これも読んでくださってる皆さんのお陰です。今後とも楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくです!
【×月+日】
先日、テロリストの犯行を未然に防ぐという大手柄――しかも、その時はかかなかったけど、その一件で助かった企業の中には、うちと付き合いのある会社もあった――を立てたミレーネルに対し、感謝を込めてちょっと贈り物をさせてもらった。
次元力で作った、新しい体を。
少し前に話したと思うが、『アスクレプス』のデータストレージの中には、
さらに、『バースカル』には、アンドロイド作成のためのデータも入っていた。それも、金属部品を極力少なくして、有機物質をメインにした……アンドロイドっていうよりは人造人間に近いんじゃないかっていう設計プランも合わせて。
今回はそれらを応用し、組み合わせて、さらに次元力をちょっと応用することでより生身の肉体に近づけ……ミレーネルが取りついて、動かすことができる仮の体を作ってプレゼントしてみたのである。
最初、彼女は『えっ? えっ?』って困惑気味だったけど、いざ使ってみるとすごく気に入ったらしくて。
涙すら浮かべて満面の笑顔で『ありがとう!』と抱き着いてきた。
アンドロイドだとはわかってるけど、ちょっとドキドキした。いや、元が美人だからさ……。
しかし、そのまま『バースカル』に置いておいたんじゃ何の意味もないので、彼女には、『星川製作所』の新規採用の社員として、事務で働いてもらうことにした。
女子寮に部屋も用意して、もちろんちゃんと給料も出す。
これなら、休み時間とかに買い物に出たり、町を回ったりもできるし、友達もできるかもしれないし。
あ、ちなみにミレーネルの体は、彼女本来の灰色肌に灰色髪、エルフ耳の形態と、地球人らしい普通の肌色に、普通の耳の形、髪色は黒のモードに切り替えられるようになってるので、職場への溶け込みに関しては問題ない。
…作った後で『名前横文字なのに黄色人種系にしちゃった』って気づいたけど…本人気にしてないし、まあいいか。
……正直、身元もよくわからない彼女にここまでしてあげて、会社の内外を――流石に経営上重要な場所に立ち入る許可は与えてないけど。バースカルにも、ボディのメンテナンスとか以外では立ち入れなくさせてもらったし――歩かせることに、不安がなかったわけじゃない。
けど、なんだか……テロを防いだときに画面の中で彼女が見せた、本当に嬉しそうな、ほっとしたような笑顔や、そこに確かにあった優しさみたいなものは……信じられる気がして。
……ただ、流石に予防線みたいなものは……悪いけど、用意させてもらった。彼女にも内緒で。
アンドロイドの体にはGPSが埋め込まれてるし……『イドム』の技術を応用して暗示をかけ、『バースカル』関連とか、僕や『星川製作所』に不都合なことについては口外できないようにしてある。
……彼女を信頼していないようで悪いけど……いや、実際信頼しきれていないからこういうことをしてるわけだけど……こればかりはね。
僕だけじゃなく、僕と一緒に頑張ってくれてる社員全員の未来に関わることでもあるから……某天狗のお面の人も使った手だと思って……うん、ごめん。そこは許してくれ。
【×月@日】
ミレーネル、よく働く。
業績的にも、勤務態度的にも、満点といっていいんじゃないかってくらいに、ばっちり働いてくれてる。社内での評判もいい。
事務仕事も、その他の雑用仕事もばっちりこなし、さらに他の部署のヘルプまで全般こなせるっぽい。
特に、広報系の仕事が得意みたいで、仕事自体も楽しいって言ってた。
もしかしたら記憶喪失前の仕事で、そういうのに慣れてるんじゃないかと思うくらいだ。
……相変わらず、そのへんの記憶はまだ戻ってきてないそうだけど。
正直、色々な『予防線』を張ったこっちが罪悪感を覚えるくらいに、こっちには害になることは何一つせずに、一生懸命働いてくれるので、まー助かってる。
