勇者にはなれない   作:高円寺南口

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第2章 ルナティア編
12 無職、仕事にありつく


 港街ルナティア。

 ネロウィング海峡に面し、ヴェルダン川の河口に位置するこの港湾都市は、古来よりネウストリアの玄関口として栄えてきた。

 

 近年は、国が魔王討伐に向けて積極的な開放政策を展開したため、中央大陸からの移民・異種族の流入が急増し、名実共にロゼッタに次ぐ、ネウストリア第二の都市として成熟を遂げている。

 また、ギルド『クライン』の本部が置かれているのもこの街である。

 

 三日ほどの旅路の末、ようやくルナティアにたどり着いた俺は、安宿を抑えたのち、ロクに風呂にも入っていない臭そうな身体のまま、ギルド『クライン』の本部に向かった。

 

 出頭するためではない。

「すいません僕世界なめてました。もう冒険やめます」と懺悔するためでもない。

 

 いや確かに、この町にたどり着くまで割と命がけだった感は否めない。

 

 最初にコボルト二匹とインプ一匹を仕留めたあとに、これ一々まともにモンスターと戦ってたら体力もたんわと気づいて、以後極力戦闘を避けるべく、気配を遮断して移動し、野営の際は苦手な索敵結界を駆使して安全レベルを最大限にまで引き上げ、結果神経をすり減らしてクタクタになり、途中すれ違った商人一向に「うわ!! なんだ、モンスターと思ったら人か……びっくりさせんなよもーう……」と言われて落ち込んだり、まあ色々あった。

 

 それもこれも、親父から受け取った鞄には、パンとチーズと水筒と1000フラン、以前アリシアからもらった『オリヴィエの歌』しか入ってなかったせいだ。

 

 せめて薬草と聖水くらいは入れといて欲しかった……暇つぶし程度の重たい書物には気が回るくせに、肝心の必需品を入れてないのは、いかにも親父らしい。

 まあそれだけ、親父も慌ててたんだろうが……

 

 さて、ギルドに向かったのは、仕事を探すためだ。

 一言でいえば、金がない。

 

 ルナティアから対岸のアルルに渡るには、以前述べたように客船を利用する必要があるのだが、運賃の最低単価は三等客室の5万フラン。

 俺の手持ちは、親父がくれた1000フラン。どう見ても、足らん。

 

 そんな訳で、働く。

 

 無職の誇り? 

 え……何言ってんの頭大丈夫? こ、心は永遠に無色ですしおすし……

 

 今や色々手広くやりすぎて、一体何やってんだかよくわからんギルドになりつつある「クライン」だが、元をたどれば冒険者ギルドとして出発している。

 

 人々から広く依頼を募り、ギルドは受注者を公募もしくは登録された人材の中から斡旋し、依頼を達成した者には、依頼の難易度に応じた報酬が支払われ、ギルドは双方から手数料という名のピンハネで暴利をむさぼり、みんなハッピーウィンウィン♪ 

 

 ざっくり言えば、そういうシステムだ。

 第三者が間に入ることで、公平な金の流れ担保されるという点で、よくできたシステムだと思う。こういうのは個人間でやろうとすると、言った言わないのトラブルが付き物だからな。

 虚業と言って、叩きたくなる奴の気持ちもわからんでもないけど。

 

 運河にかかる橋の上からは、無数の渡し船が行き交っている姿が見えた。

 大通りをしばらく歩いて、賑わう市場を抜け、カモメが飛び交う波止場の近くに、クラインの本部はあった。

 

 さすがは今をときめくギルドの本部ということもあって、煉瓦造りの小洒落たモダンな建物だった。

 こう言っちゃアレだが、お国の役場よりも、遙かに金のかかった立派な造りをしている。さぞかし儲かっておられるんでしょうなあ……ウハウハなんでしょうなあ……

 

 マスターの野郎、やがてはクラインの影響力を利用してアヴァロニアを牛耳るとかほざいてたが、あながち妄言とも言い切れないのが恐ろしいところだ。

 世の中結局金が全てとは、まったく嫌な時代になったもんだ。

 

 中に入ると、冒険者とおぼしき連中がゴロゴロいた。

 

