【○月□日】
この『捨てられた基地』にはそれなりの量の食料その他が残されていたものの、それも何週間、何ヶ月も暮らしていけるほどではなかった。
だから、これからどういう形で生きていくにせよ、ずっとここに隠れているわけにはいかない。
……この地球、どうせ1年で終わるから、1年分あればそれまでここで引きこもってるのもありだったな、とかチラッと情けないことを考えたりもしたけど。
しかし、いつかはとは思っていたものの……案外とその時は早く訪れた。
本日正午ちょっと前、またしてもガミラスの連中がやってきたのである。
しかし、前回……他ならぬ、この『星川満』くんが命を落とした際の襲撃では、地球はろくに抵抗もできずにやられっぱなしだったようなのだが……今回は違った。
遠目に見ていただけなのだが、突然現れた灰色の……モビルスーツ? それとも別系統のロボットかな? わからないが、とにかく灰色のロボットが現れた。
そしてそのまま、襲ってきたガミラスの戦闘機を全て蹴散らしてしまったのだ。
もう地球にはまともな機動兵器は残ってなかったと思ったんだが(星川少年の記憶から)、あんな切り札的な奴が残されてたんだろうか? まあどっちにしろ、どうにかなったのならよかった。
……そのロボットを見ていると、何だか懐かしい気配がしたような気がしたのは……気のせいだったんだろうか。
☆☆☆
「こん、のッ……何てじゃじゃ馬だよ、このロボットはっ!」
「わ、わああぁあ!? ちょ、ちょっと叢雲三尉!? もうちょっとちゃんと操縦してくださいよ!? す、すっごく揺れ……わああぁ、ゆ、揺れすぎですって! どんだけ下手なんですか!」
ミツル曰くの『灰色のロボット』こと……機動兵器『ヴァングレイ』。
そのコクピット内にて、操縦桿を握る叢雲総司と、座席の後ろにしがみつく形で同乗している如月千歳は、その無茶苦茶な機動に歯を食いしばって耐えていた。
総司は体にかかるGを歯を食いしばって耐え、千歳は必死で椅子の背もたれにしがみついて転がされないようにしている。
一瞬でも気を抜いたら壁に激突してしまいそうな急加速と急制動の連続。彼女が半泣きで総司に抗議するのも仕方ないことだった。
「バカ言うなよ千歳ちゃん、俺はこれでもパイロットとしてはそこそこベテランだっての! おかしいのはこいつの方だよ。てかむしろ千歳ちゃんに聞きたい……何なんだこの滅茶苦茶な機体は!? 研究所ではこんなもんを作ってたのか?」
さりげに彼女のことを『千歳ちゃん』と名前呼びになっているのを指摘する余裕もない千歳は、
「いや、私は何を作ってたとか、そこまでは……でもこの機体、そんなにおかしいんですか? 本当に?」
「重装甲に大火力……それを、ブースターで推力を上乗せして無理やり高機動に仕上げてる。ロボットっていうより、武装に手足がついてるようなもんだ。兵器としては高性能かもしれないが、乗る人間のことを何も考えちゃいない……並のパイロットじゃまともに動かせないぜ」
まあでも、と総司は続ける。
「このくらい滅茶苦茶な機体じゃなきゃ……ガミラスの野郎共に一泡吹かせることはできないってのも、言われてみればそうかもしれないな!」
そう言い切って操縦桿を押しこむ。
すると、先程までよりも格段に揺れが少ない動きで動き始めたのを、千歳は感じ取った。
どうやら、この短時間の操作でコツをつかんだらしい。
相応の腕がなければ不可能な芸当である。『そこそこベテラン』という彼の自己評価は、見栄を張ったわけでも何でもなかったということだ。
ふと総司の顔を見ると、普段通りの笑顔にもかかわらず、目だけは戦意に満ちたギラギラとした光を放っていた。
叢雲総司。月面特殊戦略研究所所属。階級、三尉。
両親と妹をガミラスの攻撃によってなくしており、また、それ以前に所属していた『第25部隊』も、冥王星での戦いで壊滅。彼を残して隊員は全員戦死している。
それゆえに、ガミラスに対する敵意は人一倍であり、この時も彼の脳裏には、失われていった命の敵を討つという思いがちらついて、戦意の炎に変わっていっていた。
ふとその脳裏に……一番最近、ガミラスの手で奪われてしまった、友人――と言うには付き合いが短いかもしれないが――の顔が浮かぶ。ほんの数日前に出会った、黒髪の小柄な少年の顔が。
