勇者にはなれない   作:高円寺南口

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 アルバ・ユリアまでは、およそ十日。

 早馬なら一週間前後の道のりだが、中継地点のアラドからは馬車を引き連れての移動となるので、差し引きで十日になるという計算だ。

 

 例のチュウタツ・コウメイ姉妹の風水術には、シチセイ壇?(ようわからんが、儀式にマストでスペシャルな祭壇らしい)を築いて、三日三晩の祈祷が必要なんだとか。

 

 そのため、二人が属するγ隊は、作戦会議終了後、そのまま現地へと急行した。

 αからδの部隊は、アラドで装備を調えてから、遅れて合流するというスケジュールだ。つまり、俺たちが現地に到着する前後に、ちょうど雨が降り始めるという計算である。

 

 そんな訳で、後続する三隊は道中急いだ所で詮がなく、これから皆で仲良くぶどう狩りにでも行くのかというくらい、のんびりしたペースでの旅路が続いた。

 

 街道沿いの宿駅を利用しつつ、アンブロワーズを通過して、アルルを発って五日目にトランシルヴェスタの首府アラドへと到着。

 

 先行していたバルザック家の別働隊から、食料や霊薬に弓矢といった物資が積み込まれた荷馬車を受け取り、休む暇もなく、アルバ・ユリアへと向かう。隊長格の話し合いで、β、α、δの順に出発することになった。

 

「てめェの所のヤマを解決してやろうって来てんのに、ロクに歓待もなしかよ。これだから田舎者は……」

 

 と、例のオラつかずにはいられない二十代・男性・職業傭兵がまたぞろ文句を垂れていたが、さもありなん。

 ちゃっかり通行料をせしめたどこぞのアンブロワーズと違って、フリーパスなだけ有り難いと思えということなのか、あるいは……賢者曰く、タダより高いものはないと言うからね。何か裏があるような気がしてならない。

 

 アラドを離れ、視界を高い山々が埋め尽くすようになった七日目に、初めて野営(キャンプ)を行うことにとなった。

 

「ここから先は、たぶんずっと野営続きだな」

 

 馬上のルチアが、下馬した俺に向かって言った。

 

「トランシルヴェスタは、アヴァロニアの中でも指折りの田舎だからね……一口に六大諸侯といっても、各々の経済力には大きな隔たりがある。街道の整備一つ取っても、こことアルルじゃ雲泥の差だ。まして農作物も取れない冬となると、人の往来もぐっと減るだろうし、まともに営業してる宿駅なんて、この先ないと思った方がいい」

「宿駅以前に、そもそも本当に人が住んでるのか疑うレベルだけどな。獣しかいないんじゃねーの」

 

 ルチアが珍しく鼻で笑った。

 

「言えてるね」

 

 スタッフと共同作業でテントの設営を終えると、その辺の森から適当に木の枝を集めてくる。

 簡易魔法で火をつけると、炎がぼうっと勢いよく燃え出した。

 

 ふーっと深呼吸をついて、石の上に腰を下ろす。

 ふと隣を見れば、ルチアが薪をナイフでさらに細かく切って、丁寧に木組みしてから火をつけていた。手元には後でくべる用に、大きめの木を残している。

 

 マメなやっちゃな……どうせ冬で乾燥してるしすぐ燃えるんだから、そんなもん適当でよくない? 

 この辺り、露骨に性格が出ますね……

 

 まあ性格の話をするなら、同じたき火を囲もうっていう発想がお互い皆無な時点でもうね。グループなのにソロ。ダメだコイツら、まるで協調性がない……

 

「あンだお前ら、そんなとこでチマチマと。どうせだからこっち来いよ」

 

 全然ゆるくない俺たちのガチキャンパーぶりを見かねたのか、ヌシに声を掛けられる。見れば、俺やルチアの数倍のデカさはある焚火を作っていた。

 おいおい……火の精霊でも召喚すんのか? やっぱ図体がデカいと、サイズの基準が人間やエルフとはまるで違うんだな……

 

「僕はいい。ようやく火が安定してきたんでね」

「遠慮すんな。おめェらの分のメシも用意してある」

「いや、遠慮も何も、自分の分は自分で用意するよ……」

「あンだよ。エルフには、皆で同じ釜のメシを食うって文化はないのか? 寂しい種族だねェ」

「ベタベタするのが嫌いなだけだよ」

 