 傭兵に拳闘士にシーフ、魔法使いに哨士(レンジャー)、小ドラゴンを連れている女の子は獣使い(ビーストテイマー)かね……。

 種族も多種多様で、ドワーフや蜥蜴人(リザードマン)もいる。猫耳族の可愛い女の子はいなかったし、色気たっぷりのエルフのお姉さんもいなかった。残念。

 

「よおボウズ! 見ねえ顔だな。ここは初めてかい?」

 

 突然オッサンに肩を抱かれて、そう話し掛けられた。ゴリゴリのゴツい筋肉に、イカつい顔つき、モヒカン。

 お、おう……できれば大人のお姉さんによるエスコートをお願いしたいんだが……

 

「おお、やっぱりそうかよ。ならまずは奥の掲示板に行ってみろ。大小問わず、色んなクエストが貼り出されてるぜ。受けたいクエストが決まったら、向こうのカウンターに行くんだ。ついでに冒険者の登録をしておけばいい。一度登録すれば、以後達成したクエストの実績が記録される。実績はもちろん、他の街の支部でも、引き継くことができるぜ。さらに希望すれば、ランクへの登録だってできる!」

「ランク?」

「おうよ。職業別に、強い奴を上から順に並べたモンだ。有名どころだと、こないだロゼッタで御前試合をした戦士のゴライアスや、魔法使いのドロシーだな。単純な力や魔力に加えて、習得しているスキル、達成したクエストの実績……定期的に義務づけられた自己申告と、第三者審査会の評価によってポイントが決まるんだ。勇者クロノアの仲間は、コイツを基準に選ばれるとの噂だ。今ならまだ、勇者の仲間になれる可能性だってあるんだぜ!」

 

 ほーん……俺が登録すると、ポイントがゼロどころかマイナス突破しそうだな。主に日頃の行いとかいう理由で。

 オッサンに礼を言うと、彼はガハハと豪快に笑って、俺の肩をバンバン叩いた。

 

「お前の行く道に、幸なきことを願ってるぜ! せいぜい死なない程度にくたばれよ、この命知らず!」

 

 惜しみない激励を送り、彼は陽気に、入口の方へ去って行った。

 

 んもう、素直じゃないんだから……古き良き時代のツンデレを彷彿とさせるオッサンだったが、ああ見えて実はギルドの構成員なんか? 入口でいかにもビギナーくさい奴をつかまえて、案内するだけの簡単なお仕事なら、俺も是非それやらせてほしいんだけど……

 

 オッサンの案内どおり、奥の掲示板に行くと、なるほど彼の言ったとおり無数のクエストが貼り出されていた。

 モンスター退治、商品輸送の護衛、要人のボディーガード……この辺は主に前衛の職業向けだな。定員十二人、厳正な審査を行った上で三パーティを編成し、村人を悩ませるグリフィンの巣を殲滅するといった大がかりなクエストもあった。

 

 お? なになに……「なんと! あの戦士ランクトップの、ゴライアスが参戦決定!!」だって?

 チラシの下部には、似ているようで絶妙に似ていないゴライアスの似顔絵が描かれており、吹き出しに「君の参戦を待っているぞ」と書いてあった。

 

 お、おお……ランクトップにもなると、こんな風に客寄せマスコットとしても担ぎ出されるのか……有名になったらなったで、色々大変なのね……

 運営側との癒着具合が、よもや隠しきれないほどににじみ出ていて、少し哀しい気持ちになる。自由とは何かと、深く考えさせられるな……

 

 こうなりゃ、ドロシーも負けていられないんじゃないか。

 「ドロシーさんと行く! 一泊二日弾丸馬車ツアー☆」とか、運営さんに企画してもらえよ。

 

「ドロシーさんと行くネウストリア絶景巡りに、モンスター狩り……夜は狩ったモンスターを調理して、晩餐会ならぬ魔宴(サバト)を開催いたします! しかも今なら、ドロシーさんから『みすぼらしい豚には、この程度の貧相なメシがお似合いよ』と罵られるキャンペーン実施中!」とか謳えば、参加費5万フランでも応募者殺到するだろ。知らんけど。

 

 そんな風にぼけーっと、クエストの貼り紙を眺めていると、不意に隣から話し掛けられた。

 

