最速で終わらせる男、禪院直哉   作:げこくじょー

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色々あって、私生活が大変ですが、なんとか書けました。

一応今回の話で前振りは終わる予定です。

また、細かい設定の部分で差異が出てくるかもしれませんが予めご了承ください。


最強になる男と最速になる(予定)の男

禪院直哉になって、七年が経過した頃。

 

正しい礼儀作法(と関西弁)も完全に馴染み、術式ーー投射呪法についても、ほぼノータイムで行使できるようになっていた。

 

親父のように相手の動きをある程度先読みして完封したり、本家禪院直哉のようにカウンター狙いの動きを作るのは少し厳しかったりと課題はあるが、それでも二級呪霊程度は余裕で祓えるし、準一級も一応は祓える程度になっていた。

 

齢十四歳にして、準一級術師相当の実力を有していると言うことで、周囲からは天才だという声も上がっているものの、素直に喜べないのが現状だ。

 

あれだけ死に物狂い(実際何回か死にかけた)で鍛えても、ようやく準一級相当。最速の呪術師どころか、一級もまだ見えない。

 

おまけに真偽は定かではないものの、風の噂で五条悟は既に一級呪霊を討伐していると聞いた。それが本当なら今時点でも、俺と五条悟の間には途方もないほどの差があるということになる。

 

元より、五条悟より強い呪術師になれるなんて思っちゃいないが、ここまで違いを見せられるとちょっと凹む。もしかしたら、才能の壁に挫折するスポーツ選手っていうのは、今の俺みたいな状態なのかもしれないな。

 

違うとすれば、良くも悪くも俺には挫折することも自棄になることも許されないという点だ。

 

ここで止まれば全てが無駄になる。禪院の崩壊は免れないだろうし、俺も真希に殺されなかったとしても、どっかその辺で野垂れ死ぬかもしれない。

 

諦める=死である以上、俺はここで止まれない。どれだけ絶望的な差があったとしても、俺は五条悟を超える速さに至らなければならない。そのくらいの圧倒的な強さがなければ、変えられないものがある。具体的に言うと、この世界の未来とか。

 

もっとハードに鍛えるしかないか? でも、これ以上ギアを上げると鍛える以前に死にかねないしなぁ。死なないために鍛えてるのに、そのせいで死んだら元も子もない。

 

かといって、悠長にもしてられないのも事実……うーん。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。僕と遊ぼうよ」

 

どうしたものかと考えていると、ふと、短パンを履いた小学校低学年くらいの男の子が声をかけてきた。

 

泥だらけの格好に手にはサッカーボールを持っている。その様相からかなり活発な子だと言うことが見て取れる。

 

「遊ぶ言うても、もう夕方の六時やで。家帰らなあかんのとちゃうん?」

 

そう言うと、男の子は悲しそうに首を横に振る。

 

「お父さんもお母さんも帰ってくるのが遅いから、帰ってもうちには誰もいないんだ」

 

「そやから、お父ちゃんとお母ちゃん来るまで遊んで欲しいっちゅうわけか」

 

「うん。お兄ちゃん、僕と遊んでくれる?」

 

「ええで。そのボールでも使って遊ぼか。サッカー好きやねん」



そう答えると、今まで無邪気な笑みを浮かべていた男の子の顔から笑みがふっと消える。

 

次の瞬間、ごとり、と男の子の頭が地面に落ちた。

 

首からは血が溢れて、男の子の足元に血溜まりが出来る。その血溜まりの中で、男の子はニタァと笑みを浮かべていた。

 

「ぼ、ぼぼぼ、ボォォルアそびぃぃぃ、ボくもスキぃぃぃぃ!」

 

「自分の頭使うんはボール遊びとちゃうねんけど、っと」

 

飛んできた男の子の頭を軽くかわしつつ、頭のなくなった男の子の身体を蹴りつけると、まるで車に撥ねられたかのように数メートル吹っ飛び、地面を転がる。

 

常人なら良くて重体。運が悪ければ死にかねない吹っ飛び方。実際、骨を折るような感触はあったし、胴体を吹き飛ばすつもりで蹴った。

 

しかし、男の子ーー否、男の子だったものは立ち上がる。何事もなかったかのように、自然に。

 

「ボボール、あ、あそ、ビぃぃぃ」

 

「お兄ちゃぁああん、ぼ、ボくと、ぼぼ、ぼくト」

 

「す、スな、あそび、モ、あるあるある、ヨォォォ」

 

首のない男の子の足元ーー影から男の子と同じくらいの年齢の子どもがどんどん湧き出てくる。

 

