるその存在感。

 

「う……うおおぉおぉぉおおっ!!」

 

 それに耐えきれなかったのだろうか。

 咆哮、しかし悲鳴にしか聞こえない声を上げて、アドミラルは動く。『至高神Z』の全身から、雷に衝撃波に、流星群に破壊光線……これでもかと手当たり次第に攻撃を放つ。

 宇宙空間でそれを放っていれば、その巻き添えで惑星や小惑星が軽く数個消し飛んでもおかしくないほどの、宇宙の災害に等しき無茶苦茶な攻撃。

 

 強力無比ではある。しかし、明らかな余裕のなさと、追い詰められたが故の必死さが隠しきれない絵図だった。

 

 それにさらされてなお、『次元将ソル』は涼しい顔でそこにたたずんでいた。

 

「破界の光よ……奴を撃て」

 

 そして、おもむろに左腕をすっと上げ、その掌を『至高神Z』に向けると……その腕から放たれた漆黒の破壊光線が、災害の豪雨を一瞬で打ち抜いて消し飛ばし、その向こうにいた『至高神Z』に直撃する。

 まるで、空間ごと削り取って消滅させたかのように、それが通り過ぎた後には何も残っておらず……至高神Zのどてっぱらには大穴が穿たれていた。

 

「教えてやるよ、何もわかっていないお前に……『真化』の意味を……お前達が散々バカにしてきた、人の心と、マシンの心……それらが結び付くことが生み出す、強さを!」

 

 解き放たれた次元力は、『次元将ソル』を中心に異空間全体に広がっていき……その全てを混沌の宇宙に染め上げる。

 

 そのエネルギーにあてられた『至高神Z』は、先の攻撃で受けたダメージの影響も相まって、もはや指一本動かすこともかなわぬ状態。

 

「さっきのは……お前が生贄に勝手に捧げて利用しようとした、ミレーネルの分!」

 

 困惑するアドミラルだが、それが平静を取り戻すよりも先に……次元転移で一瞬にして距離をゼロにした『次元将ソル』がその目の前に飛来した。

 

「これは……同じく生贄にされそうになった、ミランダの分!」

 

 その顔面に叩き込まれる拳。

 片や惑星サイズの巨体。片や以前よりも大型になったとはいえ、それでも数十m級の域を出ない機動兵器。

 

 そんなサイズ差からは想像もできない光景。

 虹色の光をまとった拳の一撃が決まり……太陽系中に響くのではないかという轟音と共に、『至高神Z』はその頭を跳ね上げて大きく体をのけぞらせた。そのまま後ろ向きに一回転してしまうのではないかとすら思うほどに。

 

 しかし、体が反転したところで、今後は背後に『次元将ソル』が転移して現れ、背中から蹴り飛ばす。

 

「同じく、ココの分!」

 

 先程とは全く逆ベクトルの運動エネルギーのままに、盛大に回転しながらその巨体で宇宙を舞う『至高神Z』。中にいるアドミラルは、もはや声を出す余裕もない。

 

「スターシャさんの分! アウラさんの分! 敵だけど最後にちょっとだけ分かり合えたレナードの分! 利用された挙句に存在を否定されたネバンリンナの分! それに……一度は滅ぼされた、3つの地球と、コロニーその他にいた人たちと、大マゼラン銀河の人達の分もだ!」

 

 それにさらに追いついて殴り飛ばされ、また追いついて蹴り飛ばされ、黄金の体に無数の傷やひびが入り、砕けて壊れていく。

 攪拌されるかのように上下左右前後に振り回される巨体。それをさらに、真上に飛翔して現れた『次元将ソル』が、両手を合わせて組んで作った槌を振り下ろして叩き落した。

 

 展開した宇宙空間に、疑似的に作られたのであろういくつもの惑星や小惑星に激突し、それを粉砕してなお飛ばされていく『至高神Z』。

 

 それを見下ろしながら、『次元将ソル』は……次元力を凝縮させ、その手に……身の丈ほどもある大きな杖を作り出した。

 シンプルなデザインながら、白色と金色で清潔感と上品さを感じるその杖を掲げるように持つと……腰の両側にいた、2匹の龍が胴体から切り離され、その杖に二重螺旋を描くように巻き付いた。

 

