結局、カトブレス劇場には一人で向かった。行かないという選択肢もあったが、それでは試合に勝って勝負に負けた気がするので、結局行くことにした。
お前は一体何と戦ってるんだって? むろん自分よ。
いい加減、敗北を知りたい。
咳をするのも一人、メシを食うのも一人、戦うのも一人……いずれ死ぬのも一人ならば、此処は何処ぞ敵無しの国……
毎度お馴染み本日のポエムも程々に、目的の劇場へと辿り着く。
左右に長く伸びた翼廊をバックに、半円状に突き出たファサードは中世を彷彿とさせる彫塑的な造形をしていた。上部にはメテオラ神話にて登場する芸術の神として名高いポアロが祀られ、左右には女神の彫像が向かい合って鎮座していた。
別にそこまで文学に詳しい訳ではないので、左右の女神が何を指すのかはわからんが、こういうのは対になるものを置くのが定石だから、喜劇の神と悲劇の神とか、まあそんなとこだと思う。
劇場の前は広場になっており、今日は上演の日ということもあってか、露店があちこちに立ち並んでいる。すでに日は沈みかけて、吐く息は白かったが、大勢の人が行き交い、何とも賑々しい雰囲気となっていた。
ふと、とある露店の一角で、一際デカい声を出して、熱心に客引きに励んでいるファンキーな出で立ちの男がいた。
あの特徴的な髪型……どこかで見たような。
「らっしゃいらっしゃい! 寄ってきなそこの兄ちゃん! って、お?!」
紛うこと無きモヒカン。やはりモヒーニキだった。
説明しよう! モヒーニキとは、モヒカン兄貴の略称で、俺がカトブレスに来て初めてクラインの支部を訪れたとき、最近のロゼッタ事情についてあれやこれや教えてくれた親切な男なのだ……
「な~んだ、やっぱりあのときギルドで会った兄ちゃんか! 覚えてるぜ~。どうしたんだよこんなとこで? 元気にやってんのか?」
「まあ、ぼちぼち……アンタこそ、ここで何やってんだ?」
「見ての通りよ。ここで再会したのも何かの縁、兄ちゃんも是非見て行ってくれ!」
モヒーニキは満面の笑みでサムズアップする。
そう言われても、モヒーニキの店に置いてあるのは、可愛らしいコウモリが刺繍されたタオルや帽子だったり、不気味な紋様が刻まれたリストバンドだったり、血のように紅く染まったギザギザの針葉樹林のようなシルエットの……棒? のようなものだったりと雑多で、まるで統一感がない。
まあ一言で表すなら、ロックと言うよりパンクだな。
何言ってんだお前って? 安心しろ。俺も自分が何言ってんのかよくわかってない。
「……一体何屋なんだここは?」
「オイオイ今さらそいつを聞くのか~? オーケーわかった! なんだかんだと言われたら、答えてあげるが世の情け! いいかい、ここは紛うこと無きカトブレスの聖地、騎士王様のグッズショップよ!」
「グッズショ……は?」
「いよいよと言うべきなのか、ついにと言うべきなのか……名残惜しいが、これから最終公演だからな。くゥ~、戦争さえなければ! ちくしょう悔しい!」
「最終公演て……え? 騎士王出るの?」
「おい~! いくら余所者とはいえ、頼むぜ兄ちゃん。騎士王陛下の歌声といえば、それはそれは美しくて清らかなことで有名なんだ……熱烈なファンも数知れず! そんなワケで、俺の店に置いてあるのは、全て陛下の公演を盛り上げるためのグッズよ! 忠誠の証とでも言うのかな……ヘヘッ。自分で言うと照れるな……」
「…………」
アツく語るモヒーニキをよそに、俺はキョロキョロと周囲を見渡した。
見れば確かに、この店に置いてある帽子やリストバンドを身につけ、タオルを首にぶら下げている若者がそこかしこにいる。男女比は概ね7:3くらいだった。
中にはおそらく自前だと思うが、胸元に「I LOVE KING OF KNIGHTS」とペイントしたシャツを着ている奴もいた。
「……ちなみにこれは?」
そう言って、俺がモヒーニキに差し出したのは、深紅のギザギザの棒。
「ああ、そいつはな……お。ちょうどいい手本がいた。百聞は一見にしかずだ。見てみな」
