勇者にはなれない   作:高円寺南口

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34 宴のあと

 バルザック邸の1階には、大浴場があるらしい。

 メテオラ語で言うところの、テルマエである。東洋では風呂というと一般に行水を指し、一部の特権階級を除いて、湯水を張った浴槽に浸かるという慣習はない。

 

 ただし、ガラテアやノルカ・ソルカといった北方諸国は、例外だ。

 北方はその辺適当に掘ったら、鉱泉がボンボコ湧いてくるという東洋有数の温泉地のため、公衆浴場が町の至る所にあり、庶民であっても、日常的に湯船につかる習慣がある。

 特に現騎士王のお膝元、ガラテアの首都カトブレスは東洋一の温泉街として有名で、湯治を目的に訪れる貴族や旅人も多いんだとか。

 

 さて、我等がアルル公も、そんな温泉の魅力に取り憑かれた一人だという。

 

 ヌシ曰く、バルザックが若かりし頃、カトブレスに留学していた折に、温泉にどっぷりハマってしまったんだと。これはたまらん。俺の代になったら、いつか絶対、屋敷にサウナと大浴場をこしらえてやると、彼は心に誓い……そして幾星霜。

 

 前髪が後退し、髭に白いものが混じり、腹も出始めた頃、バルザックはついに自らの夢を実現させる。

 

 鉱山地帯として有名なザクソンからマーブルを厳選して取り寄せ、サウナ発祥の地であるノルカ・ソルカから職人を直々に招き、このためにわざわざ、温泉が掘れるアルル西部の高台に本邸を移したという手の込みようである。

 積年の思いが爆発したのだろう。どおりで、ヤツの頭はいつだってツルツルテカテカな訳だ。

 

 ただ、ヌシによると、自分一人で独占するのはもったいないから、空いた時間は部下や使用人の使用を許可しているらしい。

 

 一説によると、ハゲは失った髪の数だけ人に優しくなれる人間と、失った髪の数だけ狭量になっていく人間の二種類に分かれるという。

 バルザックは前者だったのだろう。名君にふさわしい、度量の広さを窺えるエピソードである。HAGE & PIECE.

 

「かーッ! 散々飲ンだくれた次の日の朝風呂は最高だナ……おめェもそう思うだろ、ニケ」

「おう。これは……たまらんな。最高だ」

 

 実際、最高だった。

 これだけ広々とした湯船につかったのは初めてということもあり、最高だ。

 何が最高って、この開放感と心地よさよ。バルザックが温泉にハマった理由もわかる気がするぜ……

 

「しっかし、おめェの昨日の悪酔いっぷりは最高だったナ……あそこまで、はっちゃけたヤツだったとは。普段は大人しいくせによ」

 

 言われて、ギクリとする。

 厳密に言うと、素面の時は表に出さないようコントロールしてるだけで、普段から十分アタマおかしいんだよなあ……。

 酒が入ると、タガが外れちまうのか、秘めたるダークサイドが炸裂しちまうって寸法よ。

 

 まあ何が言いたいかって、ご迷惑お掛けして大変申し訳ございませんでした。

 

「なあ、俺何かヘンなことしてなかったよな? 途中からほとんど記憶がなくて」

「ヘン? 俺も酔ってたからなア……なンか女子にモテたかったとか、やたら叫んでた記憶はあるが」

 

 最悪じゃねーか。

 嗚呼、ドン引きしてる女子諸君の顔が浮かぶ……せっかく竜退治の一件で、好感度急上昇からのモテ期到来だったはずなのに、全部台無しだよ。最悪だよ。時間を巻き戻したいよ。

 

「まあいいじゃねエか。みんな楽しそうだったし……酒行だっけか? あれやったときはみんな腹抱えて爆笑してたゾ。滅多に笑わねえ北方人のガイラルやクルーガーですら、笑ってたし」

 

 バカ野郎、野郎の評価なんざ死ぬほどどうでもいいんだよ。俺が欲しいのは、綺麗なお姉さんたちからの羨望の眼差し、それのみよ。

 クッソー……女性陣にはCool & Stylishなニケさんを、最後までお届けしたかったのに、どうしていつもこうなっちまうんだ……

 

「ん? ガイラルはともかく、クルーガーって北方人なの?」

「知らなかったンか? アイツはノルカ・ソルカ出身で、ガイラルの同郷だゾ。いわゆる幼馴染みってヤツだ。昔は一緒にパーティー組ンでたしナ」

「ふーん、パーティー……って、は?」

 

 え……クルーガーとガイラルが幼馴染み? しかも同じパーティ?

