禪院家の末っ子は、禪院家を潰したい。   作:バナハロ

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規格外の力も使い方次第。

 百鬼夜行が行われるのは、12月24日の日没から。だが、割と曖昧な時間表現ではあるので、それに備えて高専側も配置を終えていた。

 京都では、一年生である三輪霞がカタカタと震えていた。

 

「ふわ〜……き、緊張するなぁ……あんまり強い呪い来ないと良いなぁ……」

『ソレガ決戦前デ緊張シテイル顔カ、三輪。寒サデ震エテイルヨウニ見エルゾ』

 

 そうツッコミ入れるのはメカ丸。呪術高専一年生のメカである。

 

「あ、ひどいメカ丸。本当に緊張してるんだから。ほら、ちゃんと震えてる」

『指先ガ赤クナッテイル。ヤハリ、寒イダケダロウ』

「そりゃ、こんな冬空の下でスーツ姿なんだから、寒くもあるけどさ〜……う〜、早くお風呂入りたい〜」

『普通ニ寒イダケジャナイカ、ヤッパリ……』

 

 言いながら、メカ丸は自身の上着を脱ぎ、三輪の肩から掛けてあげる。

 

「え、良いの? メカ丸、寒くない?」

『誰ニ向カッテ言ッテイル。俺ニトッテソレハタダノ飾リダ』

「あ、ありがと……」

 

 少し嬉しくて、頬がほんのりと赤く染まる三輪。その二人を眺めながら「プークスクス」という笑い声が聞こえる。

 ハッとして振り向くと、そこで笑っていたのは同級生の禪院真依と、先輩の西宮桃だった。

 

「見ました〜? 真依ちゃ〜ん。あんなキザな真似するメカ、この世にいるんですね〜?」

「見ました〜? 桃ちゃ〜ん。あんなキザな真似で照れるウブ、この世にいるんですね〜?」

「な、なんですかそれー! 別に照れてないから私ー!」

「いや顔真っ赤で怒鳴られてもねー?」

「ねー?」

「っ、め、メカ丸も否定してよー!」

『……下ラン』

 

 ふいっとメカ丸は背中を向ける。他の二年生の一人は興味なさげにそっぽを向き、もう一人に至ってはもう周りにはいない。

 さて、そんな中で、真依はふとこの前のことを思い出す。最近、姉から電話がくる。ちょっと色々あって喧嘩してしまい、それから学校まで別れた。それが原因でシカトしていたが、何か用でもあったのだろうか? 電話をよこす事自体が珍しいのに。

 それほどの事があったのかもしれないが、こっちもこっちで百鬼夜行の件で忙しい。

 

「皆さん、静粛にして下さい」

 

 そんな中、声を掛けて来たのは七海建人。一級呪術師だ。東京からこちらに派遣された術師で、手元には包帯でぐるぐる巻きにされた包丁のようなものを持っている。

 

「戦闘が始まれば、もしかしたら私も皆さんと別行動する可能性もあります。なるべく油断はせず、そして私の責任にならないよう振る舞って下さい」

「ほらー、怒られたじゃん」

「メカ丸の所為よ」

「メカ丸の所為ね」

『俺ノ所為ジャナイ』

「……」

 

 なんでも、特級相当の術師が、夏油傑以外にもいるという話だ。なるべくなら会いたくない……なんて思っている時だ。

 その合計、六人の間でしれっと声が混ざった。

 

「真依ねーちゃん。真依ねーちゃーん」

「は?」

 

 唐突に聞こえてきた懐かしい声、聞き間違えるはずがない大好きだった声音。七年間、聞くことができなかった懐かしい声音。

 

「要……⁉︎ あんた、なん……!」

「久しぶり!」

「ひ、久しぶり……!」

 

 思わず二人でハグし合ってしまう。この温もりも、似合っていないサングラスも、何もかもが懐かしい……。

 ……が、他のメンバーからすれば、非呪術師の立ち入りを禁止した上で、六人の間に誰一人の感知も許さずに、高専側ではない少年の侵入など、危険因子でしかなく。

 箒に跨り、宙に浮く西宮、腕の砲門を解放するメカ丸、簡易領域を展開する三輪、武器を構える七海、そして弓を構える加茂憲紀が一斉に囲んだ。

 それに気付き、真依がすぐに全員を止める。

 