あと、それとなく聞いてみたら、友達もできたみたいで、職場内の付き合いも上手くやれてるらしい。よかったよかった。
……このまま問題なく進んでいけば、色んな意味で僕が『特別扱い』する必要も、いつかなくなるかもしれないな。
☆☆☆
Side.ミレーネル
私の名前は、ミレーネル・リンケ。
この惑星『地球』に住んでいるが、地球人ではない。
ここからはるか遠く離れた場所、どこかの宇宙にある、アケーリアスの宙域にあるとある惑星に、ごくわずかに存在していた『ジレル人』の生き残りだ。
私には、今まで生きてきたうちの、一部の記憶が欠落している。
忘れているのに、欠落していることだけはわかるっていうのは……奇妙な感覚だけれど、実際にそうなので仕方がない。
私の最後の記憶では、私と、もう1人……姉のような存在である、ミーゼラ・セレステラは、惑星レプタボーダにある、ガミラスの収容所にいた。
そこで……他の囚人共々、虐待に等しい扱いを受けていた。
……元々、私達ジレル人は、他者の精神に干渉する能力を持つことから『魔女』と呼ばれて各地で忌み嫌われており、迫害を受けていた歴史を持っている。
それもあって、レプタボーダに収容されていたのだ。
惑星レプタボーダ……あそこは、控えめに言っても地獄だった。
劣悪な環境、過酷な労役、ろくに食べ物も食べられず、反抗すれば惨い体罰を受け……中には死んでしまった者もいた。他にも、思い出したくもないような、色々な仕打ちを受けた。
そんな地獄からどうやって抜け出したのか……そこのあたりの記憶が全くない。
というか、全体的にあやふやなのよね。……私、何歳くらいまであそこにいたのかとか、そのあたりまでも。
そんな記憶の空白を挟んで、その次に覚えているのは……奇妙な機械に、精神体となった私が封じ込められている(保護されている、だったかもしれない)という状態。
何があったのかわからないけど……いや、何かはあったのは間違いないんだと思うけど、私はレプタボーダを脱出して……しかし、生身の体を失ってしまったようだった。
幸いと言っていいのか、その後すぐに、彼……星川ミツル、という名の地球人の青年に拾われ、紆余曲折を経て、この仮の体を今は与えられている。
そして、社会的な身分も。どうやったのか、戸籍まで合わせて用意してくれた。
その代わりに、この体を作ったテクノロジーについてや、それを実行したあの、よくわからない……宇宙船のような施設については、他言しないでほしい、と言い含めて。
その彼には私は、こうしてもう、記憶の一部を取り戻していることは、告げていない。
一応釈明しておくと、記憶喪失だったのは本当だ。彼に出会った当初は、本当に私は、自分がどこの誰なのか、全く覚えていなかった。
この会社で働くようになって、精神的に大分ゆとりが出てきて……ある日、何の前触れもなく、ふと思い出したのだ。だからその時までは、私は正真正銘の記憶喪失だった。
……もっとも、記憶を取り戻したことについて、これから先も彼に言うつもりは……当分ない。
一体何で私が、こんな、銀河系からして別であろう惑星に来てしまっているのかはわからないけど……今の私には、居場所は他にない。
もしここを追われてしまったら、行く当ても、頼れる人もいないのだ。
だからしばらくは、このままここで、1人の地球人として働いて暮らそうと思う。
でも、いつかは地球を出られればいいな、とは思ってる。
もちろん、あのレプタボーダに戻りたいというわけではない。
かといって、故郷の星に戻りたい……というのも違う。
そもそも、私達ジレル人は、故郷の星ですらも、他の民族から迫害を受けていた。戻れば安らげる故郷なんて……そんなもの、最初からない。
……私の目的、それは……ミーゼラを探すことだ。
レプタボーダ以降の記憶がない私は、当然、彼女があの後どうなったのかを知らない。