 

 嘘だろ。みんな大好きウホウホオラつきマンは、自由と孤独と強がりと一抹の寂しさだけが友達だったはずじゃ……結構友達多いな……

 

「いや、でも……あの二人仲悪いだろ」

「そこは勝手知ったる仲だから、余計にナ……いざこざがあってからは、ずっとギクシャクしてるみてエだし」

「いざこざ?」

「あー……ここだけの話だが、実はもう一人幼馴染みの魔法使いがいたらしくてナ。とあるクエストで、その魔法使いが命を落としたそうなンだ。それが原因で、パーティーも解散しちまったらしい」

 

 えぇ……

 つまり、俺が勝手に捏造した、「アイツよォ。実は過去に、仲間の魔法使いを亡くしてるんだ。自分の不注意で守れなかったって、ずっと後悔してて……もう、自分の前では魔法使いが死ぬところを見たくないんだろうな。だからつい、魔法使いを見ると、あんな風に厳しくなっちまうんだよ……」のエピソードが大体合ってるってことか?

 

 マジかよ。ピカレスクヒーローことウホウホオラつきマンの悲しい過去なんざ、知りたくなかったぜ……

 

「今回の討伐をキッカケに、ヨリを戻してくれたらなんて考えちゃいたが……まあそう上手くはいかンわナ」

 

 でしょうね。

 この種の人間関係のいざこざは、時間が解決なんてしてくれないからな。むしろ歳月が流れるほど、双方の間に横たわる溝がより深く、より強固になるなんてよくある話だ。

 

 ヌシは湯水を掬ってバシャバシャと顔を洗い、頭の上に乗せたタオルで拭うと、ふーとデカいため息をついた。

 

「ところでニケ。おめェ、エフタルに行くンだって? ガイラルに聞いたぞ」

「耳が早いな」

「グシシシシ……正直、残念だよ。実は、おめェにはよければウチで働かないかと打診するつもりでいたンだ……かつてのガイラルみたく、良い仲間になれそうな気がしたからナ」

 

 意外な申し出に、ぶっちゃけ驚いた。

 無職の誓いを破り、定職に就ける絶好のチャンス。ありがたいことこの上ない話ではあるが……

 

「気持ちは嬉しいが……俺はそこまで大した奴でもなんでもないよ。竜退治に関しては、正直美味しいところを、かっさらっただけだし。全体の貢献度で見れば、ガイラルやルチアの方がよっぽど上だと思うぞ」

「まあ、それはそうかもしれンが……戦いには、失敗が許される場面と、絶対に失敗が許されない場面の二つがある。あの局面は、間違いなく後者だった。そこで賭けに勝ったおめェの働きぶりは、誇っていいモンだと俺は思うぜ」

 

 ヌシは俺の目を見て、「グシシ!」と両肩を揺らして笑った。

 俺は湯船に身を預けたまま、視線を天井に移した。

 

「ありがとよ……だが悪いな。俺にはどうしても、やりたいことがあるんだ」

「そう言うと思ったゼ。おめェの人生はおめェのモンだからな。心残りはあるが、おめェがそう言うなら、こっちは潔く送り出すまでよ。報酬の件も安心してくれ。満額支払われるよう、渡りはつけておく。バルザック様が言ってたとおり、試験の件もチャラだ」

 

 ということは……

 うほほほーーーい!! 百万フランゲットォーーーーーーー!!!!!

