スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

47 / 113
第46話 ココとミランダとアンジュ

 

 

 『第三新東京市』に引き続いての、第二ラウンド、とでも言うべきか。

 ミツルの乗る『アスクレプス』と、エンブリヲの『ヒステリカ』は、それぞれの刃をぶつけあい、切り結んでいた。

 

「今日はあの姿にならなくてもいいのかい、星川ミツル? その姿のままで『ヒステリカ』の相手をするのは、いささか荷が重いと思うが」

 

「ご心配なく、こっちも色々鍛えてるから大丈夫だよ! それより……お前、今度は一体何した? 何だって死人が生き返ってるんだよ?」

 

「随分な言い方じゃないか……もっと素直に喜んであげたらどうだい? 君やアンジュの目の前で死んだ、君達が救えなかった子なんだろう?」

 

 ココ・リーヴ。

 ミランダの親友であり……あの日、彼女達にとっての初陣で……ドラゴンの攻撃によって撃墜され、死亡したはずの少女。

 

 彼女の死は、ミランダの心に深い傷を残し……一時期はそれが原因で、アンジュとの仲が酷く険悪なものになっていた時期もあった。

 

 そう、確かに死んだはずだったのだ。

 死んで、墓石を立てられ、名前を返してもらい……彼女は間違いなく、パラメイル第一中隊から、アルゼナルからいなくなったはずだった。

 

 それがなぜ、こうしてここで、エンブリヲの部下としてラグナメイルに乗って、自分達の敵として立ちはだかっているのか。

 全くわけがわからないその状況に、パラメイル第一中隊のみならず、ミツルも歯噛みする。

 

(僕もミレーネルも見てた……確かにあの子は、ドラゴンに殺されたはず……死体も回収して、アルゼナルに届けた。あの状態から蘇生できるはずがないし……なら偽物!? それとも……『生き返らせた』とか……いや、いくらなんでもそんなこと……)

 

 

 

 ミツルが困惑しているのと同様に……いやそれ以上に、ミランダもまた困惑していた。

 当然と言えば当然である。死んだと思っていた親友が生きていて、しかし敵として自分達の前に立ちはだかっている。言葉にしてみても全くわけがわからない事態である。

 

「どうして生きているの、ココ……あなた、確かに私の目の前で……基地に戻ってから、死体の確認もしたのに……」

 

「うん、確かに私、あの時死んだよ……でもね、生き返ったの」

 

「生き返った……!?」

 

「そう。エンブリヲ様に、生き返らせてもらったの。それだけじゃなく……言ってもらえたんだ。ドラゴンなんかと戦わなくていい、平和で穏やかな世界を一緒に作ろうって。そのための力も……『ラグナメイル』も、自分が用意するから、一緒に戦おうって」

 

 死んだ者が生き返ることなどない。子供でも知っている常識だ。この世界は、ゲームでも何でもないのだから。

 

 しかし、目の前にいる少女が偽物だと断言するには……ミランダの目には、ココの姿は……生前と同じ過ぎた。

 姿だけではない、声も、口調も、性格も……言葉に表しづらい、感じ取れる雰囲気まで、何もかもが同じだった。変装や整形手術などではないと、彼女には直感できてしまった。

 

 しかし、ただ1つ。

 

「だからミランダ、ミランダもこっちに来て、一緒に……エンブリヲ様のために戦おう! 私達が頑張って、エンブリヲ様の敵を全部倒せば……世界は平和になる。もう二度と、ノーマだからって閉じ込められたり、ドラゴンと戦わなくてもよくなるの!」

 

 何のために戦うのか。その部分だけが……決定的に変わってしまっている。

 自分達と、決して相いれない形で。

 

 二度と会えないと思っていた、そのはずだった親友に会えて……その親友が、自分のことを、まだ今も友達だと思っていたことが嬉しくて、ミランダは揺らいだ。

 けれども、それまで独立部隊で見聞きしていた知識が、記憶が、経験が、彼女を押しとどめる。

 

「ごめん……それは、ダメ……」

 

「っ……ミランダ、どうして!?」

 

「だって……エンブリヲは、私達の敵なんだよ……? ノーマを差別したのも、ドラゴンが……ドラゴンってでも元々は人間で、アウラっていう始祖のドラゴンをさらって、戦いの原因になったのもエンブリヲで……全部エンブリヲのせいだったんだよ!? それなのに……」

 

 モニターの向こうで、ミランダに拒絶されて……それ自体には本当にショックを受けたような表情になっていたココ。

 

 しかし、ミランダが知る限りの事実を並べ、思いつく限りの言葉を連ねても……ココは、

 

