第49話 第二次アルゼナル会戦
【▽月●日】
ここ最近、西暦世界の方は、ほとんど動きがない。
戦支度を進めている僕らからすればありがたい限りではあるけども……多分だけどこれは、いわゆる『嵐の前の静けさ』って奴なんだろうな。最近こんなんばっかだ。
この後、長いこと平和だった分のしっぺ返しとも言えるような面倒事が起こる気がする。
……前のアルゼナル襲撃の時もそんな感じだったっけな。
しかも、今回攻めてくるとしたら、考えなしのボンクラ皇帝じゃなく、戦力的にも思想的にも数段厄介なエンブリヲだ。
恐らく、僕らがこっちに戻ってきたことだって、察しているだろうし。
こちらの準備ができて向こうに乗り込めるのが先か、それとも向こうが攻めてくるのが先か……
どちらにどう転んでもいいように、今のうちに、出来ることは全部やって準備しておかないと。
具体的には、継続してやっている各機の強化に加え、ミランダの機体の作成と調整。
それから……ここ最近ずっと進め続けている、こちらの……というか、『サイデリアル』の隠し玉の完成を急ぐのと、だな。
多分だけど……あまり時間は多くは残されてないと思うし。
さて、西暦世界では何も起こっていないのに対して、宇宙世紀世界の方はというと。
地上組は、こっち程じゃないけど似たようなもんだった。
あっちからは、あの首無し中年……ブロッケン伯爵と、半分夫婦のあしゅら男爵が動いてるわけだが……その進軍速度は思ったほどではなく、今のところ、出現すると同時に出撃、交戦、撃退……を繰り返しているそう。
率直に言えば、一進一退ではあるが、十分に対応できている。
ただ、独立部隊はそれでいいものの、地球連邦軍の部隊はやはり負けがこんでいて、全体で見るとじわじわと押されているらしい。長期戦になると厳しいか?
それに、Dr.ヘル本人に加え、もう1人いる部下である……ピグモン? 違う、ピグマンか。
その子爵も残ってるし、あっちがその気になればより厄介なことになるのは明白。
……むしろ、何で今、手加減してるかのようにゆっくりの歩みなのかが少し気になるところだけど……。
そしてもう1つ。宇宙組。
こっちはまず、さっさと対応しなきゃいけないコロニーレーザーの方に向かった。
連邦軍に察知される前に、ボソンジャンプで一気に懐に飛び込むことで、見事に奇襲に成功。
ナデシコCがいなくても、技術供与によって、ラー・カイラムとネェル・アーガマも、色々条件はあるものの、それができるようになっていた。
まあ、僕らも何度もやられたからわかるんだけど……あれマジでびっくりするからなあ。いきなりクロスレンジに敵が現れるから。
そのままコロニーレーザーの方の処理は成功。
ただし、制圧じゃなくて破壊することになっちゃったらしい。やけっぱちになった連中が、至近距離でぶっ放してこっちに撃とうとしてきたから、その前に破壊したんだって。
しかも聞いたら、バナージ君が発射直前の砲口に飛び込んで中から破壊したって……いや、ホント君時々無茶苦茶するよね……。それこそ、NT-D使ってる時よりも。
なお、そのままレーザーの管制施設にいた連中は逮捕したんだけど、そこにいたのは、地球連邦政府中央議会のローナン・マーセナス議長と、アナハイムのマーサ・ビスト・カーバインさんだったと。
ええと、リディパパと、あの顔の濃いおばさんか。妙に印象強かったから覚えてる。
これで残るはネオ・ジオンだけとなったわけだが、どうやらこれから彼らは、以前から度々ユニコーンの中に表示されていた『ラプラスの箱』なるものの在処を確認し、それを開けに行くらしい。
リディ少尉曰く(あれ、中尉だっけ?)、開けてはならないパンドラの箱、らしい。たしか彼、これの存在と意味を知って、その結果絶望からの闇堕ちに行ったんだっけか?