「ま、まって! この子は私の……!」

「待ちません。まず間違いなく高専側でも只者でもない子でしょう」

 

 七海がそういうと、ジロリと要を見下ろす。最悪のパターンは、真依以外全員、殺しに来たパターン。いや、それにしては日没まで後30分はあるはずだが……。

 何にしても、聞かないわけにはいかないことを聞く。

 

「何者ですか?」

「45分しかないから、問答してる暇ないんだ。行くよ、真依ねえちゃん」

「行くって……何処によ⁉︎ ていうか、今まで何処に……!」

「空」

 

 そう言った直後だ。キンッ、と、足元にSの刻印が刻まれ、その後にコンクリートごと浮かび上がった。

 

「なっ……⁉︎」

 

 呆気に取られはしたものの、すぐに行動に移した。加茂家の赤血操術、そしてメカ丸の砲撃、さらに西宮の鎌異断が一斉に襲い掛かった。

 それに対し、要は両手を左右に広げるとともに、その先から半径10メートルほどまで広げた刻印を通して付与させ、その攻撃を止めた。

 

「!」

「なにこれ……!」

「時間がないって言ったよね」

 

 直後、それらの攻撃が全て反発するように返される。三人とも慌てて回避したが、近くの建物を巻き込んで爆発、炎上させる。

 

「っ……!」

 

 思わず、真依は唖然とする。こんな力知らない。

 付近に煙が舞い上がり、全員の視界が阻害される中、足場はスーッと空を飛んでいく。

 

「あ、あなた……何があったの……?」

「色々。大丈夫、40分で東京に着くよう調整したから」

 

 今の衝撃で、周りから人が集まってきてしまう。さっさと行くことにするつもりのようで、足場が本当に東京の方へ向かってしまう。

 が、そんな中で感じ取った悪寒。ふと気配を感じる方向に目を向けると、煙の中から、ビルの壁を走って追い付いてくる七海の姿が見えた。

 

「七海さん……!」

「しつこ」

 

 その七海に片手を向ける。掌からさっきまでとは違い、それなりの速さの刻印を飛ばす。

 それを七海は回避しながら、浮く足場を追い抜いて屋上まで上がり切った。ちょうど、そのビルの屋上は浮かした足場の進行方向にある。

 こちらの術式の理解も早く、それ故に足場の飛行が勢いを殺さないと方向転換出来ないこともバレている。

 面倒な事に、割と頭の回転が速い相手だ。あまり時間は掛けられないが、かといって呪力はもっと掛けられない。

 

「……チッ、めんどくさいなぁ」

 

 仕方なさそうに呟くと、要はサングラスを外した。それにより、七海は周りの呪力を全て見ることが出来なくなる。

 

「なっ……⁉︎」

「真依ねーちゃん、ひっくり返るよー」

「は? きゃあぁぁあああっ!」

 

 そう言った直後、要は足場に足をつけたまま真依を両腕で抱えるように持ってひっくり返った。

 足の裏の向きも変え、七海に射出する。コンクリートの岩場を回避する七海。自身の呪力を確かめるように屋上で手のひらを眺めている間に、落下中の要は背中に真依をくっ付けた。

 

「要! 落ちてる、落ちてるから!」

「分かってるよ」

 

 そう言いつつ、真下に向かって左手を向け、真下のコンクリートに刻印を放った後、右手の刻印で足場を引きつけ、最後に空中で身体の向きを変えてその上に足をつけて乗っかった。

 

「よっし……!」

「っ……は、吐きそう……」

「俺も慣れるまではそうだったからなぁ。……飴舐める?」

「あ、ありがと……じゃなくて! あんた何して……!」

「大丈夫、心配しないで。あと少しで、また前みたいに3人一緒でいられるようになるよ」

「3人って……!」

 

