「アキト! アキトなんだろ! 無視するなよ、なあ!」
「リョーコちゃん、気持ちはわかるがそっちは後回しだ。今はこいつらから何とかしないと!」
リョーコとサブロウタがそれぞれの愛機を駆り、『火星の後継者』の機体と戦っていく中……漆黒の機体に乗った青年、テンカワ・アキトは、かつての仲間の声を耳で聞きつつも、返事をすることなく、目の前の深紅の機体に……北辰の乗る『夜天光』に飛びかかっていく。
「迷いなき殺意……見事だ、テンカワ・アキト。我が憎いか、それほどまでに」
「何を今さら……!」
小型な機体の機動性を生かし、凄まじい勢いで切り結ぶ両機。錫杖とクローが数多の火花を散らし、住宅街の上で、死闘と言っていい戦いを繰り広げる。
「隊長! 我らも加勢に……」
「おーっと、そりゃ野暮ってもんだぜ?」
「アキトの方には行かせるかよ……相手はこっちだ!」
「ぬぅ……気を抜くなよ、彼奴ら、ヘラヘラしているが強いぞ。おまけに見慣れぬ機体も一緒だ」
北辰に加勢しようとする部下たち……『北辰衆』を、エステバリスに乗った2人と、それについてきたソレスタルビーイングのモビルスーツ達が迎え撃ち、合流させまいとこちらも戦いになる。
だが、流石に他の構成員達の機体にまでは手が回らない。
それらは住宅街を飛び回り、何かを探しているように見えた。
「ふふふ……残念だがテンカワ・アキト、今日用があるのは貴様ではない」
「……さっきの男か」
「ん? 何の話だそりゃ?」
アキトと北辰の会話が聞こえたのか、ガンダムサバーニャで援護射撃を乱れ撃っていたロックオンが、思わずといった様子でそう言った。
それに答える形で、アキトが、視線と注意は北辰の機体からそらさずに、口だけを動かす。
「……こいつらの狙いは、さっき住宅街にいた男だ。たしか……『サイデリアル・ホールディングス』の代表」
「何ですって!? それってまさか……」
「星川ミツル……か?」
スメラギと刹那がそう口走り……それと同時に、今の話を聞いていた、他のメンバー達も驚いた。
理由はわからないが、独立部隊の支援者の1人であり、自分達もよく知るあの青年。
アルゼナル組は特に付き合いもそれなりにあった彼……ミツルが、狙われている。
今、『火星の後継者』の構成員の機体は、戦闘に参加していないいくらかは、住宅街を飛び回って……しかし、破壊活動を行うでもなく、まるで何かを探しているかのようだった。
それはつまり、彼を拉致しようとして探していたということか、と一行は思い至る。
「そういやあいつら、前に舞人を誘拐しようとしたこともあったっけな」
「資金源にする、とか言ってましたね、キャップ。今回もそのためでしょうか」
「あり得るな、ミツルも今じゃ大企業のトップだ……ったく、御大層なこと言ってる割には、相変わらずセコくてえぐい連中だぜ……んなことさせてたまるかよ! ミツルは……」
「―――呼びました?」
その瞬間、住宅街の建物の陰から、凄まじいスピードで白い何かが飛び出し……その直進方向にいた、一体の『マジン』を、すれ違いざまに一瞬で真っ二つにした。
コクピットは外したものの、爆散して墜落していく。
そして、それをやってのけた下手人は、その直後に急制動をかけて空中で制止し、その姿を戦場全体に見せつけた。
「アスクレプス……ってことは、ミツルか! おい、狙われてんのに何出てきてんだよ」
「すいませんね、総司さん……でも、このまま引き下がるのはちょっと僕的にもナシなんで」
そう諫めた総司だったが、通信越しの返事を聞いて……それだけで、ミツルの心中に……抑え込まれた強烈な感情があるのを察した。
(……怒ってる、のか? 何でこんな……いやまあ、わけのわからんテロリスト連中にいきなり狙われたんだから、そりゃ怒っても仕方ないというか、当然ではあるが……それにしちゃ何か……)
総司のその疑問には、直後に『ククク……』と、押し殺したような笑いと共に北辰が言った言葉が答えとなった。
「激情は道理……しかし、力の伴わぬそれは、単に愚かでもある。そんなにも憎いか……我々が。あの秘書の命が、失われたことが」
「なっ……!?」
「嘘……それって、ミレーネルさんが……!?」
今度は驚いたのは、総司だけではなかった。
ミツルの秘書……ミレーネル・リンケのことは、ミツルと会ったことのある者であれば、皆知っていた。
アルゼナルに残留した者は特に、『サイデリアル・アルゼナル出張所』で買い物をする時に応対してもらったこともあるし、本人も割と人当たりのいい性格なので、交流も多かった。休憩時間などに食堂で一緒になって、色々とおしゃべりをして盛り上がるくらいに仲良くなった者達もいた。
共に戦う、という間柄でこそなけれど、紛れもなく『友達』、あるいは『仲間』と言っていい仲だったし、ナンパをして玉砕したものの、その後も邪険にはされず、変わらず仲良く接してもらっていた者もいた。
