スーパーロボット大戦 とある蛇使い座の日記   作:破戒僧

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第92話 ミレーネルとミーゼラ

 

Side.ミレーネル

 

「…………」

 

「…………」

 

 『ヤマト』内部に設けられた、簡易な聴取室で……私は、無言で彼女……ミーゼラと見つめ合っている。

 けど、それは決して、仲睦まじいような空気の中でじゃなく……むしろ、険悪というか、最悪というか……。

 

 まあ……理由はわかり切ってるんだけどね。

 

「はぁ……親の仇でも見るような目つきね」

 

「そうもなるわよ。実際に……親より大切な人の、仇だもの」

 

 怒りや、憎しみ、哀しみ……色々な感情が混ざった視線を、ミーゼラは私や……その横にいる、伊藤保安部長や、古代戦術長、そして雪に向けている。

 奇しくも、あの時、突入したガーディムの艦の中にいた面々が、彼女の聴取の担当になった。

 

 私が呼ばれたのは、顔見知りがいた方が、リラックスして多くを話してくれるかもしれないかららしいけど……この分じゃ望み薄ね。

 

 そんな険悪な空気をさっぱり無視して、この聴取をメインで担当する伊藤保安部長が口を開く。

 

「一応、最初に言っておきましょうか。大ガミラス帝星宣伝情報相、ミーゼラ・セレステラさん……ああ失礼、『元』でしたね。あなたの身の安全については保証されています。現在、我々『地球艦隊・天駆』は、大ガミラス帝星とは事実上の停戦協定を結んでいます。ですので、あなたがかつてどんな立場で、地球人から見てどう思われていようとも、供述や協力を強要するような非人道的な扱いをされることはありません。どうぞ気を楽にして聴取に臨んでくださいね。ああもちろん、度を越えて反抗的・攻撃的な態度や行動をとった場合などは別ですが」

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

 ……本当にこの人は……聴取が始まる前から、盛大に喧嘩を売りに行っているようにしか見えない物言いをする……。

 聞けば、前からというか、普段からこんな風に、嫌味で露悪的な、歯に衣着せぬ物言いが目立つ人らしい。冷静さを失わせるための挑発なのか、はたまた地なのか……。

 

 ……もともと、異星人に対してあまり心を開かないタイプらしいわね。私達のような、『元』を含めたガミラス軍関係者のみならず……イスカンダルすら疑っていたらしいし。

 

 その上、誰に何と思われようとも、自分のスタンスを変えないタイプ。

 

 キッ、と鋭い目で伊藤をにらみつけるミーゼラだが、伊藤は涼しい顔でそれを受け流す。

 それを見て呆れかえる、私や雪、古代戦術長の視線も、やはり一切気にせず……

 

「聴取が終われば、少々の準備期間等をはさんだ後に、あなたはきちんと解放されます。他のガミラスの兵士達や、ザルツ人他の従軍異星人の方々と一緒に、総統府から迎えが来る見込みです。どこへ行きたい等の希望があれば、その時に……」

 

「……ガミラスに戻るつもりはないわ。もう、あそこにいても……意味なんてない」

 

 伊藤の言葉を遮るように、ミーゼラは……呟くように言った。

 

「そうなのですか? 確かに、旧体制派と見られているあなたにとって、居場所はないも同然かもしれませんが……」

 

「伊藤、そろそろいい加減にしろ」

 

 古代戦術長がぴしゃりと一言。

 

 ……今現在、ガミラスは……ディッツ提督と、ヒス副総統を中心に再編され始めている。

 これまでの拡大政策に待ったをかけ、現在の支配地域の安定と、大ガミラス臣民の安全の確保を目的として、内政に力を注ぐ形で運営がなされていく見込みだそうだ。

 

 もちろん、あちこちの銀河に対して行っていた侵略まがいの行為からは、一挙に手を引くことになる。……明確に、前総統の方針……『デスラードクトリン』を否定した、方針転換だ。

 

 しかし、その方針に従わず……ディッツ提督の参集命令に反して、ガミラス本星を去っていった者達もいる。かつてのガミラスの栄光を、異民族を力で従えるその強さを何よりも重視し、以前と同様の拡大政策を是として掲げる者達。

