スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

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第55話 戻りゆく仲間達と、調律者(笑)

 ロザリーとヒルダの、文字通り決死の行動と説得によって、クリスはようやくその凍てついた心を溶かし……2人の元に戻ってきた。

 その際に持ち帰った『テオドーラ』には、機体が壊れてしまったヒルダが乗り込み、戦場に舞い戻る。

 

 アンジュと、そしてジルと全力でぶつかり合ったサリアは、その後にエンブリヲに見限られたことも合わさってようやく目を覚まし、彼の元を離反。『パラメイル第一中隊』に戻り、またアンジュ達と共に戦う道を選んだ。

 

 そんな光景を、かろうじて機能しているモニターの向こうに見て、ココは……どこか諦観したような乾いた笑みになって、呟くように言う。

 

「……すごいね、皆、エンブリヲ様を裏切って行っちゃう。……皆、仲がいいんだね……本当に」

 

「そうだね。普段はもうなんか、喧嘩してばっかりだけど……何だかんだで私達、根っこのところでは仲がいいんだと思う。だからこそ……この土壇場鉄火場で、あんなことができて……そして、声が響いて、届くんだ」

 

 一緒に死んでやる、とまで言って飛び込み、決死の覚悟でクリスを止めたロザリー。

 

 2人の機体の墜落を、自機であるアーキバスを犠牲にしてでも受け止めて助けたヒルダ。

 

 涙ながらにぶつかってくるサリアを、逃げも隠れもせずに迎え撃ったアンジュとジル。

 

「ホント、色々あったからね……でも、そういうのを乗り越えて仲間になれた私達だからこそ、どんな敵が相手でも、戦っていける、って思うんだ」

 

「ミランダって、そういう熱い感じなの、苦手だと思ってたよ。冷静だけど、なんていうか……夢を見るのが苦手ってうか、そういうのに冷めた感じだったから」

 

「そうだね。……ノーマの私達には、どう生きていったとしても、いい未来なんかない、って、心のどこかでいつも思ってたから、かな。でも今は違うよ。そんな風に冷めた考えなんか、持ってる暇もないくらいに毎日が忙しいし、楽しいし、驚きの連続だから。そういう日々を、仲間達と一緒に過ごすのがさ……すっごく楽しいんだ」

 

「……羨ましいな。私も……そんな風にみんなと過ごしたかった」

 

 その言葉は……ココの、嘘偽りのない本音だった。

 その頬を、一筋の涙が伝っていることに、彼女は気付いているのだろうか。

 

「私も、もしかして……あの時死んだりしなければ、あんなふうに皆と仲良くなって、あんな風に一緒に笑えたのかな……あー、悔しーなー……何で私、あの中にいないんだろ」

 

「だったら、そうすればいいよ」

 

 そう言って、ミランダは……突きつけていた銃を下ろした。

 

「今からでも一緒に来ればいい。一緒に来て、一緒に笑って、一緒に楽しんで、一緒に喧嘩……は、何もしなくても勝手に巻き込まれると思うけど……戻ってくればいいよ、ココ」

 

「……でも、私、死んでるんだよ……もう」

 

「生きてるじゃん、今。どうしてかは全然分かんないけど」

 

「でも、私……皆に……ミランダにも、ひどいこと言った」

 

「あのくらいなら、ヒルダとアンジュの方が、普段からよっぽどひどい口げんかしてるよ」

 

「でも、でも……私……敵になって……ミランダや、アンジュリーゼ様のこと、殺そうとして……それで……!」

 

「似たようなことした人があっちでガンガン仲間になってるから大丈夫だよ! そもそもうちの部隊、最初敵だったけど味方になった人や、今も一応敵だけど協力してる人だっているし、今も敵で協力もできてないけどわかり合おうとしてる人だって……ああもう、めんどくさい!」

 

 そう言って、ミランダは……いつの間にか、彼女の頬にも伝っていた涙をぐいっと乱暴に拭う。

 

 そして、語り掛けるような口調を棄てて、

 

