来年もどうぞ、『とある蛇使い座の日記』をよろしくお願いいたします。
よいお年を。
第29話、どうぞ。
【△月▼日】
ここんとこ『激動の1日』が結構な頻度でやってくる件。
まあ、今回に限っては、こっちからしかけたことだから、不意打ち気味なことで疲れたとかはないけど……ああでも、普通にやること多くて大変だったから疲れはしたな。
何があったかというと……『火星の後継者』の拠点に殴り込みをかけました。
そんで、なんか捕らわれてた女の人を救出しました。以上。
……端折りすぎたな。うん、ちゃんと説明する。
ことの発端は、前回、僕が拉致された時に遡る。
あの時、僕やネルガル・シークレットサービスの人達が、北辰達の乗る機動兵器と戦ってる間に、草壁達には逃げられたわけだけど……その時に、ミレーネルが妙な思念波を感知していたのだ。
酷く希薄でふわふわした感じのものだったけど、その思念からは、かすかに『愛情』を感じ取ることができたという。
そしてその後、ネルガルから情報提供の一環として聞かされた、連中がどうやって『ボソンジャンプ』を制御しているかっていう仕組みを聞いた時、ミレーネルの言っていたことの意味がわかった。
そして、それを利用した突破口も思いついた。
ボソンジャンプを使って狙った場所に飛ぶには、『演算ユニット』とかいう、ボソンジャンプのシステム中枢に、行きたい場所のイメージを送る必要がある。これを『ナビゲート』と呼ぶ。
そしてそれができるのは、A級ジャンパーのみ。
A級ジャンパーによる『ナビゲート』なしでの移動の場合、狙った場所に正確に跳躍することが非常に難しい上、生命体は体を再構築できない。つまり、ジャンプできない。
ただ、連中はどうやら、火星にあった、演算ユニットへアクセスするための『端末』を持っているらしく、それに『サイコフレーム』を組み合わせることで、一方通行でなら、A級ジャンパーなしでも行き先を指定して生命体をジャンプさせることもできるらしい。
しかし、精度と安全性、確実性はどれもお察しであり、やはり正確にボソンジャンプを運用するには、『A級ジャンパー』の協力は不可欠。
そこで連中が考えた方法は、控えめに言っても外道極まりないとしか言えないような方法だった。
あるA級ジャンパーを、演算ユニットにジャンプ先のイメージを送るための『人間翻訳機』として使う。そのために、一連のシステムの中に、ジャンパーを物理的に組み込む、というものだ。
箇条書きで説明すると、
1.どこにジャンプするかという情報を、精神制御の類でそのジャンパーに伝える
2.そのジャンパーの思念を、サイコフレームで増幅する
3.増幅したイメージを、アクセス端末を通して『演算ユニット』に送る
4.狙った場所にジャンプ
要するに、そのジャンパーを人間翻訳機として使うわけだ。見事に人を物として利用することしか考えていないやり方である。
……考えたの、あのヤマサキって奴か? まれに見る外道だな。
そして、その利用されているA級ジャンパーっていうのが……なんと、ミスマル中将の娘さんだという。
しかも、以前助けてくれた、あのテンカワ・アキトさんの奥さんでもあるって言うじゃないか。
それはまた……なんとも残酷な話で……。
ていうか、あの2人、義理の親子だったのね。
ここまでが、こないだ逮捕した構成員とかを尋問してわかったことだそう。
つまり、恐らくは連中の拠点に捕らわれているであろう、そのA級ジャンパー……ユリカさんというらしいが、彼女を助け出すことができれば、連中は一気に弱体化する。
まともにボソンジャンプを制御できなくなり、連中が目指しているプランも不可能になるだろうから、そこを狙うのが一番効率的だと言えるだろう。
……効率とかそういうの抜きにしても、そんな形で身内を利用されて怒り心頭なミスマル中将やアキトさんのためにも、さっさと助け出してあげたいし。