そして、その子どもたちも関節が逆に向いていたり、肌の色が赤黒くなっていたりと一目見て普通の人間じゃないことがわかる。

 

分身……じゃないな。変形しているとはいえ、そもそも全員顔も背格好も違う。十中八九、死んだ後に取り込まれた子達だろう。事前に聞いていた殺害した者を使役する術式、という情報とも一致する。

 

こうなる前になんとかしてあげたかったが……まぁ、呪術師(こっち)に回ってくる時点でそれは叶わぬ願いかもしれない。

 

「出来るだけ早う終わらせてあげるわ。あんま気分ようないしな」

 

地面を蹴り、一息で呪霊の懐に潜り込み、腹部に触れる。

 

投射呪法は一秒を二十四分割し、コマ打ちの要領で動きを作り、それを高速でトレースする術式。

 

対応できなければ、一秒の強制的なフリーズという無茶苦茶なこの術式を初見で見切るのはほぼ不可能。それが知性の低い呪霊であれば尚更、対応などできるわけがない。

 

俺の手が触れた瞬間、呪霊は一枚のフィルムのようなものに変化する。

 

呼び出された呪霊たちも、触れていないのでフリーズこそしていないものの、こちらの動きにまるで反応できていない。

 

完全に無防備な状態となっている呪霊の胸部に思い切り拳を叩き込む。

 

「ッ!?」

 

バリン、と割れるような音とともにフィルムのようなものは壊れ、呪霊が吹き飛んでいく。

 

息を吐く間も無く、こちらも走り出し、吹き飛んだ呪霊の後方へと回り込むと、そのまま上へ蹴り上げ、それを追うように跳躍する。

 

「あんまどついてすまんけど、これで終いや」

 

脳天目掛けて踵落としを決める。

 

骨を砕くような嫌な感触がした直後、呪霊は蹴り付けられた勢いそのままに地面に叩きつけられる。

 

相手になにもさせず、圧倒的な速度で有無を言わせず、一方的に蹂躙し、祓う。

 

これが投射呪法の戦法。

 

こうなるのが正しいが……

 

「はぁ……胸糞悪い。呪術師向いてへんのかな、僕」

 

相手は呪霊。生きている人間ではないし、無関係の人間を十九人も殺している時点で同情の余地はない。例えそれが無邪気さゆえのものだとしても。

 

だが、呪霊といえど、見かけが歪だとしても、人としての、子どもとしての名残や面影があると手を出すのは本当に気分が悪い。

 

術式の特性上、殴る蹴るといった物理的な攻撃をするので、尚更だ。

 

だが、早いところ、慣れるか、割り切れるようにならないと世界平和以前にこっちの精神が擦り切れる。最悪、夏油コースだ。

 

味方じゃなくて、敵を増やしてどうするって話になる。なにかの間違いで夏油と一緒に非呪術師殲滅ルートに入ろうもんなら、悪い方向に原作崩壊待ったなしだしな。

 

とはいえーー

 

「ホンマ、気分悪いわ」

 

ぽつりとそう呟いてから、いつものようにその場で手を合わせる。

 

この行為に意味はない。呪霊は祓った。取り込まれた被害者たちも同じだ。残穢以外、ここには、もうなにも残っていない。

 

そうわかっていても、こうせずにはいられない辺り、慣れるのは当分先の話になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

率直に言って、御三家はめちゃくちゃ仲が悪い。

 

同じ呪術師の、それも呪術界の中枢とも言っても過言ではない家同士が死ぬほど仲が悪い。

 

表立って対立こそしてないものの、他の御三家への悪口は日常茶飯事だし、呪霊や呪詛師相手に殺された日には喜ぶ始末。いやいや、仮にも御三家の人間がやられたんだから危機感持てやと思う。

 

禪院と五条の仲は最悪。御前試合で本気で殺し合うとかいう誰かの陰謀か、ともすれば阿呆としか言いようがないことをしでかしたのだ。

 

片や、無下限呪術&六眼。

 

片や、十種影法術。

 

御三家、ひいては呪術界にとってどちらも超貴重な存在であったのは言うまでもないし、なんなら最強の呪術師議論くらいはされていたかもしれない。

 

お互いに『流石にこいつ殺すのはまずい』とか思わなかったんだろうか。それともわかった上で『そんなことよりこいつ気に入らねー』だったのか。

 

願わくば、羂索の陰謀であってほしい。

 

それはさておき。

 

仲が死ぬほど悪い。

 

なんなら相手に呪詛を飛ばしてそうな間柄の家同士とはいえ、仮にも御三家。

 