 その直後だ。パァンっという拍手の音が耳に響く。

 

「鳩でもいたのかな。真依ねえちゃん?」

「よう、坊主。どんな女が好みだ?」

「……真希ねえちゃんと真依ねえちゃんだけど、お前誰?」

 

 いつの間にか、姉と筋肉ムキムキの男が入れ替わっていた。その直後、拳を振るわれ、要は台座から飛び降りながら片手を向けて、動きを止める。それと同時に、足場に反対側の手を向けて反発させ、上に乗っている男ごとビルの中に突っ込ませた。

 その直後、再び鋭い拍手の音。気がつけば、飛ばしたはずの足場の上にいたのは自分になっていた。

 

「ーっ……!」

 

 直後、両手と両足を広げ、刻印を四方に飛ばして衝突前に宙に浮いてキープした。

 空中をフワフワと移動し、ビルとビルの間で辺りを見回すと、複数の呪術師が続々と集まってきて自分を眺めていた。

 

「あーあ……雑魚どもが湧いてきやがって……」

 

 そうため息をつく。もう呪力はともかく時間は無駄に出来ないというのに。

 ざっと見た限り、ほとんどが有象無象だが、面倒臭そうな相手もいる。

 

「やれやれ……俺はただ、真依ねーちゃんを連れて行きたいだけなんだけどなぁ……」

 

 まだ目的もハッキリ言っていないのに、早くも躓いていた。

 

 ×××

 

 高専には、現在二人しか人間がいない。戦力として外された真希と、戦力にすれば味方にも爆弾になり得る憂太の二人だ。

 今週は休校なのだが、憂太はなんだか落ち着かなくて教室に来てしまっていた。

 すごいことになってしまった、とほけーっと天井を眺める。正直、少し安心している。何度か呪霊との戦闘はこなしてきたが、基本的にはやはり怖いものだ。

 それに、里香を出してしまうと自分も悟も死刑になってしまうらしいし、そういう意味ではホッとしている。

 しかし、それに比例して、棘やパンダへの心配は大きい。二人とも自分なんかより強いのは知っている。けど、数だけで言えば敵の方が多いだろうし、全くの無傷で帰って来れるかは分からない。

 

「まぁ……五条先生がいるなら平気かな……」

 

 要の相手をしながら、ということらしいが、まぁ悟なら大丈夫だと思いたい。一応、要の能力に関しては、大体真希から聞いている。いや、真希の知っている情報に、さらに憂太が見た情報を捕捉した。

 遠隔に飛ばしたり広げたり出来る刻印。磁石の効果を持ち、引き寄せたり離したりできる、単純と言えば単純な術式。

 その上、悟が自身に迫った拳を見た所、呪力操作も完璧に近いらしい。引き寄せながら拳を振るわれたら堪らない所だ。

 

「要くん、かぁ……」

「私の弟になんか用か?」

「あ、真希さん」

 

 後ろからその姉に声をかけられ、振り返る。

 

「何してんだよ。今日は休校だろうが」

「ちょっと、落ち着かなくて。……パンダくんも、狗巻くんも……要くんも」

「……最後のバカは、お前が気にするとこじゃねーよ」

「するよ。……真希さん、いつも要くんのこと考えてたもん」

「っ、い、いつもは考えてねーよ! たまに思い出す程度だったろ」

「たまに漏れてたよ? 寂しそうな顔が」

「う、うるせー! ブッ飛ばすぞ!」

「ご、ごめんごめん」

 

 胸ぐらを掴まれそうだったので、慌てて謝った。これは、たまに教室とかで寝てる時に、寝言で妹と弟の名前を漏らしていたのも言わない方が良い奴だ。

 

「……ね、真希さん」

「なんだよ」

「要くん、どんな子だったの?」

「あ?」

「せっかくだし、色々聞いてみたいなーって」

「……」

 

 聞かない方がよかっただろうか? でも、正直に言うと要のことがよく分からない。悪い子ではないのだろうが、良い子と言われても困る。何せ、最悪の呪詛師と呼ばれる夏油傑と一緒にいるのだから。

