勇者にはなれない   作:高円寺南口

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幕間②

 トンテンカンテン、と小気味のいい音が工房に響く。

 作業が一段落すると、エルレインは手にしたハンマーを置き、額に滲む汗をぬぐった。そして、窓の外に続く空を見た。

 

 親友のニケが旅立ち、すでに一ヶ月が経とうとしている。

 

 順調にいけば、今頃アルルに渡っている頃だろうか。

 彼の近況は、先日届いた手紙で概ね把握していた。モンフォール家で家庭教師をしているという意外な展開に、最初は驚いたが、よくよく考えてみれば、人にモノを教えるというのはアイツの天職なような気もする。

 

 彼は昔から黙々と一人で知識を蓄えては、自分なりの独自の解釈に変換して、他人に面白おかしく理解させるのが上手だった。子供の頃から、他の誰よりも彼のウンチクを側で聞いてきた人間だから、それがよくわかる。

 

 本人にその自覚がないというか、他人にわからせることを目的に知識の研鑽に励んでいるつもりがこれっぽっちもないくせにそれができてしまうのが、彼という人間のよくわからん所ではあるが、逆に言えば、それは才能があるということなんではなかろうか。

 使いどころが、自分と彼という限定された世界に留まっていたから、自覚する機会がなかっただけの話なのかもしれない。

 

 自らの思わぬ長所を自覚した瞬間、彼の人間としての幅はさらに広がっていくような……そんな気がした。

 

 再びここに帰ってきたその時は、全く別の人間になっているかもしれないなと、ふとそんなことを思う。

 それはそれで、彼の昔を知る人間として、後ろ髪を引かれる思いもするのだが……

 

 しかし。

 相手があのモンフォールか……偶然にしては、タイミングが良すぎるような気もする。誰かがまるでニケがやってくるこのときを待っていたかのように、裏で手を回していたと推測するのは……さすがに自分の考えすぎか。

 誰かが誰と言われると、まああのギルドマスターしかいないのだが……

 

「おい、エルレイン。ちょっといいか?」

 

 父親の声に、エルレインは思考を中断して、顔を上げる。

 

「マッケライの野郎が来てる。なんか取り乱しててよ……お前に話があるみたいなんだ」

 

 マッケライといえば、うちの店の常連で、戦士ランク五位の人物。

 御前試合でドロシーを見て以来、「俺は彼女に心を奪われてしまったんだ……」とか吹聴しては、戦士の風上にも置けないと同業者からひんしゅくを買っていた、早い話が頭も口も軽い男である。

 

 エルレインは立ち上がり、店頭へ顔を出す。そこには尋常ではない様子で、カウンターで項垂れるマッケライの姿があった。

 

「エル……大変だ。大変なんだ!! 俺のドロシーが、ドロシーが……うわあああああああああん!!」

 

 何を言ってるのかよくわからない。

 ドロシーに彼氏でも発覚したのだろうか?

 

 マッケライが握りしめてクシャクシャになった新聞紙を丁寧に引き伸ばし、目を落とす。そこにはこうあった。

 

『勇者の仲間選びに衝撃! ドロシーがギルドランクから姿を消す!!』

 

「え?」

 

 記事を要約するとこうだ。

 

 魔法使いランク一位に君臨し続け、御前試合でゴライアスにも勝利を収めたドロシーが、突如ギルドのランクから抹消された。クラインの関係者の話によると、本人から脱退の申し出があり、これを受け入れた結果とのこと。一方的な申し出であったため、理由についてはクラインも把握していない……

 

「でゅるうわあああああぎゃあああああああ!! ちくしょう、ちくしょう……こんな想いをするくらいなら、花や草に生まれたかった……ちくしょう、ちくしょう!!」

 

 やかましいマッケライを完全に無視し、エルはごくりと唾を飲み込んだ。

 

「嘘だろ。ドロシーは、勇者の仲間になるんじゃなかったのか……?」

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