スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

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第33話 ジル司令との交渉

 

【△月;日】

 

 今日はドラゴンの襲撃も何もなく、平和な一日だった。

 

 しかしそんな日でも、いやそんな日だからこそ、独立部隊の面々は、己を鍛えることを欠かさない。出撃がないのなら、その分はトレーニングにあてようってことで、シミュレーターや訓練場で汗を流している様だ。

 

 食堂で昼食を食べてる時に、僕も『よかったらどうだ?』って誘われたので、運動不足になるのも問題だしな、と思って、参加させてもらった。

 

 結果というか、評価は、中の下、とのこと。

 まあ……僕、何度も言うように、ちょっと護身術かじっただけの、素人に毛が生えたような程度の腕前だからね……本職の軍人さんや、それに匹敵する腕前の人達にはかないませんよ。

 

 むしろ、『下の下』や『下の中』でなかっただけ健闘したと言っていいんじゃなかろか。

 

 僕の相手になってくれたのは、軍でも指導する立場に立つことが多かったっていう、グラハム・エーカーさんを筆頭に、パトリック・コー……あ、今はマネキンさんか……ご存じ不死身の方。

 それに、前の世界からの付き合いだってことで総司さんと、ユリカさんを助けてくれた恩返しってことでアキトさん。主にこの4人である。

 

 『仕事の合間合間に鍛えてこれなら筋はいい』『本格的に鍛えるつもりならもっと強くしてやれる』との評価だった(グラハムさん談)。

 お世辞を言っている感じじゃなかったので、ホントにそうなんだと思う。

 

 嬉しい評価ではあるが、僕は軍人になるつもりはないし、あくまで商人が本職なので……。

 

 そう言うと、グラハムさんは『そうか』とだけ言って、引き続き指導をしてくれた。

 加えて、普段から効率的に行える自主トレのやり方なんかも教えてもらえた。なんか、至れり尽くせりって感じで、こっちが恐縮しちゃったよ。

 

 あと総司さんが、『なら今度竜馬や鉄也に会った時にはお前も鍛えてもらえば?』みたいなことを言われた。

 ロボットだけでなく、白兵戦の強さにも定評のある方達だし……もしそうしてもらえるなら、それは光栄かもしれないけど……ちょっと、いやかなりきついトレーニングが待っていそうで怖くもあるな。

 

 ……それと、何気ないというか、当然のように放たれたその言葉で、総司さんは鉄也さんが、また仲間に戻ってくることを疑ってないんだな、ということがよく分かった。

 僕としても、ぜひそうなってほしいと思う。舞人社長や勝平君のためにも。

 

 

 

【△月_日】

 

 ここ最近、暇を見て皆さんの訓練に混ぜてもらっている。

 

 グラハムさんに『筋がいい』と言ってもらえて嬉しかったし、だったらその評価に恥じないくらいには上達したいなと思って続けていたら、結構自分でも自覚できるくらいには腕が上がってきた気がする。この短時間で。

 

 もっとも、多少反応が相手の攻撃に追いついてきたり、負けるまでの時間が伸びただけなんだけどね。相変わらず、勝率は全然だし、評価も立ち位置も『中の下』のままだ。

 

 けど、『中の中』は見えてきている、とも言われてるので、調子をよくして励んでおります。

 これもコーチがいいからかな? いや、別に今まで護身術を教えてくれた先生達をディスって言う意図はないんだけども。

 

 流石に、護衛とかつけなくても1人で大丈夫……とまでは言えないだろうけど、変なのに襲われても多少戦えるくらいにはなってると、この身の助けになりそうだと思うし。

 

 『火星の後継者』は壊滅したけど、北辰とその部下達は未だにどこかに逃げ伸びてるっぽいしな……。

 

 また、今日はドラゴンの襲撃があったものの、出撃した子達は全員無事帰ってきた。

 

 ご存じ『パラメイル第一中隊』と、それとは別の『第三中隊』が出撃したそうなんだけど、楽勝だったって。上機嫌で食堂に来たヴィヴィアンに教えてもらった。

 第一中隊の面々はもちろん、ここ『アルゼナル』にいるメイルライダー達も、その質は上がってきてるみたいだ。ジル司令が上手いことやってるのかな?