「平和な世界にしたいなら、エンブリヲこそこのままにしておいちゃダメなんだよ。だから……私は……」

 

「……そっか……それじゃ、残念だけど……敵だね、ミランダ」

 

「っ……!? そんな、ココ……!?」

 

 辛そうな表情はそのままに、ココは……ラグナメイルの剣を構える。

 その切っ先を向けられ、ミランダは、『グレイブ』のコクピットですくみあがった。

 

 恐怖から、ではない。

 それもなくはないが……それ以上に、親友にこうして剣を向けられ、明確に敵として扱われているという状況が……そしてこの後、戦わなければならないというこの状況が、ショックでしかなかったのだ。

 

 怖くて、悲しくて、どうしたらいいかわからなくて……しかし、敵は待ってくれない。

 

 ラグナメイルのブースターをふかし、急加速して、ココはミランダ目掛けて突っ込んでいく。

 ミランダは、覚悟などまだ決まってはいないにしても、応戦しなくては、と、グレイブを動かそうとし……

 

 しかし、

 

「え?」

 

「ミランダはそこで何もしないでいて! 邪魔しなければ放っておいてあげる!」

 

 ココの乗るラグナメイルは、ミランダのグレイブの横を、すり抜けるように素通りし、そのまま飛び去って行った。

 その先にいたのは……

 

「アンジュリーゼ……様ぁぁああっ!!」

 

「なっ……!?」

 

 アンジュの乗る、ヴィルキスだった。

 

 加速をそのまま勢いに変えて、剣を振り抜いてヴィルキスに斬りかかる。

 

 サリアの乗る『クレオパトラ』のと戦っていたアンジュ。まだラグナメイルの操縦に慣れない彼女を相手に、アンジュは優位に戦ってはいたものの、ほとんど真後ろから飛んできたココの奇襲に、どうにか反応して、それを剣で防ぐ。

 

「っ……あんた……ココ!?」

 

「えぇ!? ココ、って……」

 

「おい、どういうことだよ!? お前死んだはずだろ!?」

 

「そうですよ、死にましたよ……あなたのせいでね、アンジュリーゼ様!」

 

 そう叫ぶココの表情は、ミランダと話していた時とは打って変わって、目を見開き、眉間にしわがより、攻撃的なものになっていた。

 

 言われて、アンジュも思い出す。

 

 あの時、まだココは無邪気にアンジュを慕っていた。

 彼女と友達になろうと、積極的に話しかけてきたり……彼女から話を聞いた、『始祖連合国』を指して言う『魔法の国』に行ってみたいと笑っていた。

 

 そんな彼女をしかし、アンジュは冷たくあしらっていた。

 

 あの頃、彼女はまだ自らを『アンジュリーゼ』だと名乗り、自分がノーマだということを認めていなかった。第一中隊の面々を『これ』呼ばわりし、『ノーマ』だと見下していた。

 ココがプレゼントとして贈ったプリンも、封を開けることもせずに捨てたし、ココとゾーラが命を落とした戦いの後ですら、その認識はしばらく変わらなかった。

 

 アンジュ自身にとっても、思い出したくもない、何もわかっていなかった頃の自分。

 ココの死は紛れもなく……彼女の過ちの1つと数えていいものだった。その死因がドラゴンの攻撃によるものだとしても。

 

 それらのことを思い出して、顔をゆがめるアンジュ。

 

「……その呼び方、やめてもらえる? 私はもうアンジュよ、ただのアンジュ!」

 

「何でですか? アンジュリーゼ様はアンジュリーゼ様じゃないですか……名前変えたくらいで、過去を捨てた気になってるんですか……この人殺しぃ!」

 

 聞く耳持たんとばかりに、剣を振るい、猛攻を仕掛けるココ。

 

 勢いはあるし、ラグナメイルの性能ゆえに攻撃力もかなりのものではある。

 しかし、太刀筋は単純でわかりやすい。フェイントもほとんどない。経験不足と……感情に任せて剣を振るっているであろう部分も見られる。

 

 アンジュの技量ならば、見切ってさばいて反撃できるレベルだと言ってよかった。

 

 しかし、感情をそのままぶつけてくるような先程の叫びが……それゆえにこそ、ココの本心だとわかってしまい……過去の自分への嫌悪感と、ココへの罪悪感が、アンジュの腕を鈍らせる。

 

 加えて、もともとアンジュと戦っていたサリアも……いなくなってくれたわけではない。

 

 突然突っ込んできたココに面食らって止まっていたものの、ここにきて再起動。好機とみて、反対側からアンジュに襲い掛かる。

 

「2対1か……スマートじゃないけど、これもあなたの罪の結果よ、アンジュ。卑怯だなんて言わないわよね?」

 