ガミラスのミサイルの爆風と、それによって巻き起こった瓦礫の崩落に飲まれ、若くして命を散らしてしまった少年のことを思い出して……また1つ、彼は闘志に火が付くのを感じた。
「ヤマトの出港を邪魔するために来やがったんだろうが……そうはさせないぜ、ガミラス! 皆の命を無駄にしないためにも……必ず守り切ってみせる!」
そしてこの後、『滅茶苦茶』な機体を見事に乗り込なし、ガミラスの戦闘機を全機撃墜してみせた総司は、偽装を解いて姿を現した『宇宙戦艦ヤマト』を、千歳と共に、『ヴァングレイ』のコクピットから見送った―――
―――と、なるはずだった。
―――ピピッ
「? 叢雲三尉、何か通信が届いてますよ?」
「うん? ホントだ、こんな時に何が……は? 辞令? 『叢雲総司三尉及び如月千歳三尉、及び機動兵器『ヴァングレイ』は、ヤマトに搭乗し、イスカンダル計画に同行せよ』……」
………………
「「……は?」」
☆☆☆
灰色のロボットがガミラスを全滅させた直後……とんでもないことが起こった。
以前言った通り、この世界の地球は、ガミラスの『遊星爆弾』なる兵器によって、海が干上がってしまっている。そのせいで、海の底に沈んでいた、昔の時代の戦艦の残骸が見えていた。
聞けばそれは、かの有名な『戦艦大和』らしい。第二次世界大戦で海の底に沈んだ、あの。
が、実はそれはフェイクであり……その下から、残骸ではない本物の戦艦が、しかも空飛ぶ船が姿を現した。
というか、アレって……『宇宙戦艦ヤマト』だよね?
世代的にアニメみたことはないけど、超有名な奴じゃん。平成生まれの僕でも知ってる。
いや、最近リメイク版作られたんだっけ? ……見てないからどっちみち知らないけど。
かなり遠くからだというのに、そのとんでもない存在感には目を奪われた。
そして、呆気に取られている間に……なぜかそのヤマトの後方のハッチが開き、灰色のロボットはそこに乗り込んで、一緒に空に飛び立っていった。
ああ、ヤマトの戦力か何かだったのかな、あれ。
しかしということは、あれはこれからイスタンブール……じゃなくて、イスカンダルに行くのか。
確か、地球を救うために何かをもらいに行くんだっけ? そのへん超うろ覚えなんだよなあ……まあ、何にせよ僕には関係のないことではあるが。
せいぜい出来ることと言えば、その旅路が無事なものになるよう祈ることくらいである。無事にイスカンダルに行って、『何か』を手に入れて、地球に帰ってきてくれることを。
地球が滅びるまでの……残り1年以内に。
……あと、何で『宇宙戦艦ヤマト』の世界に、モビルスーツがあるのかは結局わからないままなんだけど……え、やっぱりこの世界、スパロボか何かなのかな? さっきロボット出てきたし、アスクレプスもいるし。でも、宇宙戦艦ヤマトってロボット出るの? 戦艦枠オンリー?
なんてことを考えていた時、異変は起きた。
なんと、さっき灰色のロボットが駆逐したはずだったガミラスの戦闘機が、再びやってきたのだ。
倒した奴が復活したとは考えにくい。別な場所に行っていた奴らがここに戻ってきたのだと考えるのが自然だろう。
そして問題なのは、さっきの灰色のロボットがヤマトと一緒に行ってしまった以上、それを迎撃できる戦力はもうここには残されていないということ。
ゆえに、ミサイルだろうが機銃だろうが、撃たれるままにしかならないということだ。
ヤマトをイスカンダルに送り出すために、地球連邦軍は残る余力のほぼ全てを、ヤマトに託す形で使っただろうから、もう地球に、ガミラスの相手をするだけの力は残されていないのだ。
それを知ってか知らずか、ガミラスの連中は、挑発するように低空で飛んだり、あちこちの施設に機銃を打ち込んだりして、嫌がらせをするような攻撃を行っている。
ヤマトの出港を阻止できなかった八つ当たりとかも、もしかしたら含まれているのかもしれない。
しかし、何をどんな風に嫌がらせをされようとも……それこそ、ミサイルを撃ち込まれようとも、地球側はそれに対して反撃することができないのだ。繰り返すように、もうあれらに対抗できるだけの戦力が、地球には残されていないから。