促されるがままに、噴水の方を見やると、騎士王グッズを身に纏い、同じような容姿をした野郎どもが六人ほど、円陣を組んでいた。
「本日天気晴朗なれども、夜深し……いよいよ迫ったラストライブ! 陛下の門出を盛大に祝うべく、お前ら気合い入れていくぞ!!」
「うおおおいッ!!!!」
すると野郎どもは散開し、前列三人、後列三人に分かれて位置につく。六人が六人、両手に深紅の棒を持っていた。
そして誰が合図するでもなく、六人が同じタイミングで右手を胸の前に捧げた。すると次の瞬間、野郎どもは両手を左右に勢いよく、円を描くように振り回し始めた。
「騎士王! 騎士王! ハイハイハイハイ! 騎士王! 騎士王! フウフウフウフウ! 聡明! 英断! ハイハイハイハイ! 吸血! 鮮血! フウフウフウフウ! 今宵は月も紅いから! ハイハイハイハイ! 貴方を紅く染めましょう! フウフウフウフウ!」
かけ声に合わせて、野郎どもは身体を前後左右に激しく振り回す。
その様はまさに一糸乱れずという表現がふさわしく、彼等の体捌きの軌跡をなぞるように、深紅の棒が紅い光芒を放ち、得も言わぬ美しさを残した。
いや訂正。別に美しくはないな……どちらかというとキモい。久しく忘れていた初期衝動が胸に宿ったかのような、エモさ寄りのキモさがある。
「何だアレは。邪神降臨の儀式か?」
「あいつらは、騎士王親衛隊だよ。まあ親衛隊って言っても、自称なんだけどな」
「親衛隊? 変態の間違いでは?」
「ハハッ、言ってくれるじゃねえか兄ちゃん……ちなみにあの棒は、ダーインスレイヴって言ってな」
「おもっくそ名前負けしてない?」
「そんなことないぜ。アレは騎士王陛下の愛刀、聖剣ダーインスレイヴを模したものでよ……生き血を啜れば啜るほどに切れ味が増すと謳われる、伝説の剣だ。兄ちゃんも東洋人なら、ツェペシュ家が吸血鬼の末裔って言い伝えくらいは聞いたことあるだろ?」
「ああ、それであのギザギザ……なるほどね。あれは剣だったのか」
「ちなみにダーインスレイヴには仕掛けがあってな。ダーインスレイヴが動くたびに、紅く輝くのは、迸る血を表現しているんだが……アレは魔石を使っているんだ。スカーレットの魔石を粉末状にしたものを棒に細工することで、暗い場所では紅く妖しく光るように調整したのさ。コレが中々難しくてなァ……失敗作も数知れず。今の形に辿り着くのに、かなりの苦労があったんだぜ」
「貴重な魔石を、そんなしょうもないことに使わないでくれる?」
「オイ見ろよ……天に掲げた拳を、鋭く地面へと穿つあのムーブ。ブラッディクロスだ」
「ブラッディクロス?」
「アレは十字架を表現していてな……俺自身がロザリオになることで、騎士王陛下に降りかかる、ありとあらゆる災厄を退け、楯となる覚悟を示すと共に深い忠誠心を捧げる――そういう意味なんだ」
「災厄って、それはむしろ君たちのことなんでは……」
「俺はあの踊りが、行く行くはカトブレスの文化になればいいと思ってる。今は若いヤツ中心の文化だけどさ……十年後、いや五十年後には、老若男女みんながあの踊りを街中で踊って。歴史や伝統って、そうやって作られていくモンだろ?」
「そうだな。そうなるといいね」
最後の方は、俺もヤケクソで満面の笑みを浮かべていた。
まあこれでよくわかったよ。
第二十六代目騎士王、ロローナ・アナスタシア・ツェペシュはこれまでのどの騎士王とも違う。
騎士王は騎士王でも、彼女は
*
一時間後。
俺は劇場の向かって左、やや後ろ側の席に座っていた。
結局、モヒーニキの熱意に負けて、タオルを一枚買ってしまったのが悔やまれる。こんなどこにでもある、やや大きめのタオルが一枚四千レイって良い商売してんなアイツ……
ちなみにタオルに刺繍されてる可愛らしいコウモリは、ツェペシュ家の紋章をデフォルメしたものなんだと。
モヒーニキ曰く、はじめはファンアート的な位置づけだったのだが、ある日騎士王本人の目に留まり、「何コレちょ~可愛い! 最高じゃん!」とのお言葉を賜り、図らずとも陛下公認アイテムとなった伝説があるのだという。
