急がば回れ
『海の船旅を知りたい』
今後誰かにそう聞かれたら俺は絶対にこう答えてやる
「それはもう、気が滅入る程に大変でうんざりする事だ」って。
数時間前のことだ。
先発させたアドン達から伝書鳩が届いた。それはいい、鳩が来るのは無事の報せだから一向に構わなかったんだがそれが『迷子になりました』『あと、子供乗せました』なんて書いてあったら頭の1つも抱えたくなるってもんだろ、あんのバカタレ。
命の保証なんざ無い所に子連れで赴くとかアホの所業だぞ?
まぁ手紙読んだ感じ、成り行きで仕方なく…らしいがどうだか。
つかちょっと待て。
手紙にある
何処の海域で迷子になったか知らんし、どんな親子だかもどうでもいいがクシャーンに着いたらさっさと送り返してやる。
なんだか無性にそうしなきゃイカン気がする。
そもそもなんだ、この人魚伝説がどーの、デッカい鯨がこーのとツラツラ書きやがってからに。
……知らんがな。知りたくもない。
まぁ船旅も暇だから海路案内の漁師に話上手を選んだってんならなんも言わねぇけどよぉ…。
多分あれだろ、これ。
なんかこんな条件のキャラ見た気がするぞ俺。
アドンの奴は内陸育ちだから鯨だと思ってるんだろが『海神』の事言ってんだろうな、この親子。
冗談じゃねえよ。
一寸法師作戦は一寸法師とガッツだから上手くいったってだけで俺たちがどうにか出来る相手じゃない。
神の末席たる海神に挑むなんざ無謀だ。
チキンとか言うんじゃねえ!命中率10%の艦砲と陸軍が大半の中世船だぞこちとら!
って事で仕方ないからな、アドンにはそのまま "所詮漁民の伝説" と勘違いさせておいて先に行くように言っておこう。
触らぬ神に祟りなし。だ
せっかくスルー出来そうな原作イベを見つけたんだ、命かけてまでクリアする必要はねぇ。
俺は慎重派なもんでな。
「カルテマ、ロシーヌにこの内容で手紙書かせて飛ばせ」
「ロシーヌに?良いけど…」
「あの子の読み書きの練習にいいだろ。面白くもねぇ紙切れに書き続けるよりは誰かに送る、誰かが読む手紙を書く方が楽しいかもしれねぇぞ」
「──はっ、了〜解。大した親バカだねぇ」
ほっとけ。
シッシとジェスチャーでカルテマを追い出して1人考えを巡らせる。
陸戦しか能の無い俺が如何にクシャーン王家に食い込むか。
短期だったがチューダーの正規軍に組み込まれたおかげでマトモな肩書きはある。
いきなり頂点と繋がるのは俺個人としても避けたい。
旨みが無いからな。
問題は今が原作とどれくらいズレてるか、だ。
間違うな、俺は俺の為に生きてる訳じゃねえ。
俺はガッツを育てると決めた時からアイツの為の生を選んだんだ。ガッツの為に、
──その為の亡命。
年々薄れる前世の記憶のおかげでクシャーン皇帝の名も忘れちまったが、今世の目的だけは忘れねぇ。
ガッツ。
待っていろ、俺がお前を。
天使と自惚れる馬鹿げた使徒の手を切り落としてやるからな。