ガンビーノ傭兵団を出て1年が経とうとしている。
先の攻城戦で約半年間の雇用契約が切れて今は新しい戦場を探す旅路についている。
普段はすれ違う旅人や行商人、立ち寄った村で情報を集めながら町を転々とするんだが、この地は人口が少ないらしくて一向に誰とも会わないまま遺跡街道まで来てしまった。
やっちまった。
まさか迷子になるなんて…。
勘を信じてここまで歩いてきた以上、今更戻るなんて馬鹿らしい。
思考放棄してほのぼの日和を満喫しながら歩いていた時、何かの気配を感じた。
誰かに見られている…そんな感覚。
大剣の柄に手をかけながら警戒する。
確かに視線を感じたんだが誰も居ない。
「気のせい…か?」
柄から手を離した瞬間野盗らしき騎馬が5騎、なだらかな斜面を駆け下りてきた。
いや、野党にしては装備が整ってる気がする。
大剣を構え、勢いそのままに突っ込んできた1人目の男の剣を避けながらその腹を真っ二つに斬り捨てる。
間髪入れずに襲ってきた2人目の右腕を斬り飛ばすと、指揮官らしい男がビビったのが分かった。
しかも
さっさと逃げりゃいいのに…馬鹿な奴。
「くたばれッ!」
「ヒィッ!」
「!?」
大剣を振り下ろす直前、目の前を矢が掠めた。
まだいたのか…気付かなかったぜ。
クロスボウを捨てて突撃してくる褐色肌の騎馬兵。
剣ごと斬り飛ばそうと下段の構えをして、違和感を覚えた。コイツ構えがおかしい。
利き手に剣、反対の手で手網を握るのが普通だ。
なのに手綱が緩んでいる。
唐突にガンビーノの言葉を思い出した。
『いいかガッツ、戦ってても瞬間的に相手の動きを察知して反応しなきゃいけねぇ。それこそ臨機応変ってヤツだ。顔には出すなよ?ギリギリまで相手に合わせて "此処だ!" って時に裏をかくんだ。そうすりゃもうこっちのペースよ』
そうか、なら───
「ウオォッ!!」
「ハァッ!」
剣が交わる直前、相手が両手で構えた瞬間、大剣を寸止めさせた。
「なにッ!?」
体勢を崩して落馬したソイツにひたすら打ち込む。
剣が折れるのが先か頭が弾けるのが先か、だがそれより先にソイツの兜が弾け飛んだ。
見えた顔からして、女。
「は?お前ッ」
思わず剣を止めちまった。
女兵士なんてカルテマ以外に見たこと無かったから。
いや、言い訳だ。ただ目の前の敵にトドメを刺す機会を俺はこの一瞬で無くした。
俺と女の間に打ち込まれた槍によって。
「剣を引いてくれないか?」
声音からして若そうな男。
もしここに夢みる乙女がいたら「白馬の王子様!」とか言っただろうか。
俺から言わせりゃ白馬の盗賊団がせいぜいだけどな。
「また新手かよ。テメーらの相手してるほど暇じゃねえんだよ俺は」
大剣を正面に構えて応戦する。
「済まないな、だが俺も引けないんでね」
何のこっちゃ知らないがやる事は1つ。
「ぜりゃあァッ!」
左上からの袈裟斬り。
馬上の敵にも余裕で届く大剣だから出来る力技で騎兵の死角、ほぼ背後の位置から斬りかかった。
「へえ…でもまだ甘いよ」
細身のサーベルに当たった大剣がスウーっと滑り落ちて地面に突き刺さった。
そして体に走る痛み。
「……は?」
弾かれた?いや、流された。
なんだ…これ。
振り下ろした大剣が受け流されたのは理解できた。
だけど自分に刺さってるサーベルは理解出来なかった。あまりにも早すぎるんだ。
敵を見誤る、すなわち死を意味する事。
「マジか…よ」
笑えねえぜ…。
最後に見えたのは兜を脱いだ男の顔。
なびく程に長い銀髪で凜々し気な、そんな感じの顔だった。