「戻ってこい、ココ! あんたの居場所はまだ、パラメイル第一中隊にあるから! っていうかあの戦いであんた逃げだしたままでしょ、このままだと敵前逃亡で極刑だよ!? さっさと戻ってきて隊長に謝んなさい! 今ならサリア隊長も色々バカやったばっかで強くは言えないからチャンスだよ!」

 

「っ……ははっ……こんな時に何言って……ミランダってば……っ! ホント、変わんないなあ……ミランダ、面倒見いいよね、こんな……こんな……敵になった、私にまで……」

 

「当たり前でしょ。聞き分けのないおバカの相手は、弟や妹で慣れてるのよ」

 

「……ミランダ」

 

「何?」

 

「ごめん……ごめんなさい……っ……戻って、いい゛かな゛あ!?」

 

「一緒に謝ってあげる。ほら、行くよおバカ」

 

「うん……! ありが―――」

 

 その瞬間、

 

 突如、2機の間をつないでいた通信が切れた。

 

 涙を流すココの顔を移していた画面がブラックアウトし、驚いたミランダだったが、すぐに『ああ、とうとう壊れたか』と思い至る。

 

 無数の機雷に加え、高所から地面に激突してなお通信が可能だったことだけでも、ラグナメイルの頑丈さゆえの奇跡的なことだったのだな、と。しかしそれも、限界に来たのだろうと。

 

 しかしなぜか……ミランダは、どこか不吉なものを心に感じていた。

 何も根拠などないが……まるで、今断ち切られたこの通信を最後に……ココと、もう話すことができなくなるような、そんな不吉な予感が。

 

 そして、その直後、戦場にその声が響き渡った。

 

 

 

「揃いも揃って友情ごっこか……陳腐な劇は、それはそれで見ていて楽しいものでもあるが……こうも立て続けに見せられると、流石に苛立ちの方が勝るな」

 

 

 

 戦場に舞い降りるラグナメイル……ヒステリカ。

 そのコクピットから、通信越しに声を響かせる、エンブリヲ。

 

 その声音には、常のエンブリヲにはあまりない、わかりやすい苛立ちが乗っていた。

 

「やっと出てきたわね、エンブリヲ! この変態オヤジ!」

 

「今度こそ地獄に落としてやる……覚悟しろナルシスト野郎!」

 

 アンジュとヒルダが……ヒルダは新たに乗り換えた『テオドーラ』の剣を手に、前に出る。

 それに一歩遅れる形ではあるが、同じくラグナメイルに乗るサリアとジルも続く。

 

 同様に、一歩後ろになる形ではあるが、元々の愛機である『ハウザー』に乗り換えたエルシャとクリス、体勢を立て直したロザリー、そして『レイザー』を駆ってヴィヴィアンも続いた。

 

「ラグナメイル……『テオドーラ』に『クレオパトラ』、『レイジア』……そして『ヴィルキス』。かつてのそれもふくめ、私の力と偽物の力で私に牙をむくか……不快だな」

 

「いつも腹の立つ笑顔を崩さない貴様が露骨に苛立つとはな……珍しいものを見せてもらえて光栄だよ、エンブリヲ」

 

 挑発するジル。

 流石にそれに乗ってくることはなかったが、エンブリオはふん、と鼻を鳴らすような音と共に、

 

「尻尾を振ってすり寄ってくるようならまだかわいげもあったものを……古い女になど、今更興味もない。そしてアンジュ……君の少々おいたが過ぎるようだな。我が妻に迎える前に、少し躾けてやらねばならないか」

 

「おぞましいことを言うんじゃないわよ、このスットコドッコイ!」

 

「そうだ。アンジュは!」

 

「お前なんかに渡さねえ!」

 

 なぜだか息が合うタスクとヒルダ。

 

「いいだろう……身の程知らずの古の民共々、ここで因縁を断ってやるのも一興というものか……だが手始めに、私の愛を受けておきながら噛みついてくる恩知らず達に、罰を与えねばなるまい」

 

「よく言う……貴様に元々愛などあろうものか。結局は自分の欲望を満たすための手駒……用が済めば捨てられる程度の玩具でしかない」

 