行き先は、インダストリアル7。
恐らくはネオ・ジオンも来るだろうから、そこで決戦になるだろうとのことだ。
……Z時空との差異がなければ、僕はその中身を知っている……かもしれない。
けどこの世界、ちょいちょい僕の知ってる歴史と違ったりするから、そのへん断言できないんだよな。加えて、あっちはあっちで補正込みになってる内容だし。
だから不確かな情報ってことで……悪いけど、これに関してはノータッチで。
宇宙世紀ガンダムのオールスターチームみたいなもんだから、負けないとは思うけど……戦いの結果はともかく、『箱』の中身って、かなりの爆弾だからなあ……Z時空と違って。正直、そっちの方が不安だ。
果たして結末がどうなるのかは……まだ誰も知らない。
【▽月▲日】
はい、『嵐』が来ました。
嫌な予感フルで的中だよこんちくしょう。来るにしてももうちょっと小分けでもいいんじゃないかと思う今日この頃……いや、言ったところで起こってしまったことは変わらないんだけどもね。
エンブリヲ陣営の尖兵……サリア達『ダイヤモンドローズ騎士団』とやらが、ピレスロイド他の無人機軍団を引き連れて攻めてきた。
しかし、来たのは6機のうち、サリア、エルシャ、クリスの3機だけ。
ココ、ターニャ、イルマは来ていなかった。……最初は。
……ところで、開戦当初、とある事情により、こっちもアンジュその他数名が出撃していなかったんだが……そのへんの説明は後にする。
ラグナメイル3機はそこそこ脅威ではあるものの、無人機程度は今更相手にもならないし、撃退はそう難しいことじゃない……と、思われていた。
しかし、ひと当てしたところで、こっちの予想を覆す事態が発生する。
なんと、無人機然り、ラグナメイルしかり……攻撃して与えたはずのダメージが、徐々にではあるが回復していくのだ。
一撃で完全に破壊すればそれも阻止できるんだけど、向こうは防御や回避の性能もそれなりにあるし、何より数がいるので、中型以上の機体が相手だとそれも簡単ではない。
ラグナメイルは言わずもがなだ。
サリアはともかく、クリスやエルシャの操縦技能は、アンジュやヒルダには遠く及ばない。
それでも、出力自体はかなりのものな上、再生までされるとなると……かなり難しい戦いになる。
データを計測してみると……当たってほしくはなかった予想が当たっていた。
次元力が検出されたのだ。先の戦いで、エンブリヲが使っていたのと同じように。機体が再生させられていくのはそのためだ。
正直、エンブリヲが本格的に次元力を戦力に組み込んでくるとなると、相当にまずい……と思ったんだけど、どうもおかしいんだよな。
計測結果に、おかしな点がいくつかあるのだ。……長くなるから、その説明は後にするが。
中々倒せない、ダメージを与えても回復する敵を前に、どうすんだコレって味方側が困惑し始めた頃……タイミングを見計らっていたかのように、エンブリヲが登場。
そしてそれと時を同じくして、こちらはアンジュ
ここで話は戻るんだが……最初、なぜアンジュが出撃していなかったのかについて。
後から聞いた話なんだが、他2名はともかく、アンジュはジル司令の命令で、出撃を止められていたのである。
なぜかと言うと……案の定、ジル司令、暴走していました。
何を置いても『リベルタス』の完遂……それも、自分達が描いていたプラン通りの『アンジュとヴィルキスを中心として』という点を妄執的に重要視していたジル司令。
これから始まる反攻作戦を前に、万に一つもアンジュやヴィルキスが失われることがないよう、温存する意味で『出るな』と言っていたのだそうだ。
アンジュが出なくても、防衛線くらいどうにでもなる。それこそ、他のメンバーに犠牲が出たとしても、アンジュとヴィルキスの無事が最優先だ、と。
当然そんなことを言われて黙っているアンジュではなく、無理やりにでも出撃しようとするが……そこに、アルゼナルに侵入していた別動隊が襲撃をかけてきた。
