スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

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第53話 格納庫で起こったこと

「格納庫に侵入者ですって!? どういうことなの!?」

 

「すいません、スメラギさん……今、システムがダウンしてて、監視カメラが……一瞬だけ確認できた映像から判断するに、え、エンブリヲかと……」

 

「野郎……直接乗り込んで来やがったってのか!」

 

「まずいわ、今、格納庫にはジルとミツル君が……警備部隊は!?」

 

「向かっているんですが、途中の通路に光の壁があって進めないそうです。おそらく、『マナの光』……エンブリヲの妨害工作かと」

 

 騒然となるプトレマイオスの艦橋。

 

 それを知ってか知らずか、邪魔する者のない格納庫で、エンブリヲは常の余裕そうな、傲慢のにじみ出た笑みを浮かべていた。

 事前に妨害を排除してあるとしても、敵地だということなど微塵も気にすることなく、悠々と歩いて、ミツルとジルの方に近寄ってくる。

 

「そう睨まないでおくれ、アレクトラ。せっかくの美貌が台無しだよ。常の軍服とは趣が違うが、その姿も似合っているね……昔を思い出すよ」

 

「奇遇だな……私も、この装束で貴様と相対していると、昔を思い出して怖気が走るよ……また私を口説きにでも来てくれたのかな、『エンブリヲ様』?」

 

「ふふっ。君が望むなら、そうするのもやぶさかではないが……」

 

「お断りだ、心の底からな」

 

 言うが早いか、ジルは右手をすっと突きつけるようにエンブリオに向け……その腕がガシャンと音を立てて変形する。

 

 隣で『は!?』と目を見開いて驚くミツルの眼前で、ジルは変形させた義手から、仕込んでいた凍結バレットを放ち……エンブリオに直撃させる。

 

 小型化されているとはいえ、もとはドラゴンを凍結させて無力化するための、れっきとした機動兵器用の武装。炸裂したそれは、眼前に大きな氷塊を作り出し、一拍遅れて格納庫中に冷風が吹き荒れた。

 

「っ……やはり、閉所で使用するものではないな」

 

「寒っむ……なんちゅうもんを仕込んでんですか、ジル司令……ていうか、義手だったんですか?」

 

「お前……他に気にするところがあるだろう、今のやり取りを見ていて……エンブリヲとどういう関係なのか、とかな」

 

「まあ、それも気になってはいますけど……あんまり聞かない方がよさそうな話ですし」

 

「ふっ、何だ、気遣ってくれるのか? 優しいなお前は……気を抜くな、今ので仕留められたとは思えん。今のうちに機体に……っ!?」

 

 と、ジルが言い終わるよりも先に……その背後に、無傷のエンブリヲが現れ、その首筋にそっと触れた。

 

 その瞬間、ジルはびくぅっ! と体を跳ねさせて大きく反応し……脱力して倒れ込んだ。

 

「そうだね、私も……古い女にもう用はない。尻尾を振ってくるなら、飼ってやってもよかったが……噛みついてくる雌犬など不要だ」

 

「あ、あぁあ……っ……! くぅ、え、エンブリヲっ……何を、した……!?」

 

 床に倒れ込んで、びくん、びくんっ、と体を震わせ……身じろぎ一つするのにも苦しそうにするジル。

 その姿は、苦しんでいるというよりは、何か別の感覚に耐えているようなそれで……赤みのさした顔には汗が浮かび、呼吸は荒く、妙な艶めかしさすら感じられた。

 

「君の肌の感覚の全てを快感に変換してあげたのさ。アンジュにもやってあげたんだが、割と好評だったようなのでね……かつての愛人に対する、せめてもの贈り物だよ」

 

「エン、ブリヲっ……!」

 

「そのまま、しばしそこで1人で楽しんでいてくれたまえ。さて、待たせてしまったかな? 星川ミ……」

 

 言い終わるより先に、ミツルは鋭く踏み込んで、懐から何かを取り出す。

 

 ペンライトのような形状になっているそれを手に持ち、スイッチを押すと……『ヴォン』という音と共に、その先端から棒状の光の刃が伸びた。

 

 見た目明らかに『ラ○トセイバー』と言うしかないようなその武器――『サイデリアル』の兵器部門の試作新製品――を横一文字に振るい、エンブリヲの首と胴体を泣き別れにするミツル。

 話しかけていた時の表情のまま、エンブリヲの首が宙を舞った。

 

「リアルに退○忍みたいな真似してんじゃないよ。クズの上に変態なのかこいつは……ミランダやヴィヴィアンには会わせらんないな、教育に悪い」

 

