【▽月_日】
鉄也さんの案内で行った先にあったのは、なんと『科学要塞研究所』だった。
……え、これって確か、光子力研究所の地下にあったんじゃなかったっけ? ジャパニウム鉱石を守るために作られた、『光子力の光子力による光子力のための』研究所だったよね? てか、ミケーネ騒動の時、そこに確かにあったよね。なんでこんな、海の近くにあるの? 移設したの?
あれとは別物? もう1つの科学要塞研究所? マジですか。
しかも、鉄也さんが『会わせたい人がいる』と言って連れてきたのは……なんと、甲児君の父親である、兜剣造博士。そして、母親である錦織つばささんだった。
というのも、この2人はどうやら、この世界における鉄也さんの協力者の筆頭であり……あのマジンエンペラーGを作ったのもこの人たちらしい。すごいなそりゃ……頼もしい。
んで、そんな人達と僕らが何のために面会、ないし合流したのかというと、彼らなら僕らが『新西暦世界』に戻る術を知っているかもしれないから、ということらしい。
アウラさんの言う通りにイスカンダルに行くためには、まず大前提として『新西暦世界』に戻る必要があるからな。
先の会議のために合流していた面々と力を合わせて、兜博士達はその方法の模索に入るらしい。すでに輪郭は出来上がってるそうなので、あとはそれを確実に行使できるように肉付けをしていくだけだそうだ。
その間、僕達は待機ということになるが……ただそうしているだけじゃ時間がもったいないので、色々と動かせてもらうつもりでいる。
僕も元々、この部隊の補給担当っていう立場もあるわけだし、今後のことを考えれば、物資なんていくらあっても困ることはないんだから。
そんなわけで、僕も少し前までと同じように、割と頻繁に『アルデバル』でパラレルボソンジャンプを使い、『西暦世界』に戻っている。
ここんとこしばらく『サイデリアル』を空けてしまったので、その分の仕事もしなきゃいけないのと……ここから先の、おそらくはこれまでで最大規模の作戦に向けて、物資その他を手配しておくために。
何せ、行く先は『イスカンダル』……新西暦世界の地球から見て、16万光年以上の彼方だ。往復32万光年以上の道のりとなると、ワープを繰り返しても相当な長さになるはず。
……というか、そもそもヤマトはその地球を救うために、1年以内に戻ってくるっていうつもりで旅に出たんだっけな……その目的から見れば、今現在、大幅に足止め食ってる最中なわけで。
ずっとほったらかしだったそっちの事情にも、そろそろ目を向ける時が来たのかもしれない。
近々、これまでにない規模で、大きく動くことになりそうだ。
【◇月〇日】
しばしの待機期間。独立部隊の面々は、各々のやり方でその時間を過ごしている。
昼も夜もなく訓練に明け暮れ、戦いの腕を磨こうとする者。
やってくるであろう一大決戦を前に、家族や友達に会いに一度故郷に帰る者。
同じく故郷に帰りつつも、それはある種の身辺整理や決意表明、戦支度のためである者。
その他にも様々な形で、しかし総じて皆、これから始まる大一番の準備のために時間を使っている者がほとんどだった。
その中でも、『西暦世界』に用がある人は……頻繁にそこの世界に行き来している僕の『アルデバル』を、うまいこと利用していたりする。
ほぼ1日1回ペースで行き来するから、行くときに自分も一緒に乗って行って、用事を済ませて、帰るときに一緒に帰ってくる、という形だ。タクシー……っていうよりは、送迎バスだな。
ジルやエルシャは、アルゼナルに行って様子を見たり、幼年部の子供たちと遊んであげたりしてるし、舞人社長は扇風寺の本社に行って仕事をしたり、浜田君やサリーちゃん達に会ったりしているようだ。
アキトさんやユリカさんなんかも、ミスマル中将と話すために何度か戻ってるし。
彼らはその気になれば『ナデシコ』で戻れるけど、燃料とか整備費用の節約のためには、乗り合わせで一緒に行った方がいいだろうってことで。ますます飲み会の送迎みたいである。
それとは違う理由で、たびたび僕らと一緒に並行世界を行き来しているメンバーがいる。
ミレーネルにミランダ、そしてココの3人だ。
ミレーネルは僕の秘書だからまあ当然として……ミランダとココは、自分の機体である『デモンメイル』の調整や改良のためである。
ミランダはすでに持っている機体を改良して、より扱いやすくするために。
そしてココは、もうじき出来上がる新たな愛機の調整その他の追い込みのために。