来たのは何と、あのモミアゲおじさんこと、ゲイツ。あとその部下数名。
案の定手を組んでいたアマルガムを動かし、向こうもなぜか、エンブリヲの指示でアンジュを攫いにきたそうだ。
が、そこで、伏兵として控えていたタスクと宗介が助けに入り、撃退に成功した。
この展開は既に、スメラギさんによって読まれていたのである。
それこそ、ジル司令がヤバそうってことまで含めて。
そのおかげで、アンジュはどうにか助かり……そのままジル司令の制止を振り切り、タスクと宗介と一緒に出撃した、というわけである。
そうして戦場でエンブリヲと相対したアンジュは、すぐに起こっている不可解な現象……機体がなぜか再生するというそれを目にして、『お前の仕業か!?』とエンブリヲに怒鳴って聞いた。
それをエンブリヲも、得意げに肯定。
だったらお前を倒せば、ってアンジュは飛び込んでエンブリヲを討ち取ろうとした。
しかしその瞬間、伏兵として隠れていた3機のラグナメイル……ターニャ、エルマ、そしてココの乗るそれがアンジュを急襲。
不意打ちで、しかも3機のラグナメイルから同時に攻撃を受けたヴィルキス。
いかにアンジュと言えども、その攻撃はさばききれず……さらには背後からサリアまでもが襲い掛かり、あえなく中破にまで追い込まれてしまった。
捕らえられたヴィルキスにゆうゆうと近づいたエンブリヲが、そのままアンジュの身柄を強奪、ヴィルキスは海に放り捨てられた。
それを助けようとしたタスクも、返り討ちにされて撃墜。
先の第三新東京市の戦いと同じことになった。パラメイルとラグナメイルじゃ、機体のポテンシャルが違いすぎて、勝負にならなかった。
海に落ちて行くタスクのアーキバスを見て、アンジュがその名を叫ぶ中……エンブリヲは、『未来の夫の前で他の男の名を呼ぶものじゃない』と、わけのわからないことを言いながら、アンジュをそのまま連れ去った。
この間、僕らはどうにか助けなきゃ、とは思いつつも……誰もそこに間に合わなかった。
この一連のやり取りが行われたのは海の上。まずそのせいで、空を飛べないAS他一部の機体は手を出せなかった。
残る他の機体も、大量の無人機部隊に阻まれて身動きが取れず、ロックオンやクルツさんといったスナイパーの射線も通らず。
さらに敵の一部隊が、アマルガムと一緒にアルゼナルを直接狙ってきたため、そっちを見捨てるわけにもいかずにさらに戦力を割くことになり。
さらにはその位置、海の上ではあるものの、そこまで深くもない場所だった。
具体的に言えば、陸戦用の機動兵器が動くには深すぎ……潜水艦であるダナンが動くには浅すぎるという、絶妙な深度の場所。
おまけにアンジュの突貫とほぼ時を同じくして、戦場全体に強力なジャミングが発生。通信障害で指揮系統が、わずかな時間とは言えマヒしたことで、もしかしたら間に合ったかもしれない仲間に指示を出すこともできなかった。特に、機動力に優れるヴァングネクスや、単独でボソンジャンプが可能なブラックサレナあたり。
……思うに、全部計算ずくだったんだろうな。タイミングから何から。
もしかしたら、僕が『ヘリオース』になりさえすれば、間に会った障害を全部ぶち抜いてアンジュを助けられたかもしれない。
けど、それについては指揮官のスメラギさんから許可が下りなかった。
自分で言うのもなんだが、今いるメンバーの中で、『ヘリオース』は最大戦力と言っていい1つであり……実績込みで、エンブリヲの『ヒステリカ』に勝てる、今のところ唯一の存在である。
戦場にいるだけで、けん制として一定の効果があるだろう存在だとのこと。エンブリヲ本人にも、その部下たちにも。
しかしヘリオースは、使った後に僕が動けなくなるという明確な欠点がある。