 彼らをして、『旧体制派』と……暫定的に呼ばれているそうだ。

 

 デスラーの側近だったミーゼラは、『旧体制派』の中核となりうる人物の1人である……と、多くの者達は思っているようだけど……それを今、彼女は明確に否定した。

 体勢以前に……ガミラスそのものに、もはや執着も何もないと。

 

「あの人が……デスラー総統がいない場所に、もう……いる意味なんてないのよ。あの人は……私の全てだった」

 

「ほう……それはつまり……何ですか、まだ何も言ってないでしょう」

 

「確実に何か言う雰囲気だっただろう」

 

 何か言う前に止めた古代戦術長、ナイス。今の流れは確実に、さらに神経を逆なでするルートだったわ。

 

 その代わりにじゃないだろうけど、雪が……気遣うような、穏やかな口調で訪ねた。

 

「……彼のことを、愛していたの?」

 

「愛? ……ふふっ、どうかしらね」

 

 雪のことを笑ったのか、あるいは……ミーゼラ自身に対する自嘲か。

 悲し気な笑みを浮かべて、彼女は……ぽつりぽつりと、語った。

 

 私も当然知っていることではあるけど……かつて、レプタボーダに入れられていたところを、デスラー総統に救ってもらったこと。

 その恩に報いるために、ガミラス軍に入り、功績を立て、今の地位にまで上り詰めたこと。

 

 それに付け加えて、恩義だけではなく……自分が、デスラー総統の拡大政策『デスラードクトリン』そのものに賛同し、それを推進する立場に立って積極的に動いていたことも。

 

 ……そこに話が至った瞬間、伊藤の目がほんの少しだけ開かれたように見えた。

 それにミーゼラが気付いたかどうかはわからないけれど、そのまま話し続けた。

 

 『デスラードクトリン』は、全ての宇宙を大ガミラスの元に統一支配し、その全てに『イスカンダル主義』を広め、価値観の共有と統一した社会システムの構築をなすことで、全銀河に恒久的な平和をもたらすための方策。

 その過程における必要な犠牲として、反抗的、ないし非協力的な星々への……侵略行為と言う他ない、数々の蛮行は……それもまた、必要なものとしてきた。

 

 当のイスカンダルは、それを決して良くは思っていなかったけれど、だからと言って止めることもなかった。

 

 イスカンダルはいつも、何もせず見ているだけ。

 やることと言えば、時折ガミラスの侵略行為や軍拡に対して抗議したり、気まぐれに可哀そうな辺境の星に手を差し伸べて、わずかな救いを与えたりする程度。

 

 平和と慈愛を歌いながらも、結局口だけ。自分ではそのために動こうとはしない。

 

 しかし、デスラー総統にはそれができる。彼にしか、それができない。

 だが、幾多の困難が待ち受けていようとも、彼は決してあきらめず、決して折れず……きっといつかそれを成し遂げる。だから自分は、それをそばで支えたかった。

 

 ……そんな、独白にも似た、ミーゼラの言葉を……私達は、茶々を入れることもなく……黙って聞いていた。

 

「……本当なら、ネル……あなたとも共に、その道を歩みたかったのだけれどね……。まさか……裏切ってテロン人につくなんて、さすがに思わなかったわ」

 

「……悪かったと思わないわけじゃない。総統にも、助けてもらった恩義は感じてるし……それを忘れたわけじゃない。でも……それでも、今はもう私には……盲目的にガミラスを信じて、そのために戦うことはできない。それが正しいことだとは、もう思えないの」

 

 ひょっとしたらそれは、記憶を失っていたからこそ……まっさらなところに築くことができた、新しい私の価値観なのかもしれない。昔の私が……ガミラスに忠誠を誓っていたころの私が、今の私を見たら、何やってるんだって激怒するのかもしれない。

 

 けどそれでも……私は……地球での2年にも及ぶ暮らしの中で……人と人とが分かり合い、助け合う社会の温かさを……自分が、その中の一員として生きていけることの素晴らしさを知った。

 

 力によって抑えつけ、邪魔なものを排除して……その後に残る、屈服し、傷ついた者を支配するようなやり方では、決してその先に平和なんて来ない。

 

