第36話 ゲッター線とドラグニウム
【□月●日】
……日付は変わったものの、続きは書けた。
けど、かなり大変な1日だった。
いやもう、その1日の間に色々なことがありすぎて……最近こんなんばっかだな。
今僕は、『宇宙世紀世界』の『第3新東京市』でこの日記を書いている。
どうしていきなり次元の壁を超えているのかについては……まあ、順序だてて話していこう。
あの日、まず僕らは、『始祖連合国』の……というか、ほとんどあのボケナス皇帝の独断だったようにしか見えないんだが……その軍を迎え撃った。
いつもの無人機軍団と、あのフリスビーみたいな無人兵器(ピレスロイド、という名前らしい。殺虫剤?)に加え……なんか、『DG同盟』や『火星の後継者』の機体まで一緒になって攻めて来たんだが……。無人機じゃなくて、パイロットものってたし。
あぶれた、あるいは路頭に迷ってたのを組み込んだんだろうか? 節操なしだな何とも。
そして、戦艦に乗ってトンチキ皇帝もその場に現れた。
予想通りというか、アンジュを第一目標として来ていたみたいだが……ここにいないとわかると『それでは出てきた意味がないではないか!』って、後方に下がって行った。何だありゃ。
まあ、アンポンタン皇帝のことは別にいい。いても脅威でも何でもないし。
ともあれ戦いが始まったわけだが……数が多い以外は、今更無人機や量産機相手に負けるような面子でもない。
補給や修繕が必要な機体は交代で後ろに下がりつつも、十分に対応できていた。
もっともこの闘いは、実質は撤退戦みたいなものである。
これは、事前に行われた、スメラギさんを筆頭とする戦略担当メンバーらの会議で決まっていたことらしい。
防衛自体は難しくないとはいえ、大国の戦力を次々に投入して攻め続けられたら、いくら何でもいつか息切れして倒れてしまう。
なので基本、アルゼナルは放棄する方向で考える。その準備やら、人員の避難のための、実質時間稼ぎがこの戦いの目的なのだ。
もともとノーマ達は、追放同然の形でここに送られ、そしてここでもひどい扱いを受けてきた。
だったらいっそ全部きれいさっぱり捨ててやれ、という結論に達したようで。
アルゼナル自体にも、そこまで愛着がある人も少ないし(つらい思い出が多いから)……何か理由があったとしても、それごと全部引っ越してしまえば、とも考えられるし。
まあ、そんな感じで戦いを続けていたわけだが……その最中、アンジュ達が戻ってきた。
しかも、以前出会った時は敵だった、例の『赤いパラメイル』や、それとよく似た他のパラメイル?と一緒に。
何気に僕、それ見るのこの場が初だったんだけど……なるほど、パラメイルに見えるけど、どこか異なる雰囲気も持ってる機体だ。
その『焔龍號』に乗っている、サラマンディーネという名前らしい少女は、どうやらアンジュとは和解した……かどうかはわからんけど、この場では協力してくれるらしい。
アンジュもタスクもそれを納得して受け入れているようだし、まあ……心強い援軍が来たと思えばいいか。
ただ、問題はその後だった。
アンジュが戻ってきたことを察したボンクラ皇帝が、これ幸いと戻ってきて……総攻撃とばかりに攻め出したのである。
一応これにもどうにか対応はできていたんだけど……その最中、とうとう敵のボスが現れた。
え、皇帝がボスじゃないのかって? いやいや御冗談を、あんなん三下の小物だよ。
来たのは、ジル司令曰く所の『神様』。
西暦世界の諸悪の根源であると語っていた、『エンブリヲ』その人である。火星でもその姿を見せたっていう、黒いパラメイルに乗って現れた。
その戦闘力がとんでもないレベルで……おそらく本気ではなかっただろうにも関わらず、無人機軍団とは比べ物にならない損害をこっちに与えてきた。
スピード、パワー、火力……どれも、小型のサイズからは想像もできないレベルだった。
しかも、理由はわからないけど、そのエンブリヲはアンジュと……なぜか僕を特に襲って来た。
何で!? やっぱりこの世界の機体じゃないから? それとも……
さらに、それに便乗してボケナス皇帝まで総攻撃に移って……しかも、嫌がらせのつもりなのか、機動部隊ではなくアルゼナルを標的にして攻撃を開始したもんだから……。
ここで、猛攻に対応できなくなったのか、クリスが撃墜。
アルゼナルを……正確には、そこにいる幼年部の子供達を守ろうとしてだろう、無理に前線に出て盾になろうとしたエルシャも撃墜されてしまった。
さらに、サリアまでもがここで脱落。
前2人よりも戦力的な意味では安定してたはずなんだけど……どうも彼女、エンブリヲが現れた直後あたりから、『私がやらなきゃ!』って暴走気味だったように見えていた。
というか、ここ最近はそうでなくても何やら思いつめた感じだったようだし……ブツブツ呟いてた独り言から察するに、ジル司令や『リベルタス』が関係してるっぽいけど、一体彼女に何があったんだか……?