「君……中々できるな」

 

 声がした方を見ると、そこには重厚な装備を纏った騎士風の男が立っていた。

 年頃は俺より少し上、顔立ちは俺よりイケメン。青みがかかった髪の色から、おそらくネウストリアの人間ではない。他国から渡ってきた冒険者だろう。

 

「うだつの上がらない風采、無駄な筋肉を一切つけていないのは、相手を油断させるための布石。そして常に左足を一歩下げているのは、いつ誰に襲われてもすぐに剣を引き抜けるようにするため……違うか?」

 

 内心何言ってんだコイツと思ったが、面倒くさいので、「ああ。癖になってんだ、左足下げるの」と適当に答えておいた。

 すると、男は小刻みにうなずき、俺の目をまっすぐ見た。

 

「やはり、その佇まいと言い、只者ではないと思っていたよ。行くんだろう? グリフィン討伐……ゴライアスも参加するらしいからな。君と一緒にパーティが組めることを、楽しみにしている」

 

 俺は目を細め、したり顔でうなずいた。

 

「ああ」

 

 男はフッと笑い、その場から立ち去った。

 むろん、行く訳ない。

 

 みんな仲良く徒党を組んで手を取り合って、一つの目標に向かって何かを成し遂げるとかいうのが、俺には絶望的に向いてないんで。

 達成感とか言われても、「もうこれ以上集団行動しなくていいんだなイヤッホゥ!!」って達成感が先に来るし。あ、それは達成感じゃなくて解放感か。

 

 第一、十二人もいたら、「嗚呼。何をどうあがいても、コイツとは一生わかり合えることないわ」ってヤツが、一人や二人混じってるのが世の常だからな……そういうの考えただけで、「あ、自分もういいです」って気分になるわ。

 さーて、俺に向いてるクエストは――

 

 回復薬に必要な材料集めと精製のお手伝い、グリモワールの翻訳、商品の積荷・輸送の肉体労働、鉱山への武具の素材集め……うーん、この辺かな。一件一件の報酬は少ないけど、こういうのチマチマこなしていく方が、性に合ってる。

 

 一応、王立ロゼッタ魔法アカデミー中退(正確に言うと、規定の年数までに必要単位を取得できなかったため、強制退学)の経歴を持つ俺にとっては、グリモワールの翻訳がもっともふさわしかろうと思われたが、よく見ると、カミカタ語に翻訳と書いてあった。

 南洋の、世界で一番文法が難しいとか言われてる言語だ。

 

 えぇ……んなマイナーな言語習得してるヤツ、この島国にいないだろ……

 翻訳したところで、東洋魔術のグリモワールなんて、需要あんのか? ただでさえ、西洋魔術全盛の時代なのに……

 

 薬学は魔術にも通じるところが多分にあるので、無難に薬師の手伝いでも志願しようかなと思っていたところ、ふと妙ちきりんなクエストを見つけた。

 

「お?」

 

 そこにはこうあった。

 

 魔法指南役、募集中――

 

 

    *

 

 

 依頼主は、モンフォール家。

 一世紀半ほど前の大航海時代をきっかけに、一大勢力を築いた豪商の末裔だ。

 

 まだ見ぬフロンティアを求めて、良くも悪くも熱に浮かされていたあの時代は、香辛料だの茶だの絹だのを、異国から格安の値段で仕入れて、自国でバカ高い値段で売りさばく商法が一大ムーブメントを巻き起こし、一代で巨額の富を成す商人が、そこら中にワラワラ現れた。

 そうした重商主義の発展に伴い、両替や為替、金融を主な業務とする商人たちが現れる。のちに銀行家と呼ばれる連中だ。

 

 モンフォール家は、この銀行業で大きな成功を収めた。

 

 商人から王侯貴族への積極的な融資に加え、為替・両替の請負、海運業への投資により次第に頭角を現し、今やアヴァロニアの名だたる主要都市には必ず、モンフォールの手足とでも形容すべき立派な商館が建っている。

 

 清廉潔白を意味する柊に、魔除けの象徴でもある鹿の角を模した紋章と言えば、東洋じゃよほどの田舎者でもない限り、知らない者はいないはずだ。まさしく、金持ちオブ金持ち。

