【◇月☆日】
今日は、『ソーラーストレーガー』に……なんというか、珍しいお客さんが訪ねてきた。
総司さんのパートナーである、ナインである。
彼女が1人で来た。総司さんと一緒でなく。
いやまあ、彼女が一人でいること自体は珍しくはないんだよ。
よく格納庫とかでロボットの研究とか改良とかやってるみたいだし、総司さんの機体である『ヴァングネクス』の改良とか調整も、基本的に彼女が手掛けてるから。
ただ、僕のところを訪れる時に総司さんが一緒じゃないってのは初めてだと思う。
というか基本、ナインが僕のところに来る時って、総司さんに同行して来る形だったから……僕らに何かしら用事があって、っていうことそのものがなかったかもな。
そして聞いてみると、その要件というのは……『ヴァングネクス』の改良に協力してほしい、というものだった。
ナイン曰く、『ヴァングネクス』は現時点でもかなり強力な機体ではあるけど、さらに改良の余地がある、ということだ。
というか、彼女が当初から設計し想定しているスペックにまだ届いていないのだという。
彼女が『ヴァングネクス』を作り始めたのは、まだ『独立部隊』と呼ばれていたころの総司さん達が、『火星極冠遺跡』での戦いの後、『宇宙世紀世界』に飛ばされてしまった頃だそう。
その頃から設計とかいろいろ始めて、少しずつ資材を蓄えて、今ある設備を使ってくみ上げて……っていう感じで作り上げ、あの戦い……グーリーとの決戦でロールアウトしたそうだ。
しかし、あくまでその時に手に入る資材の範囲で作ったため、設計段階で想定している出力には及んでいない。品質的な部分で不十分、ないし不完全な出来だったとのこと。
それ以降も、手に入る素材は徐々に改良されてきたので、ちょっとずつ改良を重ねてはいたらしいが、それも頭打ちに来ている。
これからますます過酷な戦場に行くことになるだろうことを考えると、妥協せず限界まで『ヴァングネクス』を強化しておきたい。
しかし、今使える資材・設備ではこれ以上の強化は難しい。
幾度もトライアンドエラーを繰り返して検討したものの、何か別な要素を……それこそ、別な惑星、ないしは文明の、もっと高度な技術や高品質な素材・パーツを使うとかしないと、その領域に至ることはできない……と、ナインは結論を出した。
そして、考え抜いた結果、僕を頼ってきたと。
あ、話は変わるんだけど、僕が生産設備として『ガーディム』製のそれを使えるということは、既に皆に話してある。
『アスクレプス』で宇宙の色んな場所に行ったり来たりしている間に、いろんなものを拾ってそのまま有効利用しながらここまでやってきた。その『いろんなもの』の中には、他の惑星や文明の技術遺産なんかも多くあって……で、その中に『ガーディム』のそれもあった。
利用価値が高かったので、有効利用させてもらっていた……みたいな感じで、少し前に皆に説明してあったのだ。
まあ、『その中にも』どころかメインで使ってたんだけどね。生産設備として。
それこそ、データ自体は『アスクレプス』の中に入ってたものを使って、それを形にするのにはもっぱら『バースカル』の設備を使ってたし。
『サイデリアル』の生産・開発技術の根幹部分に係ることだったので、今までは話せなかった。
『ガーディム』が敵として現れたから、なおさら話せなくなった。
そして、そろそろ話しても問題ないかな、っていう感じになった頃には……秘密にしていたこと自体をすっかり忘れていたため、話す機会を逃していた。
そんな、ちょっとアレな事情を経て、ようやくカミングアウトできた事実である。
で、それを覚えていたナインは、『地球よりも進んだ技術力を持つガーディムのそれなら、『ヴァングネクス』をよりパワーアップさせることもできるかも』と思った。
『ソーラーストレーガー』の場合、それ以外にもいろいろな技術が……『アスクレプス』のデータバンクの中に入ってた、『多元世界』の技術も色々入ってるからな。
『次元力』を筆頭とする、それらの技術を組み込むことができれば、より一層……なんてことも考えたのだそうだ。
それでナインは、こうして僕のところに『協力してください』と頼みに来たわけだ。
『今度は無断で盗んだりしませんから』と、若干笑えない自虐ネタまで引っ提げて。相変わらず優秀?なAIである。
僕としては、仲間の戦力アップにもつながることだし、気前よくOKを出してあげたいところなんだが……こっちの持ってる技術を全面的に提供、っていうのは正直無理だよなあ。
総司さんや、なんならナインのことだって、信頼してないわけじゃないんだけど……それを差し引いてもなお、『ソーラーストレーガー』には、取り扱いには十分……どころじゃなく気をつけなきゃいけないようなテクノロジーがいくつも搭載されている。
『リヴァイヴ・セル』を筆頭に、それらのうちのいくつかは、使い方を誤れば、災害レベルでやばいことになってしまうものもある。
まあ、そんなことを言ったら、『常温核融合エンジン』や『ゲッター炉』だって似たようなもんではあるが、それでもね……。
妥協点というか着地点として、『全面開示はできないが、ロックのかかっていない範囲でならデータの閲覧や機材の使用はOK』という形で、ナインに協力することとした。
それを超える範囲で何か必要なものがあれば、その旨申し出てもらえれば、内容に応じて検討はする。けど基本は『やばくない範囲』でやってくれ、ということにしておいた。
当たり前だが、ハッキングして許可していない部分の閲覧や技術利用なんてものをしようものなら……ときちんと注意もしておいた。
まあないとは思うが、そのへんの信頼はきちんと裏切らないでほしいもんである。
……そもそも、ハイスペックだけを追求しようとしたところで、テクノロジー同士、あるいは使う人間との相性が悪くて性能を発揮しきれないことだってあるからな。
まあ、そのへんはナインだってよくわかってるだろうし……きちんと総司さんが余すことなく力を振るえる形で『ヴァングネクス』を強化してみせることだろう。
ここはひとつ、お手並み拝見と行こうか。
早速さっきから、この『ソーラーストレーガー』のラボに入り浸って色々やってるようなので、その努力が形になる日が楽しみである。
【◇月★日】
早くね?