それが行き過ぎて致命的な事態になる前に、アンジュが手加減した攻撃で、サリアのアーキバスを戦闘不能状態にして、強制的に脱落させたのである。
落ちて行く際の捨て台詞になった『アンジュの下半身デブぅ~!』には、ちょっとシリアスブレイカー的なものを感じて笑ってしまいそうになったけど……状況そのものは笑ってられる状況じゃなかったんだよなあ……。
その3機の脱落をあざ笑うように言った(わざわざオープンチャンネルと外部スピーカーの両方で)スットコドッコイ皇帝に、アンジュがブチ切れて突貫。その戦艦の動力部を破壊したことで、一転して追い込まれた皇帝。
小物キャラのお約束的に『皇籍に復帰させてやる』とか何とか言って命乞いをしていたものの……まあそれが聞き入れられるはずもなく。
しかし、アンジュがトドメを刺すより先に……なぜかそこで割って入ったエンブリヲが、味方(あるいは手駒)であるはずの皇帝の乗る戦艦を撃墜した。え、何いきなり?
いきなりの裏切り?斬り捨て?に僕らがぽかんとしている前で、さらに事態は進む。
その直後、アンジュとサラマンディーネの機体と、エンブリヲの機体が、あの時空ゆがめる系のヤバい兵器を打ち合って(やっぱりあの黒いのにも搭載されてたか)……そのせいで次元震が発生。
それに巻き込まれて、出撃していた機動部隊と戦艦は全員……『宇宙世紀世界』に飛ばされてしまった、ということである。
アンジュ達にとっては、飛ばされて、帰ってきたと思ったらまた飛ばされた形になる。事故も含めて結構な頻度で並行世界を行き来してるな、彼女ら……。
そしてその後、こっちの世界に残って活動していた、ヤマトを主軸としたチームと合流し……今に至る、というわけだ。
この後、合流して色々と話し合いというか、互いにここまで何があったかを報告し合う時間が設けられているので、そこに僕も行く予定である。
何やら、こっちの世界に残った組も色々あったみたいだし……あと、マジンガーやエヴァ、ユニコーン他の関係者とは初顔合わせだもんな、そう言えば。きちんと挨拶しておかないと。
……それと、この世界に来るにあたって……ミレーネルは一緒に来ていない。
彼女はあの時(次元震が起こった時)、補給やら何やらのためにアルゼナルの中にいたはずだ。だから次元震の範囲から外れて、あの世界に取り残されたんだと思う。
有能な秘書不在で話し合いの場に赴くのは、ちょっと心細いけど……頑張ろう。
【□月▲日】
顔合わせと、その後の色々な打ち合わせが思ったより長くなってしまったので、昨日は夜、疲れて日記を書く前に寝落ちしてしまった……不覚。
なので、昨日午後あったことについて、今から書こうと思う。
宇宙戦艦ヤマトに加え、ラー・カイラムとネェル・アーガマ、それにトゥアハー・デ・ダナンに乗って集合してきた皆さんと合流したわけだが、成程、以前はいなかったメンバーが増えてたな。聞いてた以外にも。
碇シンジ君をはじめとしたエヴァチームに、バナージ君達ユニコーンチーム。それから、兜甲児君達マジンガーチーム。彼らとは初顔合わせなので、簡単に自己紹介を済ませた。
アスカの苗字が『惣流』じゃないってことは、新劇場版だな。あれはあれで厄介と言うか、よくわかんないんだよなあ……というか、ストーリーうろ覚えだし。
まあ、色眼鏡で見ないで、普通の人間として見ればいいだけのことではあるんだけど。
しかし一方で、いわゆる『原作通り』な展開も起こってしまっていたようだ。
いないと思ったら……ミスリルに同行していたカナメちゃん、攫われていた。
カリーニン少佐も、裏切って敵になってしまったらしい。
その際に色々あったとのことで、宗助君の乗機は、それまで乗っていた『アーバレスト』から、最新鋭機である『レーバテイン』に変わっていた。戦力アップではあるんだろうけど、純粋にそれだけを喜べない状況だってのがどうもな……。
それから、何か見慣れない人が……っていうか、肌青いし、絶対地球人じゃないだろって感じの人がいたんだけど……なんとその人、ガミラスの軍人だって。