そして、ネルガル・シークレットサービスの人達の決死の努力により、連中の拠点と思しき場所までは割れているらしい。すごいな、ネルガル。
あとはそこに一気に戦力を集中して摘発し、ユリカさんを救出と行きたいところだが……その作戦で頼ろうと思っていた独立部隊は、現在行方不明。
仕方なく、ネルガル・シークレットサービスが単独でことを構えることになった。
地球連邦軍からは戦力は出せないのか、と思ったら、軍の中にもまだ一定数、『火星の後継者』に賛同する者がいて、どこに敵がいるかわからない状態。
裏切り者の耳に摘発計画が入ってリークされ、逃げられてしまったら大変だからして、これはむしろ連邦軍そのものに内密に行うという。
ネルガル・シークレットサービスも決して無能ではないし、むしろ優秀な人達の集まりだが、それでも相手にも北辰やその部下達と言った手練れがいるし、一瞬でこちらの懐に入ってくる『ボソンジャンプ戦術』は、雑兵が使っても脅威としか言いようがないもの。
ゆえに、僕ら『サイデリアル』にも手伝ってほしい、と話があり、僕らはこれを承諾した。
そして同時に、連中の『ボソンジャンプ戦術』を完封した上、一気にユリカさんを助け出す作戦も提供させていただいた。
説明した時は『そんなことができるのか』って半信半疑だったようだけど、まず第一案としてその作戦を実施し、ダメそうだったら予定通り総攻撃を、っていう感じにまとまった。
そして、摘発当日。
敵に悟られないギリギリまで近づき、ネルガル・シークレットサービスと、サイデリアルと提携している民間軍事会社の合同チーム、それに加えて、新たにわが社で開発した無人兵器『デイモーン』と『ティアマト』を多数投入し、一気に攻め込んだ。
突然の襲撃に向こうも最初は混乱していたものの、元軍人を含むプロが参加している集団だけあって、反応は迅速だった。
すぐさま体勢を立て直し、基地からの撤収と並行して、お得意の『ボソンジャンプ戦術』でこちらの急所を一気に突こうとしてきた。
しかしその瞬間、この作戦の要にして、こちらの切り札であるミレーネルが動く。
さっき言ったように、連中のボソンジャンプの制御は、ユリカさんの思念を精神制御で誘導し、イメージを翻訳させることで成り立っている。
そこに、ミレーネルが、ジレル人特有の精神干渉能力『ゴーストリンク』によって割り込み、イメージを改ざんしてから『演算ユニット』に送信させた。
その結果、連中がジャンプして出てきたのは、こちらの懐……ではなく、あらかじめ機動部隊が配置された、迎撃用の陣のど真ん中。
予想と違う景色に、ポカンとして立ち尽くしている隙だらけな連中を、こちらの機動部隊は速攻で、容赦なく、そのまま集中砲火で撃墜。何もできずに連中は落とされていった。
2回目、3回目と同じようにして『ボソンジャンプ戦術』を無駄打ちさせ……この辺りで敵も、『何らかの手段で戦術が封じられている』ということに気づいた。
しかし、その頃にはミレーネルが『大体感じがつかめた』と言って、次に連中がボソンジャンプを試みたタイミングで、本命の作戦を発動。
今度は『行き先』だけでなく、『飛ばす対象』をも改ざんし……捕らわれていたユリカさんを直接ジャンプさせて、直で取り戻した。
全身にコードみたいなものが繋がれていて、いかにも『人体実験されてました』的な痛々しい姿だったけど――よく見ると、点滴針みたいに刺さってるわけではなく、脳波検査や心電図みたいな吸盤とかテープ接着だったのは幸いだったかも――その対処はネルガルに任せた。
そして、システムの心臓部と言っていい彼女が突如失われ、混乱の極致であろう『火星の後継者』に対して……総攻撃が始まった。
僕もアスクレプスで出て、ザコばっかりだが何機か叩き落した。