 さながらそれは、地球における医神・アスクレピオスのシンボルである『アスクレピオスの杖』のような見た目である。

 

 『次元将ソル』は、それをさらに両手で掲げるように持ち、膨大な次元力をそこに込めていく。

 すると、その体からエネルギーが立ち上っていき……その上空にゆっくりと、空間から滲み出すように……太陽のような巨大な光球が現れる。

 

 しかしその正体は、太陽などではなく……膨大な次元力そのものの塊。

 しかも、太陽としての性質も備えているそれは、1つの異空間にありながら、いくつもの次元を照らすほどの光を、エネルギーを湛えた、いわば多次元の太陽とでも呼べる、多元世界を基準に据えてなお異質かつ超常の存在だった。

 

 それが放つ光は、神がほほ笑む相手にとっては祝福、ないしは恩寵であろうが……その敵となったものにとっては、絶望、あるいは滅びそのものと言っても過言ではない。

 

 そして『至高神Z』めがけて……その太陽が放つ、雲の隙間から降り注いでいるかのような、優しく穏やかな光が、光の帯となって伸びていって降り注ぎ……そしてそれが『至高神Z』をとらえた瞬間、

 

 その空間に何者の存在も許さぬと言わんばかりの、宇宙空間もろとも全てを焼きつくす熱と光の奔流が顕現し、全方向に間欠泉のように吹き荒れる虹色の光炎が、『至高神Z』の巨体を、跡形もなく焼き尽くしていった。

 

 太陽よりも明るく、疑似的な宇宙空間を隅から隅まで照らした光炎は、燃やすものがなくなると、今迄の勢いが嘘のように消えて失せた。

 

 しかし、何も残っていないようにしか見えないそこに、ミツルは確かに、滅びえぬ『至高神Z』の存在と、それに紐づけされたように在り続ける、アドミラルの存在を看破していた。

 

 『アスクレピオスの杖』を手にしたまま、ふわりと舞い降りるようにそこに立つ。

 眼前には何もない。何もないが、確かにいる。

 

 そして……これから、本当に、いなくなる。

 

「やめろ……やめろ! こ、ここで私が、『至高神Z』が消えれば、宇宙のあるべき姿が、完璧な管理が……永遠の平和の未来が! 話せばわかる!」

 

「問答無用!」

 

 『次元将ソル』の体から放たれる、次元力の光。

 それらは収束して何本もの剣となり……切っ先を向けて、既に精神だけの存在となった彼らを取り囲む。

 

 光がそのまま剣の形をとったかのような輝く刃は、アドミラルに否応なしに、不可避の終焉の運命を確信させるものだった。

 

「やめろぉぉおおおぉっ!!」

 

 

 

「因果の彼方に……消えろ!」

 

 

 

 ミツルが腕を振り下ろしたと同時に、光の剣は一斉にアドミラルに殺到し……実体のないその身を、存在そのものを、確かに貫く。

 

 その直後……かつて宇宙に君臨し、今また数多の世界の未来を閉ざさんとしていた至高の神と、その力によって己のエゴをかなえようとした機械の男は……その身を儚い輝きの光に変えて……消え去った。

 

 その残骸とも呼ぶべき、かすかな光が舞う中で、ミツルと『次元将ソル』は、大きく両手を広げ……それらの光を吸い寄せるようにして己の元に収束させ、1つも残さず取り込んだ。

 

 そして、ふぅ、とひとつ息をついて視線を挙げれば……そこにはすでに、先ほどまでいたはずの、レナードやデスラー達の姿はなかった。

 

「……何か伝言の1つでもあれば伝えるくらいはするつもりだったのに……潔すぎだな、あいつら……まあ、本人たちがそれでいいなら、僕が何か言うことでもないけど。さて……」

 

 感覚を集中してみれば、既にセレステラとリンクしていたはずの思念のラインも途絶えており、それを追うことはできないようになっていた。

 

 しかし、ミレーネルとつながっているであろうルートはまだはっきり感じ取れる。

 

「…………帰ろ」

 

 もうこの空間に用のなくなったミツルは、『次元将ソル』の翼を輝かせて時空の壁を超えると、そのルートをたどって、姿を消した。

 

 仲間たちの待つ、自分の帰るべき場所へ戻るために。

 

 

 

 




次回、最終話。
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