 火を育てることに熱心なルチアさんを尻目に、俺はさっさとヌシが待つ焚火の方へ向かった。

 ガイラルの隣に腰を下ろすと、丸太のトーチ? のようなものを渡された。六等分に切れ目の入った丸太の内側から、炎がぼうぼうと立ち上っている。

 なんぞこれ。

 

「変わってるだろ。カルマルトーチという。針葉樹の多い私の故郷では、一般的なトーチなんだ」

「へえ……出身はどちらなんで?」

「ノルカ・ソルカさ。先の大戦で著しく評価を落とした先代騎士王のお膝元と言えば、ピンと来るだろう」

「ああ、あの……何でそこからまたアルルに?」

「アタラクシアの修道院を出たあとは、私も冒険者をやって、パーティを組んだりもしてたんだが……紆余曲折あってね。ソロで各地を転戦してるときに、とあるミッションでヌシと一緒になって、バルザック家に仕えないかと誘われたんだ。そして今に至る」

「へえ……じゃあ、ヌシとは付き合い長いのか」

「そうだな。かれこれもう、組んで五年くらいにはなるか……専ら護衛や怪物退治を生業にしてきたが、お互いしぶとく生き長らえているのには、我ながら感心するよ。昨日隣で同じ釜の飯食ってた奴が、次の日には冷たい骸になってるなんて、この仕事じゃザラだからな」

 

 そうこう話しているうちに、ルチアが現れた。

 ヌシとの押し問答の末、観念してぼっち飯をあきらめたらしい。殊勝なことだ。ぼっち飯は俺の専売特許だからな。

 

 ルチアは片手には金属製のグラスを持っていた。もうもうと湯気が立ち上っている。

 

「お? 酒かソレ?」

「そんな訳ないだろ。白湯に、カモミールのハーブを濾したものだ」

「飲み物まで堅苦しいンだナおめェは。修行僧かよ」

「うるさいな」

「俺の分はねェのか?」

「ある訳ないだろ」

 

 ヌシが「グシシシ……」と歯を見せて笑う。

 そしてデカい酒甕から、盃に豪快に酒をついだ。見た目に似合わず、中身はワインのようだ。怪物の生き血でも啜ってるのかと思ったよ。

 

「なんだよ。じゃあ酒が飲めるのは、俺とニケだけか」

「四六時中、葬式の時ですら酒を飲んだくってる種族は、人間とオークくらいのものだよ。品性を疑うね」

 

 トンガリ☆ボーイのトンガリ発言はさておき、「はて?」とガイラルの方を見ると、

 

「ん? ああ、飲めないんだよ私は。北方人のくせに、情けないことに下戸でね。ニケはどうなんだ」

「俺はまあ、吐いてからが勝負と思ってる程度には嗜みますよ」

「それ、嗜むって言っていいのか?」

 

 そう言ってルチアが冷めた目を浮かべると、ガイラルが鼻で笑った。

 

「ノルカ・ソルカには、酒との付き合い方と、恋人との付き合い方は概ね一致するという格言があってな」

「でもよガイラル。それって、おメェみたいに全く飲めないヤツの場合はどうなるンだ?」

「さあな。所詮酒飲みが考えたことだ。度し難いという点以外は、極めて度し難い」

 

 ヌシから酒を頂戴し、盃を交わす。それから、少し早い夕飯にありついた。

 

 塩漬けした肉や、魚の燻製を火であぶったものに、キャベツやニンジン、タマネギにカブにソーセージに豆類を煮込んで、香辛料で適当に味付けしたスープ……

 

 オークの飯と言うからには、豪快に骨付き肉でも食うのかと思ったが、意外に凝った飯で驚いた。ヌシったら、見かけによらず、違いがわかる男なのね……

 特にスープはダシの味が絶妙に出ており、即席にしては上出来すぎる。

 

「そうだ。スープにコイツを入れてみっか」

 

 そう言って、ヌシが袋から取り出したのは、真っ赤な……野菜? 中央に緑色のヘタがあることから、植物であることは間違いなさそうだが……

 

「何だそれ」

「トメイトゥーだ」

「トメイトゥー?」

「大航海時代に、南洋から中央大陸(セントレイル)に入ってきた植物らしいんだが……食用として栽培されるようになったのは、比較的最近だから、ニケが知らねェのも当然だわな。ザクソンとか大陸南部じゃ、一般的な食べ物になりつつあるんだがな」

「ほぅ……旨いのか?」

「スープに入れると、甘みと酸味が増して、いい刺激になるぜ。ホレ」

 

 ホントか? 赤い食べ物とか、視覚的に抵抗があるんだが……

 疑い半分で隣を見ると、ガイラルが無表情にトメイトゥー入りのスープをすすっていた。

 

 まあ、マズくはないんだろうな……

 騙されたと思って、スープを一飲みする。すると――

 

 ンマァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!