 

「要は……ホントは、素直な奴だよ」

「あー……うん」

「素直なのに、演技が上手い奴だった。私とか真依はすぐ見抜けるが、ほかの奴らはバカみてえに騙されてたよ」

「ふーん……」

「ほとんどの奴らが私や真依の前だけ素直なフリをして、素が暴力的で唯我独尊な奴だと思ってたが、本当は逆だ。身勝手なのがフリをして、本当は甘えん坊で素直な奴だよ」

 

 なんでそんなフリをするのか、そんなの分かり切ったことだ。周りの人間に舐められないためだ。禪院家では、真希と真依は周りから虐められていた。それを守るために、どんなに才能や強力な術式を持っていても、周りの人間と絶対に仲良くせず、真希と真依に喧嘩を売るような奴らがいれば、誰彼構わず喧嘩を売っていたのを覚えている。

 

「……そっか。良い子だったんだね」

「今も良い子だ」

「だと良いけど……」

「あのでっかい鳥の中から出てきた時、世話を焼かれてたろ。女二人に」

「あー……そういえば」

 

 寝てる所を起こされていた。他の人と絡んでいるところを見ていないからなんとも言えないが、確かに仲良さそうには見えた。

 

「あの二人の事は、別に嫌っちゃいねーかもしんねえな」

「そ、そうなんだ……じゃあ、もしかしたら恋人かもね?」

「……は?」

「あわっ……ご、ごめん! 呪詛師と恋人なんてあり得ないよね……!」

「呪詛師じゃなくてもあり得ねーから。あんまふざけた事ほざいてるとマジ殺すぞ」

「ええっ⁉︎」

 

 そこはダメなの? と、冷や汗を流してしまう。

 

「でも……そっか。やっぱり良い子なんだ」

「だから、厄介なんだよ」

「……うん」

 

 だから、死んで欲しくないし、自分が好きな人同士が争うことになってしまっている今が、少し怖い。

 

「……大丈夫だよ、真希さん」

「あ?」

「五条先生や、パンダくん。狗巻くんなら、きっとなんとかしてくれる」

「……だな」

 

 そんな話をした、わずか数秒後のことだった。校舎を包み込むように帳が降り、周囲を漆黒が包み込んだのは。

 

 ×××

 

 禪院真依は、唖然としていた。自分の弟に何があったのか知らないが、かなり強くなっていた。いや、強いとかではない。規格から外れた者、というべきか。

 両手から繰り出される刻印は、相手を転ばせるとか武器を奪うとか、そんなレベルではない。

 真上から巨大な刻印を落とすと共に、地面にもう片方の刻印を広げ、ほぼ全員を貼り付けたまま動かせなくさせてしまった。

 全ての術師がかかったわけではないが、まともに戦闘に参加しているのは七海と東堂葵の二人のみ。他の京都高のメンバーは、要の標的である真依の護衛だ。

 

「ハッハァ! やるな、小僧ッ‼︎」

「なんで上からだよ。大概にしろマッチョ」

 

 実に楽しそうな葵と攻防が繰り広げられている。しかし、押しているのは要だ。何せ、術師としての年季が違うから。

 葵のラッシュを落ち着いて捌きつつ、掌底をたたき込んでくる。その掌底が、磁力によって加速され、見事にボディを捉え、地面に叩き落とす。

 しかし、落下の前に拍手で自分と要の位置を入れ替え、要を落下させる。その直後、だ。落下地点から、七海が自らの術式を構えて武器を振るった。

 それも、要は片手を向けるだけで止められる。

 

「……無下限術式では、ありませんね?」

「分かってるくせに聞くなよ」

 

 再び拍手の音。自分と七海の位置が入れ替わり、お互いに背中を向けた状態になる。

 すぐにタネを理解した七海が攻撃を放とうとするが、手のひらを背中を向けたまま向けられ、後方へ弾き出される。

 そこへ、空中で落下している葵にさらに刻印を貼り付けると、真下の七海へ衝突させた。

 その真上に、要がジャンプしてスタンプを踏みに行く。

 

