【◇月_日】
パープルを撃退してからは、まあ平和なものである。
この隙にさっさと各機の補修その他を終わらせておくべく、各艦のメカニックさん達は奮闘してくれている。
まあ、あの戦いの中での細かな傷は、僕が使った『界』で修繕しておいたので、そこまで大掛かりな修繕はいらないはずだし、各部の部品の摩耗その他の点検・交換くらいで済むはずだ。
足りない部品があったら、『ソーラーストレーガー』の生産設備でいくらでも作れるので、遠慮なくいってほしい。全面協力するから。
機体によっては、点検その他まで含めて数日かかるようなので、その間は休暇みたいなもんだ。
ちょうどこの惑星フェルディナは、環境も穏やかで危険な生物もいない、のんびり過ごすにはもってこいな星であることだし……満喫させてもらおうかな。
娯楽が欲しければ、ソーラーストレーガーにいくらでもあるし、静かにのんびり過ごしたければ、そのへんにデッキチェアでも持って行って日向ぼっこでもしてればいい。
しばし、気楽な時間を過ごせそうだ。
ああ、それともう1つついでに書いとくか。
こないだのパープルの襲撃の時、日記にも書いたと思うんだが……僕の『界』よりも先に、わずかに『魔のオーラ』が緩んだ時があった。
その原因がこの度判明した。
気づいたのは浜田君だったんだが、その正体は『イノセントウェーブ』という、精神波の一種だったらしい。
人間の脳からごく微量に放出されているもので、誰でも持っているものだそうだ。
精神波っていうくらいだから、ニュータイプやイノベイターの使う脳量子波や、ミレーネルが精神干渉の時に使うものの一種かな、と思って聞いたんだけど……どうも違うらしい。
イノセントウェーブとやらは、ごく微量だが、普通の人間の誰もが発しているもので、特段珍しいものでもないんだとか。
それがあの時のことにどうかかわるのかというと、あの時、そのイノセントウェーブが『魔のオーラ』に作用し、物理的な影響を及ぼしてその力を弱めたんじゃないか、とのこと。
つまり、精神の力で物理的な干渉を可能にする……『ラムダ・ドライバ』と同じような現象が起きたということだった。
そして、その時のイノセントウェーブの発生源は、どうやら……サリーちゃんだったらしい。
計測の結果、彼女はかなり特殊な体質というか才能を持っており、常人の100倍のイノセントウェーブを発することができるんだそうだ。
あの時、舞人やアキトさんの無事を願う彼女のその力で、わずかではあるが『魔のオーラ』を押しのけて揺らがせることができたのだ、という。
それがなければ、舞人をかばったアキトさん、実はけっこうやばかったらしい。魔のオーラ込みの空中要塞からの砲撃は、ブラックサレナを大破させかねない威力だったんだそうだ。
それを聞いて、その場にいたウリバタケさんは、『祈るだけでそんなことが起こるなら世話ないぜ!?』って驚いてたし、ラムダ・ドライバの整備その他に精通している、ミスリルの整備士のサックスさんも、さすがに信じられない様子だった。ほかの技術者の皆さんも、大体同じ感じ。
まあ、確かに単なる『思い』が、何の触媒も増幅もなしに物理的な力をもって干渉して奇跡を起こすなんて……普通に考えてありえることじゃないもんな。
……が、僕としてはこの理屈を聞いて、むしろ納得がいった。
というのも、多分だけどこの現象、浜田君も気づけていない――というか、知らないんだから無理もない話ではあるんだけど――きちんとしたタネないし仕掛けがある。
単にサリーちゃんの祈りが奇跡を起こしたわけじゃないのだ。多分。いや、それももちろん重要なんだけど。
僕の推測の話ではあるんだけど、おそらく、この奇跡の犯人は……『イノセントウェーブ』だけじゃない。
もう1つ……『次元力』が作用しているんだと思う。
パープル達は、『魔のオーラ』と呼んでいたが、あいつらは『次元力』によって不死身の体を与えられ、何度も蘇って襲ってきた。
そして、次元力は人の意思によって操られるもの。
しかし、パープル達はあくまで、誰かから与えられてその力を使っていただけで……自分達がそれを操ってどうこうできていたわけじゃない。せいぜい、攻撃とか防御に指向性を持たせる程度にしか使えてなかった。
恐らく、サリーちゃんのイノセントウェーブは、物理的な領域に直接干渉したわけじゃなく……その『次元力』を介して奴らに干渉したんだと思う。
パープル達が中途半端にしか使えていなかった次元力に干渉し、その性質を操作して上書きすることで、パープル達の力を逆に弱めることで、弱体化させた。
つまり……おそらくイノセントウェーブっていうのは、人間の意思を『次元力』に反映させる媒介になる精神波……あるいは、その一種なんじゃないだろうか?
