Lostbelt No.0 『存在証明大陸 ムー』   作:御魚天国

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第2節:困難故に試練

 歩きだしてからしばらく。

 先ほどまでいた建物が見えないところまで来たところで、俺はあることを思いついてしまった。

 

「さっきサーヴァント召喚するとか言っちゃったけどさ。俺、耐えきれんのかな」

「それは肉体的な意味か。それとも魔力的な意味か」

「どっちも」

「……ふむ。耐えきれるかどうか、で答えるとするならば……無理、と言わざる得ないだろう。だが……」

「だが……?」

 

 と言ったところで少し長考したのち、俺の顔を見て答える。

 

「召喚に乗じれば、結びつけるだけで済む。耐えきれるはずだ」

「乗じる? なんだそれ」

「霊脈についた時に説明しよう。今は取り敢えず最寄りの霊脈を目指すべきだ」

 

 なんかトイレ感覚だな……なんてくだらないことを頭に思い浮かべる。

 この異聞帯、ジャングルみたいなのばっかで道が存在していない。

 ところどころ塗装されていたであろう道が見えるのだが、すぐに途切れてしまう。

 辿ったところでろくな道もないしで、アヴェンジャーだけが頼りだった。

 

 アヴェンジャーは足元に広がる白い影を、遥か上に伸ばしている。

 木々がそびえ立つジャングルの、木よりも高い位置に。

 でもなんかよくわからんが、この影おかげで進めているらしい。

 観測塔みたいなものなのか。

 

「霊脈ってたくさんあるんだろ?」

「観測できただけでも、目眩のする程の数だ。と言っても、召喚に使えるほどの質があるかと問われると否だ。マナの濃度も場所によってチマチマ変わっているようだしな」

「マナの濃度ねぇ……」

 

 俺の身体に影響がなければいいのだが。

 一応魔術で……いや、する必要もなさそうだ。

 

 アヴェンジャーは俺の足元を囲うように影を置いている。

 多分守ってくれているのだろう。

 

「要は、今から行くのはちゃんとした英霊が召喚できるとこ、ってことだろ?」

「ああ、それが正しい」

 

 頷くと同時に、観測塔の役割を果たしていた影が飛んで行く。

 なにを……と思う前に、影は何やら肉片を突き刺したまま戻ってきた。

 その肉片から滴る血を見て呆然としていると、アヴェンジャーは立ち止まり観測塔を手元に寄せる。

 

「ふむ……生物構造自体は汎人類史とそこまで変わらん、か。だがどちらかと言えば、私の世界に近いか……?」

「え、なにそれ?」

「この異聞帯の……豚、か?」

「なんで疑問形なんだよ……」

 

 肉片は明らか様に生物の姿を保っていなかった。

 確かに四本足はあるのだが、その皮膚は硬く硬化しており、口から剥き出しになった牙は恐ろしく尖っている。

 垂れている舌はザラザラと牙のようで、鼻に関してはどこにあるかわからない。

 とにかく豚のような生物でないことだけは確かなのだが、アヴェンジャーはこれを豚と言い張った。

 

「内部構造的には確かに豚なのだが……生物が独自に変化した……? 一応食えるようだぞ、マスター」

「……まぁ、貴重な食料ってことで」

 

 俺はポケットから一枚のカードを取り出す。

 そしてそのカードを豚(仮)に突き刺して、軽い詠唱を唱える。

 すると豚の肉体はスルスルと流れるようにカードの中に吸い込まれていった。

 残ったのはカードのみ、アヴェンジャーは少し目を見開いて聞いてきた。

 

「なんだそれは」

「ん? ああ……まぁ、なんつーか。()()()()だな。置換魔術の応用……だったかな」

「ほう。にしては少々異質に見えるが?」

「だろうな。俺はこいつを『簡易魔術』と呼んでいる。取出(アウト)だけなら誰でもできるし」

「誰でも? 魔術師じゃなくてもか?」

「ああ、仕組み的にはプログラミングと同じだよ。一定の行動に対してこうなる、と予め取り決めておくだけでいい。魔力を込めるのは魔術師(こっち)の役割だ」

「……考えるのは容易いが、それを為し得るのか……」

 

 アヴェンジャーは俺の言葉に少しブツブツと考え始める。

 その間も警戒を崩すことなく、それどころか警戒を高めていた。

 どの程度の力があるかはまだ見ていないが、頼り甲斐のあるサーヴァントだ。

 信用できるかはさておき。

 

「容量は。どの程度収まる」

「そうだな……生物はダメだ。生きていると不都合が起きる。容量的には……大体人間サイズだな。そこまで大きなものは収納できない」

「中身はどうなっている。保存状態の方は?」

「分解と再構築を利用してるだけだから、保存状態は……ってなんでそんなこと聞くんだよ」

「……少しな。一枚、カードを貰えるか?」

「いいけど……」

 

 コートのポケットから一枚カードを取り出してアヴェンジャーに手渡す。

 受け取ったアヴェンジャーは、カードを凝視してから影へと落とす。

 カードはそのまま音を立てることもなく、影の中へと入っていってしまった。

 

「ふむ。魔術にも適用できるか……兵器利用は容易そうだな……大体理解した。行くぞ、マスター」

「お、おう……?」

 

 何か勝手に理解した様子のアヴェンジャーは、影を上に伸ばし引き続き歩き始める。

 

 長々と解決をしたが、結局のところカードに入れるだけの魔術だ。

 マリスビリーに呼ばれた理由もこれが主だったりする。

 奴がなにをするつもりだったかは知らねーけど、これによく興味を持っていたのは覚えている。

 

 少しそのことについて考え巡らせていると、突然アヴェンジャーが前の方を指差す。

 

「マスター、もう少しで着くぞ」

 

