『超文明ガーディム』
それは、とある時代のとある宇宙、とある銀河系に存在した、その名の通り極めてすぐれた技術力と、それに裏打ちされた強大な軍事力を誇っていた一大星間国家である。
彼らは自分たちこそが宇宙で最も優れた文明であると信じて疑わず、その思想でもって他の惑星の文明を侵略し、自分たちに恭順し同化するか、あるいは滅びるかという選択を突き付けてきた。
その蛮行もまた、彼らからすれば『教育』ないし『矯正』に過ぎないものであり、彼らは自分達のもとで管理されることこそが正しい在り方であり、その文明にとっても幸福なことであると、そして自分達には常に成功と勝利がもたらされると、信じて疑わなかった。
現在、地球という名の辺境の惑星において、作戦行動に従事している上級武官・ジェイミーもまた、そんなガーディムの思想に見事に染まっている1人だった。
今回の作戦でも、彼女はそんな歪んだ自信と自負、そして独自の美学を胸に、作戦を遂行するつもりでいた。
多少の抵抗は予想されるものの、所詮は辺境の劣等種。自分たちの戦力と技術力、そして自分の智謀をもってすれば、恐るるに値しない。
戦う前から勝利を確信していた、そんな彼女の率いる部隊は……
…………今まさに、たった1機の機動兵器を相手に、壊滅の様相を呈していた。
「何で……こんな、ことに……何、なのよ!? あんたのその機動兵器は!?」
数分前までは涼しい笑みを浮かべていたジェイミーは、目の前の光景が理解できず、表情を困惑と焦燥にゆがませて取り乱していた。
彼女の問い、あるいは慟哭に、帰ってくる答えはない。
その代わりに、眼前でまた1機……自軍の機動兵器が、轟音とともに爆散して地上に降り注いでいった。
ジェイミーは憎々しげに、それをやってのけた下手人を……目の前で暴威をふるう、漆黒の機体をにらみつける。
その機体……『黒いアンゲロイ』は、腕のパーツを変化させた大砲からエネルギー弾を連射。
離れた場所で砲撃を行っていた『アールヤブ』を貫き、爆散させ、一掃する。着弾直前に展開した、防御用のエネルギーフィールドを、そこに何もないかの如く、容易く貫通して。
逆に、『アールヤブ』が放ったレーザーは、機体表面のエネルギー障壁『Dフォルト』に阻まれ、傷の一つも作ることはできていない。
その直後、凄まじい速度でアンゲロイの背後に回り込んだ、ガーディムの下士官機『プラーマグ』が、至近距離からの光子魚雷を放とうとするが、それよりも早く、その機体は真っ二つにされ、爆炎の中に消えていった。
発射までの刹那の間に、アンゲロイのもう片方の手が大剣に変化し、目にもとまらぬ速さで振り抜かれ……装甲も何もかも無視したかのような一撃で、『プラーマグ』を両断した。
「違いすぎる……以前とは。攻撃力も、防御力も……!」
数分前の彼女は、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。
目の前のそれとよく似た機体は、すでに過去の戦闘データにあった。
『アンゲロイ』という名前――地球のどこかの国の言語で『天使』という意味であるらしいその機体は、確かに地球の既存の機動兵器の中では高性能な部類だった。
カラーリングが変わった機体が出てきた時は、さすがに変わったのは色だけではないだろうと、多少なり改良されているのだろうとは当然予想はしていたが、しかしそれでも、ガーディムの戦力をもってすれば十分に対応可能な範囲内であると考えた。
ゆえに、囮のつもりか何か知らないが、たった1機でこちらに向かってきたその蛮勇をあざ笑いつつ、粉砕してやるつもりで戦闘に入った。
その結果が、今のこれだ。
剣に、大砲、それだけでなく、単なる格闘……膝蹴りや拳の一撃でも、たやすくこちらの兵器は迎撃され、粉砕された。