「言うわバカ! サリア、この卑怯者! ひがみ女! 魔法少女!」

 

「うっさい! 下半身デブ! 脱走常習犯! あんたなんかエンブリヲ様にふさわしくない!」

 

「何の話!?」

 

 同時に襲ってくるサリアとココの攻撃を必死にさばきながら罵詈雑言も飛ばす、ある意味器用な真似をするアンジュ。

 だが、いかにアンジュがエース級の力を持っているとはいえ、同格以上の機体2機を相手にするのは苦しいものがある。

 

 しかしそこに、焔龍號に乗ったサラマンディーネが駆けつけ、横合いから切り付けてココの乗る機体を引きはがし……1対1が2つ、という形に持っていく。

 

「サラ子、ナイス!」

 

「っ……邪魔しないで! 私の相手はアンジュリーゼ様なのに!」

 

「あら、そうでしょうか? あなた、ドラゴンに殺されたんですよね……でしたら、私の、私達の方があなたの仇として妥当じゃないですか?」

 

 挑発を込めて言い放ったサラマンディーネの言葉に反応するココ。

 

「! そうか、あなた達、エンブリヲ様の言ってた……それならわかった。そんな風に言うなら、あなた達も真っ二つにしてあげる……この『ビルキス』で!」

 

「……!?」

 

 突撃してくるココの機体……『ビルキス』の剣を受け止めながら、サラマンディーネは驚きをどうにか押し殺した。

 

(『ビルキス』……!? それは、アンジュの『ヴィルキス』の、かつての名前のはず……なぜ今、この者が乗るラグナメイルに、その名前が!?)

 

 かつて、『古の民』……タスクの先祖は、エンブリヲとの戦いの末に、多大な犠牲を出しながらも、ラグナメイルのうちの1機を奪取することに成功した。

 その機体の名前こそが『ビルキス』。彼らはそれを作り替え、いつかエンブリヲを撃ち滅ぼすための力となるように願いを込めて、『ヴィルキス』という新たな名をつけた。

 

 当然『ヴィルキス』と『ビルキス』は、同時に存在するはずがない機体なのだ。

 

(単なるレプリカでしょうか? エンブリヲが新たに作ったラグナメイルに、かつての奪われた機体の名をつけたということ? それとも……)

 

 

 

 時間も残り少ない中、混沌渦巻く戦場で……ミツルは、ちっ、と舌打ちをした。

 

 あの『覚醒』以来、アスクレプスはなぜかさらに出力が上昇し、アスクレプスのままでも、以前までとは段違いの力を振るえるようになっていた。

 それでいて、ミツル自身の操作技能もそれに馴染んでいた。

 

 ゆえに、この姿のままでも、エンブリヲの相手は務まっている。

 

 しかし、刻一刻とタイムリミットが……地球に落下するコロニーを止められる限界時間が近づく中、このままではまずい、と結論を出さざるを得なかった。

 

「……仕方ないか」

 

 ミツルは秘匿回線を開き、通信をつないだ。

 繋ぐ先は、ミレーネルの乗る『アルデバル』。それに加えて、各戦艦の直衛についているため、後方で待機している形になっている……『ボスボロット』と『ブラックマイトガイン』だ。

 

「ミレーネル、それに、ボス達と、ブラックも」

 

『どうしたの、ミツル?』

 

「ちょっと頼みがあってさ。この後、もし僕が動けなくなったら……回収してもらっていいかな? 『アルデバル』の格納庫に適当に突っ込んでもらえればいいから」

 

『動けなくなったら? って、どういう意味だよそりゃ?』

 

『ぼ、ボス、あれじゃないですか? ほら、この間の……』

 

『ああ、そうか……あの後動けなくなったんですもんね』

 

『……成程、了解した。その時は任せてくれ、ミツル!』

 

『……気をつけてね』

 

「了解。そんじゃ……」

 

 後のことを託したミツルは、深呼吸して集中し……体の奥底から、力を引っ張り出して燃え上がらせるイメージで、『発動』。

 アスクレプスの次元力が膨れ上がっていき……相対しているエンブリヲは、これから何が起こるのかを悟った。

 

「……ようやくか。待っていたよ」

 

 しかし、それをただ見ているだけで、何もしようとはしない。

 

 その眼前で、『アスクレプス』はその姿を変え……真の姿『ヘリオース』へと変身した。

 

「時間がないのは元々だからな……ここからは全力で行く!」

 

(反動でまたしばらく動けなくなるだろうけど、それもやむなし……ミレーネル、ボス、ブラック……その時は任せた!)

 

 3対6枚の次元力の翼を広げ、光背を輝かせながら……ミツルは、飛翔する。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。