禪院直哉。
特別一級術師。禪院家の次期当主の最有力候補(五条封印前)。禪院家の準一級術師以上の実力を持つ者のみで構成された組織『炳』の筆頭。あとイケメン。
肩書もさることながら、26代目当主である父と同じ相伝の術式まさにエリート中のエリート。
しかし、言動含め、性格は最悪の一言に尽きる。
実力(+顔)至上主義。男尊女卑の体現者。内からも外からもクズ扱いされる最悪の男。噛ませ犬。最後のセリフが辞世の句。いとこにあたる男の限界オタク。etc……。
並べれば、不名誉な通り名が山ほどある上、結果としてネット民のおもちゃにされる始末。
まさに絵に描いたような嫌なやつだった。
唯一、絶対的な強さへの憧憬と、その強さを持つ人間になるという信念だけは評価されていたものの、総合的に見るとやっぱりクズには違いない。
で、何故そんな男の話をしたのかというと。
『直哉。そっちに呪霊が逃げたから、死なない程度に弱らせておいてくれ』
「りょーかい。人使い荒いんやから、傑くんは」
そのクズーー禪院直哉になっていたからだ。
遡ること十年前。
俺は禪院直哉になっていた。
何故こうなったのか。自分にもよくわかっていない。普通に寝て、起きた時にはこうなっていた。
起きた時は頭と体中が痛かったのは記憶に新しいが、それはあくまでも禪院直哉の肉体の話。
どうやら
普通なら全身複雑骨折待ったなしなのに軽い打撲と脳震盪程度で済んだのは小学生といえど、流石術師というべきか。
その時の衝撃で前世を思い出しただけなのか、それとも、そのタイミングで憑依的なものをしたのか。
とにもかくにも、俺は禪院直哉になった。
いや、なってしまったの方が正しい。
というのも、禪院直哉はご存知の通り、クズだ。
男尊女卑が当たり前の旧弊的な思考は、この家にしてこの男あり的なところがあるが、同じ男も平気で見下し、ディスる。
そんなだから、身内からも評価が悪いし、最後は見下しまくっていた存在に殴り倒され、術式でもなんでもなく、包丁で刺殺される惨めな最後かつ、因果応報という言葉に相応しい末路を迎えたわけだ。
転生か、憑依か知らないが、そんな男になれて嬉しいかと聞かれて、嬉しいと答える奴がどれだけいることだろう。多分、大多数の人間は『どうせなら五条悟になりたい』と思うだろう。俺もどうせなるならそっちの方がよかった。
しかしまあ。なってしまったものはしかたない。
しかたがないので、俺なりに考えた。
死亡フラグをへし折ること。
これは第二の生を謳歌していくにあたって、避けては通れない問題だ。
とはいえ、これについては数多の作品における死亡フラグ持ちキャラの中ではかなりイージーな気がする。というか、普通に過ごしていれば、まず原作のように殺される状況にならないだろう。
ともすれば、それよりももっと重要かつ根本的な問題を解決する必要がある。
直哉の死亡フラグへ直接的な関係こそないにしろ、羂索と特級呪霊が引き起こした渋谷事変によって、禪院家26代目当主である禪院直毘人の死と五条悟の封印がされ、それが禪院家壊滅の引き金となったと言っても過言ではない。
そもそも、禪院家はクソだったので、ぶっちゃけ自業自得もいいところだが、ただでさえ万年人手不足かつ、死滅回游やら無数の呪霊でてんやわんやになっている時に腕利きの呪術師が大量に死ぬのは、日本にとってあまりにも最悪の展開すぎる。
『禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず』なんて人権団体が卒倒するレベルの家訓に従っている以上、本人達にその気はなかっただろうが、彼らが呪霊を祓うことで結果的に一般人が救われているわけだし。
九十九由基の口ぶりからして、最終的にこの世界からは呪力が無くなるか、あるいは呪霊の生まれる環境でなくなるのかもしれないが、仮にそうでない場合、禪院家が滅ぶのはよろしくない。
一番手っ取り早いのは
あの時点において、どれだけ悪手だったとしても、あれはああなってもしかたがない状況だった。多少、やりすぎ感が否めなくもないが、それでも多少納得できてしまうところがある。
その他の手段は色々あるものの、手間がかかりすぎて間に合わないとか、不確定要素を生みかねない。
そうなると、できるかどうかはさておいて、一番確実性があるのが、黒幕の野望の阻止、ひいては排除だ。
五条悟が封印されず、現当主も死ななければ、禪院家が壊滅することはない。
死滅回游と放たれた一千万体の呪霊による被害も防ぐことができるし、俺や禪院家に限らず、他にもメリットが山ほどある。
気がかりがあるとすれば、両面宿儺の存在だが、それも羂索の野望を阻止すれば、自ずと解決する……はず。残念だが、こればかりはそうなってくれる可能性に賭けるしかない。
自分の死亡フラグを折るより、はるかに難易度は高いが……できなければ最悪巻き込まれて死にかねない以上、やるしかないだろう。
そのために目標とするのはーー五条悟を超える最速の術師となること。
うっし。いっちょ、やってやりますか。
最初のうちは時間飛び飛びです。ご了承ください。