Lostbelt No.0 『存在証明大陸 ムー』 作:御魚天国
歩きだしてからしばらく。
先ほどまでいた建物が見えないところまで来たところで、俺はあることを思いついてしまった。
「さっきサーヴァント召喚するとか言っちゃったけどさ。俺、耐えきれんのかな」
「それは肉体的な意味か。それとも魔力的な意味か」
「どっちも」
「……ふむ。耐えきれるかどうか、で答えるとするならば……無理、と言わざる得ないだろう。だが……」
「だが……?」
と言ったところで少し長考したのち、俺の顔を見て答える。
「召喚に乗じれば、結びつけるだけで済む。耐えきれるはずだ」
「乗じる? なんだそれ」
「霊脈についた時に説明しよう。今は取り敢えず最寄りの霊脈を目指すべきだ」
なんかトイレ感覚だな……なんてくだらないことを頭に思い浮かべる。
この異聞帯、ジャングルみたいなのばっかで道が存在していない。
ところどころ塗装されていたであろう道が見えるのだが、すぐに途切れてしまう。
辿ったところでろくな道もないしで、アヴェンジャーだけが頼りだった。
アヴェンジャーは足元に広がる白い影を、遥か上に伸ばしている。
木々がそびえ立つジャングルの、木よりも高い位置に。
でもなんかよくわからんが、この影おかげで進めているらしい。
観測塔みたいなものなのか。
「霊脈ってたくさんあるんだろ?」
「観測できただけでも、目眩のする程の数だ。と言っても、召喚に使えるほどの質があるかと問われると否だ。マナの濃度も場所によってチマチマ変わっているようだしな」
「マナの濃度ねぇ……」
俺の身体に影響がなければいいのだが。
一応魔術で……いや、する必要もなさそうだ。
アヴェンジャーは俺の足元を囲うように影を置いている。
多分守ってくれているのだろう。
「要は、今から行くのはちゃんとした英霊が召喚できるとこ、ってことだろ?」
「ああ、それが正しい」
頷くと同時に、観測塔の役割を果たしていた影が飛んで行く。
なにを……と思う前に、影は何やら肉片を突き刺したまま戻ってきた。
その肉片から滴る血を見て呆然としていると、アヴェンジャーは立ち止まり観測塔を手元に寄せる。
「ふむ……生物構造自体は汎人類史とそこまで変わらん、か。だがどちらかと言えば、私の世界に近いか……?」
「え、なにそれ?」
「この異聞帯の……豚、か?」
「なんで疑問形なんだよ……」
肉片は明らか様に生物の姿を保っていなかった。
確かに四本足はあるのだが、その皮膚は硬く硬化しており、口から剥き出しになった牙は恐ろしく尖っている。
垂れている舌はザラザラと牙のようで、鼻に関してはどこにあるかわからない。
とにかく豚のような生物でないことだけは確かなのだが、アヴェンジャーはこれを豚と言い張った。
「内部構造的には確かに豚なのだが……生物が独自に変化した……? 一応食えるようだぞ、マスター」
「……まぁ、貴重な食料ってことで」
俺はポケットから一枚のカードを取り出す。
そしてそのカードを豚(仮)に突き刺して、軽い詠唱を唱える。
すると豚の肉体はスルスルと流れるようにカードの中に吸い込まれていった。
残ったのはカードのみ、アヴェンジャーは少し目を見開いて聞いてきた。
「なんだそれは」
「ん? ああ……まぁ、なんつーか。
「ほう。にしては少々異質に見えるが?」
「だろうな。俺はこいつを『簡易魔術』と呼んでいる。
「誰でも? 魔術師じゃなくてもか?」
「ああ、仕組み的にはプログラミングと同じだよ。一定の行動に対してこうなる、と予め取り決めておくだけでいい。魔力を込めるのは
「……考えるのは容易いが、それを為し得るのか……」
アヴェンジャーは俺の言葉に少しブツブツと考え始める。
その間も警戒を崩すことなく、それどころか警戒を高めていた。
どの程度の力があるかはまだ見ていないが、頼り甲斐のあるサーヴァントだ。
信用できるかはさておき。
「容量は。どの程度収まる」
「そうだな……生物はダメだ。生きていると不都合が起きる。容量的には……大体人間サイズだな。そこまで大きなものは収納できない」
「中身はどうなっている。保存状態の方は?」
「分解と再構築を利用してるだけだから、保存状態は……ってなんでそんなこと聞くんだよ」
「……少しな。一枚、カードを貰えるか?」
「いいけど……」
コートのポケットから一枚カードを取り出してアヴェンジャーに手渡す。
受け取ったアヴェンジャーは、カードを凝視してから影へと落とす。
カードはそのまま音を立てることもなく、影の中へと入っていってしまった。
「ふむ。魔術にも適用できるか……兵器利用は容易そうだな……大体理解した。行くぞ、マスター」
「お、おう……?」
何か勝手に理解した様子のアヴェンジャーは、影を上に伸ばし引き続き歩き始める。
長々と解決をしたが、結局のところカードに入れるだけの魔術だ。
マリスビリーに呼ばれた理由もこれが主だったりする。
奴がなにをするつもりだったかは知らねーけど、これによく興味を持っていたのは覚えている。