 

 内心歓喜のファンファーレを打ち鳴らす俺だったが、にわかに冷静になる。

 

「ヌシ、報酬の件なんだが、その……現物支給という訳にはいかないか?」

「現物支給?」

「率直に言うと、馬が欲しくてな。討伐のときに借りてた馬が相性良くて、実は結構気に入ってるんだ……無理を承知でお願いなんだが、できれば貰い受けることはできないかと……」

「ああなンだ、そういうことかよ……グシシ! いいぜ。現物支給なんてケチ臭いこと言わず、タダでくれてやるさ」

「タダ?! いや、それはちょっと……」

「エンリョすンな。俺は昔から動物の世話するのが好きでよ……この屋敷の馬の管理は俺が預かってるンだ。おめェは俺やガイラルにとって、命の恩人でもあるからナ……馬くらい安いモンよ。受けた恩義は倍にして返すのが、オークの流儀なんでナ」

 

 ほあー、そりゃまた気前のいいことで……

 やっぱ図体がデカいと、心の広さの基準も壮大なんだな。俺ら人間やエルフとは違う。恨みに嫉み、憎悪の類いは十倍返しがモットーな小生が、生きてて恥ずかしくなってくるでござるよ……

 

「懐の寂しい旅人なモンでな……そう言ってもらえると、本当に助かるよ。ありがとう」

「オウよ。今回の件は借りにしとくぜ。この先もし、困ることがあったら、いつでも俺らを頼ってくれ。力になるからよ」

 

 頼ってくれ、ね……

 目頭がほんのりと熱くなったのは、たぶん風呂のせいだな。そういうことにしとこう。

 

「わかった。じゃあ今度、恋愛相談でもするよ」

「グシシ! そりゃアレか? ルチアのことか?」

「ん? 何でアイツの名前が出てくるんだ?」

「何でも何も、お前らいいカンジだったじゃねえか。意外と合ってると思うゾ」

 

 HAHAHA……またまたご冗談を。

 そもそもイリヤ教団は、同性愛禁止してるんだゾ。ヌシったら、いくら心が広いとはいえ、禁断の愛まで認めちゃいかんでしょ……

 

「やめてくれよ。いくら女子にモテないとはいえ、何で野郎とくっつかなきゃならんのだ」

 

 ヌシは沈黙した。

 余りに長い沈黙だったので、不審に思い、彼の方を見ると、ばっちり目が合った。

 

「野郎って……え? どういうことだニケ」

「どうもこうも、アイツは男だろ」

 

 ヌシは再び沈黙した。

 余りに長い沈黙だったので、不審に思っていると、ヌシが頭の上のタオルをそっと湯船の縁に置く。そして、ポンと俺の肩に手を置いた。

 

「ニケ。何をどう勘違いしたのか知らンが……ルチアは女の子だぞ。れっきとした、女性だ」

 

 五秒後、俺はその場から立ち上がった。

 ザバァと湯水が浴槽からあふれ、キンタマ丸出しの状態で、俺はヌシに問うた。

 

「あ? 何だって?」

 

 

    *

 

 

 これまでのあらすじ。

 

 ルチアは男の子じゃなくて、女の子でした! 

 ☆NANTEKOTTAI☆

 

 一人称「僕」とか、胸が洗濯板とかは、些末な言い訳にすぎん。すべてはヌシのこの一言に凝縮される。

 

 普通気付くだろ。

 

 言われて見れば確かに、整った顔立ちも美少年というより美少女寄りだし、いつも香水の良い匂いがしてたし、妙によそよそしかったり、雨に濡れたとき恥ずかしそうにしてたり、振り返れば気付けるフシはいくらでもあった。

 

 それら全てを尽く見落とすとか、コレもうね……己の無神経・無配慮・無頓着のステータスの高さに絶望するわ。非モテの三位一体。天賦の才を感じる。

 

 しかも俺、どさくさに紛れてアイツのおっぱい触ったような……

 そうか。あのときの予想外の平手打ち、理不尽な二回連続攻撃、以後シカトの三連コンボは、要するにそういうことだったのか…

 ちなみに小ぶりながら結構柔らかかったように記憶している。先っちょはトンガってたけど……☆大丈夫☆先っちょだけだよ。この先は君の目で確かめてくれ。

 

 謝れるものなら今すぐ土下座したい所ではあるが、討伐隊は昨日を最後に解散しちまったし、これから会う機会もなさそうだし……

 

 ていうか、謝るって何を謝るんだ? 