……ただ1つの例外を除いて。
さっきから、僕の中で……焦るような、悲しむような感情が湧きあがってきている。
僕自身は、まさに他人事とでも言うような、冷めた目で事態を見てるのに……何かが頭の中で、胸の奥で、急かすようにしているのを感じる。
……恐らくだけど、この感情は……この体の元の持ち主である、星川少年のものだ、と思う。
彼の意思がまだ生きてこの体に宿っているのか、それとも、死んだ後にわずかに残った残留思念みたいなものなのか……どっちでも正直大差はない気がするが、どうやら彼は、僕に、ガミラスと戦って、地球を守ってくれ、と言いたいらしい。
他ならぬ、この機体……『アスクレプス』を使って。
……率直に言って、僕にそんな義理はない、と思う。
僕はまあ、地球人ではあるけど……気が付いたらコレのコクピットに乗ってたなんていうわけのわからない状況だったわけで、
知り合いと呼べる人も、この世界にはいない。記憶の中にいる何人かの人達は、あくまで星川少年の関係者達であって、僕とのつながりはない。
だから、あんな、宇宙の果てから隕石飛ばして侵略して来るようなおっかない連中相手に、乗ったこともない機動兵器を使って、命がけで戦う義理も義務も、本来はない。
ない、んだけど……そんな風に考えると、僕の中に宿っている星川少年の残留思念が……責めるような感じこそなけれど、すごく悲しそうな感じになるんだよなあ。
そのせいか、どろりと胸の奥に重たいものがたまってるような、気持ちの悪い感触になる。
彼はきっと、志半ばで死んでしまった悔しさはもちろん……残された家族まで死んでしまうようなことにならないように願って、そんな風に僕を急かしてるんだと思う。
それに加えて……仮にも僕も地球人だ。
美しい、青い星だった地球を、こんな風に変わり果てた姿にした侵略者に対して、何も思うことがないわけでもない。ぶっちゃけて言えば、怒りを覚えている部分も、ある。
そして……ここの『捨てられた基地』で、勝手に携帯食料を失敬させてもらったことについて、その分の借りを返すんだと思えば……うん、一宿一飯の恩義的な意味で……
気が付けば、僕は『アスクレプス』のコクピットに乗り込んでいた。
誰に向けてかもわからない「今回だけだから」なんて言葉と共に。
不思議なもので、この機体の動かし方は、頭の中に入っている。
そもそも僕、最初……日記書き始めた初日に、当然のようにコクピットから降りてアスクレプスを外から見上げてるけど、その時にハッチの開閉を行う操作だって、よく考えてみれば、その手順を知っていなければできないことだった。
あの時点で既に、僕の頭の中に、その知識はあったのだ。どうしてかは知らないが。
知らない、が……使えるのであれば、使わせてもらう。
こうすることが、少なくとも今は、正しい気がするから。
んじゃまあ、折角だし……雰囲気を出すためにも、
「『アスクレプス』……出る!」
☆☆☆
地球連邦軍に残された数少ない戦艦の1つである、『キリシマ』。
その艦長を務める男、土方竜は、部下たちに銘じ、地上への降下を急がせていた。
先程まで、ギリギリまで『遊星爆弾』の進路を変えようと、大気圏外で奮戦していた彼らは、イスカンダルへ向かうヤマトを見送った後、地上が残るガミラスの攻撃を受けているという報告を受けた。
今の連邦軍に、まともな戦力はほとんど残されていない。ましてこの付近で動かせる戦力で、敵機を撃墜できるレベルのものとなると……自分達以外にはいない。
だが、自分達も決して万全と言えるわけではない。
先程言ったように、この『キリシマ』は、ギリギリまで遊星爆弾の進路を変えようと攻撃を続けていたのだ。そのため、搭載している弾薬の残りはもちろん、エネルギー残量も限りなく少ない。
相当上手く立ち回らなければ、戦闘機相手であってもまともに戦うことはできず、逆に的になってしまう可能性すらある。
それらを承知の上で、それでもなお土方は艦を地球に降下させた。
(沖田達を送り出した以上、彼らが帰ってくるまでは、なんとしても地球は我々が守らなければならん! そうでなくては、奴の決意に……ッ!?)