毎度『アルデバル』に乗って、『西暦世界』にあるサイデリアルの本社に行き、そこで色々と作業にいそしんでいるわけだ。
ああ、言うのが遅くなったけど、ココに関してもジル指令に話をつけて、ミランダ同様『テストパイロット』としてサイデリアルで雇ってるので。
なお、ココとミランダに関しては、突然僕があちこちに連れまわすようになったため、一時期『会長ってああいう趣味だったのか』と見られていたことがある。
しかし、それも一瞬のことだった。
なぜなら、ミランダとココは……パイロットとして相応の腕をきちんと持っていて、テストパイロットとしてきちんと仕事をしているから。
開発部門の人たちからは、若い(というかむしろ幼い)のに大したもんだってほめていて、その話がすぐに社内に広まって、誤解は解けた。
その代わりに……なのかどうかはわからないけど、2人は、特に人懐っこくて壁を作らない性格のココは、社内でマスコット的な扱いをされている感じである。
ちょっとその辺を歩くと、いろんな人からお菓子とかお小遣いをもらって、すごくいい笑顔になって帰ってくる。めっちゃ可愛がられてるな。
一緒にミランダももらってくるのだが、こっちはそういう扱いに慣れてないからか、困惑しながら帰ってきていた。
まあ……いい感じに受け入れられているようで何よりである。
ココ自身も、全力で外の世界を楽しめているようだし。まるで、いままでアルゼナルの中に押し込められていてわからなかった分を堪能しているようだ。
その面倒を見ているミランダも、一緒に楽しむことはできているようだし。
……この風景を日常のものにするためにも、これからの未来、なんとかしなきゃいけないな、とふと思った。
【◇月×日】
…………ちょっと今日、衝撃的な体験をしてしまった。
いや、別に何か悪いことがあったわけじゃない……と、思うけど……いやでも、すぐにそう判断していいものか……
かといってこんなこと、誰か他の人に相談できるようなことでもないし……ううむ……
……いつもと同じように、順を追って整理していこうか。そのための日記だ。
ここ最近、僕は『サイデリアル』の業務で結構長い時間、机の上で仕事をしていた。
このところ、独立部隊に参加するために、かなり長い期間留守にしてたからね。その分の埋め合わせと……これからさらにまた留守にすることもあって、その分の仕事もしようと思って。
社員たちは、気前よく『気にしないで、頑張ってきてください』なんて言ってくれるけど、僕にも創業者の意地みたいなものもあるわけで。
皆で一緒になって作り上げ、大きくしてきた会社なんだ。確かに独立部隊の皆のことも大事だけど、だからってこの会社をないがしろにするなんてことはあり得ない。
しかし、ちょっと最近は頑張りすぎてしまったようで……今日の昼間、キーボードを叩いている最中に居眠りをしてしまった。
『おいこら』とミレーネルがぺしん、と頭をたたいてくれて、はっとして見てみると……PCの画面上に『あああああああああああああああああ(以下略)』と無数の『あ』の文字が並んでいた。……キーを押しながら寝落ちした結果らしい。あるある。
文面の99%が『あ』になってしまった書類を修正した後、思い切って仮眠をとることにした。
うちの会社には、社員達が効率よく仕事をするために、仮眠室やサロン、カフェスペースなんかの設備も充実させてある。
しかし、さすがにそれを僕が使うわけにはいかない。一応、こんなんでも肩書は『会長』なので、一般社員が緊張してしまうからだ。アットホームな社風が売りとはいえ、限度はある。
会長室に隣接して設けてある僕の私室に、それ用のスペースがきちんとあるので、そこで横になって、ひと眠りしようかと思ったんだけど……ちょうどその時、今日の分の仕事を終わらせたココとミランダが遊びに来たのである。
2人は僕がこれから仮眠をとるところだと知ると、ミランダは『じゃあお邪魔ですね』と帰ろうとしたんだけど、何を思ったかココが『一緒に寝る』と言い出したのである。びっくりした。
その表情からは、何も変な意図は微塵もなくて、ただ仲のいい友達(っていう認識。一応は雇用者なんだけどね)である僕やミランダと一緒に寝たいっていう理由と……単純に仮眠室のベッドがふっかふかで豪華だから寝てみたいっていう興味からだったようで。
あと、ミランダやアンジュとは一緒に寝たことあるけど、僕とは初めてだからって。
いや、そんなのは当たり前でしょ、仮にも男女で……っていうか、君、ミランダはともかくとして、アンジュと一緒に? え、マジで?