 どんなに困難で苦しい道のりでも、信頼し合える仲間達と一緒なら、1歩1歩進んでいける。

 時に、いがみ合っていた敵達とも、己の考えをぶつけあった末に、分かり合うことができる。

 

 ガミラスでは『幻想だ』と笑われてしまいそうなこと。

 けど私は、地球での2年間と少し……特に、『地球艦隊・天駆』の皆と行動を共にするようになってから、幾度も見てきた。

 

 1年後には滅んでしまうような絶望的な世界で、しかし人々は希望を見失わず、世界の未来をヤマトに託して見送った。

 

 互いの思いを知り、長い間戦いを続けてきた、宇宙世紀世界の地球とネオ・ジオンは、和解し、手を取り合って未来へ進む道を選んだ。

 

 オーブやプラント、地球と木連、いくつもの派閥や勢力が混沌の争いを繰り広げていた西暦世界も、傷つきながらも歩み寄り、少しずつ互いを理解しながら今を共に歩んでいる。

 きっとそう遠くない未来、生まれ変わった始祖連合国もそこに加わるだろうと思いたい。

 

 さらに宇宙では、言葉も通じない、生態も生きる場も、何もかも違うELSとすら、心を通じ合わせ……理解し合い、戦いを止めることができた。

 

 だから私は、かなうなら、ガミラスにもそうなってほしかった。

 力ではなく、対話と相互理解こそが……きっと、ガミラスをより強く、より幸福な未来に導いてくれるだろうと……そう、思ったから。

 

 デスラー総統にも……姉さまにも……そういう未来を生きてほしかった。

 一緒に、生きていきたかった。

 

 でも、そんな願いは……ミーゼラには届かない。

 デスラーの方針に、いや彼自身に心酔し、彼とそのやり方こそがこの世界を救えるのだと、何の疑いもなく信じてしまっている彼女には。

 

 そして、それを失ってしまった彼女には……もう、それに目を向けてもらうことはできなかった。

 

 流れに任せた結果ではあったけど、聞きたかったことを大方聞き出せたらしい。

 伊藤保安部長は、書記役をしている雪が、ミーゼラの話を聞きながらも、きちんとパソコンでその言葉を記録しているのを確認し、

 

「ミーゼラ・セレステラさん、お話と、あなたの意思は伺いました。しかし……ガミラスには戻りたくないとおっしゃいますが……私たちがあなたを下ろすことができるのは、大ガミラス帝星への寄港時だけです。そこはご理解ください。……参考までに、これからどうするおつもりですか?」

 

「……特に、何も考えていないわ。あの人のいない……あの人を否定する、新しいガミラスに協力する気はない……かといって、あの人がいない『旧体制派』にも興味はない。……しばらくは蓄えもあるし、何もせず、静かに過ごしたい」

 

「そうですか。では……ご協力ありがとうございました」

 

 そのまま、聴取は終わった。

 

 ……本当なら、私は……ミーゼラを、地球に誘いたかった。

 

 私が、人と人との関わりの暖かさを知ったあの星で……ミーゼラと共に生きたかった。

 2年前……私があの星で居場所を手に入れてから、ずっとそう思っていた。

 ミーゼラに再会できたら、誘うつもりだった。

 

 でも、彼女はそれを受けないだろう……そう、わかってしまった。

 

 彼女は、ガミラスを……それも、デスラー総統と共に滅んでしまった、旧いガミラスを……それでも、捨てようとはしないだろう。

 たとえそれが、もう……未来に繋がることのない、思っても仕方のないことだとしても。

 

 彼女は、彼女の信じたいものを……最後まで、信じ続けるだろう。

 

 ……それでも、もしかしたら……いつか……

 そんな風に、私の方こそ未練がましく思ってしまっている。

 

 いつかまた、2人で、平和に……そう、戦争なんてすることなく、巻き込まれることもない……平和な時を、行きたい。

 ……そう願うくらいは……していても、罰は当たらないよね。

 

 今はまだ……その深い哀しみに心を閉ざしているミーゼラを……独房に戻っていくその背中を見送りながら……声に出すことなく、私はそう思った。

 

 

 

 

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