さらに言うと、騎士王は昨年の暮れ、このファンアートをツェペシュ家の紋章として正式に採用してしまったらしい。
周囲の大臣や官僚はむろん猛反対したらしいが、陛下の「可愛いは最強!」の一言に押し切られ、強行採決に至った。とある役人が漏らしたと言う、「ダメですと言ったときの、陛下の目が忘れられない。マジで串刺しにされるかと思った」の一言から、陛下の揺るぎない覚悟が推し量られる。
騎士王は立場的に当然、第三次東征の総司令官になることは確実。
やがて訪れる決起に際しては、この可愛らしいコウモリの旗印を掲げた艦隊が、大東洋を埋め尽くすことになるのか……
考えただけで胸が熱くなるな。お可愛いですこと……
そうこう思考を巡らせているうちに、周囲は満席になっていた。吊るされた豪勢なシャンデリアには、クジラの油を使った蝋燭が所狭しと並べられ、その明るさで周囲がはっきりと視認できる。
左右にはロージェと呼ばれる富裕層向けのボックス席が五層あり、一階後方の少し高い位置にある座席に、先ほど噴水の前で踊り狂っていた親衛隊の面々がいた。「I LOVE KING OF NIGHTS」と書かれた横断幕を持っていたので、すぐに気付いた。
どうでもいいが、ナイトの綴りが間違っている。無理してネウストリア語使うから……
いや、夜の王と読めなくもないから、闇の眷族たる陛下には、むしろこっちが正しいのか……? あえて間違ってんだか何なのか、ようわからん連中だ。
ちなみに、ガラテア人は、中世の時代に積極的に行われた西方植民によるネウストリアからの移民層が多くを占めていて、元を辿れば同じ語族ではあるのだが、単語や文法、発音にイントネーションはそれぞれの歴史や地域性もあいまって、今や大きく異なっている。
そのため、お互いがお互いの国の言葉で話すと、(なんかようわからんけど、たぶんこう言いいたいんだろうな……)みたいな、妙な手探り感が生じる。
俺個人の感想を言わせてもらうと、訛りが強いガラテア語(カトブレス以西の、内陸出身の人間に多い)は、正直何言ってるのか全然わからん。
こういうお国事情もあってか、騎士王はカトブレス劇場で行う演目は、すべてネウストリア語で統一しているそうだ。
そもそも劇場を建てた目的が、ネウストリア語による演劇振興を図ることで、「正しいネウストリア語」を国民に幅広く普及させることにあるらしい。コトバの障壁が、自国の後進性を導いた原因の一つであると彼女は考えたのだろう。
大衆を啓蒙し、文化の面からも近代化を図らないことには、真の意味で極東諸国とは同等に立てないというのが、陛下のヴィジョンなんですって。
そのおかげもあり、俺はカトブレスに来て以来、言葉に何一つ不自由せず、生活を送ることができている。
まあ言語の親和性が近いぶん、習得のハードルは低いからな。カムイだって、商売柄どうしても極東人と接することが多いから、いつの間にか覚えたって言ってたし。
などと思考を巡らせているうちに、幕が上がって、盛大な拍手が巻き起こった。ステージが蝋燭のフットライトで眩く照らし出される。
演劇のタイトルは、「灰かぶり姫」。
管弦楽が鳴り響き、現れた女優がこれから始まる悲劇のあらましを、高らかに歌い上げる。
あらすじは、継母や義理の姉にいじめられ、「灰かぶり」を意味するシンデレラというあだ名をつけられていた可哀想な少女が、魔法使いとの出会いをきっかけに城の舞踏会に出向き、そこで王子に見初められ、やがて恋を成就させる……という、王道成り上がりサクセスストーリーである。
俺もガキの頃、ロゼッタの街中の広場で、似たような劇を見た記憶がある。もっともアレは町人が趣味で子供達に見せていたもので、半ば余興に近いものだったが……
ロゼッタにもカトブレス同様、大規模な劇場はあるが、そこで催される興行は王族や貴族、富裕商人専用で、平民は基本的に立ち入り禁止だったからな。入場料一つで上等な馬が買えるとかナントカ、親父がよくぼやいていた。