ナインから、『おかげさまで強化プランが完成しました』って、今日の昼頃くらいに言われたんだけど……え、もう終わったの?
君、作業に取り掛かったの、昨日の夕方ちょい前くらいだったよね? まだ24時間経ってないんだけど……早くね?(2回目)
しかも、無理して急いで仕上げたって感じじゃなくて……オートメンテナンスシステムでチェックしたところ、全く問題なく駆動するように仕上がっている上、性能もきっちり上がっていた。
その1時間後には総司さん呼んできて試しに乗ってみて、感触は上々だったらしい。
『これなら今まで以上に活躍できるぜ!』って、総司さんも嬉しそうにしていて……それで、お礼を言われたナインも、ちょっと照れながらも嬉しそうだった。
総司さんからは僕らもお礼は言われたけど、いや、こっちは場所と多少の技術協力だけで、形にしたの9割方ナインだからね……なんか微妙な気分。
いやまあ、喜んでもらえたのはもちろんうれしいんだけどね? うん。
しかし……彼女がAIとして優秀なのは知ってたけど、1日足らずで改良プランをくみ上げて、改修、そしてチェックまで全て完了させるとは……凄まじいな。
それに今回の場合、今まで扱っていた技術系等とは全く違う、ガーディムっていう別文明の技術や設備を使ったにもかかわらず、慣らしすら必要なくそれを十全に使って、あっという間にくみ上げて見せたんだから。
地球産の素材やら技術と融合させた際も、一切の不備や誤作動を出すことなく。
それってつまり、ものの数時間、あるいは数分で。ガーディムの技術体系をデータから理解して、しかもそれを十全に利用することができるほどの学習能力を持ってるってことだよね?
それかあるいは、最初から知っていた、と言ってもそん色ないくらいだし。
…………そういえばナインって、総司さんが月面から地球に持ち込んだ、『ERS-100』とかいう『地球再生システム』だかが基になってるんだよね?
自立学習型の万能工作システム……だっけ? 資材さえあれば、地球の文明社会を再建させるだけのシステムすら生み出す可能性もあった……とか言われてるって、前に聞いた。
そう、たしか……『ヴァングネクス』がロールアウトしたあたりでじゃなかったかな。今まで触れる機会なかったけど。
なるほど、彼女にとって、『学習して』『生かす』という行為は、むしろ得意中の得意なわけだ。なんなら、戦闘そのものや、その補助よりも。
……というか、『ERS-100』自体は、総司さんも運んだだけだから、どこで開発されたのかはわかっていない……いやそもそも、新西暦世界の地球の技術で作られたものなのかもわからない。
ということは、もしかしたらナインは……いや、まさかね……。
追記
『設備と技術を使わせてくれたお礼です』と、ナインが今ある『サイデリアル』の技術の改良案をレポートにして提出してくれた。
技術部門の人達に見せてみたところ、『うちにスカウトできませんか?』って割とガチのトーンで迫ってこられた。ちょっとびびった。
僕もちらっとみてそうは思っていたけど、相当有用なデータに仕上がっていたらしい。やっぱナインって、『作る』ことに関してはマジで優秀なんだな……。
まあ、総司さんと一緒にいる彼女をスカウトすることなんてのはまあ、不可能なので、あきらめるしかないが……いいものをもらってしまった。
今後、彼女と総司さんに協力できることがあれば、今まで以上に力を尽くさせてもらおうかな、なんて、現金なことを思ってしまった。
追記その2
さっきまでと全然関係ない話なんだけど、なんかナインに『愛、とは何でしょう?』って聞かれた。
……意味と、趣旨が、わからん。
わからんけど、とりあえず『年齢=彼女いない歴』更新中(前世含む)の僕に聞いてもわからないと思うよ、って、自虐を交えつつ返しておいた。
クリスマスもバレンタインもずっと仕事か、家で1人でいたしね……この2年も、それまでも。
彼女、この質問を『地球艦隊・天駆』のいろんな人にしているらしく……しかし、今まで聞いた中で、ほとんどまともに答えてくれる人いなかったんだって。
逃げられたり、話題をそらされたり、なんか見当違いそうなことを言っていたり、逆に質問で返されたり、はっきり『自分にもわからん』って言われたりで……
そもそもきちんと答えてくれたの、コーラサワーさんだけだったってさ。