それ聞いてびっくりしたけど、すぐさま古代戦術長達から『彼女は今は俺達に協力してくれているから、問題ない』と言っていたので……まあ、そういうことなら問題ないんだろう。
そのガミラス人……メルダ・ディッツ少尉は、ゆえあって一時的に、こちらに飛んできたガミラス軍の艦隊からは離反しているんだそう。
あの時……もう2年以上も前になるが、ヤマトを牽引していたガミラス艦が、彼女とその上司の人が乗っていたそうで。
『次元断層』から無事に通常空間に復帰したはいいものの、やってきたさらに上の上司……ゲール提督、とかいう名前らしいが、そいつが味方ごとヤマトを攻撃してきて……そのせいで上司さんが死んだとのことだ。
なるほど、そんなことがあったんなら、上司に不満もたまるわな。
加えて、この艦……ヤマトに乗って、乗組員達と交流を深めていくうちに、地球人に対して、単なる敵対する異星人という以上の感情を抱くようにもなってきたそうで。
今では、立場上完全に打ち解けることはできないにせよ、肩を並べて戦う仲間として接しているとのことだ。彼女も、ヤマトのクルーたちも。
戦闘になれば、彼女自身もあの赤く塗った戦闘機で出撃するらしいし。
彼女には、僕があの『新西暦世界』の地球の出身(中身は違うけど)だってことも話しはしたが、今の話を聞かせてもらったわけであるので、こちらもなるべく色眼鏡で見ることはしない、と、言っておいた。
……まだ皆には言ってないけど、異星人とのコンタクトをとるのは、初めてじゃないのでね。
そんな感じで、ひとまず情報交換を終えた僕らではあるが……それに加えて、もう1つ、話を聞くべき相手が残されていた。
それは、一時的にアンジュとタスクと一緒に行動し、さらにあの次元震の影響でここに一緒に流されてくることとなった、あの『赤いパラメイル』その他の乗組員達。
自らを『龍の民』と名乗る、サラマンディーネさん達である。
彼女達からは、僕らや宇宙世紀世界組が持ってきた情報に負けず劣らずの重要な情報を聞くことができた。しかもたくさん。情報を整理するのが割と大変になるくらいに。
彼女達『龍の民』は、はるか昔にこの『宇宙世紀世界』が一度滅びかけた時に起源を発する存在らしい。
その時、地球はゲッター線に汚染されて、星の環境そのものが死んでしまいかねないほどの危機に陥っていた。『龍の民』はその時に決断を降し、自らの姿を龍に変え、その汚染を浄化しながら、外界には直接かかわることなく生きて行くことを決めたそうだ。
しかも、ドラゴンが扱うエネルギーである『ドラグニウム』は、『ゲッター線』のことだったというのである。ドラゴンは、ゲッター線による汚染を除去し、環境を正常な状態に戻すことができる力を持っていたのだ。そんな設定だったのか……。
ここ数年の間に、宇宙世紀世界の地球のゲッター線汚染が、想定よりも早く除去されていった理由も、ドラゴンが手を貸してくれていたからだったらしい。納得がいった、と言う風に隼人さんが頷いていた。
そんな感じで生きていた『龍の民』だったが、ある日、その始祖である『アウラ』という存在が、エンブリヲによって連れ去られてしまった。
ここでもアイツかよ……マジで諸悪の根源だな。
そしてエンブリヲは、そのアウラさんをどこかに幽閉し、『始祖連合国』で使われている不思議パワーである『マナの光』のエネルギー源として利用しているというのだ。
え、じゃあアレもゲッター線由来だったん? すげえな汎用性……。
彼女達『龍の民』の目的、ないし悲願は、始祖アウラを救出・奪還すること。
そして、この間の戦い――ミスルギ皇国でアンジュの処刑未遂の時のやつ――で、アウラがどこに捕らわれているかについても見当がついたそうだ。
そこでアンジュも補足的に話に加わっていたが、ミスルギ皇国には、『暁の御柱』という、皇家が代々管理を担っている極秘の施設みたいなものがあるらしく、恐らくはそこにアウラは捕らわれている、とのこと。
……そう考えると、あの時のドラゴンの襲撃はもちろん、インベーダーが襲ってきた理由にも納得がいった。