まったく関わりがないというわけにもいかないらしく、家同士で定期的に交流がある。

 

交流がある、というと仲良さげに聞こえるが、その実、自慢と揚げ足取り合戦。ついでの事務報告。会合というのすら烏滸がましい。大の大人が何人も集まってやることかと頭を抱えたのは記憶に新しい。

 

時間の浪費にも程があるし、妙な因縁をつけられるのも気分が悪い。

 

適当に参加は断っていたのだが、現当主の息子、かつ次期当主候補がずっと不参加というのはさすがに体裁が悪いらしく、今回しかたなく参加することになった。

 

まぁ、結果は想像通り最悪だったわけだけども。

 

今後も参加ないし、あるいは自分が中心になって話を進めないといけないと考えると憂鬱だ。

 

できれば、仲良くしたいんだけど……。

 

「……」

 

「なに見てんだよ」

 

「あー、いや、なんかモデルさんみたいにかっこええ美男子がおるなぁって思って。見惚れてたわ」

 

「はぁ? キッショ」

 

「……」

 

めっちゃガン飛ばしてくる。怖い。

 

体がデカくて顔が良い男に凄まれるだけでも圧がやばいのに、それがあの五条悟となるとなおさらやばい。

 

っていうか、尖りすぎだろ、五条悟。夏油離反前と後で劇的ビフォーアフターすぎるのはわかってたけど、これは想像以上だ。やっぱりあれか? なんだかんだで夏油と親友やってたからあれはあれでマイルドだったのか? 相手が相手なら俺もさっさと退散してるぞ。

 

とはいえ、そう言うわけにはいかない。

 

「と、とりあえず、同じ御三家の人間やし、今後ともよろしゅう」

 

出来るだけにこやかにそう言って、手を差し出すものの、五条悟は両手をポケットに入れたまま、嘲るように鼻で笑う。

 

「しねーよ。やりたきゃ、勝手にやってろ。ってか、敬語使えよ。年下だろ」

 

取りつく島もない。しかも、ごもっともな、ダメ出し食らった。年上に敬語使わなそうな相手に。

 

ここまで言われたら、諦めるしかない……と言いたいところだが、こっちにも諦められない理由はある。

 

「ほな、敬語使(つこ)うたら、仲良うしてくれます?」

 

「しつけーな。しないつってんだろ。そもそも、次期当主なら五条(こっち)禪院(そっち)がどんだけ仲悪いか知ってるだろ」

 

「そらもう。嫌っちゅうほど愚痴聞いてますわ。せやけど、それって、これまで(・・・・)の話ですやろ」

 

「……」

 

そう。仲が悪いのは、あくまでもこれまでの五条家と禪院家。御前試合で当主同士が殺し合った結果の産物。そして、その恨みつらみを脈々と継いできたのがこれまでの二家だ。

 

だが、わかっていることがある。

 

必ずしも、双方の家の人間全てが憎み合っていることではないこと。

 

機会があれば、(より)を戻したいと考えていること。

 

色々あったとはいえ、原作において五条家との関係修復の契機として伏黒恵は当主への後押しが少なからずあったのだから。

 

そして、五条悟と禪院直哉()もまた、過去の因縁についてはどうでもいい側の人間であり、古くさい決まりごとに興味はない。

 

「年々、多く強くなっていく呪霊。それに伴って増え続ける呪霊と呪詛師の被害。呪術界を引っ張っていかなあかん御三家がこのままいがみ合って連携取れんままやったら、どっかでその皺寄せがくる。僕らの時代か、その次か、どこにしたって、この国が滅ぶっちゅーことは変わりません。せやから」

 

「皆で仲良くお手手繋いでやりましょう。そしたら、みんなハッピーってか。んなわけあるかよ。少なくとも、俺には邪魔だ」

 

「っ。それは、そうかもしれんけど……」

 

現時点でも屈指の呪術師。並大抵の呪術師じゃ、援護どころか足を引っ張るだけ。それはもちろん、まだ準一級程度の実力しかない俺も含まれる。

 

全くもってその通りだ。

 

だが、それじゃダメなんだ。五条悟(最強)だけじゃダメなんだよ……っ!