 最大の顧客はイリヤ教団と言えば、語らずともその凄さが理解できるだろう。ネウストリア王家やクラインだって、こいつら相手だと頭が上がらない。金貨を貫く剣はないって、誰が言ったか知らんが、(けだ)し名言だと思う。

 

 近年はその財力を背景に、政府にも多大な影響力を有していると聞く。

 第三次東征だって、こいつらの協力なしには成功どころか、そもそも成立しえないだろう。

 

 まあ色んな意味で恐ろしい連中だ。

 裏社会のドス黒い部分ともつながっているとかいないとか、まことしやかに噂されてるし。下手に敵に回すと、生きて再びネウストリアの地を踏むことはできない。冗談でも脅しでもなくて、マジでそうなんだから笑えない。

 

 さて、そんな神をも畏れぬ一族ことモンフォールさん家が、ギルドで堂々とご子息の指南役なんざ募集してやがるもんだから、当然目を疑った。

 依頼内容は、三女への魔法学の教授。

 

 魔法学?

 おいおい……ネウストリア始まって以来の天才魔術士(ただし、現在は諸事情により無職)と謳われた俺のためにあるようなクエストじゃねーか。

 

「ああ、それねえ……うん。嘘じゃなくてマジモンのモンフォール家よ。お屋敷で代々指南役勤めてたおじいちゃんが、腰いわしてしばらくお休みになって、ウチに話が降りてきた案件なんだけど……うーん。正直やめておいた方がいいと思うわよ。みーんな、三日も経たないうちに放り出されたから」

 

 目元のほくろと、第一ボタンを外したシャツの下の膨らみが気になる窓口のお姉さんは、渋い顔でそう言った。

 「先方に問題があるってことですか?」と俺が訊くと、お姉さんはさらに難しそうな顔を浮かべた。

 

「うん、まあ……手が焼けるというか、一筋縄じゃいかない子らしくて。育ってきた環境が環境だから、仕方ないんだけどね」

 

 お姉さんはお茶を濁した言い方をしたが、要するに生まれてこの方、「流石でございます」、「滅相もございません」、「ビバ! お嬢さま!」の三拍子の太鼓持ちに囲まれて育ったガキなんだろう。

 金持ちのボンボンにはよくある話だ。ドンドコドンのボンボコボン。媚びへつらわれる側の本人には罪がないだけに、余計に罪深い。

 

 普段ならクソガキの相手とかマジ勘弁となるはずの俺だが、一日二・三時間適当におべんちゃらをかますだけで、日当1万フランという破格の報酬を前に、簡単に引き下がる訳にはいかない。

 金こそ全て。All you need is money.

 

「魔法に造詣が深いこと及び魔法学を修めたことが条件、ってあるんですが」

「ああ、うん。要は趣味の片手間で詳しいだけの人はお断りってことよ。魔法アカデミー出身とか、宮廷魔術士として国に仕えていたとか、経歴にある程度の箔がついていれば問題ない。帝国で言うところの、国家魔術士みたいなね」

「国家魔術士?」

「知らない? アイゼンルートは五年ほど前に魔法のライセンス制を導入して、国家魔術士としての認定を受けていない者が魔法を研究したり行使することを、法で一律に禁止したのよ」

 

 ほーん……要はアイゼンルートじゃ魔法使いイコール国家公務員ってことなのか。

 お国に飼われた犬とか、自由と創造を尊ぶ魔術士の名が泣くぜ……と言いたい所だが、食い扶持の心配をせずに研究に没頭できる環境とか最高じゃねーか。早い話が政府がパトロンやってくれるってことだろ。羨ましすぎる。

 クッソ、俺もアイゼンルートに生まれたかった……

 

「教えるのは、東洋魔術でいいんですよね? 一応、俺魔法アカデミーの出身なんで……まあ中退ですけど」

 

 お姉さんは俺の履歴書にざっと目を通してから、言った。

 

「うん。いいんじゃない? 中退って言っても、こういうのって、入学が一番難しいんでしょ。しかも入学したのって十三歳の時じゃない。これっていわゆる飛び級? はーん……さらに東洋の言語はほぼマスター、メテオラ語も習得済。アイゼンルート語も、日常会話程度なら可能……へー、魔法使いはグリモワールを読み解く上で、三・四カ国語くらい当たり前に使えないと話にならないとは聞くけど、大したモンじゃない。メテオラ語で、火と水は?」

「イグニスとアクア」

「じゃあ氷は?」

「グラキエス」

「正解。合格♪」

 

 やったー! 合格だー!! 

