Lostbelt No.0 『存在証明大陸 ムー』 作:御魚天国
さてさて……随分と可愛らしい姿のサーヴァントが、一糸纏わぬ姿で御出でなさったな。
ブリテン関連のサーヴァントを呼び出したはずなんだが……まぁ、異聞帯に無理やり繋げたわけだし、こういうことも起きるか。
結構な無茶やったから頭痛は酷く、座り込んでから立てる気がしないが気分はいい。
かなり満足している。
「ふむ……貴様が私のマスター、だな?」
呼び出したサーヴァントの少女は、興味深そうに周囲を見渡して俺に問いかけた。
俺はその問いに頷くと、少女は振り返って大地を見渡す。
「なるほど。随分と歪な……理解した。名を聞こうか、マスター」
「俺の、名前──? ……あー、ちょっと待ってくれよ。今思い出す……」
「……?」
俺の発言に彼女は不思議そうな目で見つめてきた。
思い出す──、というのは別に語弊でもなんでもない。
本当に今、思い出そうとしているのだ。
何事にも代償というものは必要だ。
代償無くして手に入るものなど何もない。
現代なんて最もそれを表していると言えるだろう。
人はその身を削ってお金をもらう、お金を消費してものを手に入れる、ものを消費して人はまたその削る。
循環とは言え、そこには確かに代償というものが存在している。
俺の利用する魔術の根幹もそうだ。
何かしらを代償として発動させる。
今回代償となったのは記憶の一片。
それが『名前』だった。
「……分からん。なんだったか……」
ポケットを適当に探ってみるも、出てきたものの名前欄は酷く濁ったような形をしていた。
『俺の名前』という概念すら消え失せたというべきか。
名を失ったことを実感し、失笑しているとサーヴァントは納得したような笑みを浮かべる。
そして俺の目の前まで歩いてくると、座り込んでいる俺の頭に手を置く。
何してんだ、という間も無く、彼女は俺の頭を撫でて言った。
「名を失う、か。随分と面白いものだな。マスター」
「そうか? お気に召したようでなにより、だ」
「……
そう言った彼女は、頭から手を離し踵を返すと、足元に引きずっていた
と言うより、影の方から纏わり付いてきた、と言うべきか。
それは一瞬にして漆黒のドレスのようなものを作り上げる。
「マスター、貴様の目的はなんだ」
「俺は……俺にはやることがある。あるはずなんだ」
「それすらも忘却したか。それでいてなお、進み続けるか」
「やるべきことは、やらなきゃな」
「……そうか。ならばそれを思い出すまでの間、準備は整えておくべきだろう。カルデアは……ふむ。
そうか、ロシア……カドックのところか。
あいつも大変だな……ってちょっと待って。
「カルデア? なんでお前、それを知って……」
「少し未来を覗いただけの話だ、気にするな」
未来を覗いただけって……千里眼の類だろうか。
だが英雄とか詳しくない俺が考えてわかるものではないだろう、と俺は思考を止める。
今は彼女の言う通り、準備を整えるべきだ。
「マスター、貴様が決めろ。まずはどうする?」
「まずは……そうだな。もう何人かサーヴァントを呼んでおきたい。なにが起こるかわかんねーしな」
と、俺は彼女の隣に立って地上を見下ろす。
文明は滅び、地表は緑に覆われた。
だがそこにあるのは確かな異物。
その異物をまずは取り除く、そしてそのためにはサーヴァントの用意が必要だ。
「賢明な判断だ。この異聞帯程度ならば私一人でもどうにかなるが──」
遠くを見据えた彼女は、少し険しい顔をする。
「この霊脈の数。奴らにとっては格好の的だろう」
「わかるのか?」
「大体だがな。だが奴らがこれを利用しようと言うものならば、私たちにとって痛手であることは間違いない」
「……早めに潰しておくべきか」
だが潰すにしても、どうするべきか。
使用してしまうのが一番早いだろうか。
「サーヴァント召喚して、先に使うってのは?」
「……あまり勧めないな。霊脈の量が尋常じゃない、まず神代でもあり得ない数だ」
「なるほどな……なら、人間を利用する手に限るか」
と、なると。
あのバケモノどもに支配されていた人間。
奴らを利用し尽くしてやるか。
「なにをするつもりだ?」
「面白いことだな。だが何かを始めるには、まずはあそこ目指す必要がある」
そう言って俺が指をさしたのは、遠くにそびえ立つ空想樹だった。
霧に覆われ、その存在が
「空想樹か。ならばいくつか点在している霊脈を辿るとしよう。英霊を呼び出すのにちょうどいいものがいくつかある」
そこまで伝えて歩き出そうとした彼女を俺は呼び止める。
なんだと言って振り返る彼女に、俺はその名を聞いた。
「真名、聞いておきたいんだが」
「……ふっ。今伝えても面白いものでもあるまい」
俺はステータスを覗き見ようとするが、何か靄のようなものがかかっていてみられない。
唯一見られたのはそこに内包されたスキルだけだった。
それも唯一つのスキル。
『境界の心臓:EX』
ただこれだけだった。
当然こんな情報だけじゃ、なにもわかるはずがなく。
「じゃあ、せめてクラスだけ」
「クラスか。まぁ、それならばいいだろう」
少女は足元に広がる影のように白いものを大きく広げる。
まるで翼のように、空を飛ぶ竜のように。
「私はただの復讐者。王に、人に、魔術師に──、アヴェンジャー。それが私のクラスだ。と言っても、霊基的にランサーの方が近いのだが」
「アヴェンジャー……エクストラクラスか!」
「そうだな。本来召喚に応じる身でもないのだが……この異聞帯ではそうもいかないらしい」
「どう言うことだ?」
「すぐに嫌でもわかるさ」
と言ってたアヴェンジャーはそれ以上語ろうとはしなかった。
俺も無理に聞き出そうとは思っていなかったから、取り敢えず話を終えて歩き出すことに。
そんなこんなで、異聞帯探索と新たなサーヴァントを仲間にする旅が始まった。
この世界の歪さを知ることなく。
境界の心臓:EX
アヴェンジャーの保有するスキルの一つ。
このスキル自体、かなり変化した果てのものであり、元は『ドラゴンハート』だった。
だが彼女の霊基そのものを、別の霊基で上書きした結果、こんなものが生まれてしまうことに。
その特性は■■と■■の結びつけ。
それは■■■■■の願いの果てを叶えるためのもの。
なんせそれを、彼は成したのだから。