【○月◆日】
今僕は、どこともしれない場所にいる。
この広い宇宙のどこか、知らない場所……という意味ですらない。
通常のそれとは違う、よくわからない異空間みたいな場所に、僕はいる。
レーダーやマップ系の機器は全て『解析不能』を示しており、手掛かりは全くない。
ただ、ここにきてしまった原因はなんとなくわかっている。……ワープに失敗したからだろう。
土星を出発した僕は、さっさと収穫した鉱物類その他を地球に届けるべく、ワープで火星辺りまで一気に飛ぼうとしたんだが……その時、なぜか通常空間に復帰することができずに、この謎の空間にでてきてしまったのだ。
異様としか言いようがないような空間だ。
周囲には、戦艦や機動兵器らしきものや、その残骸がふわふわと浮いている。
比較的真新しいものもあれば、随分と古いものも見られる。
まるで、船の墓場みたいだな、とふと思った。
そして、もしかしたらここは、いわゆる『バミューダトライアングル』の宇宙版みたいな奴なんじゃないか、と見当がついた。
ちょうど今の僕みたいに、ワープに失敗するとか、何らかの理由で迷い込んでしまう場所。
一端入ってしまったが最後、出ることはできずに永遠にこの空間の中をさまよい続け、やがて力尽きて朽ちていく……的な。
艦のデータバンクを漁ってみたら、それらしきデータがヒットした。
『次元断層』と呼ばれる場所がそれにあたるらしい。予想通り、通常空間とは違う空間にある、別名を『宇宙の墓場』とまで呼ばれる場所。
ここがもしそうなら、ヤベーとこに迷い込んじゃったな……とは思ったものの、何もせずにボーっとしていても、状況は改善しない。
幸い、船自体には何も不調はないみたいなので、ひとまず動いてあたりを見て回ることにした。
そうしたら……ひときわ大きくて目立つ、戦艦?っぽいものを見つけることができた。
なんか、やたら縦横に大きいというか、広いデザインだな。艦橋らしきものが見えるから……ええと、やっぱりコレ、こっち側が正面なのか? ということは、あのクリスタルっぽい突起、ビーム砲の砲身か何かだろうか。
コレ、戦艦だとしたら、前側がこんなに面積広いと、艦隊戦でもやったらめっちゃ被弾しちゃうんじゃないか? その分装甲は分厚そうではあるけど……。
レーダーを見てみると……周囲に浮かんでいる残骸の船同様、生体反応はない。動力炉も止まってるみたいだ。完全に死んでるのか、それともこの船みたいに休止状態なだけなのか……そこまではわからないけど。
中に入ってみると、やはりというか、中は無人。
しかし、いじってみると……この船も、動力そのものは生きていたようで、すぐに復旧した。
艦内の照明もすぐに全部ついて、よく見えるようになったんだけど……ガミラスの艦と同じか、それ以上に近未来的で……白を基調としているせいか、清潔感のある内装だ。
けど、どこか無機質な感じのするデザインにも見える、かも。
しばらくコンソールをいじってみてわかったことだが……どうやらこの艦、キレイな見た目の割に、かなり長い間放置されていたらしい。
システムそのものは生きていたものの、データバンクの中身が全部壊れていて、記録も何も残っていなかった。これでは、この艦がどこの誰が使っていたものなのかもわからない。
いや、まあ……別にわからなくても困りはしないんだけどね、どうしてもそういうのを知りたいわけじゃないし……。
