禪院家の末っ子は、禪院家を潰したい。   作:バナハロ

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主人公のスペック教えてほしい、とのことでしたので載せます。

禪院要
見た目:身長152センチ。狗巻より少しある筋力。黒髪マッシュ、学ラン、学生時代の五条みたいなサングラス。
性格:姉二人には甘えん坊で素直。けど、育った環境的に必要に応じて嘘をつく癖がついた。良くも悪くも子供。というか15にしてはガキ。
趣味:姉との思い出を思い出すこと。切なくなるからやらなくなるが。
好きな食べ物:その時々によってマイブームがあり、昔は真希と真依に貰ったおにぎり、一番病んでた時が猫の餌。
嫌いな食べ物:精進料理
ストレス:呪術師と暮らすこと。

実力:基礎的な呪力操作は夏油傑とほぼ同じレベル。ただ耐久力とパワーはちょい下で、代わりにスピードが上。感情的になればなるほど弱くなる。多分、4月に途中で帰らず続けてたら里香に勝ってた。
学力:学校に行っていないが夏油に勉強教わったので中学生レベルの学力はある。高専を持ち上げるのに物理と地学は自分でも勉強した。地頭は良いけどやっぱガキなので戦闘中以外の視野は狭い。



子供の問題を止めて、叱り、正しい道に戻すのが大人。

 さて、二人の特級術師は、落ち着いた様子で要を見上げていた。だが、少なくとも片方は見る限り戦える様子ではない。

 

「傑、戦えんのか?」

「私に気遣う事はないよ。さっきも言ったが、どの道、戦えば失血死するだろう。少し動ける囮、程度に思ってくれれば良い」

「ふざけんな、せっかくの機会だし、お前の息の根は僕が止める」

「……ははっ、愛が重いよ。悟」

「気持ち悪い返しすんな」

 

 そんな軽口を叩きながら、迫って来る呪具の雨を回避する。

 

「君の教え子にうずまきを使わされた所為で、もう扱える呪霊は残っていない。片腕の体術では、流石に万全の彼には勝てないよ」

「万全じゃないよ、あれ」

「え?」

「呪力は迸ってるが、まだ15歳だろ? 身体が保たない。最悪、あれだけの感情を発露してる頭がふっ飛ぶぞ」

「……それは、見過ごせないね。彼にとっては違くても、私にとっては家族だから」

 

 ……本当に、術師には優しいというか良い奴というか。昔から、本当に変わらない。

 というか、なんなら気絶させて良いのかも微妙だ。術式が途切れたら、このまま落下してもおかしくない。

 故に、無量空処はアウト。茈も威力が高過ぎてダメだ。

 そんな中、要がサングラスに手を掛けた。

 

「そうだ、悟。彼の瞳については聞いているかい?」

「ああ、真希から」

「なら、話は早いね」

 

 そう呟いた直後、要はサングラスを外した。六眼と九眼がお互いに向き合う。要の方に影響はないが、悟は違った。

 いつも見えていた細かい呪力の流れや中身が見えなくなる。辛うじて見える程度に、辺りに散らばった刻印や体内の薄らとした呪力の流れ程度だ。

 

「ははっ、なんだこれ。呪力見づらっ!」

「私には何も見えないんだなこれが。中々、怖いものだよ」

 

 特級クラス相手にこのハンデ。放っておけば自滅する相手だが、死なせるわけにもいかないので殺しても負け。奥の手の領域展開と茈もアウト。一緒にいる男は片腕と呪霊を持たない呪霊操術使い。

 さて、そんなクソゲーにも程がある中でも、悟と傑は余裕の笑みを絶やさなかった。

 

「とりあえず、悟。君はこの足場を安全におろす策を考えてくれるかい? 私は、彼と向き合う」

「ほんとにエイジオブウルトロンみたくなって来たな。俺はスタークとして……傑は、なんだろ」

「エイジ……なに?」

「見てないのかよ」

「どちらかと言うと、ラピュタじゃないか? 彼がムスカで……」

「じゃあ、僕は術式的にはシー……」

「ドーラ」

「アリだわ」

「アリなの?」

 

 いつもの調子で話しながら、二人とも動き始めた。

 

 ×××

 

「おいおい……ちょっと地震多すぎないか?」

「しゃけ……!」

 