「全く……腹立たしいことだな。どいつもこいつも血の気が多くて物騒だ」

 

 しかし、一瞬後にはエンブリヲの首は元通りになり、ミツルの顔目掛けて手を伸ばしてくる。

 その表情は、先程までよりも少しだけ歪み……不快感が現れているように見えた。

 

 『やっぱり効かないか』と呟きながら、その手を剣で切り払うミツル。

 しかし、エンブリヲの手に触れた瞬間、光の刀身は、実体がないものであるにもかかわらず砕けて消え……驚いたミツルは、その一瞬の隙にエンブリヲの手に頭をつかまれた。

 

 そのまま、何らかの力がミツルの頭の中に流し込まれていく。

 

「あっ、が……あぁああ……!?」

 

「特に君の存在は不愉快だ。幾度となく私の邪魔をし、思惑を阻んでくれた。今回もまた、そのつもりでいるのだろう……ああ、実に腹立たしい」

 

 常よりもワントーン下がったような声音で言いながら、エンブリヲはミツルの頭の中をかき回していく。

 

 ミツルは無抵抗で……というより、抵抗以前に意識があるのかすら怪しい状態だった。

 目から光が消え、体は小刻みに震え、腕はだらんと脱力しているも、崩れ落ちることはない。

 

「だが、君の操る力と、その技術は有用だ。光栄に思うがいい、君は自由意思を奪った上で、私の手駒にしてあげよう……古き世界の破壊と、新たな世界の創造……そのために、その力を使え」

 

 体の中で暴れまわる快感に身を焼かれながらもその様子を見ていたジルは、僅かに残った思考能力の片隅で、違和感を覚えていた。

 

(何、だ……? エンブリヲの奴、いつもと違う、ような……? 奴なら、相手がいくら吼えようが、嘲笑うことはあれど、不快に思うほど気にすることなど……なかったはず……?)

 

 思い返してみても、ジルの記憶にあるエンブリヲの表情は……いつもあの、こちらを見下したような余裕の笑み。それだけだったはずだ。

 

 甘い言葉をささやいてジルを骨抜きにした時も、

 

 そのまま純潔も、尊厳も、自由意思も、全て奪い去って汚しつくした時も、

 

 当時の『リベルタス』をあっさりと破り、仲間達の命を無惨に奪った時も、

 

 いつもエンブリヲは笑っていた。

 

 まるで、必死に抗っているつもりの愚者を……しかしその実、まるで自分に対して抗えてなどいない愚者を、むしろ楽しんで眺めているかのような、支配者の笑み。

 

 そのエンブリヲが、今は……わかりやすく、怒って、あるいは、苛立っている。

 

(以前の奴とは……違う、ような……いや、そんなことよりも、このままではっ……!)

 

 しかし、ジルがミツルの洗脳を危惧したその瞬間、

 

 突然、脱力していたミツルの腕が動き……逆にエンブリヲの喉元をガッとつかんだ。

 

「な……っ!?」

 

 驚いたエンブリヲは……次の瞬間、思わずと言った様子でミツルの頭から手を放し、自らの喉をつかんでいる腕を振りほどこうとする。

 しかし、振りほどけない。それどころか、徐々にその体が持ちあげられていく。

 

「な、何……だとっ……!?」

 

 困惑と怒りが入り混じった表情になったエンブリヲに対し、ミツルは無表情のままで……しかし、そのミツルにも異変が起こる。

 

 白い髪が突如、金色に染まり……素人目に見ても感じ取れる、その気迫、ないし存在感のようなものが膨れ上がっていく。

 

「何だ、この力は……貴様……一体……!?」

 

「以前にも思ったが、哀れなものだな、エンブリヲ。箱庭の中で絶対者を気取りながら、その身を既に蝕まれ、奪われつつあることに気づかないまま踊り続ける」

 

 普段のミツルとは全く違う口調で、すらすらと言葉が紡がれる。

 

「まあ、()が言えた義理ではないが……それでも、君のそのやり方は不快が過ぎる。だが見方を変えれば、それを正すいい機会に今、恵まれているともとれる」

 

 相対しているエンブリヲだけでなく、何もできずに見ていたジルも、唖然として見ている中……無表情だったミツルの顔に……

 

 

 

 …………晴れやかな、しかしどこか凄みを感じる……満面の笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 まるで、この状況を祝福するような……あるいは、心から喜んでいるような笑みが。

 

 

 

 そして、

 

「君は少し、身の程というものを知るべきだね」

 

 瞬間、その喉をつかんでいる手元から、光とも炎ともわからないような何かが吹き上がり……エンブリヲは、悲鳴を上げることもできずに、その場から消失した。

 