劇が進むにつれて気付いたのだが、どうやらカトブレス版の「灰かぶり姫」は、俺の知ってるそれとは異なって、一部脚色しているようだ。
何と言うか、全体的にダーク。
継母のいじめ方一つ取っても、こんなに陰湿だったかな……と首を傾げるくらいに徹底しており、シンデレラの悲劇性がより強調されていた。
また義理の姉は、シンデレラの結婚式に参列した際、跳んできた鳩に目を抉られて失明する流れとなっており、「そこまでやる必要ある? ハトポッポ唐突すぎやしませんかね……」と個人的には感じた。
さらに言えば、継母はこののち国外追放の憂き目に遭い、貧しい暮らしを送った挙げ句、孤独な最期を迎えたという後日譚が追加されていて、悪は成敗して然るべきという構成がより強化されていた。
おかしい。
俺の知ってる「灰かぶり姫」は、もっとぽわぽわフワフワゆりゆりキラキラした話だったぞ……うろ覚えだが、最終的には継母とも義理の姉とも和解したような……
演劇は観衆の需要に合わせて、脚本の味付けを少しずつ変えていくという話を聞いたことがある。つまりカトブレスじゃ、こういう過激な方がウケるってことなのかな……
ネウストリアやアルル、アンブロワーズといったお高くまとまった国だと、おそらくこうはいかない。「やり過ぎで逆に冷める」、「作り手の感情が透けて見えて不快」といった意見が絶対勝つだろう。
そもそも極東の人間は、復讐感情を下劣なものとして嫌うからね。そんな感情を抱くから、貴様はいつまで経っても惨めなんだよっていう発想だから。
まあ個人的には、己の手を一切汚さず、澄ました顔でサクセスの階段を上り詰めていくシンデレラにこそ、一番の恐怖を覚えたが……
魔王の器を感じる。実はコイツこそが、作中最強の悪なんじゃねーの……全て、彼女の計算尽くだったとしたら……ヒエッ。
そうよ! きっとあの不自然なハトポッポは、あの女が放った刺客に違いないんだわ……!
役者の演技力もさることながら、歌や音楽が然るべきタイミングで華を添え、劇のクオリティは総合的に見て素晴らしかった。
こういうのに疎い俺ですら、「ほーん。すごいなあ……」と度々漏らしたレベル。具体的に何がどう凄いのか、一切説明できないのが哀しいが。
そしてついに劇もフィナーレを迎え、無事大勝利を収めた魔王……じゃなかった、シンデレラが、王子と優しくキスを交わす。
観客は我先にと次々立ち上がって、拍手をもって演者を讃える。
その時だった。
「ジャーン! ジャーン!」と銅鑼の音色が場内にこだまして、観客が一様にささめき出す。
ステージの中央から姿を現したのは、お待たせしました真打ち登場――
我等が騎士王陛下であった。
*
大仰な羽根帽子から覗く淡紅色の髪は肩に掛かり、身に纏うは深紅のドレス。
彼女がステージの上に現れた瞬間、それまで騒がしかった場内が、波を打ったように静かになった。
不思議な感覚だった。
俺もこれまでの人生でローランをはじめ、一角の人物をこの目で見たことは何度かあるが、その誰とも違う雰囲気を、彼女は持ち合わせていた。
何と言うか……ただの人間には興味ありません。
決して触れてはいけないような、どこか人間離れしたようなオーラ。それでいて、無関心の範疇に留めておくことができない不思議なファースト・インプレッション。
親しみやすさと近寄りがたさといった、まるで相反するものが、せめぎ合うことなく同居しているような、奇妙な感覚が腹の底にあった。
やがて彼女は静かに歌い出す。
出会いや別れ、記憶をテーマにした、美しくも優しいメロディの唄だった。あとで聞いた所によれば、この唄は「いつか帰る場所」というタイトルで、ガラテアでは有名な作曲家がこの劇場の設立を記念して、書き上げたものらしい。
歌声については、俺が語るまでもないだろう。
天使のようだの、まるでローレライの伝説を彷彿とさせる云々と、余計な美辞麗句を重ねることが、かえって野暮だと感じるほどには、よくできていた。