そして、そのイノセントウェーブを、常人の100倍出せる特異体質であるサリーちゃんは、極端なことを言えば、普通の人間よりも、次元力との相性が極めていい存在……なのかも?
……これ、結構な大発見じゃない?
今現在、僕やミレーネルといった、かなり長いこと『次元力』に携わってる面々でも知らなかった……というか、『ヘリオース』のデータストレージの中にもなかった情報だぞ? いや、まだ推測の段階ではあるんだけどさ……。
もしこの推測が正しくて、今後この力を上手いこと扱うことができれば……より繊細に次元力をコントロールすることもできるようになるんじゃないかと……うん。
現段階では、浜田君や他のメカニックの皆さんも、『性質が特殊すぎて上手い活かし方がわからない』という状態のようだけど。
これより先に検証やら何やらが進むには、まだ知識も情報も、何もかも足りないようだ。
この力について、既にそれなりの時間をかけて研究やらなにやらを進めてきた人でもいれば、それも違ってくるのかもしれないけど……そんなうまい話はないよな。
【▼月〇日】
あったよ、そんなうまい話が。
今日、なんか……DG同盟が投降してきた。
予想通りと言えばそれまでだけど……連中、無理やりこの並行世界、この銀河に連れてこられたっぽくて……しかし、僕らに負けて見捨てられ、迎えも来ず、途方に暮れていたようだ。
それでも割と前向きに『生きてさえいれば何とかなる!』的に考えてたそうなんだけど……そんな中、ウォルフガングと万丈が接触したらしい。
どうもこの2人、何か互いに用があったようで……万丈の方が、DG同盟の生き残りを探していたところ、同じように万丈に、そして『地球艦隊・天駆』に接触できないかと機会をうかがっていたウォルフガングに出会ったとのこと。
何かしら話して交渉した末に、投降しておとなしくするからということで、『地球艦隊・天駆』に合流・保護を求めてきた……というのが現状である。
さすがにそれは『今までさんざん邪魔してきておいて虫が良すぎるんじゃ……』という意見が多方面から出てきたものの、見捨ててこの星に置き去りにするっていうのも後味が悪い。
それに、舞人が直接会って話した末に、『本当に心を入れ替えて自分達に協力するのなら』ってことで、彼らを受け入れてもいい、と言っていた。
加えて、万丈も彼らに……というか、さっき言った通り、ウォルフガングに用事があるらしく、こちらにもメリットがあることだと援護してきて……最終的に、妙なことは絶対しないこと、と釘を刺したうえで、保護することになったのである。
んでもって、彼らの受け入れ先については……まだ居住スペースに余裕があるってことで、『ソーラーストレーガー』で担当することになった。またかい……いやまあ、いいけどね。
顔を合わせた時、ウォルフガングは僕に気づいていの一番に『おお、久しぶりじゃな!』って声をかけてきた。あ、覚えてたのね、僕のこと。
うん、ホント久しぶりだね……あの時はこんな、銀河の果てでの戦いの中で再会することになるとは思ってなかったよ。あんた有能なんだから真面目に働けって……ホントに。
そして冒頭に話は戻るんだが、そのウォルフガングこそ、『うまい話』そのものである。
彼自身、何と前々からイノセントウェーブに注目していろいろな研究を進めていたらしく、その成果をフィードバックして協力して研究を進めることで、飛躍的に進歩しそうだとのこと。浜田君が驚いてたよ。
あ、ちなみに他の2人……カトリーヌ・ビトンとショーグン・ミフネは、サリーちゃんの指揮下で生活班に組み込まれることになった。
事実上の雑用扱いになってしまうことに、ちょっと文句ありそうな感じだったけど、サリーちゃんの『ダメですか……?』という、涙目+上目遣い+純粋無垢の必殺コンボには勝てず、あえなく撃沈。お手伝いすることになりましたとさ。
【▼月×日】
DG同盟、何か割とうまいこと部隊に溶け込んでる件。
仮にも敵だった奴らを迎え入れるってことで、不和の種にならないかと不安だったんだけど……意外にというか、話してみると結構人のいい、面白い面を持っている奴らだった。
犯罪者としての面や、その時の思考回路はツッコミどころ満載だけど……それだけじゃない人物だっていうのはわかった気がする。