『ボソンジャンプ戦術』はもちろん、普通にボソンジャンプを運用することすら困難になった連中は、残されていた戦力のほとんどを吐き出して戦わせ、しかし惨敗。
しかも、なぜか北辰達は出てこなかった。ちょうど留守にしてたんだろうか。
それでも、追い詰められた末の死に物狂いの抵抗により、草壁達一部の幹部には逃げられてしまった。
しかし、戦力や物資の大半を喪失し、切り札だったボソンジャンプも使えなくなった今、連中はほとんど死に体と言ってもいいだろう、とのこと。
ひとまず、第一目標だったユリカさんの救出は達成したし、この作戦、成功と言っていいだろう。
疲れたけど……達成感を伴った疲労感なら、悪くはないな。
【△月▲日】
救出・摘発作戦から一夜明けて、今日。
朝イチで、連邦軍のミスマル中将から連絡が入り……開口一番、感謝された。
娘を助けてくれてありがとう、と。
軍人として、私情を押し殺して今まで軍務に当たってはいたものの、やはり娘さんのことが心配だったんだろう。
当初は『飛行機事故で死亡した』って聞かされていたものの、実際はテロリストに攫われていたと知った時には……生きていたのはよかったけど、余計に不安だっただろうし。
ユリカさんは今、ネルガルが手配した病院――普通の病院ではなく、テロリストの襲撃を防ぐための秘匿された施設――に入っているらしく、もう面会に行って来たそうだ。
もう既に意識も戻り(助けた時にミレーネルが色々やったらしい)、受け答えもはっきりしているため、大事なさそうだとのこと。
それでも、かなり長い期間、人体実験とも言うべき環境下に置かれていたわけだから、検査とかは慎重に行って、異常がないか確かめるそうだけど。
ミスマル中将は、今回のことで火が付いたらしく、これを気に、連邦軍も本腰を上げて『火星の後継者』の摘発に動くそう。
同時に、軍内部の『火星の後継者』に賛同する連中の摘発を一気に進めるつもりだそうだ。
今までは、下手に刺激して暴走するのを警戒して慎重になっていたが、今回のことで『火星の後継者』の組織そのものに大打撃を与えた今こそ、絶好のチャンスだと。
テレビ電話ごしでも伝わってくるレベルのその本気度に、僕は、『これは連中の寿命も残りわずかだな』と、ミレーネルと2人で苦笑していた。
それと今回、僕らは摘発作戦参加の報酬として、連中が研究していたデータの一部をもらうことができた。
ボソンジャンプ運用に関する研究資料だけど、これ、色々と他の技術に応用できそうだ。
ああもちろん、外道な技術については何も手は付けないつもりだけど。
……そろそろ、ずっと前から僕らが研究している、とある武装が完成しそうなんだよね。
もしかしたら、それの一助というか、後押しになってくれるかもしれない。
ボソンジャンプにおける、A級ジャンパーの思念を機械ないしシステムの駆動に反映させるっていう点。これが、僕らが研究しているアレと、よく似てるから。
☆☆☆
ふとミツルは、日記を書きながら……手元のタブレット端末に目をやる。
その端末は、『バースカル』の生産設備とデータをリンクさせていて、その稼働状況を一目で見ることができるようになっていた。
「もうちょっとなんだよな……アスクレプスの中にあった設計データと、バースカルの生産設備を組み合わせて、それでいてこんだけ苦労するとは……まあ、それに見合った性能を発揮してくれるだろうから、長いこと研究し続けてきたんだけど。……副産物の方が先に完成しそうになってるのは……何だかなー」
そうつぶやきながら、タブレット端末の画面を眺めるミツル。
画面上に移されていたのは、恐らくこの世界では、彼以外にはその名を聞いたことがある者も、その性質を知る者も皆無であろう……彼曰くところの、『強化パーツ』の名が並んでいた。
品名:D・エクストラクター
進捗:87%
品名:リヴァイヴ・セル
進捗:93%
備考:取扱注意