半ば特攻のつもりで、トップスピードで突撃していった『プラーマグ』は、正面から受け止められ、しかし『アンゲロイ』は無傷。そのまま動力部を握りつぶして放り棄てられた。
至近距離で複数の『アールヤブ』を、動力炉を暴走させて自爆させ……しかしその爆炎の中から無傷で現れた時には、ジェイミーもさすがにその目を疑った。
防御も回避もろくに通用せず、その戦力差はまるで、子供と大人、いやそれ以上。
データの中にあった機体とは、姿形が同じだけの、まったくの別物、そうとしか思えなかった。
実際、その予想は的外れではない。
基礎構造こそ同じではあるが、この機体……『アンゲロイ・アルカ』は、以前にミレーネルが乗っていた『アンゲロイ』とは、性能的に全くの別物と言っていい機体だ。
地球の技術力でも――その中でもかなり高レベルではあるが――再現可能な範囲内でしかない『アンゲロイ』と違い、『アルカ』は、動力炉だけでなく、その駆動や攻撃の全てに『次元力』をダイレクトに用いている。
それゆえに、攻撃力・防御力・機動力……全てにおいてその性能は隔絶しており、通常の『アンゲロイ』と比較して、実に30倍もの戦闘能力を誇るとまで言われている。
「……っていうのはミツルからきちんと聞いてたけど……引くほど強いわね、コレ、本当に」
他でもない、『アンゲロイ・アルカ』に乗り込んでいるミレーネル自身もそんな風に思ってしまうほどの……ガーディム相手にほとんど弱い者いじめにしかなっていないほどの戦力差だった。
無抵抗で撃たれていても傷らしい傷も負うことはなく、逆にこちらの攻撃は、当たりさえすればほぼほぼ一撃で相手は沈んでいく。
おまけに『次元力』の作用により、多少傷を負ったところで自力で修復されてしまう。
「ちょっとミレーネル……あなた達、いつの間にそんなとんでもない機体作ったの?」
「それも『サイデリアル』の新兵器か?」
後方で、ミレーネルの打ち漏らしを狩るために待機していた、アンジュや宗介、その他の面々も唖然とした様子で、その戦いを見上げていた。
戦いが始まった当初、ミレーネルが『私一人で相手するから、あなたたちが打ち漏らしを狩って。乱戦になったらかえって突破されちゃうかもしれないし』と言って突っ込んでいったときは、いくらなんでも無茶ではないかと思っていたものだが、いい意味(?)で期待を裏切られていた。
しかし、そうなったらそうなったで、味方からしても唖然とするしかないほどのその戦闘能力を見せつけられて、こちらも困惑している様子である。
しかし、ミレーネルがそれに返答するより先に、通信の向こうからヒステリックな声が聞こえてきた。
「ふざけるな……ふざけるな! たった1機の、劣等文明の機体を相手に、ガーディムの精鋭部隊が……こんなの認められるわけがない! こんなの―――」
「次にあんたは『こんなの美しくない!』と言う」
「こんなの美しくない! ……ハッ!?」
「「ぶふっ!!」」
絶叫するように叫んだジェイミー……の、反応を読んで被せたミレーネル。
それが的中し、直後に聞こえたジェイミーの愕然とするような反応に、思わずヒルダとヴィヴィアンが噴き出した。そのほかの面々も、笑いをこらえたり、苦笑したりしている。
最早彼ら・彼女らの目には、この戦況は緊張感を保って見るものでもなんでもなく、完全に手玉に取られて戦力をすり減らしたジェイミーは脅威には映っていなかった。
無論、だからと言って油断しているわけではないが。
それでも、そんなミレーネル達の反応は、圧倒し、蔑み、見下すことしか知らないジェイミーにとっては我慢ならないほどに屈辱的なもので。
動揺と怒りのあまりうまく口を開けない、言葉が出てこないといった状況になり……結局、
「こんなの美しくないッ!」
「おーい、あのおねーちゃんこれしか言えなくなってやがるぜ」