復旧も難しそうだから、そこはすっぱり諦めた方がよさそうである。
ワープ失敗から始まって、今日は色々気疲れした。
ちょうどいいや、今日はここを宿に使わせてもらおう。
明日は、データバンク以外も色々調べさせてもらおうと思う。結構保存状態いいから、もしかしたら色々物資とか機材とか、使えるものが残ってるかもしれない。
【○月?日】
もしかしたらどころじゃなかった。
すごいぞここ、宝の山だ。むしろ、この艦が宝そのものだ。
今日僕は、この戦艦らしきものを隅から隅まで調べてみた。
部屋という部屋はもちろん、コンピュータの中身まで、全部。
昨日言った通り、データバンクは全部壊れてて何もわからなかったんだけど、その他は意外と生きているシステムが多かった。
どうやら、船の操作そのものや武装の管制を担うシステムは同一だけど、その他のシステム……生産系の設備や居住スペース、保管庫や格納庫なんかを管理する部分は別系統になっているようで、軒並み無事だったのである。
そして、それらの設備……特に、生産系のそれが凄まじい性能と技術レベルだった。
艦に搭載されているものでありながら、地球では専用のドックですらお目にかかれないようなレベルの設備がそろっていて……スペック通りなら、設計データと材料さえ用意できれば、戦闘機や機動兵器だって作れそうだ。しかも、全自動で。
艦外で作業するためのガジェットまで用意されていたので、その気になれば、この艦に収まりきらないサイズのものや、艦そのものより大きなサイズのものだって作れそうだった。
物資も、材料から燃料から潤沢に残されていたし、食料すら作れた。
作れたってどういう意味かって? 文字通りの意味だよ。 食料が保管してあるんじゃなくて、食料そのものを作る設備があったんだ。
なんか、加工前はどう見ても鉄か何か、金属の塊みたいにしか見えない状態なんだけど……それが実は、たんぱく質とか炭水化物なんかを、超長期保存可能なように加工したものらしくて。
それを専用の機械で『戻す』と、オートミールみたいな簡易的な、しかしきちんと栄養バランスその他が考えられた食事になるんだよ。
実際にやってみてびっくりした。どう見ても無機物、あるいは鈍器にしか見えないようなブロック状の物体が、食べ物に変わるんだもんよ。
ただまあ……味は、そこそこどまりだったけど。
きちんと味はついてて、美味しいと思うんだけど……毎日食べ続けてたら、そう時間かからずに飽きるだろうな、って程度の味だ。
それでも、食料に困らないってのはそれだけでありがたい。この謎な空間に閉じ込められているっていう、今の状況では特に。
固形化してある原材料ブロック、まだまだ、アホみたいな量残ってるから……その気になれば年単位でここで生活できそうである。
いや、まあ別に、そこまで長くいたくはないけど……
ともかく、当面はここを拠点にさせてもらうとしよう。
相変わらず、推進機関を含めた『戦艦』としての機能はほぼほぼ死んでるけど、拠点として使う分には申し分ない機能がそろってるからな。
食料生産装置の他にも、服やその他、雑貨類を作るための装置もあった。宇宙服すら作れるっぽかったので、この際だし、スペアとか含めて身の回りの必要そうなもの、一通り作っちゃおうかな?
……ああもちろん、ゆったりくつろいで過ごすだけじゃなくて、この空間から脱出する方法についても、模索は進めるけどね?