 要に真希を取られた後の二人は、憂太を保護してひとまず安全そうな場所で身を隠していた。

 憂太が目を覚ますのを待っていた里香も一緒である。怖くないと言えば嘘になるが、二人に危害を加えることなく大人しくしているので、一先ず無視している。

 やたらと長く続く地震、そして周囲を取り囲んでいる刻印。二人とも直で二つ揃った所は見たことはないが、SとNの刻印的に間違いなく、要だろう。

 この規模の術式は、明らかに普通じゃない。

 

「ん、う……」

 

 そんな中、真下から声が漏れる。

 

「! 憂太!」

「ツナマヨ?」

「パンダくんと……狗巻くん……?」

「大丈夫か?」

「う、うん……って、パンダくん、腕、腕!」

「俺の腕は後からどうにでもなるから大丈夫だ」

「高菜」

「そ、そうなんだ……」

 

 ひとまずその返事をした後、周囲を見渡す。棘とパンダがいるのに、一人だけ足りない。

 

「……真希さんは?」

「っ……」

「要が、連れて行った」

「え、どこに⁉︎」

「分からん。けど……」

 

 要が連れて行った以上、ある意味無事だと言う確信はあった。

 そんな時だ。噂をすれば、と言うわけではないが、真希と真依が駆け寄って来た。

 

「憂太!」

「真希さんに……あれ、真希さんが二人⁉︎」

「「は?」」

「あ、いえごめんなさい……」

 

 ガチトーンだった。

 

「えっと……初めまして、じゃないか。交流戦ではー……ご迷惑をおかけしました……」

「いや私見てただけだから」

 

 去年の交流戦では、里香が出てしまって割と迷惑が掛かったらしい。まぁ、今はそんな話をしている場合じゃなくて。

 

「そんな事より……お前ら、さっさと隠れろ」

「何が?」

「さっきから地震あったでしょ。気付いてないわけ?」

「ぼ、僕は今、目が覚めたばかりだし……」

「そう言えば多いけど……なんかあったのか?」

「浮いてんだよ。高専の一部が」

「「は?」」

「昆布?」

「信じられねーのも分かるが信じろ。……要のバカが、馬鹿やってんだよ」

 

 悔しげに奥歯を噛んで言われる。真希と真依が今、弟関係で変な冗談を言うとは思えない、という意味では信じる他ないが……。

 

「えーっと……高専が浮いてるって、じゃあどういう意味で言ってんだ? ぷかぷか?」

「シキかよ。そうだよ」

「海の上とか、船的な意味でもなくて?」

「なんで海が出現するのよ、こんな山奥に」

「明太子?」

「あんたは何言ってんだかわかんないのよ!」

「てか、疑うのは勝手だが、さっさと身を隠すなりしねーと……!」

 

 その直後だ。遠くから、ギュンッと風を切ってハルバードが飛んでくる。おそらく流れ弾だろうが、この場所は巻き込まれかねないと言うことだ。

 が、それは誰にも当たることはなかった。里香がキャッチしたからだ。

 

「っ……里香ちゃん……!」

「ハルバードって……なんでこんなもんが……」

「とにかく、悟からの命令だ。今みてーな流れ弾にも当たらねー場所に逃げるぞ」

「五条先生から、ってことは……」

 

 戦っているのは、五条悟ということだろう。一応、もう一人に関しては隠しておいた。

 

「とにかく、端まで逃げるぞ」

「しゃけ」

 

 五人で移動を開始した。

 

 ×××

 

 フィールドに程良く呪具が散りばめられられた中、ようやく傑が仕掛けた。

 軽くジャンプし、空中にいる要に向かって突っ込む。

 

「要ー、ようやく本音で話せる時だね」

「黙レ」

 

 放たれるは左の刻印。大きさは、呪力を絞ってるのかそうでもないが、大きさと威力は関係ない。直撃する直前、傑は手に持っていた「N」の刻印を持つハンマーを盾にした。

 しかし、引き合うことはない。Nの刻印を消して、Sの刻印に塗り替えたからだ。

 それも傑は可能性の一つに入れていた。反発し合い、結局飛ばされる力を利用し、身体だけ真下に避けて両足を振り上げる。

 

「君はさっき、私達家族をストレスばかりだと言っていたね。その言葉は何処までが本音なのかな?」

「ウルせェ」

 