 そして同時に、その光景を目にしていたジルも、あまりに強い光に目がくらみ……ふっと、意識が遠のいていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジル司令! ジル司令! 大丈夫ですか!?」

 

「っ……!? あ、あぁ……星川ミツル、か?」

 

 格納庫の床に倒れていたジルは、自分の体がゆすられるような感覚で目を覚ますと……横に膝立ちになっている、ミツルと目が合った。

 

 寝起きゆえか、すぐには焦点が合わなかったが、特徴的な白髪ですぐに彼だとわかった。

 

「……気を、失っていたのか? 私は、何を……っ!? エンブリヲは!?」

 

「えっと、僕もよくわからないんですけど……撤退してった、のかな?」

 

「……そうか。相変わらず、よくわからん奴だ……ここに来たのも、ただの気まぐれか……単に、殺す前に昔の女の顔でも見に来たのか……」

 

「ええっと……それ、マジなんですか?」

 

「マジだ。……スメラギにはもう話してあるが……かつての『リベルタス』の失敗は、私が全ての原因なんだよ……あの男に、篭絡されてしまったから……。それ以来、奴を殺すことだけ考えてきた……そのために、サリアも、アンジュも、利用して、巻き込んだ」

 

 ふと、ジルの視線が、変形したままの義手に行く。

 手動で元の手の形に戻し、何度かにぎって、開いて、調子を確かめる。仕込んでいた凍結バレットを撃った以外は、前と変わりなく動くようだ。

 

「……信用できないだろうな、作戦の直前に、こんな話を聞かされては。不満なら、後でいくらでも聞く。出来る償いもするつもりだ。だが……叶うなら、この戦いの間だけは……」

 

「そんな悲壮そうな顔しないでくださいって、別に疑ってやしませんから」

 

 遮る形で、ミツルは言った。

 その顔には、穏やかな笑みが……違和感のない、いつもの彼のそれが浮かんでいた。

 

「きちんと過去を振り返って、あれは失敗だったって思い返すことができて、その上でこれからこうしたい、こうして見せる、っていうビジョンをきちんと持てているなら、人間何とかなるもんですよ。そして、その為に必死であがく奴を助けるのも、仲間の務めです。多分、僕じゃなくても独立部隊の人なら、大体同じようなこと言うと思いますよ」

 

「……だが、私は……」

 

「ガッツリ言いたいこと言い合った上でスメラギさんが送り出したんなら、きちんとそのへんの事情込みで、あなたなら大丈夫だと思ったんでしょうしね。経歴的に訳ありな人なんて、この部隊には全然珍しくもないし……宇宙人や異世界人までいるんですから。それに……」

 

「それに、何だ?」

 

「なんか、アンジュ達見てると……一回変な方向に暴走してからなんだかんだで上手くやっていけるのって、ある意味メイルライダーの特性? 生態? なのかな、って思えてきてるんで」

 

「……ぷっ!」

 

 思わず、と言った調子で噴き出すジル。

 

「何だ、その根拠は……だが困ったな、全く反論材料がないぞ。確かに私らときたら、上から下まで黒歴史だらけの色々と痛い集団だな」

 

「そのボスってことで、それに見合った働きを期待してますね。差し当たって……サリアあたりが色々こじらせてアンジュ達とドンパチやってますんで、どついてきてください。……僕の勘ですけど、ジル司令、あなた原因の一つでしょ」

 

「ご推察の通りだよ。やれやれ仕方がない、責任取って不肖の部下のケツを引っぱたきに行くとするか。まったくあいつ、見事なまでに過去の私と同じような失敗を繰り返しおって……」

 

 言いながらジルは、格納庫の入り口に歩いていくと、そこを塞いでいた緑色の光の壁……マナの光を、雑に蹴飛ばして破壊した。

 

 そこからなだれ込んできた警備部隊に一通り状況を説明した後、ジルは改めて、鹵獲してスタンバイされているラグナメイル『レイジア』に向き直り……真剣な面持ちで、そのコクピットに乗り込んでいった。

 

 それを見届けて、ミツルもこの戦いが佳境に入りつつあることを察し……アスクレプスのコクピットに乗り込むのだった。

 合図が来た時、いつでも出撃できるように。

 

 

 

 ジルと、ミツル。

 2人の脳内に……ほんの数分前に確かに起こったはずの、鮮烈にも程がある出来事は……ついぞ思い返されることはなく。

 記憶の欠落という事実を、2人が自覚することも、やはりないのだった。

 

 

 

 

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