……うん、まあ……無理もないと思うけどもね。面子が面子だし。
そんなわけで、僕も答えることはできなくて、上記の通りに返したんだけどさ……その時にナインが、
『シングルヘルでメリー苦しみます、というやつでしょうか』
……だから、君どこでそんなの覚えてくるの。
【◇月■日】
『地球艦隊・天駆』出発の日もすぐそこまで迫ってきた今日は、最後の慣らしとか特訓を兼ねて、総司さん達と模擬戦を行うことにした。
もちろん。破損して修理が必要になったりしたらアレだから、加減はしつつ、武器の火力その他もろもろもセーブしながらだけどね。
それでも、シミュレーターだけじゃ身につかないいろいろな感覚を鍛えるのには、こういう訓練もやっぱり必要なんだよな。
その模擬戦でも思った、というか実感したんだけど、ナインはやはりいい仕事したようだ。
攻撃力・防御力・機動力・継戦能力……あらゆる面で見事に『ヴァングネクス』は強化されている。
総司さんの操縦技術とナインのサポート能力も相まって、この性能なら、『ガーディム』を相手に無双することだってできそうな勢いだ。
もともと装備されていた陽電子砲やミサイルユニットの火力は底上げされる形で強化され、かつ射程や収束性能もUPしており、遠近共に隙のない攻撃が可能。
それらの武器を猛スピードで動き回りながら、正確無比な狙いとタイミングでぶち込んでくるもんだから……敵からしたら悪夢でしかないだろうな。
パーツや制御系を改良したのに加えて……何といっても、旧来の動力炉に換えて『ガーディム・ドライブ・デグ』というものを搭載したのが大きいらしい。
この、『ガーディム・ドライブ・デグ』、あの『バースカル』のメイン動力として搭載されていたものであり、解析してみるに、ガーディムの技術の中でも最高峰の性能を誇る動力炉だと思われる……というのが、ナインの解析結果だった。
ナインは改良作業の際、『バースカル』に搭載されていた現物と、データバンクに残されていた設計データを解析し、若干オリジナルよりも性能を落としつつも複製することに成功。それを『ヴァングネクス』に組み込んで新たな動力とした。
そら火力も機動力も強いはずだわ……戦艦の動力炉で動いてんのか、今のあの機体。
それに加えて、『ヴァングネクス』と『ガーディム・ドライブ・デグ』は、設計上、なぜか相性が良かったらしく、その圧倒的な力で、ヴァングレイの繊細なシステムを損なうことなく強化することができたんだとか。
偶然か、それとも……。
ちなみに、データだけ見せて軽く分析してもらったのだが……逆に『Dエクストラクター』は、『ヴァングネクス』とは相性が悪かったらしい。
意思の力によって威力が強化される、というのは、一見強力に思えるけれども、逆に言えばそれは、武装の出力や機動性能が安定しないことを意味している。
『ヴァングネクス』は、その制御系が非常に緻密に計算されたギリギリのバランスで成り立っている。ナインが同乗しているのは、この部分の補助も兼ねてのことであり、そうまでしなければ力を発揮できないようなシビアな機体であるらしい。
それを考えると、機体性能に『人の意思』が関係して来るっていうのは、出力以上に『安定しない』という点がデメリットになってしまうんだそうだ。絶対値的な数値で劣ったとしても、一定の力を安定して発揮できるような性能である方が有用ってわけだ。
まあ、どういう形にせよ、問題なく強化された、そして総司さんが十全にそれを操れるようになったというのであれば、何も問題はない。
この先の戦いでの活躍を、楽しみにさせてもらおう。
……いやもちろん、戦いなんてない方がいいんだけどね?
【◇月!日】
物資の補充、各機体および戦艦の修繕・改修、そして乗組員のリストとの突合確認完了。
全て問題なく乗り込み、積み込みが完了した、との報告が全艦から上がってきたため、現時刻をもって『地球艦隊・天駆』の出立準備を完了したものとする。
明日、『宇宙戦艦ヤマト』を旗艦とする、合計9隻の艦隊でもって、西暦世界の地球を出発。
『パラレルボソンジャンプ』によって『新西暦世界』に転移の上、イスカンダルを目指して出発する。
……以上が、沖田艦長から全部隊に向けて、今日届けられたアナウンスである。
ついに来た。とうとう来た。
地球を救うために、16万8千光年のかなたに旅立つ時が。