最強になれと言われても他の妹姉の方がずっと強いので無理と言ったら両親に泣かれ、じゃあ修行に行きますと言ったら姉妹に泣かれたんだがどうしろと言うんだ? 作:ジラフ
「さあ、見せてちょうだい。あなたの性能を」
「実の息子に性能とか言うものじゃないよ母さん」
「そうかしら?」
ビクトリウスの屋敷は円状で中心に模擬戦のできる空間がある。そこで母さんが俺に向かって包丁とフライパンを向けている。正直な話をしよう。
滅茶苦茶怖え。
「あら、どうしたの? 来ないのならばこちらから踏み込むけれど」
「もう少しだけ待ってくれ、俺の心が整うまで」
「ふふふ。甘いわね、もう間合いよ」
「な!?」
瞬きの瞬間に狙い澄まされた投擲、流石に包丁ではなかったが、それでも母さんの投石なんてまともに食らったらそんなん死ねる。
だが、完全に虚を突かれて間に合わない。壁抜けを切るしかない!!
「ガァウ!!」
「でかしたオゼロ!!」
オゼロの牙がその石を弾く、それで終われば良かったが、ご丁寧に同じ軌道でもう1個石が飛んできてやがる。こんな超絶技巧を息をするように繰り出して来やがるんだから手に負えない。
「旦那!」
「助かった」
2発目はカタハがいなしてくれた。素の能力の違いはこういうところに出るよな。自分で対処できないのは歯がゆいが、これが今の俺の力だ。
「……当然そう来るよな」
投石に意識を裂かれた獲物を刈り取る一撃が俺に向かう、後頭部に迫るフライパンに容赦なんて一切無かった。
「番外指令!!」
「あら」
番外指令発令に伴う衝撃で母さんを退ける。ぶっちゃけ母さんなら耐えられるレベルのものではあるが、母さんは未知に無策で突っ込むような馬鹿じゃない。観察からの滅殺が母さんの流儀だ。
「母さん出し惜しみなんてしてたら即死させられそうだからな。最初から全力全開でいかせてもらう」
「そうしなさいな。母だってシンを枯れ枝のように折りたくはないわ」
「少しは太い木になったと思って欲しいな!!」
母さんのスタイルは機動力と攻撃力が異常に高いものだ。デカい一撃を出させてもらえるとは思えない。ここは一撃必殺よりも、手数が必要になるだろう。
「三機融合(トリニティライズ)、大樹式対災害用兵装(モード・アルカ)」
「オイラだな? いくぞシン」
「ああ、やろうぜアルカ」
腕に集中するモード・オケアノスと違って、このモードは首輪のように変化する。そして、その能力は。
「おらぁああああああああああああああ!!!!!」
「あらあら」
次々と地中から襲い来る根は母さんを包囲する。
「それだけかしら」
十本以上の同時攻撃を一呼吸で全部ばらしてくるか、別に驚きはしない。
「そんなわけないだろ母さん」
「まあ、綺麗ね」
「これがアルカだ」
俺の背には桜の巨木、さっきの根は全てこの木から伸びたものである。固定砲台と化したアルカの飽和攻撃がこのモードの真骨頂。桜が舞う空間はすべてアルカの支配下、舞い散っている花びらは全てが武器だ。
「ふ、ふふ、ふふふ」
「楽しそうだな母さん」
「ええ、嬉しいわ」
「そうか、早く終わりにしよう。俺は家族同士で争うためにこの力を得た訳じゃない」
「まだまだ遊びましょうよ? 母はもっとやりたいわ」
「いいや終わりだ。もう包囲が済んだ」
「あら?」
母さんを囲む桜の木、アルカの分身とも言えるそれらもアルカ本体に準ずる能力を持っている。つまりは超過密攻撃による圧殺の準備が終わったということ。
「これ以上に意味はないだろ?」
「シン、もしかしてだけれど。まだ性能の一部しか見せてない事が分かって言っているのかしら」
「……ん?」
「少しだけ本気を出すわ」
風が頬を撫でた、それは少しずつ熱を持った。
その風が母さんの攻撃だと気づくのにかかった時間はあまりにも致命的だった。
「……あまり失望させないで」
「母さん……!? どうして、ここに」
「全部斬ってここまで来たのが分からないの?」
「っ!?」
母さんを包囲していた桜は全てが両断され、囲んでいたはずの花びらは無残に破壊されていた。これがあの一瞬で起きたことか? 母さんの時間と、俺の時間の流れは本当に同じなのか、そう思うほどの、圧倒的な性能差。
「母を舐めすぎよ。本気で来なさい、手加減なんて考える暇があるなら、1つでも多く殺す手段を構築しなさい。それができる力を持っているのだから。何はともあれこれで1回死んだわ。次はないと思って」
母さんが後ろに向かって跳躍し距離を取る、同じ事をしようものなら次は本当に斬られるだろう。
「俺の全力程度なら、余裕で受け流せるって言うんだな母さん」
「ええ。その通りよ」
「……アルカ」
家族に振るう刃も拳もないが、母さんなら問題なさそうだ。どうせ全部いなして平気な顔をするに決まっている。
「さっきの比じゃないぞ」
「それで良いわ」
身を裂く桜吹雪、貫こうと迫る根、前触れ無く叩きつけられる風、それらが息つく間もなく攻撃を続ける。全力全開だ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
母さんを中心として吹き荒れる嵐に目掛けて、剣のアルカを叩きつける。グラムアルカほどではないが、剣のアルカも強化されている。どう見ても、どう考えても1人に向ける攻撃の密度ではない、だが、それでも足りないのか、中心の母さんは1歩も動かずに全てを迎撃している。
「足が止まっているのなら!!」
必殺を放つ余裕がある、槍を撃てる。
「超螺旋風射出術式(グングニール・アルカ)!!」
「窮地にありて惑わず」
止めどない攻撃が殺到しているはずなのに、轟音が響いているはずなのに、母さんの言葉だけが鋭く響いた。
いや、母さんの声以外の音が消えた。
「好機にありて逸らず」
なんだ、時間が遅い、動きが鈍い、その中で母さんだけが普通に動いている。
「歩み止める事能わず」
俺の放ったグングニール・アルカは超高速回転する花びらの槍だ。削岩機のような槍を受ければ母さんだってひとたまりも。
「一時の閃きだけが許される」
切り崩された……!? そんな馬鹿な!?
「残念だけどここまでね」
まずい、防御を
「よくここまで至りました。母は嬉しいです」
頭に、手?
「よしよし」
「え?」
「母に切り札の1枚を出させるほどまで使いこなしているとは」
「……お眼鏡にかなったのか?」
「ええ。でもまあ、やはり1発は入れます」
「え」
何かとてつもない衝撃が身体を突き抜けた気がしたが、俺の記憶はそこで途切れてしまった。
【止水】
これは1つの極。
この技を受けた獲物は死を予感し、走馬燈を見るという。
酷くゆっくりとした世界の中で迫る刃をただ見つめる事しかできない
そして吹き上がる血しぶきを見て理解するのだ、命の終わりが来たのだと