「チッ……!」

 

 くっつけられたまま離れられない……が、葵ならば拍手をすることで離れられる。

 それにより離脱したのは七海。残った東堂は、カウンターの構えで要を待ち、スタンプを避けると共に握り拳を作った。

 もらった、そう呟くように拳を繰り出す寸前、ふと違和感。スタンプして降りてきた要の上着がない。

 それと同時に足元に広がっている刻印。上着が、葵の頭の上に降りてきた。

 

「ぬっ……!」

 

 まずった、とカウンターで放った拳をひき、拍手をしようとしたが、その手を要が蹴りで止める。

 

「させねーよ」

 

 さらに、上着と道路の引き合う力を強める。そのまま葵を道路に貼り付けた。

 その直後、背後から気配を感じる。振り下ろされて来たのは刀身が巻かれたナイフ。

 ヤバい、と判断し、強引に避ける。だが、それこそ七海の思い通りだった。使用したのは、自身の術式の広域殲滅型の拡張術式。

 

「刻印をつけた物が壊れれば、あなたの術式はどうなるのでしょう?」

「っ……!」

 

 砕いたのは、道路だ。半径10メートルほど道路が陥没し、三人が三人、真下に落下していく。その際、拘束されていた葵もそれが解かれて、落下していった。

 

 ×××

 

「……初めて見た。東堂先輩が苦戦してるとこ」

 

 そう呟いたのは、真依の周りでガードを固めている三輪。それを聞いて、メカ丸も呟いて答える。

 

『確カニナ……ネーチャン、ト呼バレテイタガ、何者ダ?』

「……弟よ。禪院要」

 

 それを聞いて、他の四人とも腑に落ちたように呟く。前から聞いたことがある、真依の弟。それも才能があり、その才能の所為で父親に殺されかけたという話だ。

 

「あれだけの大技を何度も繰り出しておきながら、呪力が尽きる様子が見られないとはな……今まで何をしていたのか気になる所だが」

「そんなの、私だって分からないわよ」

 

 加茂に聞かれても、真依にだって分かるはずがない。むしろ知りたかったくらいだから。

 ひとつだけわかるのは、このタイミングで姿を現した、という時点で、夏油傑と繋がっているのは確実だろう。

 

「っ……」

 

 悲しそうに下唇を噛み締める真依。おそらく、真希が電話してきた理由はそれだ。ちゃんと聞いておけば、こんな突然のショックに見舞われることもなかったのかも……と、自身の迂闊さを呪った。

 

「で、でも、流石にもう大丈夫でしょう! 東堂先輩も七海さんも一級呪術師ですし、その二人にダメなら、もうどうしようもないですよ!」

『三輪、フォローニナッテイナイ』

「別に……ショックなんて受けてないし……」

 

 そう呟きつつも、真依の両肩は微妙に震えていた。何せ、まだ要は目を使っていない……と、少し危惧している。それを使われたら、どんな術師でも勝てない……なんて思っていた時だ。

 四人の真上、空中から警戒していた西宮が声を張り上げた。

 

「っ、み、みんな逃げて! あいつ……!」

「?」

「うぐっ……⁉︎」

 

 叫んだ西宮に刻印が付与され、グンっと引っ張られる。その引っ張られた先で西宮の首に腕を回し、ホールドしながら歩み寄って来るのは、要だった。

 

『西宮……!』

 

 弓と砲門を構える二人だが、そこから撃てば間違いなく西宮も巻き込む。真依の前に三輪が立ち塞がり、簡易領域を再び展開する。

 ……が、その真ん中の真依だけは分かっていた。恐らく……勝てない。というか、もうどうしようもない。

 

「落ち着いてよ。さっきから言ってるけど、俺は真依ねーちゃんが欲しいだけなの。寄越してくれれば、ホント何もしないから」

「そう言うのならば、東堂と七海さんはどうした?」

「下でくっついてる。他の術師だって別に殺してないでしょ。……けど、お前ら次第じゃ、ようやく一人死人が出るけど?」

 