少しそのことについて考え巡らせていると、突然アヴェンジャーが前の方を指差す。
「マスター、もう少しで着くぞ」
指をさした方を見れば、蔦が絡まったコンクリート製の建物が一つ。
どこか異質な雰囲気を纏わせて、そこに確かに存在していた。
だが、止まっていても始まるわけじゃない。
取り敢えず入ろうとしたところ、アヴェンジャーに呼び止められる。
「マスター、サーヴァントの召喚は私がする。契約は貴様がしろ」
「え、そんなことできんの?」
「ああ。無理やりだが繋げることは可能だ。まぁ、どこの英霊が来るかはわからんがな」
「別にその辺り詳しくないから構わないが……召喚、できるのか?」
「神霊程度までならば」
「おまっ……」
神霊を
一体どんな英霊ならばそう呼べるんだよ。
「……まぁ、つまり任せておけばいいってことだな」
「そういうことだ。行くぞ、マスター」
そう言うと勝手に先々と進み出す。
俺は少し慌てながらも、その背を追って走り出す。
だが建物に入った瞬間に俺とアヴェンジャーは思わず足を止めた。
止めてしまった。
だってこれは、こいつは。
異様だ。
「……んだよ、これ……!?」
「っ……これは。少しばかり、驚かされるな。これが異聞帯か」
建物の内部、その壁と天井に敷き詰められるように描かれていた。
そして中心地点には骨が数個、数える程度に置かれている。
俺は恐る恐る先へと進み、アヴェンジャーはひたひたと真っ直ぐと骨へ向かう。
骨を拾い上げたアヴェンジャーは俺に見せつけてきた。
「マスター、こいつを見ろ。
「劣化してない? なんでだよ」
「わからん、が。少なくともこれは停滞を意味している」
「停滞、か」
全くわからんが、深刻そうな顔を見るに何かまずいのかもしれない。
俺がそのことについて聞こうとした瞬間、入口方面から唸り声のようなものが響く。
思わず俺たちは振り向くと、そこには一人……いや、一人と一匹が立っていた。
間違いなく片方は、俺がこの世界に来た時に見たバケモノだ。
だがもう片方は? あれはなんだ?
少なくとも人間ではない。
「……英霊、ではないな。貴様」
「……ァ、ァア──、ッ!」
声のようなものをあげた人型は、手に剣のようなものを握って飛び出す。
俺は咄嗟に簡易的な魔術で、その動きを捉えようとした。
だが見えない、恐ろしく早い。
気づけば奴の剣が眼前にて、振り下ろされる──
「触れるな」
と言うところでアヴェンジャーは俺の足元から影を伸ばし防ぐ。
かなり重そうな一撃だったが涼しい顔をして剣を防いでいる。
正直死ぬかと思った。
やっぱアヴェンジャーはただならぬ英霊みたいだ。
「……なっ!?」
いくつか影を飛ばし人型を突き刺そうとするが、奴は大きく弾いて距離を取ると、剣を振るってその全てを防ぐ。
アヴェンジャーは驚いたような声を出して、ただ奴を見つめていた。
「アヴェンジャー、どうした!?」
「あれは、なんだ?」
「あれ、って……わかんねーよ! 少なくともここにいる……」
「違う!! あれは
「なんだと……!? あれが、英霊!?」
俯いて唸り声のようなものを出す人型を見ながら、俺は驚きに声をあげる。
まず少なくとも人間の類ではない。
英雄などと呼べる生き物ですらない。
「少なくともそう定められている! だが、正規の手順を踏んだものではないことだけは確かだ!! パスはあのバケモノ繋がっている!」
「おいおい……!? でも、それって……!」
「ああそうだ。話は簡単だ。あのバケモノを殺す」
「だが一筋縄で行くようなやつでもないぞ」
「そうだな……あれ一匹で、トップクラスのサーヴァント並みの力があることは確かだ」
あれ一匹でトップクラスのサーヴァントかよ……。
俺の異聞帯でこれって、他の異聞帯もなんか心配になってきたな。
まぁ、今現在で言えば一番やばいのは俺なんだが。
「今の私では……マスター。少しでいい、魔力を回せ」
「何するつもりだ?」
「武器を出すだけだ。令呪を使う必要はない」
俺は言われるがままに、繋がったパスを元に魔力を流す。
アヴェンジャーは構える奴らを見つめながら、手を前に出してその名を呟いた。
「【
影が集まり、一本の剣の形になったかと思うと、その中から一本の剣が生まれ出た。
白く輝く片手剣。
それを手に取るとアヴェンジャーは奴らと対峙して構える。
アロンダイト、流石の俺もその名は知っている。
かの円卓の騎士の一人、ランスロットの保有する聖剣だ。
なんであんなもの生み出せるんだよ……と言う小声の疑問は、バケモノと英霊、そしてアヴェンジャーとの開戦による轟音によって掻き消されたのだった。
【
宝具ランク:C+++
対軍宝具
メリュジーヌの持つ宝具【
サブの宝具ですらなく、取り敢えずちょうどいいのがあったから使っているだけらしい。
偽物ではあるのだが、聖剣としての性質は帯びており、聖剣に対して敗北した逸話を持つ英霊によく効く。
ちなみに最大で百本近く生み出せるようで、一本一本を影で操れる。
故に対軍宝具とされている。