「まるで壊れたラジカセか何かだねえ……想定外の事態が起こるのに弱いと見た。他人を見下してる頭でっかちにはありがちだね」
「頭は悪くないのだろうが、部隊を率いる者としては二流だな」
クルツ、マオ、宗介が遠慮も何もなく酷評。
それらもまた、ジェイミーの怒りに燃料を投入する結果になっていたが……それに続けて、ミレーネルが爆弾を投下した。
「ま、バグ起こして支離滅裂にならないだけ優秀だとは思うけどね……アンドロイドながらあっぱれだわ」
「「「え?」」」
「なっ!?」
ミレーネルの言葉に驚く敵味方一同。
中でも、いきなり自分のことをアンドロイドだと断じられたジェイミーは、ひときわ困惑を強くしていた。
「あん? どういうことだよミレーネル? あいつ、アンドロイドなのか?」
「ああ、そういえば、前に戦った何とかってやつもそうだったっけ」
「グーリーね。で、そうなの、ミレーネル?」
ヒルダとヴィヴィアン、サリアの問いに、ミレーネルは『ええ』と当然のことのように肯定して言う。
「ジャミングでスキャンしにくくしてあるけど、あの機体、コクピット部分に人間の体温の熱源反応も、生命反応もないわ。グーリーがそうだったから、もしかしたらとは思ってたけど……」
(それに、『バースカル』に攻めてきた時もそうだったしね。その時の記憶も、見事になくしたまま再生産されたみたいだし)
一部分だけは心の中でつぶやくにとどめたミレーネル。
「あと、さっきカマかけてみたというか、やり取りの中でも思ったんだけどさ……あなた、前に私達『サイデリアル』の拠点を襲撃してきたことあったでしょ? その時は返り討ちにして、あんたも乗ってる機体ごと、間違いなく爆散させてやったはずなのに、しれっと生きてるし……その時のこと、きれいさっぱり忘れてるみたいだし」
「そんなことがあったの? あ、でもそのパターンって、前にグーリーの時にも……」
「ああ、あったな。死んだはずなのに生きてたり、見当違いの記憶に改ざんされてたりして、会話がかみ合ってなかったっけな」
アンジュとヒルダがそう続けて言ったのも手伝って、徐々に部隊全体に『そうなのか』という空気が広がっていく。
そしてそれは、こちらを動揺させるためのブラフだと思っていたジェイミーの方にもだった。
「わ、私が……アンドロイド……?」
そんなはずはない、と思っていた疑念が、徐々に無視できないものになっていく。
そのことに、ジェイミーが自身の存在に疑問を抱いて、先ほどまでにまして困惑を加速させていく中……
―――ドゴォォオオオォオン!!
「「「!?」」」
別な方向で響き渡った轟音。
とっさに全員の視線がそちらに向いて……その先に広がっていた光景を目にして、音よりもさらに驚かされることとなる。
だが一方で、
「おー……あっちの方も、大詰めみたいね」
そうつぶやいたミレーネルのように……多くの者にとっては、驚きと同時に、不思議と納得もまたできる光景だった。
どんな絶望的な状況でも、あきらめずに最後には何とかしてしまう。
そんな、仲間達の力を信じているがゆえに。
「これが、偉大なる魔神皇帝……『マジンエンペラーG』だ!!」
「綾波を……返せ!!」
剣鉄也の乗る新たな機体……『マジンエンペラーG』が、『マジンガーZERO』にも劣らない圧倒的な存在感をもって戦場に降臨し、
エヴァンゲリオン初号機が、機体各部に、禍々しい赤い光を走らせ……腕と目から放った極大の衝撃波で、使徒を粉砕する。
動きを止めたマジンガーZEROは、光に包まれると……元の『マジンガーZ』の姿に戻り、そのコクピットからは……待ちわびた声が聞こえてきた。
「みんな……すまない、迷惑かけた。もう大丈夫だ!」
「甲児君!」
「ったく……遅ぇっつーの!」
ほっと胸をなでおろした様子のさやかと、口では荒っぽく言いつつも心配していたボス。