 そう言いながら、西宮を抱える腕に力が入る。三輪も加茂も冷や汗を流した。

 

「……わーった。もう一つ譲歩する。あと〜……10分くらいで百鬼夜行の群れ、第一陣が来る。それ追い返してやるし、他の全員の拘束も解く。……それでどう?」

『信用出来ルト思ウカ?』

「縛りでも結ぶ?」

「っ……」

 

 それを持ってこられたら、疑う余地は徐々に減っていってしまう。というか、後10分で始まるのに、今の戦線がズタボロにされた状態はまずい。もはや、飲むしかない状態だ。

 

「……良いわよ。それで」

 

 そんな中、返事をしたのは真依だった。

 

「でも、分かってるんでしょうね。もし、嘘だったら……」

「何?」

「あんたの事、嫌いになるから」

「絶対に嘘つきません! 真希ねーちゃんにも誓います!」

 

 あれ、なんか交渉が頭悪くなったぞ、と全員が思う。

 すぐに要は腕から西宮を置いた。少し恐ろしげな視線を向けつつも、西宮は要からすぐに目を逸らし、走って仲間の方へ向かう。

 一方で、真依も要の方へ歩いて行った。その真依の手首を、三輪が掴んだ。

 

「い、行くの……?」

「心配なんていらないわよ。ちょっと弟と東京まで行くだけだもの」

「……な、何かあったら、大声で『助けてー』って叫ぶんだよ?」

「初めてのお使いか」

 

 そんなツッコミをしながら、西宮と入れ替わりで要の元へ向かう。

 

「来たわよ。これで良いの」

「うん。……真依ねーちゃんも、呪術師始めたんだ」

「悪い?」

「……良くはないけど……まぁ、良いや」

 

 そう言うと、要は足元に術式を展開し、浮かび上がった。相変わらず規格外の術式だ。

 

「ちょっと、拘束」

「いやまだでしょ。東堂とかいう人の術式だと、すぐにまたリセットされちゃうし」

「……嘘だったら」

「嘘なんてつかないよ。というか、後で術式は解かないと俺も困るし」

「?」

 

 そう言いながら、要は真依の手を繋ぐ。それと同時に、腕に頭を置いた。

 

「……遅くなったけど、久しぶり。姉ちゃん」

「……そうね」

 

 身を預けるように甘えてくるあたり、やはり当時と変わっていないのかもしれない。

 少しだけホッとする真依だが、それも束の間。視界に映ったのは空を飛んで移動してくる呪いの群れだ。

 

「何よ……あの数」

「分割して放たれるようになってるから大丈夫だよ。足止めと囮がメインだから」

「……あなた、やっぱり夏油傑と繋がっているの?」

「喋ると舌噛むよ。思ったより呪力使っちゃったし、術式なしで片付けるから」

「え……あ、あの中に行くの?」

「離れないでね」

「離れようとする方が無理でしょ……」

 

 敵陣の中に突っ込みながら、約束通り術式を解除した。

 

 ×××

 

 一方、新宿では。百鬼夜行が始まり、それと共に呪詛師達もビルの上に降りた。

 悟は顎に手を当てたまま不自然な点に注目がいく。単純な話だ。傑がいない。京都の方か? とも思ったが、京都は何故か連絡が取れないし、いくら傑でも誰一人から連絡も寄越させずに数いる呪術師を殲滅させるのは無理だ。

 そっちはそっちで気になるところだが……と、思っていると、伊地知から報告が入った。

 

「五条さん、こんな時にとは思いますが報告が……!」

「……なに?」

「……乙骨くんの出生の件で……」

「……」

 

 それを聞いて、悟はすぐに理解する。いや、直接的に関係しているわけではないが、憂太の名前を聞いてハッとなった。まさか、傑の狙いは……。

 

「パンダ、棘!」

 

 我ながら最低な案が浮かんだが、もはやこれしかない。

 そう判断すると、二人に任務を告げた。

 

 

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