 

「……旨いな、コレ」

「だろ?! ホレ、ルチアも騙されたと思って飲ンでみろよ」

「断る。そんな得体の知れない赤茄子、毒でも入ってたらどうするんだ」

「その赤ナスを、俺らはもう胃袋に収めちまったんだが……」

「オークや人間には無毒でも、エルフにとっては有毒かもしれないだろ。酒や魔力だって、種族によって耐性違うんだし」

「んなことねェと思うンだがなァ……」

 

 ヌシが身体に似合わず、しょんぼりした表情を浮かべている。

 

 まあエルフってのは、純血であればあるほど、保守的で閉鎖的な種族として有名だからな。

 長命で賢いと、昨今の生き馬の目を抜くような変転目まぐるしい世界は、色々考えること多くて大変なんだろう。いっそ外界を拒絶して、見ざる・言わざる・聞かざるを貫く方が賢明という判断も、あながち間違いではないのかもしれん。

 現にエルフの純血種は、第一次東征終結後に起きた「ハーシェルの反乱」以降、人間との協調路線を放棄して、自分たちの本拠であるダーク・ヘッジスに引きこもっちまったし……

 

 昔、母さんが教えてくれたっけな。

 エルフの文明嫌いは、形あるものはいずれ必ず崩れ去り、すべては等しく土に還るという伝統的な価値観が根底にあるんだとか。Everything is ephemeral.

 要するに、「いずれ死んだら全部なくなるのに、何をそんなにあくせく生きてんのお前ら。馬鹿なの?」ってことなんだろう。

 

 達観しすぎて、俺にはよく理解できん境地だが。

 しかし、賢さの行き着く先が全ては無意味って、儚すぎやしませんかね……やっぱ、長生きなんざするモンじゃねぇわ……

 

「なにほくそ笑んでるんだ? ニケ」

「いや……何でもないよルチア」

 

 星が瞬き、焚火の爆ぜた音がする。

 鈴虫が鳴き、夜も更けて、ほのかに酔いも回ってきた頃、不意にガイラルが立ち上がった。盃を手にしたまま、微動だにせずヌシが問う。

 

「どうした?」

「ワーグだ。結界にかかった」

「近いのか?」

「いや……」

 

 ガイラルは北西の方角に目を凝らしてから、言った。千里眼暗視モード発動中だ。

 

「離れたようだ。反応があったのは二匹。近くに群れらしき気配はないが……」

「そろそろヤツらが殺気立つ時間帯だね。群れを引き連れてくると厄介だ。今日は交代で番を立てた方がいいだろう」

 

 ルチアの忠告に、ヌシが両肩をすくめて嘆息する。

 

「俺は索敵なんて器用なことはできンぞ。魔法はからっきしでナ」

「わかってるよ。だから、僕とガイラル、ニケで交代して警備する。その代わり、事が起きたら真っ先に戦うのがヌシの役割だよ」

「ムゥ……今日は寝付きのわりィ夜になりそうだナ……」

 

 夜警だって?

 さも当然のごとく、結界を使える前提で話を進められたが、索敵だのの補助魔法は、君ら神官やレンジャーの得意分野だろうに……

 

「どうしたニケ。索敵は苦手か?」

 

 よほど嫌そうな顔をしていたのか、ガイラルがそう言った。

 そうだね。自宅の警備は得意なんだけど、ちょっとこういうのはね……

 

「できるっちゃできるんだが……まあその、あまり得意ではないというか……」

「煮え切らない男だな。何だったら得意なんだ」

 

 うるせーなこのトンガリ。俺が得意なのは自宅警備だって、さっきから言ってるだろ。

 

 ったく、しゃーねーなー。

 未熟なルチア君に、ニケ先生の有り難いご高説を聞かせてやるとしますかね……

 