 

「ほな。邪魔にならんかったら、ええんやね」

 

「ああ?」

 

「確かに今の僕は弱い。弱々や。今ここでやりあっても指一本触れられへん。せやけど、こっからは別や」

 

「あー、はいはい。そういう御託を並べるのはいいけどさ。結局、何が言いたいわけ?」

 

「あんたとーー五条悟と同じくらい強くなる。足引っ張んなって言えるくらいな。それでもって、一人でなくて良かったって思えるくらい」

 

目を逸らさず、俺は堂々と宣言する。

 

間違っていた。俺がやるべきことは五条悟に取り入ることでも、五条と禪院の橋渡しでもない。

 

五条悟に匹敵するだけの呪術師。

 

戦友。五条悟が背中を預けられると思えるほどの呪術師になることだ。

 

そのために俺が目指すべきはーーあっち側。

 

五条悟、夏油傑、乙骨憂太、禪院甚爾、そして後の禪院真希のような一線を画した存在たちと同等の存在となること。

 

意図は違う。想いも違う。

 

だが、それでも。俺も禪院直哉と同じようなことを思った。

 

化け物級(あっち側)に行かなければならない。

 

俺が俺の目的を果たすために。

 

無言の時間が続く。

 

その間、五条悟がなにを思ったのか。なにを感じたのかはわからない。

 

ただ、先ほどまで感じていたひりついた空気感が薄れたような気がした。

 

「ふーん。やれるもんならやってみなよ」

 

認めるでもなく、突き放すでもなく、ただ淡々とそう言って、五条悟は俺の横を通って、その場から去っていった。

 

これが後に世界最強となる呪術師ーー五条悟との初めての邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーはずだったんだけどなぁ。

 

現当主の親父や甚壱くん、諸兄を説得し回って、なんとか一年早く俺は入学することができた。

 

まぁ、本当に苦労した。親父や甚壱くんは『俺が歴代最強の禪院家当主になるため。その為には見識を広めつつ、あの五条悟のいる

東京都立呪術高等専門学校に同期で入学したい』と言えば、概ね納得してくれた。親父は元々その辺は適当だし、甚壱くんは俺の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。

 

ちなみに禪院扇にも声をかけはしたのだが、話を聞くまでもなく『好きにしろ』の一言のみ。煙たがっている俺がいなくなるのは、ありがたいのだろう。

 

困ったのはここから。

 

炳や躯倶留隊の一緒に修行したり、任務についていた面々からは揃いも揃って引き留められた。

 

『ここでも十分強くなれる』、『実践経験も術式の理解度も禪院家にいた方が高められる』、『呪術高専なんて行くだけ無駄』、『せめて京都の方にしない?』、『とりあえず一年考えてみない?』『なんか嫌なことあった?』などなど。

 

最後の方は家出したいわけじゃねえよ、とツッコミそうになった。

 

続くは女性陣の方々。

 

こっちは反対こそされなかったが、一人息子を送り出す母親のごとく心配されたし、引き留められた。

 

そこには俺がいることで気持ちが楽になるという打算的な意図もあった。でも、これまでの生活を経て育まれた情もあった。なんとか納得してもらった頃には殆どの人が泣きそうにはなっていたものの、覚悟を決めた親の顔をしていた。

 

最後は年下の子どもたち。

 

まぁ、泣かれたし、懇願された。俺の目的や理由を納得できる年頃の子もいれば、そもそも話している意味がわからない子もいる。

 

それは真希ちゃんや真依ちゃんも同じ。というか、この二人が一番ごねた。

 

何日もかけて説得し続けた結果、最低でも一ヵ月に一度は禪院家に戻ることを約束とし、なんとか手打ちにすることができた。

 

愛されているようで嬉しくもあり、それでいて大変苦労させられた。

 

そして来たる東京都立呪術高等専門学校に入学した初日。

 

五条悟ーーもとい悟くんに『久しぶり』と挨拶した俺に返ってきたのは『誰?』の一言だった。

 

有象無象。十把一絡げ。

 

それなりに印象に残りそうなやり取りと相応の肩書きを持っていても、悟くんにとって、俺はその辺で歩いてる人と大差なかったらしい。

 

さしもの俺もあまりのショックに、その場で膝をつくくらい結構落ち込んだ。

 

そんな俺を見て、爆笑したのが家入硝子こと硝子ちゃん。涙が出るくらい爆笑していた。曰く、『自信満々にナンパして塩対応されたヤンキー』みたいだったらしい。ナンパもしてないし、ヤンキーでもないっての。

 

そして俺を慰めてくれたのが傑くん。五条悟の親友となり、後に最悪の呪詛師となって袂をわかつ、夏油傑その人。

 

三者三様ならぬ四者四様とでも言えばいいのか。この世界に来て、初めての入学式はなんとも苦い思い出となった。

 

ちなみに悟くんがあの時の俺のことを思い出したのはそれから半年が経った頃、ゲーセンで遊んでた時だった。

 

その時の俺の心中は察してほしい。

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