 読み切ったはずだが、その一撃を要は両膝を折り曲げてガードし、踏み台にしてジャンプした要は傑の頭から刻印を放った。それは直撃し、地面に叩きつけられる。

 それでも呪力でガードして着地すると、その辺の呪具を持ち、片手で五本ほど曲線を描かせて投擲。

 要はそれを両手で刻印を広げて止める……が、その止めた一瞬を利用して、傑は呪具を足場にして要の元に追いついてみせた。

 

「私の事は、確かに嫌いだったかもしれないね。今思えば、ラルゥやミゲル、真奈美達にもなんとも言えない態度を取り続けていた」

「ほざくな」

 

 接近し、左手を振るうが、それを要は後ろに下がりながら両手をかざす。しかし、自分は引き寄せられていないし、そもそも刻印は掌から出ていない。

 傑の目には元々刻まれている掌の刻印も見えていないが、何をしようとしているのかを反射的に理解し、身体を半身にして、一本は避け、もう一本をキャッチしてみせた。

 躱した一本は要がキャッチし、正面からメイスとハンマーがぶつかり合い、火花を散らす。

 

「でも……それを美々子や菜々子にも言えるかい?」

「っ……喧しイ‼︎」

 

 強引に腕を振り抜かれる。片腕の傑に対し、いつも以上の呪力を乗せた薙ぎ払いに、後方に傑は殴り飛ばされ、木の上に落下し、へし折って地面に背中を打ちつつも足を振り上げて受け身を取る。

 その傑に、要は手に持っていた武器を投げて牽制しつつ、接近した。刻印を用いた両手のコンビネーション。全神経を回避に集中させつつ捌きながらも、口を動かした。

 

「君の本音を見抜けなかった私の節穴にも、彼女達と一緒の時は楽しそうに見えたが……あれも演技だったのかな?」

「ウルせェって……言ってンだ‼︎」

 

 術式を起動し、強引に自分の元に傑を引き寄せると胸に膝蹴りを放った。後方に蹴り飛ばされた傑に、走って追いついて後ろを取ると、肘打ちを放とうとする。

 が、それを悟がカバーした。肘を掴んでキャッチする。

 

「おっと、これは当たったらヤバい奴」

「悟……すまない」

「死にかけのゾンビが無理すんな」

 

 そう言いつつ、悟は肘を掴んだ掌から術式を起動。赫によって、要の身体は後方に吹っ飛ばされる……かと思いきや、背中を地面につける直前、掌を背中の前に回して地面に向け、反発させて悟に反対側の手と片足を向け、刻印を放った。

 が、それは悟の周りで阻まれる。

 

「ははっ、似たような効果だけど、僕の術式の方が2歩くらい上みたいだね」

「オ前が、真希ねエちゃンを狂わした元凶か!」

「僕に気を取られて良いの?」

「っ⁉︎」

 

 直後、真横から呪力を込めた腕のない方の肩でタックルを叩き込まれる。ギリギリ刻印でガードしつつも、サイズが間に合わない。傑の体勢を軽く崩した程度で終わり、それを利用した裏拳が顔面に炸裂した。

 見事に当たり、要は距離を置く。

 

「うわ、傷口でタックルとか……お前マゾだったの?」

「どうせ死ぬのに、怖いものなんてあると思うかい?」

「でも、その傷でよくやるじゃん」

「仮にも、親代わりだ。彼の戦闘は何度か見てきたし、今の直情的な動きは読みやすい」

「なるほどね」

 

 確かに、と悟は微笑む。呪力は上がっているが、落ち着いてみていれば動きの一つ一つがワンパターンではある。おそらく、怒りで単純な頭になっているのだろう。

 

「それよりも悟、この土台を下ろす手立ては考えてあるのかい?」

「うーん……まぁ正直、思いついてるのは落下の前に粉々に吹き飛ばすってことくらい」

「……それは最後の手段にしよう」

 

 可能なら控えた方が良いのは悟も分かっている。そもそもそれをやるには、生徒達の避難も必要だ。

 そんな中、要にまた変化が起こる。両手に広がっている刻印を広げ、近くの呪具を二本、浮かび上がらせた。

 刻印を自身の周りを象るようになぞる。すると、その軌道上に持ち上げた二本の呪具も回り始める。

 

「多彩さ、加わったな」

「もしかして、アドバイスしちゃった?」

 