元通りの兜甲児の帰還に、2人のみならず、仲間達は皆、安堵していた。
そして、もう1つ……エヴァンゲリオン初号機が打ち倒した、『第9の使徒』と『第10の使徒』。
それらの直上に、高速で飛来する影があった。
「ミツルさん!?」
「おい、何する気だ!?」
「助けるんだよ……2人を。そうだろ、シンジ君?」
「っ……は、はい!」
「なら……」
声を上げたシンジや竜馬のみならず、見ている者達が困惑しながら見守る前で、ミツルは『アスクレプス』を『ヘリオース』に変形させ……次元力を練り上げ始める。
次元力というものを知らない機体でも観測できるほどに膨大なエネルギーが、しかし、破壊を伴うようなものではなく、木漏れ日のようにやさしい光となって……倒れ伏した使徒に降り注ぐ。
光が使徒を包み、その中にしみこんでいくのを見ていたシンジは……直感的に、自分が何をするべきか分かった。
初号機が使徒めがけて駆け出すのを見ていたミツルは、説明は必要なさそうだと考え、自分のやるべきことに集中する。
「じゃ……よし。返してもらおうか……僕らの、仲間を」
ミツルは目を閉じて集中し、意識を使徒……の、中にいるであろう綾波レイに向ける。
それと同時に、脳裏に強くイメージを思い描いていく。
こことは違う世界で起こった奇跡。
『揺れる天秤』と『尽きぬ水瓶』……折れない意思と無限の愛。2つの次元の秘宝が引き起こした、ある1人の少女を、不可逆の変容という悲劇から救い上げたという……救済の可能性。
一層強くなる緑の光の中で……初号機が手を伸ばし、シンジが、のどが張り裂けんばかりにその名を呼んで……
そして……光が収まった時。
初号機の手のひらの上には……力なく横たわる、しかし、しっかりと自分の力を息をしている……プラグスーツの少女の姿があった。
「よし……成功! んじゃ、次だ……終わりが見えてきた!」
これまでにないほどの疲労を覚えながらも、ミツルが、もう1人残った少女……『第9の使徒』に取り込まれている、アスカの救出に移ろうと、シンジに呼びかけようとしていた……その頃。
―――その通り。
―――『終わり』はもう、すぐそこに迫っている。
―――そしてそれは、
―――新たなる時代の、正しき宇宙の、始まりでもある。
―――偽りの歴史、過ちに満ちた世界、それら一切は終わりを告げ、
―――全ての宇宙は再び、至高神と、御使いの御手の元、
―――しかるべき姿で、再誕する。
―――そのために、欠片を持つ者達よ。今一度……
―――集え、イスカンダルへ……!
鋼の英雄たちが、仲間を救い、世界を守る戦いを進める裏で。
『何か』が、とうとう、動き出そうとしていた。
おまけ 今回出てきた機体について
【アンゲロイ・アルカ】
元ネタは、第3次スパロボZに出てきた敵勢力の機動兵器。『天獄篇』経験者にとっては忘れたくても忘れられない、ご存じトラウマ機体。
見た目は『アンゲロイ』シリーズの単なる色違いだが、性能は全くの別格。というより、この機体こそがオリジナルであり、他がレプリカという位置づけ。
ストーリー中盤くらいで突如出現し、HP20000弱、装甲値3000超え、パイロットに至ってはLv70と、『絶対量産機じゃねえだろ』というレベルの戦闘能力で数多のプレイヤーにトラウマを刻み込んだ。
本文中の戦闘力30倍のくだりも公式設定であり、サイデリアルが苦戦する戦場に現れ、圧倒的な力で抵抗勢力を蹂躙する存在として一部で知られていた。
この世界では、現状手に入る素材を使ったレプリカではあるものの、次元力を使った駆動などは構築に成功しているため、カタログスペックはオリジナルとほぼ同等。加えて、次元力による自己修復機能も有しているため、総合的な戦闘力・継戦能力はむしろ上がっている。そんなのの初陣の相手に選ばれたジェイミーは泣いていい。