「いいかルチア。完璧で万能な魔法使いなんてこの世に存在しない。にもかかわらず、世の多くの人々がそんな幻想を無邪気に信じているのは、東洋魔術が、どんな系統の魔法にも精通していることを理想としてきたからなんだ。いわば、ゼネラリスト志向の広さ重視。これに対して西洋魔術は、スペシャリスト志向の深さ重視。現にアイゼンルートでは魔法を属性や系統ごとに細分化して、分業制を確立した。連中はそういう軍隊を作ることで、歴史を変えた。近年西洋魔術が急速に台頭して、東洋魔術が時代遅れの遺物と非難されるようになった理由に、ウイッチクラフトの発明を挙げる奴らが多いけど、それは理由の一部であって全部じゃない。万能を追い求めた結果、浅さばかりが目立つようになった東洋魔術のアンチテーゼとして機能した、思想的背景があったからに他ならないんだ」

「……ふーん。で?」

 

 で? っていう……は? 

 困惑する俺にとどめを刺すように、ルチアが言い放つ。

 

「自分の得意分野だけ極めたいなら、さっさとアイゼンルートに留学でもしたらどうだ? 今ならまだ勝ち馬の尻にだって乗れるし、良いことずくめじゃないか」

「…………」

 

 (しこう)して、俺は天を仰ぐ。

「霜草は蒼蒼として、蟲は切切。村南村北、行人絶ゆ。独り門前に出でて、野田を望めば……」と胸中で詩を吟じてクールダウンを図る俺を尻目に、ガイラルが苦笑交じりの顔を浮かべた。

 

「しかしまあ、平和が唯一の取り柄とまで言われていた田舎のトランシルヴェスタにも、当たり前のようにワーグが出るようになったとはな……時代は変わったよ」

「だナ。俺らがガキの頃は、街道のど真ン中でも、鼻ちょうちん膨らませて堂々と昼寝できたのによ。今じゃどこ行くにしても、町の外を出れば、真っ先に魔物を警戒しなきゃいけねェ。息苦しい世の中になっちまったモンだ」

「それだけ魔王の勢力が増長してきたということなんだろう。イリヤ教団が目くじらを立てて、勇者の擁立を急かすのも無理はない」

 

 予期せぬ単語に、盃を口元に運ぼうとした手が止まる。

 ふと、隣のルチアが、嘆息混じりにこぼした。

 

「神に選ばれし勇者、クロノアか……正直、気の毒な立場ではある。父親の失敗を帳消しにするための、政治の道具にされた感が否めない」

「そうだな」

 

 ガイラルがうなずいた。

 

「十年前の二次東征は、結果として東洋の権威を大きく失墜させてしまった。敗戦はもちろん、東征にかかずらってる間にアイゼンルートの台頭を許してしまったのは、痛恨の失策だろう」

「アイゼンルートに関しては仕方ねェだろ。当時は西洋の一小国に過ぎなかったンだぜ。競馬で言うなら、ブービー人気の馬がぶっちぎりで優勝したようなモンだ。あそこまで化けるなんて予想できた連中はいねェよ」

「確かにな。連中の成功過程は、あらかじめそうなることが決まっていたかのような、劇的勝利の連続だった。一軍官から皇帝にまで上り詰めた男、クラウス・フォン・クラウゼヴィッツ――奴は本当に、中つ国の歴史を塗り替える男なのかもしれん」

 

 アイゼンルート皇帝、クラウス一世か……

 西洋から遠く離れたネウストリアにまでその名は轟き、当世の傑物(カリスマ)とされている。

 

 何でも奴の配下には、炎・水・風・土・氷・雷それぞれの属性を代表する超一流の魔術士が集っているという。

 確か六神将とか六大術士とか六歌仙とか……いや六歌仙はないか。兎にも角にも、クラウスがエレメンタルマスターと呼ばれる由縁でもある。

 

「ニケ。お前はロゼッタの出身だったな。実際のところどうなんだ? ネウストリアは今度こそ本気で、魔王を潰そうとしているのか? アイゼンルートが虎視眈々と東への進出を窺っている目下の状況で、魔王討伐に固執している場合かとの声も聞くが」

 

 ガイラルに訊かれて、答えに窮する。

 いや当然だよ。いくらネウストリアの人間って言っても、俺は政治家でもなければ、教団の人間でも軍人でもないし、そんなこと知らんわ。

 

 でもそんなこと言ったら、また隣のルチアさんに「このポンコツ」とか言ってディスられるし……何なの? ルチアくん、君は僕の上司なの?