 一気に再び距離を詰めた。懐に潜り込まれたのは傑。まずは手負いから潰す算段か。

 トップスピードとも取れる最速の接近も、悟には見えている。傑の前に立ち塞がり、周回する呪具を無限で止め、要に手を伸ばす。

 が、要は目の前からジャンプして回避すると、その悟の後ろにいる傑の真後ろをとって手をかざす。そして、刻印を出し、押し始めた。

 

「グッ……!」

「チッ、そういうこと……!」

 

 前後から、無限と磁力による押し合い。このままでは、傑が潰される。だが、術式を解除すれば呪具によって悟が危ない。

 

「悟、私に構うな!」

「構うよ。お前は僕が殺すって言ってんだろ」

 

 そう言うと、悟は術式を維持したまましゃがみ、呪具の軌道から外れた。そうすれば無下限を切っても問題ない。

 そう思い、解除した直後だ。それを読んでいたように、要は傑の背中を蹴り飛ばす。術式を解除した以上、悟にも影響が出る上に、その足の裏から刻印を放った。

 後方に二人揃って転がされた上に、さらに後ろから押し込まれる。地面をズザザザッと転がされる中、傑がハッとしたような声をあげる。

 

「悟、後ろ!」

「チッ」

 

 すぐに理解した。真後ろにあるのは、地面に刺さっている刀。このままでは引き裂かれる。

 

「ごめん、傑」

「え?」

 

 すぐに理解した悟は謝ってから、両手で地面を殴り、段差を作って躓かせ、傑を真上に打ち上げた。

 

「っ……!」

 

 当然、この避け方は想定内だろう。要はすぐに傑に向かって距離を詰める。

 しかし、それを読んだ悟は一気に要の方へ走り込んだ。

 

「オイタが過ぎるよ」

 

 そう言うと、要に掌底を叩き込んだ。要も刻印を使ってそれを回避すると、悟から距離をおこうとする。

 が、それはさせない。そのまま悟は距離を詰めてラッシュを繰り出し、要はそれを回避し続ける。

 ガンガン攻めてくるので、足元に刻印を作って強引に振り切る作戦も通用しない。

 

「っ!」

「ほら、どうした。ねーちゃんたちと暮らすんだろ?」

「がァっ……!」

 

 直後、何を思ったか、回避をやめた。顔面に拳がめり込み、後方に殴り飛ばされる。

 もちろん、逃がさない。悟は高速移動で殴り飛ばした方向の後ろを取る。悟の蹴りが炸裂する直前、要は反発を利用して真上に跳ね上がった。

 

「!」

 

 転がりながらでは反発は出来ないはず……と、思ったのだが、その跳ね上がった真下にあったのは血のついた刀の呪具だ。

 元々ある刻印を反発に使い、逃げたということか。しかし、血がついているということは……。

 

「っ、はっ……はっ……!」

 

 予想通り、無傷での成功とはいかなかったらしい。左肩から出血している。子供だから、というわけではないが、見ていて痛々しさはある。

 

「惜しかったね、今のは」

「がァッ……!」

 

 すぐに要は再戦というように、悟に接近した。

 

 ×××

 

「ホントに浮いてんだけど」

「……す、すごいね……」

「しゃけ……」

 

 そう呑気に呟くのは、パンダと憂太と棘。これは傑と一緒に要がいなくてよかった、とホッとするほどだ。

 

「とにかく、降りるぞ」

「バカなのか? 死ぬだろ、普通に」

「僕が下ろすよ。……里香ちゃんに、もう一度力を借りて」

 

 そう言うと、後ろで待っていた里香と目を合わせる。

 

「ごめんね。良いかな?」

『も、もチロン……!』

「ありがとう」

 

 確かに里香なら安全に降ろしてもらえるかもしれない。戦闘中、憂太は刻印を使っていたし、いざとなったらそれを使えば良い。

 

「じゃあ、みんな。里香ちゃんの手のひらに乗って」

「俺がいるから、全員は無理だよな」

「なら、憂太。棘とパンダを先に頼む」

「え?」

 

 言われて、憂太は真希を見上げる。真希と真依は、真っ直ぐした視線で自分を見ている。弟の件で、他人より先に逃げるつもりはないらしい。

 

「……わかった」

「ま、もしかしたら下にいた方が危ないかもしれないしね」

「あ、あはは……じゃあ、行こっか」

 

 そう微笑みあって決めると、憂太はパンダと棘を里香に持ってもらって、下に降りる。

 残った真希と真依は、ぼんやりと地平線の彼方を眺める。綺麗なものだ。皮肉にも、二人ともこんな美しい景色は見たことがない。

 

