最強になれと言われても他の妹姉の方がずっと強いので無理と言ったら両親に泣かれ、じゃあ修行に行きますと言ったら姉妹に泣かれたんだがどうしろと言うんだ?   作:ジラフ

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雷の眠る間

「……ふわぁ」

 

 よく寝たな……何か良いことがあったような気がするんだけど……よく覚えていない。でも、手に何か懐かしい感触があったような……?

 

「分からねえ……ぼんやりとした……ものだけがある」

 

 分からないことを考えていても仕方がないな。

 

「っと……周りを見る限りではラウンのアトリエに戻ってきたようだ。前みたいに出てきたら即連行って事もなさそうだな」

 

 とはいえ念を入れて情報収集したい。桜腕を接地させられればちょっとした索敵ができるが、馬車の中からじゃなあ……

 

「カァ!!」

「……なんだよいきなり? ん……? すり抜け?」

 

 なんだ、馬車の床を抜く? 何言ってんだ【熟練工】

 

「……できんのかそんなこと」

 

 俺の身体にそんな能力はない、はずだけど。

 

「カァ……!!」

「えー、できた……? なんで? 怖いわぁ……」

 

 どうなってんのこれ、なんか床を水面みたいに貫通したんだけど。なにこれ、まあ良いか。とりあえず桜腕を接地面から展開して……周囲の様子を確認しよう、

 

「あー、何もいないな。びっくりするくらい」

「カァ」

「なんだよ、自分の手柄みたいな顔しやがって。もしかして、お前が何かしてんのか」

「カッカッカ!!」

「そっか、ありがとうな」

 

 ヤタ・デシュを撫でてやった、ついばまれる事を覚悟していたが大人しく撫でられているところを見るとお気に召したらしい。

 

「じゃあ行くか」

 

 馬車を降りてアトリエに入る。そこには困った顔をしたラウンと、俺が寝ていた場所で寝ているデーレ姉さんがいた。

 

「……なんで?」

「あ、シンさん。少し前にいきなり寝てしまって、それでなんとかここに運んできたんです」

「いきなり寝るって、そんな持病とかないはずだけどな」

 

 姉さんも疲れていたらしい。見る感じだと、しばらく起きることはなさそうだ。

 

「危なかった、全力で逃走するはめになるところだった」

「なにかしたんですか?」

「あー、そうだな。見つかったら確実に連れ戻される関係」

「家出……出奔ですか?」

「似たようなものだな」

「それなら一刻も早くここから離れたいですよね」

「まあ、ラウンが他に用がないって言うなら今この場で報酬もらってさようならって感じだ」

「本当にごめんなさい、こんな書状が届いていて」

 

 うわー、これ見たことあるー。しっかりした造りの封筒に蝋印がくっきり、これって領主クラスが命令出した時に作るやつー。

 

「拒否権は?」

「多分ないです。ほぼ名指しレベルで呼び出されています」

「……逃げて良い?」

「止めた方がいいです、たぶん追われることになります」

「だよな……行くしかないか」

「あの、ボクからも早く終わるように取りはからいますから」

「頼む……!」

 

 何日も拘束されたら流石に姉さんが起きる、そうなったら終わりだ。逃げ切るために頑張りはするが、遊びゼロの姉さんから逃げ切るのはまだ無理だろう。

 

「では、すぐに行きましょう。ボクも父に聞きたいことがありますので」

「え? 今?」

「当たり前です。行きますよ」

 

 ラウンが早足で歩いて行くのでそれに着いていく、門の前とかで一旦止められたりはしたが基本的に全部顔パスだから早い早い。本当なら領主の前に行くまでは結構かかるはずなんだけどな。

 

「すげえな、止められもしないか」

「まあ、一応血縁なので。こっちです」

 

 歩き慣れてるな。城の中って入り組んでるから分かってる奴が先導してくれると動きやすい。

 

「ここです、入りまーす」

「え、良いの」

「大丈夫です、父なので」

「……それでいいのかホワイトシールド」

「良いんですよ、この一帯で父に傷を付けられる人はほとんどいませんから」

 

 そんなに硬いのか? 岩でできてたりして。

 

「父上!!」

「ん? 誰だ、無礼だぞ」

 

 あ、なるほど、岩というか鉄の塊だ。鍛えすぎてシルエットがもうゴッツゴツだもの。少し凄むだけで相当な力量を持っているのが分かる。戦う王様系の人だな。

 

「なんだ、ラウンちゃんじゃないか!! 無事だったか!!」

「無事です、それよりもどうして護鳥様を殺す依頼をしたんですか」

「そんなの決まってるじゃないか、ラウンちゃんがどこの馬の骨ともしれないやつとあんな所にいくからだぞ。パパ心配したんだから」

「護鳥様とホワイトシールドはこの街の要です!! どうして自ら片翼をもぐような真似を!!」

「護鳥はもはや伝説なんだよラウンちゃん、今はホワイトシールドだけが要なんだ。万が一ラウンちゃんを失うなんてパパ耐えられない」

「だからと言って!!」

「ラウン」

 

 身体……が、重い。ちょっと本気で睨みを利かせただけでこれか。

 

「これはね、難しい話じゃない。パパは護鳥よりもラウンちゃんのほうが大事だった、それだけなんだ」

「……では、これは喜んでいただけませんね。ボクはこの護鳥様と約定を結びます、もう一度ホワイトシールドと翼を並び立たせるために」

「それは……」

「護鳥様の卵です、ボクはこれを得るために行ったんです」

「そっか……それを言うってことはラウンちゃんも参加するんだね」

「はい。ボクはホワイトシールドの跡継ぎに立候補します」

「パパは、止めて欲しいな。跡継ぎを決める戦いなんで汚いだけだよ」

「それでも、ボクの夢を叶えるためにはそうしないといけない。今それが分かりました」

「決意は固いんだね」

「はい、ホワイトシールド卿」

「もうラウンちゃんとは呼べないか」

「はい、跡継ぎが決まるまでは」

「……分かった、で」

 

 え、なんでこのタイミングで俺を見るの?

 

「そこの馬の骨とはどういう関係かな?」

「彼こそがボクの翼です!!」

「ふ~ん……?」

 

 な、なんてこと言いやがる!!? 翼とかいう言い回しは知らないが、確実に巻き込まれる流れじゃないか、冗談じゃない!! ここにはそんなに居られないって言ったのに!!

 

「ホワイトシールド卿、私から申し上げることはないので帰って良いですか? ご息女の発言は私にとっても初耳でありますので冗談の類かと」

「まぁ、待ち給えよシン君。少しお話しようか」

 

 少しは殺気を隠して対話に臨んで欲しい、これもう殺し合いする殺気のレベルなんだけど。

 

「謹んで、遠慮させていただきたく存じます……」

「まぁまぁまぁ……夕食でもどうだね」

 

 領主直々の誘いを断るのは失礼にあたる、無礼打ちされる可能性を考えると……詰んだな。

 

「分かりました……ご相伴にあずかります」

「楽しい夕食になりそうだ」

 

 最後の晩餐にならないことを祈ろう。

 




【アイゼン・ホワイトシールド】
固く、硬く、堅く、自らを鍛え上げた。授かった白き盾を十全に使うため、鍛え上げた毎日、十分な素質に十分な鍛錬。完成された肉体はもはや、並大抵のものは通さない。信頼厚い彼の側近はそんな彼を見てこう言った。
「もう盾要らなくないですか?」と。
彼はそれを聞いて大笑いした後にこう返した。
「要る、手加減にちょうど良いんだこれは」
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