しかし、大気圏に突入し、いざガミラスとの戦いを……と意気込んだところで、彼らは予想外の光景を目にする。
ガミラスを相手にできるような戦力など、残っていなかったはず。そのはずだった。
しかし、戦場となる地区に舞い降りた『キリシマ』の目の前に現れたのは……
「何だ、あの……白いモビルスーツは?」
見覚えのない、白い機動兵器が、ガミラスの戦闘機を相手にして戦っているという光景だった。
どこか透明感のある白色のボディに、鋭利な刃のような突起や、緑色のクリスタルのようなパーツがあちこちにある。仮面のように顔にとりつけられた赤いパーツの向こうに、敵を見据える鋭い目が見えたような気がした。
連邦軍正式配備の量産機とは、大きく違うデザインだ。土方は思わず口走ってしまったが、果たしてモビルスーツなのかどうかすら定かではない。
土方は、将官の立場を持つ者の1人として、今の地球の現状は、そして軍に残されている戦力は随時把握している。
しかしやはり、何度思い出そうとしても、あのような兵器が残されているという情報は記憶にない。
その周囲を、全部で四機飛んでいる、ガミラスの戦闘機。そこから放たれる機銃の弾丸が、その機体『アスクレプス』に襲い掛かるが、何らかのシールドのようなものを発生させているためか、それらは1発たりとも届くことはない。
しかし、アスクレプスの方からもまた、何か攻撃などをするようなそぶりは見せなかった。
飛行したまま、前後左右上下に動き、機銃を躱したり、シールドで受けて防いだりしている。その動きは、ゆったりとしていて余裕がある……というよりも、どこか拙く危なっかしい。かわさず受けているのも、単に『避けきれていない』のではないかと思えるほどに。
連邦軍において、訓練校の校長も務めていた土方は、その動きを見て、すぐに思い当たることがあった。空中での戦闘になれていない素人が、まずMSを動かすのに慣れている途中ないし段階の動きによく似ている、と。
(ということは、あの機体……乗っているのは素人か?)
恐らく、時を同じくしてガミラスも同じ、あるいは似た結論に達したのだろう。アスクレプスの動きを先読みするようにして――効かないとわかってはいるが――うまく機銃を命中させたり、激突するすれすれを挑発するように飛行したりし始めた。
防御性能を見るに、このまま続けても撃墜されることこそなさそうではあるが、これではらちが明かないと、土方は予定どおり、この『キリシマ』を参戦させるべく、部下に指示を出そうとした……その時。
何度目かになる、激突すれすれの『挑発飛行』を試みた、ガミラスの戦闘機。
先程までと同じように、ギリギリですれ違って飛び去ろうとした……その瞬間、アスクレプスの腰から、目にも留まらぬ速さでブレードが抜き放たれ、そのまま振り抜かれた。
その一撃は、すり抜ける動きで飛び込んできた戦闘機のど真ん中を捕らえ……両断した。
かわすか受けるしかできない、見た目だけの木偶の坊。
目の前の人形をそうだと思っていたガミラスは、恐らくは自分の撃墜を知ることもなく、爆炎の中に消えた。
一瞬にして味方の内の一機が撃墜されたのを見て驚いたのか、残る3機は慌てて距離をとろうと急旋回し始める。
その直後、アスクレプスの機体後方のブースターから、白い炎のようなエネルギーが噴射され、急加速する。
そして一瞬後、あろうことか、トップスピードに近いであろう状態の戦闘機を、後ろから追い抜いた。
(速い!)
土方がそう思うよりも早く、戦闘機の行く手に回り込んだアスクレプスは、腰から刃を抜いて、止まれずそのまま突っ込んでくる戦闘機を両断する。
そしてそのスピードをほとんど落とすことなく、複雑な軌道を描いて空を飛び、別な戦闘機に追いつく。
放たれたミサイルをあざ笑うかのように、紙一重でひらりとかわし、すれ違いざまにブレードを一閃。また一機落とす。
先程までの拙い動きが嘘のような、見事な戦闘だった。
いや、どれもこれも一瞬の出来事過ぎて、戦闘と呼べるかどうか怪しいものではあるが。
(先程までは、様子見に徹していたのか……? 拙く見える動きも、もしかすると油断を誘う偽装だったのかもしれん)
残る1機に対しては、背中から伸びる、まるで蛇のように銃身が蛇行するビーム砲を向け、非実体のエネルギー弾を連射する。
それらは、こちらに向けて放たれていたミサイルを空中で全て撃ち落とし、その爆炎を突き抜けて、戦闘機を強襲……命中。いともたやすく、4機を撃墜してしまった。
あっという間の出来事に、呆気に取られていた土方達だったが、すぐに通信を飛ばし、その白い所属不明機に応答するよう呼びかける。
しかし、その機体は呼びかけに答えることはなく、赤い仮面に隠れた目で『キリシマ』を一瞥すると、先程と同じように急加速し、追跡不可能な速さで空の彼方に飛んでいって……消えた。
「……一体、何だったのだ、あれは……?」
既に影も形も見えなくなった、『アスクレプス』が飛び去った方向を見ながら、土方はそう、ぽつりとつぶやいた。