万が一、アンジュは救出できたものの、エンブリヲを仕留めきれないままに僕が動けなくなったら、その時……エンブリヲを止められる者がいなくなる。エンブリヲ陣営の機体が再生する仕組みが謎のまま、その危険を冒すわけにはいかない、と。
その後、無人機部隊を残して、『ダイヤモンドローズ騎士団』は撤退。
向こうの戦略目標が恐らく、アンジュの誘拐だったんだろう。それを果たしたから、エンブリヲと一緒に退いた。
アンジュがロストし、タスクが撃墜され、エンブリヲは逃亡。
見事なまでにやりたい放題やられた……アルゼナルは守れたものの、実質的には敗北である。
加えて、こっちの被害はそれ以外にも……ミランダのグレイブが中破。
改良型の機体が間に合わなかったので、今回ミランダはまだグレイブで出てたのである。
そして……ミレーネルの『アンゲロイ』が落とされた。
いや、『落とされた』っていうのも違うかもしれないんだけど……
終盤、アルゼナルが敵の伏兵によって側面から狙われた時……誰も迎撃が間に合わないかと思われたところで、ミレーネルがアンゲロイで飛び出し、Dフォルトを全開にして盾になった。
そして、そのまま遠隔操作でアルデバルを動かし……光子魚雷とレーザーの一斉掃射をぶちかまし、なんと自分ごと敵機を一掃した。
……体は作り物でリスポーンするから死なない+どっちみちアンゲロイが限界だったからって、毎度無茶苦茶するなこの子……。
まあ、おかげでアルゼナルが助かったのは確かだが……頼むから自分を大事にしてくれ。心臓に悪いんだよ、大丈夫だってわかってても……。
それと今日、一応こちらにも戦果、みたいなものはあった。3つほど。
1つは、あのモミアゲマン……ゲイツを討ち取れたこと。これは、宗介が撃破した。
Zの頃からではあるけど、あの人、散り際はなぜか爽やかというか……潔い感じなんだよな。無駄に。
死ぬ瞬間まで自己満足なだけ、ともとれるけど。そしてそれ以外は変人だけど。
まあでも変人とはいえ、アマルガムの中でもトップクラスの使い手だったことは事実だし、こっちにとってプラスの成果だったと言っていいだろう。
2つ目は……エルシャの捕獲、及びその乗騎である『レイジア』の拿捕。
これに関しては、エンブリヲと一緒に他の面々が離脱していく中……エルシャだけはそうせずに戦場に残った。
話を聞くと、ヴィヴィアンら、かつての仲間達と戦って、言葉を交わす中で……本当に自分はこれでいいのかわからなくなってしまったとのこと。
そのまま投降を申し出てきたので、スメラギさんがコレを受諾。エルシャは今、一応の監視付きで、プトレマイオスの収容房に入っている。
そして、今日の成果、3つ目。
これ実は、今回の戦い、直接は関係ないんだけど――――
☆☆☆
「やれやれ……何代目だったかしら、このボディ」
アンゲロイでアルゼナルの盾になり、そのまま自分ごと、アルデバルの斉射で敵機を一掃したミレーネルは、もう何度目かになる、いい加減慣れてしまいそうな『リスポーン』を終えていた。
しかし、その直後。
すぐに新しい体でアルゼナルに戻ろうとしたミレーネルだったが……
――キュイン!
「な、っ……!?」
その胸を、背後から……非実体のレーザーが撃ち抜いた。
胸部を貫く激痛によろめきながら、ミレーネルが振り向くと、そこには……
「あ、あんたは……!」
「ようやく、尻尾をつかんだわよ。全く……手間取らせてくれたわね」
そこにいたのは、病的に色白い肌に、メガネをかけた年若い女性。
手に持っている、光線銃と思しきそれの銃口をこちらに向けている。
直接の面識はないが、通信のログでその存在と容姿、そして声は知っていた。
「……ガーディムの、指揮官……」
「直接会うのは初めてね。私は超文明ガーディムが一等武官、ジェイミー・リータ・スラウシル。あなたが不当に占拠している、この『バースカル』の正当な所有者よ、劣等種族さん」
独特のテンポの、こちらの神経を逆なでするような見下した口調で、そう言った。