「今なら私もよくそれが理解できるわ……お尻叩いてくれた恨み、晴らしてやるんだから!」

 

 ジルとサリアが殺気すら込めて睨みつけるが、エンブリヲはたいして気に止めることもなく……なぜか、彼女達2人でも、またアンジュ達でもない方向を見て言う。

 

「君達2人にももちろんそうするが……その前に、だ」

 

 その視線の先にあるのは……撃墜され地面に倒れ伏す、『ビルキス』。

 

「かつて、古の民によって奪われたラグナメイル『ビルキス』……ホムンクルスの汚い手で使われ、汚されたそれの代わりに、新たに『呼び寄せた』。そしてそれに、死した命を掬い上げて乗せてみたはいいが……やはり、使えるものではないか。それはそれで別に構わないが……噛みつかれるのも不愉快だ。ならばせめて、私の手で終わらせてやるのが情けだろう」

 

「裏切られるのは嫌いってわけね……それで、目的はココ? エルシャの言ってた年少部の子供達といい、どんなからくりで生き返ったか知らないけど……そんなことさせないわよ」

 

「ああ。相変わらず理屈はわかってねーけど、生き返ったってんならそれはそれで構わねえ。ミランダも喜んでたしな……もう一度殺させるような真似はさせねえよ。あと、ラグナメイルは迷惑料として貰ってやる」

 

 その視線の先……『ビルキス』とココとの間に立ちふさがるように飛んで出てくる、アンジュの『ヴィルキス』と、ヒルダの『テオドーラ』。

 

 しかしエンブリヲは、

 

「そうか、優しいことだね……自分達に仇なした敵に対してもそんな風に考えられるとは。だが……残念ながら、手遅れだ」

 

「何?」

 

「一度間違いなく死を迎えた少女に、新たな命を与えたのは私だ。だとすれば――

 

 

 

 ―――それを没収することなど造作もないことだとは思わないか?」

 

 

 

「……っ……まさか!?」

 

 ハッとしたように、アンジュは振り返って……動く様子のない『ビルキス』を見やる。

 ただ単純に、撃墜されて動かなくなったのだとばかり思っていたが、もし仮に、今エンブリヲが言ったことが、はったりでも何でもないのだとしたら……

 

 そしてその会話は、通信越しに……グレイブに乗っているミランダにも聞こえていて。

 

「え……う、嘘……嘘だよね? ココ? ねえ……ねえ、ココ?」

 

 その身の内からせり上がってくる焦燥に追い立てられながらも、必死に呼びかけるミランダ。

 通信ができないので、外部スピーカーに切り替えて呼びかける。

 

 返事は、ない。

 

「ココ!? ココってば!? 返事して! ねえ、ココ! 嫌、そんな……ココぉ!」

 

 返事は、ない。

 

 声が徐々に震え始めるミランダ。

 それを通信越しに聞いて……アンジュをはじめ、その仲間達の胸には……またしても目の前で、1つの命が失われた悲しみと、それ以上の怒りがこみあげてきていた。

 

「エンブリヲ……あんたって奴は、本当に……!」

 

「怒ることはないだろう、君達にとっては敵だったはずなのだから。それに、そもそも一度失われた命……それもアンジュ、君が見捨てた命だろう? それを……」

 

「ごちゃごちゃとうるさいのよ……本当にあんたは、人の命を何とも思って……あんたって男は、どこまでっ……!」

 

「怒った顔も魅力的だよ、アンジュ。やはり君は、私のせ……」

 

 

 ―――その時だった。

 

 

 

「うん、しょっと」

 

 

 

「「「え?」」」

 

 墜落し、倒れ伏し……そして沈黙していた、『ビルキス』。

 

 そのコクピットのハッチが手動で開けられ、中から……『やれやれ』といった感じで、額の汗をぬぐいながら、普通にココが出てきた。

 

「びっくりしたー……いきなりモニターも通信も消えちゃうんだもんなー。まあ、ボロボロだったから仕方ないけど……」

 