なんか気が付けば、3人ともそれぞれのやり方で、生活班以外のところでも、この部隊に貢献……と言っていいのかわかんないけど、役に立ってくれてる。
たとえばショーグン・ミフネ。侍大好きな日本かぶれ……の、アメリカ人らしい。
その趣味嗜好ゆえなのか、日本史にやたら詳しいため、勝平君達の勉強を時々見てくれてる。
単純に知識量も豊富なのに加えて、歴史上のいろいろな出来事について熱く語るその話し方が、意外にも歴史の授業として割とわかりやすい上に、要所要所で面白い雑学をはさんでくれるので、飽きずに集中して聴けると評判である。
『日本で初めてラーメンを食べたのは水戸黄門である』とか、豊臣秀吉の『一夜城』の話とか、歴史上の面白い話を色々と。聞いてて引き込まれる授業だとして好評だ。
カトリーヌ・ビトンの方は、『めくるめく美の追求』という目的を掲げているだけあって、美容とか健康にとにかく詳しく、そしてうるさかった。
その彼女だが、同じく『ソーラーストレーガー』で生活しているメイルライダーの娘達の生活態度を見て……年頃の娘であるにも関わらず、美容というものにまったくと言っていいほど気を使っていないその様子に絶句し、そしてキレていた。
……いやまあ、彼女達、基本的に美容健康どころか、命の危機の中で戦ってきた身の上なので……そういうの、あんまり触れる機会なかったんすよ。
『出張所』とかで化粧品はよく売れたから、興味ないわけじゃなかったと思うけど、あくまで趣味の範囲っていうか、二の次っていうか。
しかし、美に人生をかけている彼女には到底許せないことだったらしく、『あんた達に美とは何かを教えてあげるわ!!』って、どっかの大魔王みたいなことを言って、化粧品の本当に効果的な使い方や、美容に良い食べ物・食べ方なんかを、半ば強引にレクチャーし始めたのである。
最初は皆迷惑そうにしてたけど、聞いていくうちにその熱意や、色々な資料まで交えて説明してくれるが故のその説得力に引き込まれていき、しかもそれを実践してみるや、その効果が割とすぐに如実に表れてくれるもんだから、今ではその手の講義も大歓迎されている。
そして、ウォルフガングは言わずもがなである。日夜元気に研究を進めてます。
加えて、ジョーの乗る『轟龍』をはじめ、各機体の強化プランや兵装の改良案何かも独自に作ってくれて、そのうちのいくつかはほかの艦のメカニック達が真剣に導入を検討している。
やっぱりこのじいさん、技術者としての腕は本当に確かなんだよな……。
……本ッッッ当あんた、真面目に働けよ……何ならうちの会社で雇うから! その才能をぜひ世のため人のために使ってくれマジで(真剣)。
『グルメキッチン5252』といい、あんたの発明品、どんだけ僕らを助けてくれるんだよ。
なんか予想以上に役に立ってくれてるので、こちらもできる範囲で彼ら・彼女らに快適に過ごしてもらえるように配慮はしている。甘やかしすぎにならない程度にだけど。
ショーグン・ミフネには、自室として和室を割り当ててある。
この銀河の果てで、畳に布団で寝られるってことに感激してた。
自動調理機で日本食も食べられるし、データバンクから時代劇のムービー好きに見ていいって言ってあげたら、号泣してた。
『心の友よ!』って抱き着かれた。……ジャ〇アン?
カトリーヌ・ビトンは、何といってもスパリゾートの豪華さに感激していた。どうやら、西暦世界から連れ出されて以降、生活基盤が安定してなかったせいで、のんびり風呂に入ったり安眠したりできることが少なく、最近肌や髪の荒れが気になってきていたらしい。
ここなら足を延ばしてのんびり湯につかれるし、化粧品も備品として色々ある。美容にいい食材もある。好きなように使ってくれ。……あ、納豆だけは嫌? あっそう。
ウォルフガングは……なんか、好きなように研究さえできてれば文句はないみたいだ。己の欲望に忠実であること以外は、妙にストイックなところがある爺さんである。
加えて、手伝いとしてではあるものの、3つの世界の色んな技術に触れることができて、それだけで嬉しそうだった。部屋割りとかについても、『ラボとドックに一番近い部屋にしてくれ!』って……どんだけだよあんた。まあ、限度超えて暴走するようなことがなきゃいいけどさ。