「……全く、困ったものね。絶対、あなたの影響よ。この思い切りの良さ」

「バカ言うな。これだけ繊細な術式、私じゃ無理だ。間違いなくお前の影響」

「忘れてないから。侍ごっこでバカみたいに力込めて、要ボコボコにしてたこと」

「お前こそ、髪だの爪だの汚れるからって、全然遊んであげなくなった時あったの覚えてっからな」

「お風呂、要に『ゆっくりもっと暖まりなさい!』って怒られる姉が何抜かすわけ?」

「知るか。耳掃除してやってる時にくすぐった過ぎて文句言われてた奴のセリフか」

 

 顔を合わせれば、やはり喧嘩ばかりになってしまう。あの頃は二人ともまだまだ姉として未熟で、世話する時も遊ぶ時も、要を困らせてばかりいたかもしれない。

 まだまだ一緒にいたりない……そんな思いが強く胸を締め付ける。

 

「……ねぇ、真希」

「なんだよ」

「今夜、あんたんとこ泊まれる?」

「……寮のベッドで三人は無理だぞ」

「あんたはいらないから」

「は?」

 

 喧嘩しながらも、とりあえず決着を待った。

 

 ×××

 

 さらに、悟と傑、そして要の戦闘は激しさを増した。悟の猛攻を凌ぎながら、強引に距離を置いて遠距離攻撃を放つ要。

 その要に急接近し、傑の回し蹴りが顔面に炸裂……する前に両腕をクロスしてガードしつつ引き下がると、そのまま顔の前で両掌を傑に向け左手の刻印をつけて右手で引きつける。

 それを、横から悟の蹴りが邪魔しにくる。が、それをしゃがんで回避して引き寄せた傑をぶつけ、オーバーヘッドシュートのような蹴りで傑越しに蹴ろうとする……が、傑は悟を踏み台にして真上に回避し悟は術式でガード。

 その後、上から傑が要を踏み潰しにきた。

 

「っ……!」

 

 要は足元で刻印を発動。持ち上げたのは悟。それを傑にぶつけにいった。

 ぶつかる直前、悟は術式を使い、傑を掴んで空中で受け身を取りながら着地。そのまま近接戦を仕掛けに行った。

 要は両足から強引な地面への刻印を、反発の角度をつけて発動。地面を掘り返し、コンクリートを真下から襲撃させる。勿論、無限に阻まれて当たらないが、不意は突いた。

 両手で悟の周囲を、さらに両掌で刻印を貼り付ける。無限に阻まれるばかりだが、その後に続いて呪具が悟に迫る。

 

「そんな事しても、当たらないよ」

 

 それと同時に、無限を広げて呪具を跳ね返す。

 チッ、と舌打ちする要の後ろから、傑のラリアットと蹴り、そしてロシアンフックが炸裂。最後の一発はガードしたが、後方に下がられる。

 

「呪力が見えない戦いも、長く続けば割と慣れてくるね」

 

 少しずつ、要が取る手段に限界が出てきた。というか、頭が回って来なくなっているのかもしれない。

 悟は反転術式で脳をいつでも回復させているが、要は全ての刻印の位置を把握し、引き寄せて飛ばしてぶつけている。そんな戦闘がいつまでも続けば、それだけで頭が焼けそうだ。

 

「っ……はァ、くそっ……!」

 

 まだ戦おうとするのか走ろうとするが、フラリと身体が言うことを聞いていない。

 地面に膝をつき、それでも無理に立ち上がろうとした直後だ。額や掌、足の裏から血が吹き出す。

 その要に、傑が声を掛ける。

 

「……もうやめなよ、要。このまま戦っても勝てないよ」

「黙れ!」

 

 少し、冷静になって来ている。ボコボコにされて落ち着きを取り戻してきた様子だが、それでも荒ぶってはいる。というより、取り戻したからこそ荒ぶっている点もあるようだ。

 そんな要の様子を見て、傑は少し居た堪れなくなる。

 

「まだ自分に嘘をつくのかい? 分かるだろう。本当に君がやりたいことだって、本当はこんな事じゃないはずだ。君のお姉さん二人も、菜々子や美々子も……こんなこと望んでいない」