「…………」

 

「ていうか、どうしたのミランダ? なんかすっごい名前呼びまくってくれてたけど……そんなに必死にならなくても、私どこに……もぉ!?」

 

 言い終わるより前に、ミランダもコクピットハッチを開けて……ココ目掛けて飛び込んで抱き着いてきた。

 

「うわあぁぁん、ココぉぉおお! よかったぁああ!」

 

「え? え!? な、何ミランダ、さっきまで普通に話して……え?」

 

 通信機能が死んでいたがために、ただ1人、エンブリヲの声が聞こえていなかったココ。

 なぜここまでミランダが安堵し、そして喜んでくれているのか……そして今、この戦場が一体どういう空気になっているのか……彼女は、知らない。

 

 

 

「な……なぜ……!?」

 

 困惑するエンブリヲ。

 その声が引き金になったのかはわからないが、

 

「あーっはっはっは! カッコ悪りー! 偉そうなこと言って失敗してやんの!」

 

「あ、あんなにカッコつけて言ってたのに……普通にココ生きてるし……ぶふっ」

 

 我慢できず、と言った様子で吹き出して大笑いするロザリーとクリス。

 

 他の者も……大体同じ感じで笑いをこらえたり、そして失敗したりしている。

 その笑いにも、単純におかしくて笑っている者もいれば、嘲笑っている者、失笑している者まで様々。

 

 強いて言うなら、エンブリヲという存在の底知れなさを理解しているジルは、確かに超越的な力を持つエンブリヲらしからぬ奇妙な失態をいぶかしんでいたが、実害がない、むしろ利になっているのなら、まず今は考えなくてもよいと結論付けた。

 

 そして、戦場の真ん中で赤っ恥をかくことになったエンブリヲは……今日、いや、もしかするとここ数百年なかったかもしれないほどに大きく顔をゆがめて、ぎりり、と奥歯を鳴らした。

 

(なぜだ!? なぜ生きている!? あの小娘の命は、調律者である私が握っている……いつでも屍に戻せるはずだったというのに!? なぜ、いつの間に私の制御を離れた!?)

 

 片手間でそうしたのが悪かったのかと、エンブリヲは改めて、その力でもってココに……その、自分が与えた命に干渉して奪い去ろうとする。

 

 しかし、その存在を、そしてその中にある命そのものを補足するところまでは行ったものの……それより先に干渉しようとした瞬間、拒絶され、弾かれたように干渉が打ち消された。

 

 しかも……ココ自身は、そのことに気付いている様子がない。

 

(バカな……干渉できない……! しかも、何だ、今の『声』は……? 何かが……)

 

 

 

「シリアスかと思ったら、結構変な空気になってんね。何コレ?」

 

 

 

「「「!」」」

 

 その瞬間、戦場に舞い降りたのは……3対6枚の次元力の翼を持つ、白い天使だった。

 

 戦場にいた『独立部隊』の面々はもちろん……エンブリヲすらも、突如として現れたその機体に意識が向いてしまう。

 

「あ、ミツルだ」

 

「おいおい、いきなりヘリオースかよ……大丈夫なのか? それ使うと後でやばいんだろ?」

 

「大丈夫大丈夫。なんか今ならいけそうな気がする」

 

「て、適当ね……」

 

 ヴィヴィアンやヒルダ、サリアに心配されつつも、軽い感じで返すミツル。

 そしてその視線を、今しがた醜態をさらしたばかりのエンブリヲに向け……ニヤリ、と笑う。

 

 そんな態度を感じ取ったのか、エンブリヲの機嫌もさらに悪くなっていた。

 

「貴様……星川、ミツル……!」

 

「ドーモ、エンブリヲ=サン。ヘリオースです。変態死すべし、慈悲はない」

 

 楽しそうにそう言い放つ、ミツル。

 その機体『ヘリオース』の周囲には……エンブリヲはもちろん、仲間達にとっても見覚えのない……6つのリング状の謎のモジュールが、次元力の光を纏ってふわふわと浮いていた。

 

 

 

 

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