Lostbelt No.0 『存在証明大陸 ムー』 作:御魚天国
戦いはあまりにも圧倒的、と言っていいだろう。
アヴェンジャーが自身の影に飲み込まれたかと思った瞬間、英霊らしきものの奴の背後で剣を振るう。
かと思えば、バケモノの上に立って剣を突き刺しては、奴らに捉えきれない速度で攻撃を繰り返して行く。
俺も次第に目で追えなくなっていた。
距離は結構離れているし、少なくともこっちに被害はないだろう。
多分。
「……まぁ、任せて大丈夫そうだな!」
と、言うわけで俺は召喚陣の調査を始めることに。
空のカードを五枚取り出し、周りにパッとばら撒く。
するとカードは自然に五芒星の配置に。
一枚のカードから適当にチョークを取り出し、その上をなぞって五芒星を描く。
簡易的な術式だ。
大規模な魔術に割り込む時とかによく使う。
と言っても、そんな事態が起きることはほとんどないんだけどね。
「魔力の流れを追って……まずはいつ利用されたか、何が召喚されたか、追って行くか……」
どうやらこの召喚陣、つい最近使われていたようだ。
魔力の痕跡が残っている。
と言うことは、少なくとも魔術が使える人間がいた、と言うことだろうか。
ただ……異聞帯だからなぁ。
何が起こるかわかんないし、これがどう言う意図で作られたのかすらわからない。
本当にただの英霊召喚に使われたのだろうか。
「まぁ、せめて、どんなのが召喚されたのか、ぐらいはわかるだろ」
召喚術、儀式に基づいて行われる魔術の一つ。
特殊な経路を辿って調べれば、どう言った存在が召喚されたかぐらいはわかるはず。
それ以外にも召喚陣自体を見てみたりとかな。
……これは、なんだ?
少なくとも、俺がアヴェンジャーを召喚するときに利用した、カルデア式召喚システムとは毛色が違う。
まぁ俺の場合、あれの上に自分の術式を重ね合わせて使っているのだが、それは置いといて。
とにかくまずわかることは……こいつは、英霊を召喚するものであると言うこと。
これだけは間違いない。
だが少なくとも汎人類史のものとは違う。
根本的に違う。
英霊を召喚すると言うより……英霊を
「……ん? なんだ、これ。いや、まさか……これって、マジか……!?」
この召喚陣、俺の予想をはるかに越すものだった。
これは
使い方は一つじゃない、入れるのだって機能の一つに過ぎない。
普通に英霊を召喚することだって可能だ。
汎人類史よりも簡単に。
だがそれ以上に、これには恐ろしい機能が備わっている。
それは召喚した英霊の
調べた限りでは、それが判明した。
「……どうなってんだ?」
これが異聞帯か、と歓喜の感情が沸き立つ。
汎人類史より遥かに進んだ文明、知識、魔術。
まさしく俺の求めていたものだ。
「どうした。マスター」
「うぉっ!?」
突然間近で声が聞こえて、俺は驚き少し後ろによろける。
そしてカードを回収し、チョークで書いたものを消しながら聞く。
「アヴェンジャー……終わったのか?」
さっきまで戦っていた入口の方を見ると、かなり悲惨なことになっていた。
あっちこっち崩れかけており、黒い血のようなものが飛び散っている。
だがアヴェンジャーが無傷なところを見るに圧勝だったようだ。
「怪物は退けた。死ぬまで戦うつもりはなかったようだし、それに……」
「それに?」
「奴は……まるで、
「なんでそんなことを……」
「……さぁな。だが、有意義なことがいくつかわかったぞ」
そう言うと少し遠くに伸びていた影が、ズルズルとこっちまで戻ってくる。
影は謎の黒い英霊が握っていた剣に巻きついていた。
「それは……さっきのやつが持ってた剣、か?」
「ああ。英霊の方は消し炭にしたが、何故かこっちは消えなかった。そして一つ、訂正をしよう。存在しない英霊と言ったが、違った」
「と言うと?」
「あと英霊はセイバー……
「なっ……!?」