 「ごめんなさい、今までずっと男と勘違いしてました! ウェヒヒヒ……」とかコレ、謝罪を装った高度な煽りにしか思えん。

 俺がルチアの立場だったら、鳩尾(みぞおち)に正拳突きを食らわせたあと、背後から腰をつかんで後方に反り投げブチかます案件ですわ……

 

 などと、馬小屋の前で己の業の深さを深く恥じ入っていると、ヌシが馬を引き連れてきた。

 

「ほれニケ。手綱に鞍に、装備も討伐の時そのままにしといたぞ」

「何から何まで悪いな……ありがとう。助かるよ」

「可愛がってやってくれよ。コイツは北方産のカルマル種で、気立ての良い、丈夫な牝馬だ。おまけに美人ときてる」

「美人? 馬にも美人とかあるのか」

「もちろンだ。毛並みの美しさとか鼻筋立ちとか、筋肉の張りとかナ。コイツはウチの馬の中でも、一・二を争う美人だぜ」

「ほーん……名前はあるのか?」

「ポチョムキンだ」

 

 ふむ……ポチョムキンか。

 個人的には、少し幼稚かな。これから世界に進出するにあたって、ここは言葉遊びやテーマ性をこめた名前がほしい。こいつは青鹿毛だから、ファングオブダークネスとか、黒蹄焔王とかどうだろう? 

 いや、何も名詞である必要はない。エッジの利いた文章の方がパンチがある。「最終警告。黒き咆哮」とかね。

 

 うん、良い訳あるかボケ。

 何だこの、背中がむず痒くなるようなネーミングセンスは……お前もう23になったんだよな? いい加減、そういうのは卒業せんか。

 

「わかった。これからよろしくな、ポチョムキン」

 

 そう言ってたてがみを撫でると、ポチョムキンは再会を悦ぶように「ヒヒーン!」と鳴いて、尻尾を振っていた。

 おお……よしよし。愛いヤツめ……

 

「しっかし、満を持して勇者が立ち上がり、東洋はこれから大戦(おおいくさ)ってときに、西方に向かうたァ、おめェも変わったヤツだよナ」

「ふん。俺の夢は、時代の奔流に呑み込まれたりはしねえのさ」

「言ってくれるじゃねェか……グシシ!」

 

 鞍袋に荷物を詰め、出発の準備が整ったころ、ようやくガイラルが姿を現した。

 ヌシが「オウ、遅かったじゃねェか。なンかあったンか?」と尋ねる。

 

「ああ悪い……昨日からどうにも気分が優れなくてな。眠気がひどい」

「大丈夫か? 疲れが溜まってンじゃねェか?」

「それは今に始まったことじゃないが……おまけに、朝から色々立て込んでてな。お前には後から話す。ひとまず大丈夫だ」

 

 ガイラルは俺の方へ向き直り、スクロールのようなものを差し出した。

 

「ニケ。エフタルまで長旅になるだろうが、気をつけてな。これは餞別だ」

「餞別?」

「ああ。ガラテア周辺の地図だ。陸路で中西部へ抜けるルートは二つあるんだが……どちらも難所で有名だから、本気で陸路を選ぶのなら、よくよく調べて入念に装備を調えてから挑むように」

「おめェはニケの母ちゃンかよ」

「事実なんだから仕方ないだろう。片方は果てない荒野で魔物の巣窟、もう一方は深い森でエルフの縄張り。東洋と西洋の緩衝地帯といえば聞こえは良いが、実態は双方から見捨てられた、事実上の無政府地帯。はっきり言って、ロクでもない地方だよ」