「うるせーって、言ってんだ!」

「言ってるだけだ。……もしかしたら、君は寂しかっただけじゃないのかい? 大物ぶって、色んな人を巻き込んで無視出来ない状況を作って、達観したフリをして思っても無いことを口にして……それで満足するような子じゃないだろう」

「黙れええええええ‼︎」

 

 傑の説教を聞きながら、要は頭を抱えて蹲る。

 だから、取り返しがつかない殺人などはしなかった。禪院家への恨みは強い癖に、人の見えない一面も目に入ってしまい、冷徹になり切れない。

 それ故にストレスばかりがズンズン積まれていった。

 

「さっき悟が言ったように、今ならまだ間に合う。こんな事はやめて……」

「黙れって……!」

 

 キッと傑を睨みつける要に対し、動き出したのは悟だった。目の前に行き、術式を解除して胸ぐらを掴む。

 

「お前……いい加減にしろよ」

「ッ……!」

 

 その声音は、まるで呪詛師を相手にしているように厳しい。

 

「お前のやり方で、今まで姉を守れた事が一度でもあったかよ」

「え……?」

「真希が高専に来て殺されかけた回数は二回。その二回とも、真希を助けたのはお前じゃない。憂太だ」

「…………」

「知りもしなかったってツラだな。今だって、お前は姉の事を殺しかけてんだろうが」

「っ、そ、それは……そもそも」

「そもそも高専が殺されかけるような環境にした方が悪い、か? 真希や真依が呪術師になるのを選んだのはお前の所為だろ」

「……え?」

 

 ポカンとするように顔を上げた。漆黒の瞳は、戦闘中の時の不気味さを完全に控えさせ、涙腺が弛んでいる。

 

「お前が親に刺されて捨てられて、お前を助けるために呪術師になったんだよ、あいつは」

「……俺が、真希ねーちゃんを……呪術師に……?」

 

 完全に力が抜け、要の表情から力が抜ける。手を離すと、要の身体は完全に力が抜け、地面に膝をついて項垂れた。

 

「傑の家族だっていたが、それに頼ろうとしなかったのもお前。真希と真依以外を信用しないで敵ばかり作ってきたのもお前。結果的に誰も彼もを裏切って来たのも、全部お前だろうが。……少し前に憂太に言ったことを思い出してみろ。『何、被害者ヅラしてんだ』」

 

 言い返す気力もなく、要はそのまま覇気のない顔のまま動かなくなる。

 悟は、そのまましゃがんで要の肩に手を置く。さっきまでの厳しい声音と変わり、優しく諭すように告げた。

 

「……二人を守れるようになりたかったら、もっと周りを見る努力をしろ。呪術師だから信用出来ない、じゃダメだ。一人一人の中身を知っていけるように。真希や真依以外にも信用できる人を作れるようになりなさい。呪術師は皆、力の無さに嘆いている。でも、君にはそれがある。足りないのは、そういうところだよ」

「…………」

 

 返事はない。だが、悟の目にも要の中に攻撃的な呪力は見えない。ようやく落ち着いた、と言っただろうか。

 

「お疲れ様、悟」

「それはお前だろ。……まだ生きていられるか?」

「いや……実を言うと、もう割と意識はギリギリだよ」

「そこまでしなくても良いだろ。ぶっちゃけ僕一人でもなんとかなったし」

「悪いけど、そうはいかないよ。……半分は、私の責任だからね」

「……」

 

 傑はフラリと立ち上がり、要に声を掛ける。

 

「要……すまないけど、これで最後だ」

「っ、な、なんだよ……!」

 

 虚勢だけの強い口調が来るが、傑は気にした様子なく続ける。

 

「私はもう、長くない。この出血量でさっきまでの激しい運動だ。もうすぐ死ぬ」

「……で? なんだよ」

「だから、頼みがある」

 

 言われて、要は小首を傾げる。自分に対して頼み? と、少し意外そうに目を見開く。

 

「菜々子と美々子を、頼むよ」

「……え」

「他の家族はともかく、二人はまだ子供だ。……君も、時折二人には素を見せることがあっただろう?」

「……俺に?」

「君だから、だよ」

 

 言われて、要は少しだけ俯いた時だった。ふっ、と三人を囲んでいる要の術式が消えたことに気付き、要と悟は空を見上げる。

 直後、大地が大きく傾いた。

 

 




闇落ちを期待していた方には大変、申し訳ありませんが、私にそんなメンタルはありません。

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