怖い…怖いよ。
毛布にくるまってこれから寝るって時になって、急に人を殺した事実に震えが止まらなくなった。
手に残る相手の体を貫いた剣の感触。
後ろから殴り倒された痛みと、首を無くした兵士の血の温もりに目に焼き付いた切断面が忘れられない。
皆も…ガンビーノもこんな風に苦しんだのかな…?
体を丸めて震えを押し殺そうと頑張る。
ふと天幕に光が入って来たのに気づいて振り返った。ガンビーノが来てくれたのかなって思ったけど違う様だった。
よく見えない。
微かに見える肌の色、体格…。
「…ドノバン、なの?」
なんか変…。
そう思った直後に見えたドノバンの歪んだ笑み。
直感が "逃げなきゃ" と叫んだ。何処に?ガンビーノの所に!
いやダメだ、ドノバンを押しのけれる程の力は僕には無い。咄嗟に剣に手を伸ばしたけど掴む前に押さえつけられてしまう。
「は、離してドノバン!誰か!だれ「うるせぇ!黙ってろ」
必死で助けを呼ぶ口に布を押し込まれる。
そう言えば少し前に酒の席でガンビーノが言ってたっけ。
『いいかぁガッツゥ、軍隊じゃあ幼気の残るガキやら女は気をつけなきゃいけねぇ。何処の軍隊でも "そういう事" ってのが結構あるからな!!』
その時はガンビーノの言う『そういう事』が何なのか分からなかったけど今ならわかる。
助けて…ガンビーノ!!
ドノバンの手を振りほどこうと身を捩る。
「……ッ」
「暴れんじゃねぇ!」
「ッう!?」
痛い…。殴られた頬がジンジンして熱を帯びるのを感じる。助けて…助けてよガンビーノ…。
せめて泣くもんかと歯を食いしばった時、耳を疑う言葉が聞こえた。
「いいかよく聞けガッツ、俺はガンビーノに銀貨20枚も出したんだ。てめぇに20枚も積んだんだ。だってのに…せいぜい楽しませて貰うぜぇ」
「……」
嘘だ、嘘だよ。ガンビーノがそんな事…。
抵抗する気も起きないくらいデカい衝撃だった。ガンビーノが僕を売った…?お金で?
大人しくなった事に満足したのか、ドノバンは腕を掴むのをやめて肌着を乱暴に引き裂きはじめた。
後ろからベルトを外す音が聞こえる。
そして腰をドノバンに掴まれた、その時だった。
「おい…何してんだドノバン」
聞きなれた声。
怒りを抑え込むような殺意を孕んだ声音。
「ガンビーノ…」
「あ"ン?…ッ!!ぁ…い、いや待て、待ってくれガンビーノ違うんだ」
ガンビーノと目が合った。本気で怒ってる。
それだけで僕は売られたんじゃないってのが分かった。
「何が違うのかはこの際どうでもいい。
青ざめながらスボンを履き直して逃げるように出ていくドノバン。
なんでドノバンを逃がしたのか分からなかったけど、ガンビーノが助けてくれた。それだけで嬉しかった。
「遅れちまったなガッツ…。すまねぇ」
そう言って自分の来てたシャツを着せてくれた。
「怖かったよな」って、そっと優しく抱きしめてくれたガンビーノの腕の中で僕は泣いた。
初めて人を殺した後悔と殺されかけた怖さ。
ドノバンに押し倒された時に感じたおぞましさ…。
ガンビーノはただ黙ってそれを聞いてくれてた。
ひとしきり泣いて落ち着いた頃、ガンビーノが隣に寝転んで「寝付くまでは居てやる」って。
後の事は俺の仕事だから、と頭を撫でてくれて寝るように促された。
だから今日の事は忘れようと思う。きっとガンビーノがうまく収めてくれる気がするから。