 って、コラ。いかんでしょ。

 

 俺が言うのもアレだが、こういうのって証明できるものとか示さないとダメなんじゃないの? 

 しかし、お姉さんはシャッシャと書類の記入を済ませて、ドン! と認可の判を押した。一体何にお墨付きを与えたのかね君は。僕のうさん臭さかな?

 

「しかしまあ……それなりに学のある人間が、今まで何人も追い返されてきたんですよね。ちょっと怖くなってきたな」

「私はむしろ、そこがポイントだったんじゃないかと思うけどね」

「ポイント?」

「ほら、学のある人って、得てしてプライドも高いじゃない。子供の目線に立った教え方なんてできるのかなーこの人って思ったら、案の定……ってパターンが大半だったのよね。それに、余りこういうこと言うべきじゃないんだろうけど、『これをきっかけに、あのモンフォール家にお近づきできる!』みたいな魂胆がミエミエでさぁ……依頼の内容に応えるのは、二の次三の次って感じはあったのよ」

 

 あー……なるほど。

 要はこのガキんちょは、体良く利用されていたってことか。

 

 当人からすれば、さぞ不愉快だっただろう。いい年こいた大人が、どいつもこいつも、隙あらば取り入ろうとしてきたら、そら嫌にもなるわな。特に女の子は、そういうの理屈抜きですぐ見抜くし。

 

 一昔前までは、魔法使いと言うと、「ずっと洞窟の奥で暮らしてきたの君?」って疑いたくなるような社会性ゼロのコミュニケーション不全野郎が大半を占める、古き良き黄昏(たそがれ)の時代が続いていたのだが、最近はそうでもなくなってきてるからな。

 一言でいうと、チャラくなってる。

 

 それもこれも、ウイッチクラフトの登場で、魔法を習得するハードルが大幅に下がったことに起因している。ちょっと前までなら、戦士や狩人でも目指していたはずの頭くるくるパーの連中が、簡単に「魔法使いに俺はなる! ドン!」とか言える時代になってしまったのだ。

 

 そしてこういう連中は、持ち前の行動力や立ち回りの器用さを活かして、いとも簡単に仕事を取ってくるもんだから、昔ながらのオタク気質の魔法使いからしたらたまったもんじゃない。

 口先だけで、技術的には格下のはずのアイツが、俺より収入多いなんて……ムキーッ絶許! となること必定である。

 

 まあ良く言えば、魔法使いもようやく戦士や神官に並び立つ人気職の一つになれたということなんだろうが、悪く言えば、先人が連綿と紡ぎ上げてきた神聖にして不可侵なる魔術の領域を、浅はかでミーハーな俗物ごときに訳知り顔で踏み荒らされてたまるかという話だし、お前達陽キャは俺たち陰キャからどれだけ奪えば気が済むんだという話でもあるし、とりあえず死んでくれないかなという話でもある。

 何コレほとんど悪くしか言ってない。

 

「では明日午後1時、モンフォール家に直接向かってください。地図はこれね。雇用期間は、腰いわしたおじいちゃんが戻ってくるまでの三週間ですが、先方の都合により打ち切られることもあります。オーケー?」

「わかりました。何か持って行くものとかあります?」

「持って行くモノ?」

 

 お姉さんはぱちくりと目を開けたまま静止していたが、やがて合点がいったかのようにうなずき、トンと自分の胸を叩いて俺にウインクした。

 

「ハートよハート。くじけぬ、こ・こ・ろ♡」

 

 俺は目を細めて、「ハハハ」と笑った。

 無人島に一つだけ持っていくモノじゃねーんだぞ。ひょっとして、このクエストが失敗続きな最大の原因は、この受付のお姉さんのハンパないテキトーさにあるのではなかろうか。

 

 やっぱ真面目に働くとか、クソだわ。

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