ちなみに、生産系の設備のデータを調べていたら、どうにかこの戦艦そのものと、それを扱っていたらしい集団? 勢力? の名前を知ることができた。
戦艦の名前は、『バースカル』。
そして、これの持ち主である集団の名前は、『ガーディム』というらしい。
ガーディム、ね、覚えておこう。
どこのどんな人達か知らないが……もしいつか会うことがあったら、お礼とかできたらいいな。
☆☆☆
地球において、昔の船乗りは、船が赤道を超える時に、航海の無事を祈って『赤道祭』という催しを開催したという。
それに倣う形で、今、『宇宙戦艦ヤマト』の艦内では、『太陽系赤道祭』が開催されていた。
食料生産設備である『O.M.C.S』を使って作られたご馳走や飲み物に舌鼓を打ち、他愛もない雑談に花を咲かせる。
このままいけば、もう間もなく、ヤマトは太陽系を出て、正真正銘の未知の領域へ旅立つことになるため、それを前に船員たちを慰撫する目的も兼ねていた。
また、太陽系を出ると、宇宙線その他の関係で、地球と通信することもできなくなるため、最後に地球に残してきた友人や家族と話すための時間も設けられた。
1人あたり限られた時間ではあるが、艦載の通信設備を使ってテレビ電話で話すことができる。
もっとも、ガミラスの攻撃で天涯孤独となっている者や、そもそもこの世界の出身でない者などもいるため、通信の順番を辞退した者も少なくなかったようだが。
そんな中、『ヤマト』の艦長を務める沖田十三は、自室にて、戦友である土方竜と通信で言葉を交わしていた。
それは、これが最後の通信になるということで、他の乗組員達と同様の最後の挨拶でもあったのだが……同時に沖田は、土方から奇妙な話を聞くことにもなった。
「白い機動兵器……?」
『その様子だと、お前も何も知らんようだな、沖田』
「ああ……それで、その白い機動兵器が、度々現れてガミラスから地球を守っていたと?」
『ああ。所属も何も明らかにはなっていないし、外見からして、モビルスーツなのかどうかすら判断できないのだが……機体の性能はかなりのものだった』
土方が言うなら確かなのだろう、と沖田は判断するが、彼もまた、その『白い機動兵器』に関する心当たりはない。
強いて言うなら、現在ヤマトに乗せている『クロスボーンガンダム』も、白いと言えば白い機体だが、それならば土方は一発でモビルスーツだと、そして何よりガンダムだと見抜くだろう。
そもそも、『クロスボーンガンダム』とそのパイロットであるトビアは、火星で遭遇して以降ずっと行動を共にしている。可能性としてはあり得ないと言えた。
(土方が知らないとなると、少なくとも連邦軍関係の機体ではないな。しかし、今の地球に、連邦軍以外でモビルスーツや、それに準ずる機動兵器を用意できる勢力など……もしや、流や剣と同じように、異世界からの……? いや、これだけの情報でそう結論付けるのはあまりに早いな……)
『最近は姿を見せなくなってしまったが、それにあわせてお前達がもたらしてくれた、冥王星基地陥落の知らせは、地球に残った者達にとってこの上ない吉報だった。これで遊星爆弾はもちろん、戦闘機や戦艦もやっては来ないだろう……ああもしかすると、奴は自分の役目はそれで終わったと思ったからこそ、もう姿を見せなくなったのかもしれんな』
土方の話に、沖田は思考を続けつつも、なるほど、と相槌を打つ。
『ただ、見間違いでなければ……パイロットの腕はそこまでではなかったようにも見えたな。動きも、素早くはあるが単調だったし……二刀流で戦っていたのだが、それを生かしきれているようにも見えなかった』
「ふ……恩人に対して手厳しいことだな」
『教鞭をとっていた性分でな。もし会うようなことがあれば、礼を言っておいてくれ。奴のおかげで、私の部下は何人も救われているからな』
その後しばらく、そんな軽口をいくつか交わして……2人の会話は終わった。
沖田は通信設備の電源を落とし、艦長室の椅子に深く腰掛けて息をつく。
(気にはなる、が……地球に危害が及んでいないのであれば、それで良しとする他ないな)
件の『白い機体』についての考察はそこで切り上げ、沖田はこれから待ち受けている、果てしない旅路に思いを馳せる。
もう少しすれば、地球とも連絡はとれなくなる。知る者、頼る者のいない宇宙の大海原で、ヤマトは孤独で長い戦いを続けていかなければならない。
途中、いくつかの寄り道を経てはいるが、今のところ旅の道程は極めて順調。
しかしそれでも、既にガミラスや、他の敵対勢力……地球を捨てた地球人である『木星帝国』や、飢える破壊魔『インベーダー』などとの戦闘を幾度も潜り抜けてきている。
これから先、さらなる苦難が待ち受けているであろうことを考え……航海の無事を祈りつつも、ついつい思考の海に深く沈んでしまう沖田。
秘蔵の酒を片手に現れた佐渡医師が艦長室を訪れ、『若者に混ざって盛り上がるのが苦手な者同士』で一杯やり始めるまで、その熟考は続いたのだった。