何よりミツルが、仕事上のパートナーとして彼女のことを信頼していたのも、よく知っている。
知らないのは、日本で新たに合流した仲間であり、直接の面識がない、神ファミリーや、破乱万丈くらいのものだったが、そんな彼らでも、よく話題に上る人物として、ミツルとミレーネルのことは知っていたし、大切な仲間なのだな、という認識は持っていた。
恐らく、この一連の騒ぎ……自分達が『DG同盟』と戦っていた途中から、彼らは北辰衆に襲われて逃げていたのだろう。そしてその最中……そういうことになったのだと予想できた。
「テメェら……!」
ミツルの怒りももっともだと理解すると同時に……総司をはじめとした、ミレーネルのことをよく知っていた独立部隊の面々自身の中にも、ふつふつと怒りがこみあげてくる。
勝手なエゴで、アキトをはじめとした人々を不幸にし、今またかけがえのない1人の命を奪ったという『火星の後継者』に対して、誰かが怒声をぶつけて非難しようとして……
しかしその前に、明後日の方向から飛んできたビーム砲が、別な『マジン』を撃ち抜いた。
そして、
「ちょっと。人のこと、勝手に殺さないでもらえる?」
戦場に響いたそんな声に、それが聞こえた面々は三度驚くこととなった。
「えっ、その声……」
「ミレーネルさん、無事だったんですか!? 今、あいつが死んだって……」
思わずと言った感じで言ったのは、アンジュとミランダ。
たった今『アンゲロイ』に乗って戦場に現れたミレーネルは、さも何でもないかのように、元気な声で返した。
「ええ、全ッ然元気よ、安心して」
「バカな!? 貴様、確かに我らの目の前で自爆したはず……」
「どんなカラクリを使った!?」
「教えるわけないでしょバーカ。生憎と私の命は、テロリストにくれてやるほど安くないの」
「ぬぅ……だが、生きていたのならばかえって都合がいい。主共々生け捕りにしろ!」
「機体はなるべく壊すな、持ち帰って研究材料にするとのことだ!」
「なるほどね……狙いは僕っていうより、アスクレプスとアンゲロイか」
自分がなぜ狙われたのかに納得のいったミツルは、大挙して襲ってくる機動兵器の群れを前に、一切動揺することはない。
助けに行かねば、と考えて総司や、他のモビルスーツ部隊が動き出すよりも先に……スラスターをふかして急加速し、自ら敵陣に飛び込んだ。
「なっ、速……」
パイロットの1人が『速い』と口にするより先に……その機体は、アスクレプスのブレードで両断されていた。
飛び込んだ瞬間、すれ違いざまに目にも留まらぬスピードで振るわれていたそれに、パイロットは気付くこともなかったままに、機動系を破壊されて機体は大破、墜落した。
それが、4機。
たったの一瞬で4機が落とされ、その一瞬で自分達の後方にまで突き抜けて回り込んだアスクレプスは、急制動からの再びの急加速で、今度は後ろから襲い掛かる。
そして、さらに2機。
応戦するために振り向くよりも早く1機が落とされ、もう1機は『後ろに回り込まれた』と気づくよりも先にリタイアとなった。
今度は前まで突き抜けることはなく、敵陣のど真ん中で制止し……そこで、高速回転しながら背中のビーム砲を四方八方に乱射。
ちょうど密集していた状態の機体を、ほぼ全てそれで撃ち落とした。
かろうじて当たらずに済んだ、あるいは撃墜には至らなかった機体もいたが、直後に再び加速したアスクレプスは、上下左右前後に複雑な軌道を描いて飛びまわり、それを追撃する。
次元力のスラスターが噴き出す緑色の光。それが描く軌道が、まるでうねって襲い掛かる蛇のように見えた。
目で追えないほどの不規則で複雑な動きで襲い掛かり、ブレードを振り下ろし……ある時は死角から一撃で、ある時は正面からフェイントをかけて防御を抜いて、ある時は敵の機体を陰にして奇襲する形で、次々に討ち取られていく。
中心から離れたところにいたがゆえに、運よくその射程から逃れることができた者もいたが……その後ろに回り込んでいたのは、ミレーネルのアンゲロイ。
直後に気付くも、時すでに遅し。腕の装甲を変化させた大剣で両断されて、あるいはほぼゼロ距離でエネルギー砲を撃ち込まれ、同じように撃墜となった。
ものの数十秒の間に、量産型とはいえそれなりの数がいた機動兵器の部隊は全滅していた。
「……すげえ」
その光景を見て、加勢に行った方がいいかと身構えていた面々は、唖然としていた。
思わずといった調子で呟いたのはヒルダだが、見ていた者達の心中は大体同じようなものだった。
独立部隊の中で、ミツルの戦闘を見たことがあるのは2通りの人間だけ。
以前に異世界でミツルの乗るアスクレプスを目撃した者達と、パラメイル第一中隊の面々だ。
第一中隊はしかし、その時はこれほど早く、複雑にまでは動いていなかったし、直後に放った『リベレーター』の大火力の一撃でドラゴンを一掃してしまったので、時間的にも極めて短い間のことだった。そして、それ以降『万が一』が起こってミツルが出撃する機会はなかった。