 

 色々抜け目がなくて、時々何考えてるかわからなくて、ちょっとおっかないところもある人だが……やっぱ有能なんだろうな、と思った。

 

 

 

【□月○日】

 

 その有能なお人に、なぜか『お茶会』なるものに誘われました。

 

 整備士のメイちゃんから伝言で伝えられたそのお誘いに、『はい?』って思わず聞き返しちゃったんだけど……聞き間違いでも何でもなかったようで。

 しかも、必要ならミレーネルにも同席してもらってOKとのこと。どうやら、『サイデリアル・ホールディングス会長』としての立場の僕と、仕事の話をしたいようだ。

 

 とりあえずその話を受けさせてもらって、指定された時間に彼女を尋ねると、応接室みたいなところに案内された。

 

 そこで、独自のルートで外から仕入れたっていう、美味しそうなお菓子と、それよく合うという酒を進められた。

 

 未成年なのでと、酒は断った。

 『堅いことを言うな』『外の法などここでは気にしなくていい』って進められたけど、どっちみち仕事の話をする時は、酒は飲まないことにしているので。

 

 ちなみに、プライベートではたまに飲む。支社がある国の中には、日本と違って未成年でも、16歳とかから飲酒OKの国もあるし、付き合いとかもあるので。

 

 けど今回は、それとは別にしても……なんか、飲まない方がよさそうな気がするんだよね。

 

 いや、別にジル司令が一服盛ってくるとか、そんな変なことは考えてないけど……この人がわざわざ持ち出すビジネスの話なんだ。酒の入った頭で聞いていいことじゃないだろう。

 

 ……あるいは、判断力を鈍らせて少しでも自分に有利な交渉をするとか……そのくらいのことはやりそうだしな、この人なら。間違ってたらごめん。

 

 きっぱり断ると、一応わかってくれて、代わりに紅茶を出してくれた。

 けど、自分は遠慮なく飲みながら、ジル司令は『食べながら聞いてくれ』話を切り出す。

 

 簡単に言えば、ジル司令の用件は、『アルゼナルとして直接『サイデリアル』と取引したい』というもの。それも、かなり本格的に。

 

 ドラゴンの襲撃はその頻度と激しさを増しており、こちらも部隊の再編や質の向上でそれに対応してはいるものの、遠からず対応できないことになると予想される。

 

 しかし、『始祖連合国』にそれを伝えても、『贅沢を言うな』『今ある戦力で何とかしろ』と、無碍な対応が帰ってくるばかり。

 相変わらずというか、『ノーマである』という理由で、まともに取り合ってもらえないそうだ。

 

 彼らにとっては、ノーマはその命すらも含めて、戦って使い潰して当然の消耗品。むしろ、戦死して初めて『仕事をした』と認識してもらえる。が、褒めてはもらえない、当然のことだから。

 

 アルゼナルのしきたりにもその一端が現れていて……ここに連れてこられたノーマは、名前を奪われるそうだ。『アンジュリーゼ皇女』が、『アンジュ』になったように。

 その名前は、死んで初めて返され、墓にその名を刻むことが許される、とのこと。

 

 『あの国の連中には、何を言っても無駄だ。必要なものすら渋って満足によこさんからな』

 酒で口が緩んだのか、それとも普通に素で言ってるのか……少しだけ顔の赤くなったジル司令が、そんなことを言っていた。

 

 皮肉にも、ここアルゼナルは、その兵の損耗率の高さゆえに、そんな風に物資やら何やらを『渋られ』ても何とかなっていたが、ここ最近はその状況が改善されていることが、逆に物資に余裕がなくなってきている原因になっているらしい。

 

 もちろんそれを悪いことだとは言わないが、かといって霞を食って戦えるわけでもないし、なまくらの剣や弾丸のこもっていない銃でドラゴンを倒すことはできない。

 

 ゆえに、『サイデリアル』と取引して独自に武器弾薬や物資を仕入れたいらしい。

 

 こちらにとってはよさそうなビジネスの話だけど、そんなこと――本国に断りもなく、自分達で独自に軍備を増強――したら、また何かいろいろ言われるんじゃないかな?

