ミーゼラ・セレステラの脳内は、混乱の極致にあった。
自分以外の唯一の『ジレル人』の生き残り……しかし、アケーリアスの宙域での作戦の折、精神体とのつながりが切れて肉体が死亡し、この世を去ったはずの、部下にして、妹も同然の存在……ミレーネル・リンケ。
確かに死んだはずの彼女が今、生きて、目の前にいる。
偽物ではない。たった今発せられた精神波は、確かにミレーネル本人のものだった。
誰よりも長く一緒にいたそれを、間違えるはずなどない。
しかしそのミレーネルは……敵であるはずの
着ている服も、彼女がいつも着ていたガミラスの軍人としての服ではなく、見覚えのないもの。
そもそも彼女は、確かに死んだはずで……生命活動を停止した彼女の肉体は、セレステラ自身が回収して、既に荼毘にふした。
本当に1人になってしまった、と、涙を流しながら。それを忘れるわけがない。
にもかかわらず、なぜ彼女が生きていて、しかも……これではまるで、テロン人に与し、自分と敵対しているかのようで……
しかし、混乱していても事実は明らかにはならない。
セレステラは無理やり頭の中で考えを整理してまとめながら、口を動かした。
「どうしてあなたが生きてここにいるの……いや、そんなことより、なぜそのテロン人達と行動を共にしているの? その者達は、ヤマトの乗組員……ガミラスの、総統の敵なのよ?」
「もちろん知ってるわ。その答えは……私が、彼らと行動を共にしているから。ううん、もっと率直に……彼らの仲間だからよ」
「っ……何を言って……まさか、ガミラスを裏切ったとでもいうの!?」
「……そういうことに、なるかな」
自分の耳が信じられない、目の前の光景が信じられない。
セレステラは、見聞きした事実を脳が拒否したくなるような衝撃を受けていた。
いつも一緒で、これからもずっと、大恩あるデスラー総統のために、ともに戦っていくのだとばかり思っていた、妹同然の少女。
それが、ガミラスを、総統を、自分を裏切って、敵であるテロン人に与したという。
(テロン人によって洗脳された? いや、精神波からはそんな様子は感じ取れない……だとしたら、本当にガミラスに叛意を……何かの理由でテロン人に同調して? それとも、ディッツ提督らと同じように現体制への否定? どちらにしても……いやそもそも、だからなんで死んだはずのミレーネルが生きているのよ!? 一体、いったいこれは何の悪夢なの!?)
「ごめん姉さま、混乱させてしまって……でも今は時間がないの! 後で全部説明するから、雪と一緒に私についてきて! 雪、他に救出すべき捕虜とかはいる?」
「いえ、多分私たちだけよ」
「ならよかった。さあ姉さま、今すぐ外へ……」
「っ……触らないで!」
反射的にセレステラは、ミレーネルの手をはたくようにして拒絶した。
「ネル、あなた、あなた本当にテロン人と……どうして!? どうして総統を……あの方を裏切るような真似を!」
「だからそれは後で話すってば! お願い、時間がないの! 早くしないとガーディムの兵隊達が集まってくる……その前に逃げないと! 私達があなたを守る、安全に脱出させるから!」
「信用できるものですか! テロン人なんて……それと仲良くしているあなただって! 何があったのか知らないけど、彼の……総統の敵なんかに!」
依然として状況は全く呑み込めていない。
しかし心のどこかで理解はしたのだろう。ここに……目の前にいるのは、本物のミレーネルで……そして彼女は、自分達を裏切ってテロン人の仲間になってしまったのだと。
テロン人達と共に、自分を助けるなどと言って、連れて行こうとしているのだと。
恐らくはあの……ガミラスに、総統にとっての仇敵である……ヤマトに。
冷静だった先ほどまでとは打って変わって、表情に混乱……あるいは、錯乱と呼んですらいいかもしれないそれを浮かべ、甲高い声でわめきたてるセレステラ。
それを見て、伊藤が静かにコスモガンを構えようとしたが、それを古代が諫める。
「ミレーネル……あなたが敵だというのなら……ここで!」
その瞬間、セレステラは強烈な精神波を放ってミレーネルの精神に干渉し、昏倒させようとするが……即座にミレーネルはそれを拒絶して防御。
とっさに反撃する形で、より強力な精神波を放ち……それを防げなかったセレステラは、急速に自分の意識が遠のいていくのを悟った。
「なっ……な、ぜ……!?」
セレステラの記憶の中では、精神波の強さにおいて、ミレーネルは自分には劣っているはずだった。
しかし今、こちらの精神波は容易く防がれ、逆にミレーネルのそれは、ろくに抵抗することもできずに自分に届き、意識を刈り取りつつある。
あのアケーリアスで『別れて』から、いったい何があったのか。裏切りの事実といい、何一つわからないまま……
「……どう、してよ……ネル……?」
……セレステラは、意識を手放し、深い眠りについた。
どの目の端に、うっすらと涙が浮かんでいるのを見て……ミレーネルもまた、目の前の景色をにじませながら……倒れこむセレステラの体を抱きとめた。
「……ごめんなさい、姉さま……」
☆☆☆
【▼月&日 続き】
三つ巴の戦いを繰り広げながらも、どうにか森船務長……と、何と一緒に捕まっていた、ミレーネルの姉(のような人)を救出。
そのまま攻撃を続け、ひとまずガミラスの艦隊を撃退することに成功。
それと同時に、宇宙にいたガーディムを駆逐し終え……同時についに、千歳さんの拿捕というか救出にも成功した、総司さんとナイン達が合流。残るガーディムとの戦いに全力を注ぐ。
しかしこの時、ガミラスの連中、やけにあっさり撤退していって……しかもなぜか宇宙に逃げていったんだが、一体なぜだろうと、その時は気になっていた。
同時に、なんか嫌な予感がしていたんだが……その予感、すぐに現実になることとなった。
具体的には、5分後くらいに。
なんか、ガミラスの総統座乗艦は、再びあの『第2バレラス』とかいう宇宙要塞に逃げ込んだらしいんだけど……その直後に、その一部を切り離して……なんと、この都市めがけて落とそうとしてきたのである。
推定質量6000万トン。あんなもんが落ちたら……コロニー落としほどじゃないが、とんでもないことになる。少なくとも、この都市は丸ごと壊滅することになるだろう。
当たり前だが、ここに住んでいる、ガミラスの民達も……誰一人助かるまい。
そのことを理解した『地球艦隊・天駆』の皆は、1人残らず絶句していた。
もちろん、僕も。何考えてこんな暴挙に出たんだよあのデスラーってのは!?