本当に美しいものは、美しいの一言だけで事足りるのだと思い知らされた。
すっかり心を持って行かれていた所を、割れんばかりの拍手が鳴り響いて、ハッと正気を取り戻す。
騎士王が帽子を外し、客席に向かって会釈をすると、ここぞとばかりに拍手が起きる。
そこでふと、騎士王の姿が目に入った。さっきまで帽子を被っていたこともあり、いまいち顔がよく見えなかったのだ。
何と言うか……学生時代、クラスに必ず一人はいたマドンナのような印象を受けた。
妙に大人びてて、顔立ちは整っており、振る舞いは優雅。勝ち組過ぎるがゆえに、俺のような下層民にも平等に接してくれる、天上の民だ。
ただ、言うほどギャルではないような……
今日はフォーマルの場ということもあるのだろう。瀟洒なドレスもあいまって、清楚な雰囲気が優っている。
たとえて言うなら、ちょっと背伸びしてた女の子が、久しぶりに同窓会で会ったら、実寸大の大人になっててドキッとした時の感じ。
俺は同窓会に出席どころか、そもそも呼ばれる対象にすら上がってないからよくわからんけど。何ならみんなの記憶から抹消されてるまである。
「お前ら全員……楽しんでるかーーーい! 今日は最高の夜にしようぜーーーー!!」
とでも言って、派手にドラムやリュートが鳴り響くのかと思いきや、そんなことはなかった。
騎士王は辺りが静まった折を見計らい、まず謝意を述べ、そして告げた。
「私には夢があります。いつかこの場所で、ネウストリアではなく、ガラテアの言葉で、演劇を行うことです。ですが、今はその時ではない――」
少し間を置いてから、彼女は続けた。
「ご存じのとおり、これから大きな戦いが始まります。十年前の屈辱を晴らし、約束の地を、魔族から奪還するための戦いです。この中には、その時従軍していた者もいるでしょう。大切な人を失った者もいるでしょう。あるいは、まだ生まれていなかった者もいるかもしれません。
私ロローナ・アナスタシア・ツェペシュは、第二十六代目アヴァロニア騎士王として、ネウストリア国王陛下に忠誠を尽くすと共に、必ずやこの戦いに勝利し、約束の地を取り戻すことを、神に誓います。
同時に、第三十四代目ガラテア国王として、国民の皆に誓います。真に取り戻すべきものは、ガラテアの誇りであると。
この戦いは、かつて失われた同胞たちの、尊厳を取り戻すための戦いです。
彼等の死に、意味などなかった――彼等の死を悼み、あなた方が零した涙の一つ一つに意味がなかったなどと、私はあなた方の王として、断固認めることはできない。
だから私は、剣を取ります。
あなた方のために、剣を振るう道を選びます。
人は誰しも、一人では勇者にはなれません。背中を押してくれる者がいて、初めて勇ある者となり得るのです。
窮地に立たされたとき、剣を握るその手に力を与えてくれるのは、生者の励ましだけではありません。そこには死者の叫びも含まれていると、私は考えます。
あのとき失われた同胞たちの魂は、まだ死んでなどいない。
なぜなら彼等が残した意志は、魂は、残された私たちの心にこうして火を灯し、未来へと進む勇気を与えてくれるからです。
十年前の記憶は、死者の無念は、生者の痛みは、この戦いの勝利をもって、等しく終わりを告げると、私は強く信じています。
共に戦いましょう。共にその先の景色へと向かいましょう。
そして最後に、もう一つだけ誓わせてください。
私は必ず、ここへ帰ってきます。
共に勝利の賛歌を、愛すべきガラテアの言葉で歌いましょう――」
そう告げると、騎士王はふっと優しく笑みを浮かべる。
すると次の瞬間、万雷の拍手が轟いた。
人々は一様に立ち上がり、ある者はエールを送り、別の者は口笛を鳴らし、またある者は感極まって涙を流していた。
拍手喝采、鳴り止まぬスタンディングオベーション。
場内は、異様な熱気に包まれていた。
俺は一人呆けたようなツラを浮かべ、そして思った。騎士王――
おまえ今……