今もまだあの地獄にいるのか、それとも、上手く脱出してどこかに移り住むことができたのか、あるいは……考えたくないけど、もう……
それを確かめるためにも、いつか私はこの惑星を出て……たとえそれが途方もなく長い道のりになったとしても、『大マゼラン銀河』に行って、彼女を探したい。
私の知る限り、たった一人残ったジレル人の同胞であり、いつも一緒だった、姉のような人だから。
そのためにも、今は、今まで通りここで暮らそうと思う。
この惑星のことを調べて……まずは何よりも、大マゼラン銀河に戻る術があるのかどうかが肝要だけど……宇宙開発技術、どのくらい進んでいるかしらね……
その目途がつくまでは……申し訳ないけれど、彼……星川ミツルを、その善意を利用させて貰おう。
その代わりじゃないけど、私も、彼の害ないし不利益になるようなことはしないつもりだから。
黙っていろと言われたことは口外しないし、行くなと言われた場所にも行かない。仕事は真面目にこなすし、そっちの分野で信頼を裏切ることもしない、忠実な社員として振る舞おう。
いつかテロを防いだ時のように、彼の利益になる話や出来事があれば、教えよう。
これは、この居場所を用意してくれた彼への恩返しであると同時に……もし『その時』が来たら、ここを離れさせてもらうため、そしてその時に、私の願いをかなえるために彼に協力してもらうための……迷惑料の前払いという、打算でもある。
……けど、あえて言わせてもらうなら……もう1つ。
……私を、ここに置いておいてくれたことに対しての、恩返し、もあると思う。
今さっき言ったばかりの、『居場所を用意してくれた』とはまた違う意味でだ。
単に、地球人として生きるための身分と立場、ということじゃなく……こんな風に、たくさんの人に囲まれて、集団の中で生きる場を与えてくれたこと。
それが……変な話だけど、私は何よりうれしくて、感謝しているから。
何度も言うように、私達ジレル人は、長らく他の民族から迫害されていて……宇宙のどこにも、居場所なんてなかった。
それこそ、レプタボーダでだって疎まれていたくらいだもの。皆、私達を『魔女』と呼んで忌み嫌い、関わろうとも、近づこうともしなかった。
(けれど、今は……)
こんな風に同じオフィスで、何人もの仲間達と一緒に協力して、仕事に取り組んでいる。
不具合が出れば助け合い、1つの目標を達成すれば、お互いの健闘をたたえ合い、『打ち上げ』として楽しく会食の席を共にして……そしてまた次の目標へ。
もちろん、それを知らないからではあるだろうけど……私を『ジレル人の魔女』と言って後ろ指を指して、忌み嫌うような人は1人もいない。
私を私として、ミレーネル・リンケという1人の女性として接して、当たり前のように受け入れてくれる。
この、温かい関係……居心地のいい場所……やりがいのある仕事……明日が来るのが楽しみな日々……どれもこれも、今まで、欲しても欲しても手に入らなかったものだ。
だから、つい……ずっとこの日々が続けばいいのに、と思ってしまう。
いつまでも続けてはいられないのだと、わかっていても……それでも、少しでも長く、ここにいられたら、と。
そんな居場所をくれた彼には……打算も何もない。
本当に、心の底から……感謝している。
その恩を少しでも返したいから、形にしたいから……私は今日も、1人のOLミレーネル・リンケとして、頑張る。
【おまけ】
前回~今回登場したキャラ『ミレーネル』について。
・ミレーネル・リンケ
『宇宙戦艦ヤマト2199』に登場のキャラ。
設定とかその他はネタバレになるので一応割愛。
原作アニメでは僅か1話、『スパロボV』ではセリフも3つか4つくらいで出番もほぼ一瞬しかない。
ないのだが、作者的にそんな一瞬で退場させるにはもったいないんじゃね? と思っていて、多分そこまで詳細な設定もないだろうことをいいことに、大幅に色々と改変されて抜擢された。
今後の活躍にご期待ください。