 指をさした方を見れば、蔦が絡まったコンクリート製の建物が一つ。

 どこか異質な雰囲気を纏わせて、そこに確かに存在していた。

 

 だが、止まっていても始まるわけじゃない。

 取り敢えず入ろうとしたところ、アヴェンジャーに呼び止められる。

 

「マスター、サーヴァントの召喚は私がする。契約は貴様がしろ」

「え、そんなことできんの?」

「ああ。無理やりだが繋げることは可能だ。まぁ、どこの英霊が来るかはわからんがな」

「別にその辺り詳しくないから構わないが……召喚、できるのか?」

「神霊程度までならば」

「おまっ……」

 

 神霊を()()と呼ぶか。

 一体どんな英霊ならばそう呼べるんだよ。

 

「……まぁ、つまり任せておけばいいってことだな」

「そういうことだ。行くぞ、マスター」

 

 そう言うと勝手に先々と進み出す。

 俺は少し慌てながらも、その背を追って走り出す。

 だが建物に入った瞬間に俺とアヴェンジャーは思わず足を止めた。

 止めてしまった。

 

 だってこれは、こいつは。

 異様だ。

 

「……んだよ、これ……!?」

「っ……これは。少しばかり、驚かされるな。これが異聞帯か」

 

 建物の内部、その壁と天井に敷き詰められるように描かれていた。

 ()()()()()()()()()()()()()が。

 そして中心地点には骨が数個、数える程度に置かれている。

 

 俺は恐る恐る先へと進み、アヴェンジャーはひたひたと真っ直ぐと骨へ向かう。

 骨を拾い上げたアヴェンジャーは俺に見せつけてきた。

 

「マスター、こいつを見ろ。()()()()()()()

「劣化してない? なんでだよ」

「わからん、が。少なくともこれは停滞を意味している」

「停滞、か」

 

 全くわからんが、深刻そうな顔を見るに何かまずいのかもしれない。

 

 俺がそのことについて聞こうとした瞬間、入口方面から唸り声のようなものが響く。

 思わず俺たちは振り向くと、そこには一人……いや、一人と一匹が立っていた。

 間違いなく片方は、俺がこの世界に来た時に見たバケモノだ。

 

 だがもう片方は? あれはなんだ? 

 少なくとも人間ではない。

 

「……英霊、ではないな。貴様」

「……ァ、ァア──、ッ!」

 

 声のようなものをあげた人型は、手に剣のようなものを握って飛び出す。

 俺は咄嗟に簡易的な魔術で、その動きを捉えようとした。

 だが見えない、恐ろしく早い。

 気づけば奴の剣が眼前にて、振り下ろされる──

 

「触れるな」

 

 と言うところでアヴェンジャーは俺の足元から影を伸ばし防ぐ。

 かなり重そうな一撃だったが涼しい顔をして剣を防いでいる。

 

 正直死ぬかと思った。

 やっぱアヴェンジャーはただならぬ英霊みたいだ。

 

「……なっ!?」

 

 いくつか影を飛ばし人型を突き刺そうとするが、奴は大きく弾いて距離を取ると、剣を振るってその全てを防ぐ。

 アヴェンジャーは驚いたような声を出して、ただ奴を見つめていた。

 

「アヴェンジャー、どうした!?」

「あれは、なんだ?」

「あれ、って……わかんねーよ! 少なくともここにいる……」

「違う!! あれは()()だ! この異聞帯によって生み出された、()()()()()英霊だ!!」

「なんだと……!? あれが、英霊!?」

 

 俯いて唸り声のようなものを出す人型を見ながら、俺は驚きに声をあげる。

 まず少なくとも人間の類ではない。

 英雄などと呼べる生き物ですらない。

 

「少なくともそう定められている! だが、正規の手順を踏んだものではないことだけは確かだ!! パスはあのバケモノ繋がっている!」

「おいおい……!? でも、それって……!」

「ああそうだ。話は簡単だ。あのバケモノを殺す」

「だが一筋縄で行くようなやつでもないぞ」

「そうだな……あれ一匹で、トップクラスのサーヴァント並みの力があることは確かだ」

 

 あれ一匹でトップクラスのサーヴァントかよ……。

 俺の異聞帯でこれって、他の異聞帯もなんか心配になってきたな。

 まぁ、今現在で言えば一番やばいのは俺なんだが。

 

「今の私では……マスター。少しでいい、魔力を回せ」

「何するつもりだ?」

「武器を出すだけだ。令呪を使う必要はない」

 

 俺は言われるがままに、繋がったパスを元に魔力を流す。

 アヴェンジャーは構える奴らを見つめながら、手を前に出してその名を呟いた。

 

「【偽称・無垢なる湖光(アロンダイト)】」

 

 影が集まり、一本の剣の形になったかと思うと、その中から一本の剣が生まれ出た。

 白く輝く片手剣。

 それを手に取るとアヴェンジャーは奴らと対峙して構える。

 

 アロンダイト、流石の俺もその名は知っている。

 かの円卓の騎士の一人、ランスロットの保有する聖剣だ。

 なんであんなもの生み出せるんだよ……と言う小声の疑問は、バケモノと英霊、そしてアヴェンジャーとの開戦による轟音によって掻き消されたのだった。




偽称・無垢なる湖光(アロンダイト)
宝具ランク:C+++
対軍宝具
メリュジーヌの持つ宝具【今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)】を独自のものとして変異させたもの。
サブの宝具ですらなく、取り敢えずちょうどいいのがあったから使っているだけらしい。
偽物ではあるのだが、聖剣としての性質は帯びており、聖剣に対して敗北した逸話を持つ英霊によく効く。
ちなみに最大で百本近く生み出せるようで、一本一本を影で操れる。
故に対軍宝具とされている。
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