インベーダーは主にゲッター線を餌にしていたはず。しかし、並行世界である『西暦世界』では、ゲッター線の研究なんてものは進んでおらず、ゲッターロボが搭載しているようなゲッター炉も当然、ない。
しかし、マナの光=ドラグニウム=ゲッター線なら……よりそのエネルギーが強い『始祖連合国』に、そしてその根源であるアウラがいる場所に惹かれてくる可能性は高いわけだ。
アウラの居場所があそこである可能性が、また一つ大きくなったな。
そして彼女達は、アウラ奪還のため、そして仇敵であるエンブリヲ打倒のためであれば、今まで戦っていた僕らとも手を取り合うつもりがある、とのこと。
戦わなくて済むならそれに越したことはない。こちらの面々も、その提案を了承した。
すぐに仲間として付き合うのは難しいかもしれないけど、それでも意味のある1歩前進だったんじゃないかな、と思えた。
サラマンディーネさんは技術者としても優秀だそうなので(聞けば、彼女の乗っている『焔龍號』の作成にも携わってるんだとか。多芸なんだな)、心強い仲間になりそうだ。
特に、彼女の技術を応用しやすいであろう、パラメイルのパワーアップに関して。
……もうちょっと早くそれが実現できてたら……クリスやエルシャ、サリアも無事にあの戦いを乗り切れたのかもしれないな……いや、やめよう、今考えても仕方ない。
あの時点では、まだアルゼナルは……被害は多少受けてはいたけど、拠点機能はまだある程度は健在だったはず。無事に回収ないし救出されているであろうことを祈るしかない。
次に西暦世界に戻れた時に、また無事に会えるといいな。
ヴィヴィアンやミランダ、それに、口には出さないけど、ロザリーやヒルダも心配してるようだし。
☆☆☆
一方その頃、『西暦世界』。
幸か不幸か、次元震に巻き込まれなかったミレーネルは、一旦アルゼナルを離れて、『サイデリアル』で確保している、極秘の工場の1つにいた。
ここは、通常使用する製品を生産するための場所ではなく、ミツルやミレーネルが極秘に何かしらの作成・実験を行うためのスペースである。
主に、『バースカル』でひな形を作った新兵器を、地球の材料で作り上げ、生産ラインに乗せる際の事前テストなどを行うための場だが……そこでミレーネルは、切羽詰まった表情でキーボードを叩いていた。
「恐らく、ミツル達の行き先は『宇宙世紀世界』……アンジュ達が前に飛ばされた時と、次元震の波形が一致していたから、そこは間違いない。それなら、身の安全はそこまで心配しなくていいわね……なら私がすべきことは、そこに飛ばされた彼らをどうやって助けるかの模索……!」
システム上でトライ&エラーを繰り返し、目的としている、あるシステムを完成に近づけていくミレーネル。
画面上には、素人目にはさっぱり意味の分からないコードの羅列と、流線型のボディを持つ戦艦のような『何か』の図面が表示されている。
「本来の運用用途とは違うんだけど、この際贅沢は言ってられないわね。『アスクレプス』をコアユニットに据えられれば一番よかったんだけど、Dエクストラクターでも代わりにはなる……後は、このシステムさえ完成すれば、並行世界間の移動もなんとか……」
「そうか、やはりあの機体は……次元を超える力を有した存在だったようだね」
「……ッ!?」
自分以外誰もいなかったはずの部屋に、突如響いた声。
しかも、より最悪なことに……ミレーネルはごく最近、その声に聞き覚えがあった。
数日前の、アルゼナルを舞台とした戦い。そこで、スピーカー越しに聞いた、こちらの神経を逆なでしてくるような声。
立ち上がって振り返ってみれば、殺風景な部屋の中心に……少し前までは絶対にいなかったはずの、深緑色のスーツと、長めの金髪、そして穏やかな……しかし、明らかに人を見下したような目つきが特徴の、1人の男が立っていた。
「あなたは……エンブリヲ……?」
「自己紹介の必要はないようだね。会えてうれしいよ……ミレーネル・リンケ女史。こことは違う世界、違う惑星から来た異邦人。君を……歓迎しよう」