ここまで素早く、複雑で、そして正確な動きができるとは予想外だったのだ。
しかし、それ以上に驚いていたのは、前者……別世界の『次元断層』で、ミツルの乗るアスクレプスを、そしてその戦いを目撃していた者達だ。
総司にトビア、日本で合流した鉄也、そしてナインの4人だけだが……
「以前の動きと全く違う……」
「おいおい、この2年でどんだけ強くなったってんだよ、ミツルの奴」
トビアと総司のつぶやきの通り……以前、総司達が『次元断層』で見た時のアスクレプスとは、何もかもが違っていた。
見た目は全く同じだが、その戦い方のキレ、武装の使い方など……総じて、戦闘技能そのものが別格と言っていいレベルだったのだ。
口には出さないが、『グレートマジンガー』のコクピットで、鉄也も同じことを思いつつ……これほど変わるものなのか、と驚いていた。
あの時、アスクレプスに乗る者を『素人だ』と断じた身として。
ミツルの事情については、合流後に総司達から聞かされて知っていた。彼がほとんど偶然から『アスクレプス』を手に入れたのだということも、彼は自分達と違って時間をも飛び越え、2年前のこの世界に流れ着いていたということも。
それだけの期間修行すれば、確かに上達もするだろうが……
(それだけで片づけていいものか? まるで別人だ……独学でここまでの力をよくも……)
レベルはもちろん、戦い方もまるで違う。
技量的には、自分や流竜馬といった達人クラスにはまだまだ及ばないものの、2年間で、しかも聞いた話だと会社経営もしながら、独学で鍛え上げて、ここまでになるものなのだろうか。
また、先程見せた戦い方などは、以前に竜馬が言っていた、『急加速と急制動を組み合わせて、飛び込んで引っ搔き回すような戦い方』そのものと言えた。
しかしそれは、生身の人間の乗った機体を相手にする分、その相手の挙動なども込みで予測しつつ立ち回らなければならず、難易度はかなり高いやり方だ。シミュレーターで訓練を積んだだけで会得できるような戦術かと言われれば、疑問がある。
もちろん、もともと才能があったからこそ、鍛え続けて行って伸びたという可能性もあるため、断言はできないが……『戦闘のプロ』とまで呼ばれた鉄也の勘は、どこか不自然だと思っていた。
(乗っているのは、本当に同一人物なのか……?)
その疑問はしかし、この戦闘中に解消されることはなかった。
『火星の後継者』のザコ敵を全滅させた後、旗色悪しと判断したのか、北辰達は離脱。
『DG同盟』についても、手下達は確保したものの、それぞれの親玉格は逃亡した。
『エースのジョー』も同様である。戦闘中に、連邦軍からの指示で加勢しに来た、グラハム・エーカーが呼び止め、それに僅かながら反応を示したものの、そのまま飛び去って行った。
思いがけず、複数の悪の組織との大規模な戦いとなったその日の騒乱は、一部の民間の協力者の参戦もあり、こうして『ヒーロー』側の勝利で幕を閉じたのだった。
☆☆☆
とまあ、そんなわけでどうにか生きて帰りました、と。
戦いの後は、一応共闘したってことで、『独立部隊』の皆さんに挨拶と、事情の説明のために一端合流した。
総司さん達からは、無事で何よりだって喜ばれたり、あんなに強くなってたのかって驚かれたりした。へへへ、すごいでしょ、訓練めっちゃ頑張ってたからね。もっと褒めて。
ミレーネルも、アンゲロイから降りて姿(二代目ボディ)を見せた時に、皆ホッと胸をなでおろしてたようで……まあ、戦ってる最中に北辰が『死んだ』とか言ってたからね。
そんな感じで、後から報告やら説明、情報のすり合わせを行った。
テンカワ・アキトさんのこととかもその時に聞いた。あと、ザンボットとダイターン組、そして『グレートマジンガー』のパイロットである、剣鉄也さんとは、初対面なので紹介してもらった。
『グレートマジンガー』か……いかにも『マジンガーZ』の後継機的な名前だな。
加えて、『剣鉄也』っていう名前にもびっくりした。『Z』で一瞬だけ名前出てきたっけな……確か、主人公のお母さんの弟……つまりは叔父だったはず。
ただ、鉄也さん自身はなんと記憶喪失らしい。マジか、大変だな。
そして、そんな状態であんだけ強いのか……すごいな。
そんな感じで、独立部隊の皆さんと軽く話した後、僕らもようやく帰路につくことができた。
あー……今日はホント疲れた。
今なら僕、ベッドに倒れ込んだ瞬間に寝れる気がする。
いや、なんなら送迎車の座席、リクライニング的にちょっと倒したくらいでも寝れそう。車とか電車の振動ってなぜだかちょうどよく眠くなるよね。
え、何ミレーネル、着いたら起こすから寝ていい?
マジか……ごめん、お言葉に甘える。あ、やばい、そう決めた瞬間にもう眠気が襲って来た。
……じゃ、お休み。