パジャマパーティー感覚? いや、だとしても度胸あるな……。
色々と負い目があるがために断り切れないアンジュの苦笑が目に浮かぶ。その隣で笑いをこらえていたであろうヒルダとかサリアも。
どうにか断ろうとしたんだけど、純粋で無邪気な子供って厄介だな……
結局、僕用仮眠室にはベッドが2つあるので、僕とは別なもう1つの方のベッドを使うってことで妥協して、そのまま眠った。
眠ったんだけど……ウトウトしていたところで、なんか僕の布団のあたりにゴソゴソともぐりこんでくるような感触があった。
ああ、ココの奴まだあきらめてなかったのか……なんて、寝ぼけて3割くらいしか働いてない頭で思ったものの……もうなんかちょうど寝入る所で、注意する気力もなかったので、いいやと思ってそのまま放っておいた。
……起きた時にミレーネルかミランダあたりにびっくりされて、お説教されるかもしれないけど、それはもう仕方ないと思うことにしよう。何、相手はココだ、変なことにはなるまい。
そんな感じのことをうっすらと考えて、そのまま眠りに入って……
……それは、起こった。
☆☆☆
(……どこだ、ここ?)
気が付くと……宇宙にいた。
……うん、意味が分からない。
意味かが分からないけど、そういうしかない。実際にそうなんだから。
上下左右前後、どこを見てもそんな感じの空間が広がっていて……うん、『下』もなんだ。
地面とか、床みたいなものもない。ないのに、そこに……宇宙に、僕は、立っている。
そして、この空間にいるのは……僕だけではなかった。
もう1人、いた。
ふと気配を感じて、振り向くと、そこには……
「……っっっ……!?」
「ふむ……不思議なこともあるものだね。私としては、まだ君に会うつもりはなかったんだが……ああ、なるほど、テンプティの因子あたりが作用したかな? さすがにこれは予想外だ」
あまりの驚きに、心臓が止まるかと思った。
そこにいたのは、よく知っている……しかし、一度も会ったことはない、1人の男だった。
肩のあたりまで伸びた、ふわりと広がる鮮やかな金髪。
舞台衣装かと思えるほどに華美な、しかし荘厳さを感じる装束。
背中から生えた、天使のそれを思わせる一対の翼。
そして……この世のすべてに『喜び』を覚えているかのような、爽やかな笑み。
……『アスクレプス』が、そして『ヘリオース』が実在したんだから、当然……いつかはこの人に会うことになるかもしれない、とは思っていた。
けど、それにしたってこうもいきなりだと……心の準備ってものができていないわけで……
いや、そんなことを言っても仕方ない。こうしてもう会ってしまった以上は……きちんと、話すことを話さなければならないだろう。
そう、覚悟を決めて……僕は、目の前にいる彼の目をきちんと正面から見て……その名を呼んだ。
「は……初めまして。お会いできて光栄です……聖アドヴェント」
「こちらこそ、会えて嬉しいよ、星川ミツル君。多元世界から零れ落ちた、ソルの残照と共に在る者よ」