 

 そう思って聞いたら、『そのあたりはどうとでもなる』とのこと。

 『始祖連合国』の連中は、まあいい顔はしないだろうけど、自分達の負担が増えずに、こっちの自腹でそういうことをする分には、むしろ『殊勝な心掛けだな』って笑って放置するだろうから、とのことである。

 

 聞いてるとつくづくアレな国に思えてくるな……『始祖連合国』。

 

 そしてその財源は、他の部分を色々水増し請求して確保するって。さらっとすごいなやっぱ。

 

 そしてそれだけじゃなく、資金以外にも僕ら『サイデリアル』に有意な報酬を、色々と用意してくれるとのこと。

 

 外部からではわからない『始祖連合国』の情報や、鎖国状態になっているせいでよくわかっていない、エリアDその他の地理情報、『始祖連合国』が独占している資源採掘場や、そこで取れる資源のリストなんかも。

 

 さらには、長い戦いの歴史の中で、アルゼナルに蓄積された、『パラメイル』という兵器の運用に関するノウハウや、ドラゴンとの戦いにおける様々な情報。

 

 その他にも、色々と……なるほど、扱い方次第では千金の価値に化けるであろうものばかりだ。

 正規の料金に加えて、これらの情報をオマケでつけてもらえるなら、十分な黒字と言える。

 

 ……しかもこの人、それらに加えて、なんだかとんでもない提案までしてきた。

 

 『なんだったら、気に入ったノーマを1人か2人、ここから持って行ってもいい』

 『ここの連中は金持ちが好きだから、お前が口説けば喜んでついていく』

 『見た目がいい奴も揃っているし、侍らせるなり夜の相手なり好きなようにできる』

 『欲しい奴がいれば、今すぐにでもここに呼ぶ』

 

 ……明らかに人身売買の申し出なんですが。

 精一杯言い換えて、どうにか……ヘッドハンティング、あるいは職業斡旋か?

 

 何をこの人は、さらっと奴隷貿易じみた交渉持ち出してんだ。いくらなんでも問題ある……え、『始祖連合国』からすれば、ノーマが金やその他利益に変わるなら、十分『有効活用』だって喜んで納得する? えぇー……?

 

 あの……やっぱ酔ってません? むしろそうであってほしいんですが。

 『始祖連合国』も色々酷いけど、この人はこの人で、別ベクトルのガチ度合が酷いな……。

 

 横に座っているミレーネルも、流石にこの手の話は不快なのか、三白眼……を通り越して、睨むような目でジル司令を見ていたようだ。

 

 当たり前だがそんなつもりはないので、ノーマ云々についてははっきり断っておく。

 

 しかし、取引自体はこちらにも有益なことなので、前向きに検討する、と伝えた。

 

 ジル司令としては、それで十分満足できる返事だった様子。

 やっぱり、人身売買の下りは冗談だったんだろうか? いやでも、感じからして、仮に僕があそこで頷いてたら、本気でその話を進めそうな感じだった気がするんだよな……そしてそれを特大の貸しにして、交渉を有利な方に持っていく的な。

 

 やっぱこの人、油断できないな。

 

 

 

 追記

 

 ……よく考えたら、人身売買、前例あったね。

 スメラギさん、『パラメイル第一中隊』を買い上げてたし。

 

 いや、あれはむしろ雇用契約(本人達の意見はガン無視)の一環として見れるかもしれないけど、その後にあったモモカさんの一件は、完璧に人命の売り買いだったしなあ……。

 本来は処刑だったところを、金で買って助けた、っていう。いい結果になったとは思うけども。

 

 

 

 追記その2

 

 自室に帰ってから、ジル司令との今後の交渉について、簡単に打ち合わせをした。

 

 その際、ふと思いついたような感じで、ぼつりとミレーネルが言った。

 

 字面では非人道的な扱いでも、僕に買われるのなら、もしかしたらそっちの方が幸せだっていうノーマもいるかもしれない……と。

 

 今回の話の中でもジル司令が言っていたけど、『始祖連合国』やその関係先では、とにかくノーマは人間扱いされないし、アルゼナルにいてもいつ死ぬかもわからない戦いが続くだけ。

 それならいっそ、『買われて』外に連れ出される方がいい、って子もいるんじゃないか、と。ミツルならその子を買っても、酷い扱いはしないだろうから、と。

 

 ……そう言われると、『ありうる』と思えてしまうのがまた……。

 

 ジル司令もその時、『少なくとも1人、確実についていくであろう奴はいる』とか言ってたな……誰だろ? 僕の知ってる人かな?

 

 

 

 

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