もしかしたら、これで僕らとガーディムを一網打尽にしようとしたのかもしれないけど……どんな理由であれ、このままじゃ何の罪もない民達が大勢……どころじゃない数死ぬことになる。
僕らもさすがに、そんな事態は望んじゃいない。
しかも、市民の避難誘導をするために一時休戦を提案した沖田艦長の呼びかけを無視して、ガーディムの司令官……アールフォルツとかいう奴は、市街地を攻撃し始めるし。
なんか、『指導者に見捨てられるような民ならば消去も当然』『そしてそれはあくまでガーディムによってなされなければならない』とかなんとか……ごめん何言ってるかさっぱりわからん。
わからんけど、理解する努力をしている暇も惜しい。
しかもこいつら、千歳さんを半ば騙して利用していたばかりか、滅んだ後の地球を利用して、自分達の新しい母星とし、文明再建を進める計画だったことまでその時に明かした。
よしコレもうぶちのめすっきゃねえな、と結論が出た瞬間である。
ガミラスとガーディム、どっちの暴挙も許すわけにはいかないってことで、僕らはまずガーディムを総力を挙げて攻撃し、速攻で撃破。
自分達が負けたことを信じられない、といった様子の、アールフォルツの断末魔を聞きながら……全ての艦が爆炎の中に消えていくのを見届けて……しかしその時には、切り離された要塞の一部は、もうすぐそこに迫ってきていた。
しかし、何とそこで、先ほど刹那と相互理解を果たしたELSが、落下物が落ちるのを邪魔して、落下速度を緩めてくれた。
さらに、ガミラスの残る無事な空中要塞の方を攻撃しているらしい。……不謹慎なのを承知で言おう。ざまーみろ独裁者が。
そのわずかな時間で、ヤマトは波動砲の発射準備を整え……巨大落下物に向けて発射。
見事にそれを、かけら一つ残さず消し飛ばし……どうにか、都市の危機を救うことができた。
恐らく、その光景を一部始終を見ていたんだろう。バレラスの町からは、歓声が上がっているのが、『ヘリオース』に乗っていてもわかった。
沖田艦長の元には、バレラスの『総統府』から、今回の救援に関する感謝と、会談の実施を望む旨を伝える通信が早速入ったらしい。
……これも不謹慎は承知で言うが、不幸中の幸いというべきか……思いがけない形で、ガミラスとの間に対話のテーブルができたみたいだ。無用な戦いを避けられそうで何よりである。
そっちについては、沖田艦長達にお任せしよう。僕みたいな若造がでしゃばる分野じゃないだろうし。
そして、デスラー総統らが逃げ込んだ空中要塞は……ELSに完全に融合・吸収されてしまったらしい。自国の民を犠牲にしようとした暴君の、あっけない最期だったな。
こうして、ELSとの対話に始まり、目まぐるしく状況が変わる戦いの続いた、長い一日は……ようやく終わった。
☆☆☆
―――大ガミラス帝星に進行中だった端末より入電。
―――アドミラルタイプ『アールフォルツ:A0013M』の撃墜を確認。
―――討伐目標だった、帝都バレラス総統府及び『地球艦隊・天駆』各機各艦、いずれも健在。
―――しかしながら、データ収集という点においては、必要最低限量の回収に成功。
―――『地球艦隊・天駆』は今後、イスカンダルにて『コスモリバース』を受領する見込み。
―――注意。特記戦力01『ヘリオース』について、現時点で、成長想定値に未達。
―――計画実行のため、さらなる成長を喚起するための方策を要する。
―――並行して、『12の欠片』確保のための手順の最終確認を行う。
―――『再臨』の時は近い。準備を万全にせよ。