 

「これは俺の個人的な見解なんだが……勇者クロノアを擁立し、三次東征に集中するように見せかけて、アイゼンルートを開戦に誘導する罠なんじゃないかと思う。そうすれば、大義名分は東側にあることになるから」

「真の目的は陽動、ということか?」

「ああ。今真っ向から東と西がぶつかったら、おそらく東は分が悪い。なぜなら、旧態依然として凋落甚だしいアヴァロニアと違って、アイゼンルートの革新的な強さは誰もが認める所だし、何より彼らには勢いがある。時代が彼らに味方しているようにさえ映る。こんな状況で、東側が勝つためにはどうすればいいと思う?」

 

 したり顔でそう言った俺を、三人は三者三様の反応で見つめる。

 一人は眉間に皺を寄せ、一人は興味なさげにハーブティーを口にし、一人はハナクソをほじった。

 

 やがて、ガイラルが言った。

 

「我関せずと静観を決め込んでいる連中を、いかにして東の陣営に引きずり込むか……そんなところか?」

「さすが。そのとおりだ」

 

 口角を上げ、俺はうなずいてみせる。

 

「アイゼンルートは人間中心主義の国家だ。彼らが天下を取れば、非人間種の待遇は著しく低下し、弾圧の対象となる恐れすらある。必然、エルフやドワーフ、オークといった非人間種の勢力は東側に味方せざるを得ない。この『せざるを得ない』状況をいかにして上手く演出するかが、アヴァロニアにとっては極めて重要になる。

 つまり、西との戦争は、アイゼンルート対世界。かつての覇権国家が、ぽっと出の得体の知れない野蛮な帝国から、中つ国を守るための戦争という構図を作り出すことができれば、戦局は一変して、東洋の勝機は格段に跳ね上がるはずだ」

「なるほどな……そうすれば、相手が同じ種族であっても大義名分のある戦争になる。つまり」

 

 ガイラルが口元に手を当て、渋い顔を浮かべた。

 

「アヴァロニアは今までどおり、中つ国の守護者を気取れる訳か」

「ああ。俺の読みが正しければ、アヴァロニア陣営はすでに第三勢力以下を味方につけるべく、水面下で動いているはずだ。いつ、アイゼンルートが攻めてきてもいいように……」

 

 何よりそういう工作が三度の飯より好きな男が、ネウストリアには一人いることを、俺は知っているからな……

 表向きは「魔王の倒し方、知らないでしょ? オレらはもう知ってますよ」という絶対魔王殺すマンの顔をしておきながら、裏では周到に粛々とアイゼンルートをぶっ潰すための計画を練っている。いかにもあのギルドマスターが考えそうな手段だ。

 

 ヌシが盃を置いて、フムフムと小刻みに首肯した。

 

「しかしそうなると、ますますエフタルの出方が重要になってくるナ。エフタルがどっちにつくかによって、戦争の流れは大きく変わりそうだ」

「アイリス女王の心中お察しする、と言ったところか……東西いずれにつこうが中立を決めようが、自国が戦場として踏み荒らされるのは避けられないだろうしな。気の毒な立場ではある」

「ルチア。エルフのお前も、他人事じゃないンじゃねェか。時代は今、大きなうねりの中にあるンだぜ」

「……悪いが、興味ないね」

 

 ルチアはかじかんだ手を焚火にかざし、無表情に言った。

 

「僕には関係のないことだよ。魔王という脅威を前にしてもなお、一つにまとまることができず、同族同士で殺し合いを続ける人間の愚かさには、情趣すら覚えるけどね」

 

 相も変わらず、トンガリらしいトンガった見解ではあったが、正直同感だった。

 味方が団結するための最高のアイテムは、共通の敵の存在だなんて大嘘だよな。どこの平和ボケしたバカがそんなこと抜かしやがった。現実はお前の脳味噌ほど単純じゃない。

 

「……夜も更けてきた。そろそろ寝る準備をするか」

 

 ガイラルのその一言で、その場はお開きとなり、銘々が片付けを始める。

 ちなみに夜の番は、くじに負け、午後十一時から午前二時という一番中途半端な時間帯を任せられることになった。

 

 …………。

 

 おうちに帰りたい。

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