「おいおい……俺はそんなとこ抜けなきゃいかんのか……」

「よほど旅慣れた奴か、自殺志願者でもない限り、普通は海路を選択するよ。討伐の報酬も支払われることだし、一度考え直した方がいいんじゃないか」

 

 むーんと眉をひそめる俺を見て、ヌシが「グシシシ……」と微笑した。

 

「アヴァロニアの冬は厳しい。雪解けまではどうせ身動き取れねえだろうし、その間にルートを再考するなり、道連れでも見つけるなり、手は打っとけよ」

「それがいいだろう。陸路にせよ海路にせよ、一人でエフタルに行くなんて、正気の沙汰じゃないぞ。中西部は、お世辞にも治安が良いと言えるような場所じゃないからな。東洋と比べて人の手が入っていない未開拓の地域が多いこともあって、魔物も一段と凶暴さを増すと聞く」

 

 おいおいマジか……弱ったね。ついに、俺のソロプレイも潮時ってことか。

 

 こんな時にサクっとパーティーを結成できるコミュ力など俺にはあろうはずもないので、どうしたものか……まあ現実的な手段としては、用心棒を雇うしかないかね。

 ビジネスですよ。ビジネス! 健気に見える人々も、心の底を叩いてみれば、どこか哀しい音がする……チャリンチャリーン! ってね。

 

 嗚呼、かくもさもしきこの現代社会。

 なんだって金で買えちまう。命、夢、信頼、そして愛さえも……虚飾と欺瞞に満ちたこの世界の片隅で、紛い物じゃない、本物の関係なんて、僕には見つけられるのだろうか……

 

 毎度お馴染み本日のポエムも程々に、俺は二人に向けてすっと手を差し出す。

 そして、がっちりと握手を交わした。

 

「二人とも、世話になった。色々ありがとな……ああそうだ、一つ言い忘れてたことがあって……」

 

 ポチョムキンにまたがった所で、俺は二人に言った。

 

「春先にルナティアのモンフォール家から、第三公女が嫁いでくるはずだ。最初は面食らうと思うが、噛めば噛むほど味が出てくる面白いヤツだから。可愛がってあげてくれ。一つよろしく頼むわ」

 

 ヌシとガイラルは、互いに目を見合わせる。

 三秒後、ヌシがぽかんとした様子で言った。

 

「たまげたなァ。おめェ、何でそンなこと知ってンだ」

「たまげたも何も、これは屋敷でも幹部しか知り得ない機密情報だぞ……どうしてお前が……」

 

 かくかくしかじか、ソフィーのお嬢は俺の弟子(向こうはそう思ってない)なんだよと、ルナティアでの経緯(いきさつ)を説明すると、ヌシとガイラルの表情がますます険しいものとなった。

 

「わからん。お前本当に、何者なんだ……」

「何者もクソも、只者なんだが。マイネームイズ凡夫だよ。凡夫」

「その凡夫ごときが、どうしてこんなセンシティブな情報を知り得るんだ……」

 

 ガイラルがそう嘆くと、ヌシが両肩を揺らして笑った。

 

「要はそれだけの信頼を勝ち得たってことだろ……こう見えてニケは、気難しいヤツの懐に入っていくのが意外と上手かったりするからなァ。誰とは言わンがナ。誰とは」

「上手い? 常人ならば決して選ばない角度から侵入してきて、気付いたら背後に立たれているって表現が正しいと思うが」

「人をプロの強盗みたいに言うなや……」

 

 奴はとんでもないものを盗んでいきました……私の心です、ってか? 新たなピカレスクヒーロー、ウホウホストレンジャー爆誕の瞬間だな。

 冗談はさておき、そのやり取りを最後に、俺は今度こそ屋敷を後にした。

 

 胸に秘めたるは、我等狩友永久超絶不滅の誓い。

 義に背き恩を忘るれば、天人共に戮すべし……

 

 今度会うときは、敵同士でないことを祈りたいものだなと、益体もない捨て台詞を考えては、一人馬上で悦に浸る俺であった。

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