ガヴェイン、円卓の騎士の一人にして忠義の騎士、太陽の騎士。
太陽の下ならばそのパワーは三倍まで引き上げられるとか言う、英霊でも相手にしたくないやつの筆頭だ。
そんな奴を相手に……。
「ん? ま、待て。何故そう断言できる?」
「単純な話だ。一度戦ったことがある」
「え?」
「……その辺りの話をするとややこしくなるからまた話すが、ともかく。あれは英霊ガヴェインだった。そう断言しよう。ただし
「中身だけ……?」
アヴェンジャー曰く、それは宝具は使えないし、英霊としての逸話も通用しない。
ただ技術だけを持ってきた、中身だけの英霊。
それがさっきの奴の正体らしい。
「全く。どうやったらあんなものが召喚されるのか」
「……もしかしたら、この下のやつかもな」
「なんだと?」
俺は先ほど発見した入れる機能について話す。
アヴェンジャーは少し考えたのち頷いて、召喚陣に触れた。
「少なくともまともに使えるものではある……が、なるほど。入れる機能……デミサーヴァントの要領か……?」
「デミ……つーと。マシュちゃんみたいなもんか……?」
「誰だそれは」
「まぁ、知り合いみたいな。少なくとも俺たちの敵だな」
「ほう……」
そういやマシュちゃん元気にしてっかな。
出会った当初はかなり素っ気なかったし。
マシュちゃんの顔を思い浮かべていると、アヴェンジャーは召喚陣を確認するように歩き出す。
「……昔、この世界で何があったのか。それを確認する手段が欲しい」
「だな。あまりにもおかしい……と言うか、やばい、と言うか……」
もし知れれば、俺の目的に一歩近づく。
すぐそこまで近づいている。
自然と笑みが出そうになったところで、アヴェンジャーは突然影を動かして部屋中に張り巡らせる。
「うぉっ……!? な、何してんだ!?」
「英霊を召喚するのだろう? その準備だが……」
「あ、ああ。そうか……」
俺はアヴェンジャーの隣に立つと、アヴェンジャーは召喚陣をなぞるように影を動かして行く。
次第に召喚陣をなぞるように光が溢れ出す。
詠唱すらなく、召喚の兆候が見え始めていた。
「これ、はっ……!」
「だ、大丈夫か!?」
「私を気にしている暇があるならば、契約の詠唱をしろ!」
「お、おう……!」
光り輝く召喚陣に手を向け、簡易的な詠唱をして行く。
令呪で契約するための詠唱だ。
魔力が外側に流れて行く感じ。
パスの繋がった感覚。
俺はそれを全身で感じ、体力が奪われたことで膝をつく。
その瞬間だった。
召喚陣から、さらに光が溢れ出す。
ただの光ではない。
召喚されるときに出る光だ。
「な、に……!?」
アヴェンジャーは想定外のことなのか、驚きに声を上げて影を自身の足元に戻す。
だが召喚陣から光は止まない。
「マスター、契約は?」
「できて、いるが……! これは、なんだ……!?」
「分からん。だが、この魔力の流れ……英霊が広範囲で、
そう言い切ると同時に、光は周囲の光景を塗り潰す。
だがそれも一瞬のことで、次の瞬間には光が止んでいた。
俺はゆっくりと目を開いて、目の前で召喚されパスの繋がった英霊のその姿を見る。
「召喚に応じ参上しちゃいました! クラス、アーチャー! しがない英霊ですが、よろしくお願いしますね!」
そこにいたのは中世時代の兵士を、超軽装化させたような格好をした少女。
腰に鉄製の剣を片手に大きな弓を携えて、そこに立っていた。
グウィバー
自分の名前を覚えていない八人目のクリプター。
何かしらの目的を持ってカルデアに来た。
異聞帯ならばそれを叶えるのにちょうどいい環境であると喜んでいる。
髪は真っ黒であるが、実はこれは染めたもの。
本来の髪は汚れ一つない純白の髪色らしい。
子供の頃の記憶は一切なく、ただ何かやるべきことがあったことだけは覚えている。
今は朧げながら思い出しているところで、忘れていながらも、その目的が進んでいることを実感している。